ワインやビールでは距離が縮まらない。ビジネスエリートが会食で「日本酒」を選ぶワケ
プレジデントオンライン / 2023年8月17日 11時15分
※本稿は、プレジデントオンラインアカデミーの連載『最強のコミュニケーションツールになる一流ビジネスリーダーのための日本酒入門』の第1話を再編集したものです。
■食通のビジネスリーダーが日本酒を選ぶ理由
接待や社内の親睦会、エグゼクティブとの会食――
そのようなシーンに際し、「いつもどんなお酒を飲みますか?」と聞かれたとき、あなたはどのお酒を選びますか?
多くの人が、なじみのある「ビール」と答えるのではないでしょうか。「乾杯」の一杯もビールを選ぶ人がほとんどでしょう。
一方で、経営者などビジネスリーダーには「日本酒が一番好き」と答える人が少なくありません。日本酒は、日本人の主食でもある“米”から生まれるお酒。ごはんを食べるときに感じるのと同じ甘味や旨味を、無意識のうちに“おいしさ”として共有できる安心感があります。和食はもちろん、イタリアンから中華料理まで、幅広い料理に合わせられる懐深さも、交換が持たれる理由かもしれません。
日本の歴史や風土、肌感覚としてもっている季節感を体現する飲みものであることも、日本酒の魅力でしょう。冬の新酒をはじめ、秋の“ひやおろし”や“秋上がり”、ここ10年ほどで増えてきた春限定の花見酒や夏酒など、四季の移ろいに敏感な日本人の感受性に訴えるバリエーションの豊かなこと。それぞれの旬の食材と合わせて味わい、刹那の喜びを確かめ合う時間は、ビジネスの会食にも気持ちのよい高揚感と余韻をもたらしてくれるでしょう。それこそが、会食の本来の意義でもあるはずです。
■銘柄名や酒蔵の場所で相手の心をつかむ
また、日本酒は各ブランドが生まれるまでに蔵元の想いやストーリーがあり、その奥深さゆえに「ついつい語りたくなってしまう」ことから、最強のコミュニケーションツールでもあるのです。
日本酒というお酒には、共通の話題のきっかけとなる符丁が無数にあります。たとえば、産地について。日本酒は全国津々浦々、47都道府県でもれなく造られています。ということは、飲む人と同じ出身地、もしくは所縁のある地域のお酒が必ず存在するということ。
「この酒蔵、実家のすぐ近くなんですよ」
「うちの女房の故郷があって」
「蔵元の○○さんは大学の先輩でね」
こんな話の流れになれば、お互いの距離感もぐっと縮まろうというもの。地域の話題から発展して歴史、あるいは文化や芸術、スポーツまで、共通の関心事について語り合うムードづくりにも一役買ってくれそうです。
逆に言えば、接待の場面では、相手の出身地に合わせて日本酒をチョイスするような心配りが生かせる強みも。相手の苗字と同じ銘柄の1本(「あべ」「黒澤」「まつもと」etc.)を選んだり、応援しているプロ野球チームにちなんだタイトルのお酒(「安芸虎」「黒龍」「鯉川」etc.)を指定するなんていう粋なオプションもあり。ワインやビールではなかなかできない、心をつかむテクニックです。
当然、日本酒はどのブランドも味わいが素晴らしいものばかり。醸造技術、設備、原料、マンパワーともに進化と成熟を積み上げてきた令和の日本酒は、史上最高ともいわれるクオリティに達しています。味わい、香りとも幅広い個性が出揃い、好みの差はあれど粒揃いで外れなし。近年では若手の蔵元や杜氏(とうじ)が、日本酒業界を盛り上げるために研鑽を積み、年代を問わず多くのビジネスリーダーの心をつかむ酒を続々と生み出し続けています。
だからこそ、接待において日本酒選びは、プレゼンと同じくらい重要なことです。ハッとするような味わいに出会い、その日本酒をすすめてくれた人のセンスや見識に触れることで、