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どうすれば他人とわかりあえるのか…茂木健一郎の質問に養老孟司が返した「納得のひと言」

プレジデントオンライン / 2023年8月14日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AlexLinch

どうすれば他人とわかりあえるのか。脳科学者の茂木健一郎さんは「養老孟司先生は『必要なのは教養だ』とおっしゃっていた。これは脳科学からも合理的な事実だといえる」という――(第3回)

※本稿は、茂木健一郎『強運脳』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

■なぜわれわれは他者とわかりあえないのか

「茂木くん、教養とはね、他人の心がわかるということなんだよ」

以前、養老孟司先生がそうおっしゃっていたことを今でも時おり思い出します。それは何も情緒的な理想論ではなく、私がこれまで長年研究してきた脳科学からも合理的な事実だからです。

いつの時代も、対人関係は生きていくうえでもっとも重要といえるテーマです。仮にあなたが「他人のことなんか気にしない。自分は自分だし」と思っていても、他者は必ずどこかであなたの人生に介入し、たとえあなたが望まずともあなたの思考や行動、そして人生に何かしらの影響を及ぼすものです。

心理学者として世界中で知られるアルフレッド・アドラーは、「すべての悩みは対人関係の悩みである」と説きましたが、人間関係についてまず前提として理解しておきたいのが「さまざまな人がいて、それぞれの価値感を持っている」ということです。

脳科学者としての私は、いつもこんなことを思っています。

「なかなか他者とは、わかり合うことはできないんだよな……」

■「話せばきっとわかってもらえる」のウソ

冷静に考えてみれば、これは脳科学以前に人間として当たり前に感じていることのように思えます。

わかりやすい例でいえば、男性が女性のことを完全に理解するのは難しいですし、またその逆もしかりです。お金持ちは貧乏人の気持ちを理解できなかったり、健康な人は病人の気持ちなんて厳密にはわからないわけです。

だからこそ、私たち人間には気遣いが必要なのですが、意外にもそのような認識で生きている人は少ないように思えてなりません。

「あの人とはきっとわかり合える」というように考えてか、「コミュ力さえあれば!」と必死に対人スキルを磨こうとする風潮があるのもたしかです。

ただし、多様な価値観を持つことが当たり前となった現代社会で、「話せばきっとわかってもらえる」という考え方はある意味では危険なことなのかもしれません。他者とはわかり合えないことを前提としたうえで、いかに周囲とうまく折り合いをつけて生きていくのか。それは一生避けては通れない課題だといえます。

■「教養」の意味

そこで、脳科学者としてのアドバイスがあります。他者と完全にわかり合うのは不可能であっても、私たちの脳には元来、相手に共感しようとする機能が備わっています。

これには、神経細胞の「ミラー・ニューロン」が深く関わっています。ミラー・ニューロンとは、その名の通り「まるで鏡で見たように他者の感情や行動を自分が感じたり行動したかのように脳内で反応する」神経細胞のことです。

たとえば、目の前の相手が悲しんでいれば、なぜか自分も悲しい気持ちになる。相手の行動を脳内で「模倣」することで自分のこととして理解し、「相手がどう感じているか」を推測しようとするのです。

ミラー・ニューロンのこうした機能を生かし、他者の感情を汲み取ることが人生をよりよく生きる秘訣だといえるでしょう。

ただし、それを知っただけで相手とわかり合えるほど世の中は甘くありません。相手の感情というのは、見えないばかりかわかりにくいからです。

そこで必要になってくるものとは何か? 私は、それこそが養老先生がおっしゃる「教養」を磨くということだと思うのです。

■「どうすれば他人の感情を知れるか」の最終結論

相手の感情を推し量るためには、自分が過去に学んだこと、体験したこと、それらすべての知識や経験を動員して考え抜く訓練が必要なのです。これには抽象的で類推的な思考訓練をすることが求められるわけですが、そのためには教養を身につけるのがもっとも手っ取り早いといえます。これが、脳科学者として私が出した結論です。

なお、ここでいう教養とは学力テストなどの点数で測れるものとは違います。広い意味で社会を生き抜くために学びを深めていくことが、人の気持ちを思いやり、他者を気遣える行為につながるのです。

■人間が良好なコミュニケーションをとれる人数

できることなら気の合う人ばかりと付き合いたいものですが、自分と気の合わない人とも何とかして付き合っていかなければならないこともあるでしょう。職場の同僚や取引先、学校のクラスメイトや近所の人、あるいは子どもの同級生の親など……。

たまたまそのとき偶然に巡り合った人と、時間を過ごさなければならないこともあると思います。

「茂木さん、相手を気遣いながら上手な人付き合いをする秘訣ってありますか?」

このようなことをよく尋ねられます。

そんなとき、私はよく「毛づくろいのポートフォリオ」の話をさせていただきます。イギリスの人類学者ロビン・ダンバー教授は、「ダンバー数の定式化」という興味深い研究をしました。

どんな研究かというと、サルの脳の大きさと、毛づくろいをする仲間の数がきれいに比例しているというものです。サルがお互いに毛づくろいをするという行為は、単に体毛の中の虫を捕り合うことを超えて、仲間との絆を深めるために重要な行為とされています。

グルーミングする2匹のニホンザル
写真=iStock.com/rai
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/rai

そして人間にとっても、そのような「毛づくろいに代わる行為」が必要なのだとダンバー教授は説いています。

では、人間にとっての毛づくろいとはいったい何なのか? コミュニケーションです。相手を気遣いながら上手な人付き合いをする。それが人間にとっての毛づくろいです。

ダンバー教授の研究結果によると、人間はおよそ150人と毛づくろいができる脳の容量を持っているそうです。つまり、私たちは150人と良好なコミュニケーションが築けるということでもあります。

■気の合う仲間だけと付き合ってはいけない

ダンバー教授の研究結果を私なりに解釈し、運を引き寄せるためにあなたにお伝えしたいのは、この150人を「自分の気の合う人」だけで固めないほうがいいということです。

たとえば職場において、自分の好きな上司や仲間たちばかりで毛づくろいをしていたとすれば、良好な人間関係を築くうえで最適とはいえないでしょう。むしろリスクが高いといえます。

組織の中では全方位外交で関係するほうが、結局のところ有益な情報をもらえたり、困っているときに助けてくれる人がどこからか現れたりするものです。自分と気が合う人だけとの関係では、偏った情報ばかりで生きていくことになりますし、多方面から有益な情報を得られることも、助けてもらうことも期待できないでしょう。

特定の好みにもとづく関係の中で生きることは、短期的にはラクなように思えますが、長期的には危険を伴うものなのです。だからこそ、日頃から自分とは考え方や行動範囲が異なる人たちと触れあう機会をつくっておくことが、大切なのです。

■運を引き寄せている人たちに共通すること

自分と気が合わなくても、それぞれ異なった世界に生きる人たちが自分の経験を持ち寄って独自の価値観を養っていく。脳科学でいう「毛づくろいのポートフォリオ」をしておくことで、いろいろな気づきや発見が起こります。凝り固まった価値観に振り回されることがなくなるのです。

茂木健一郎『強運脳』(かんき出版)
茂木健一郎『強運脳』(かんき出版)

むしろ世の中には、たくさんの価値観に気づいて、それを受け入れられる懐の広い人がいるということに目を向けましょう。そんな人が運を引き寄せているのではないでしょうか。

そのためには、人間観察に挑戦してみてください。運を引き寄せている人たちに共通すること、それは人間観察です。気が合うとか、合わないとか、感じ方はさまざまでしょうが、まずは人間観察を通じて人が反応するサンプルを集めてみてはどうでしょうか。

気遣いというのは、相手の心のうちをわかったうえでないと機能しないものです。

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茂木 健一郎(もぎ・けんいちろう)
脳科学者
1962年生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学院理学系研究科修了。クオリア(感覚の持つ質感)を研究テーマとする。『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞を受賞。近著に『脳のコンディションの整え方』(ぱる出版)など。

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(脳科学者 茂木 健一郎)

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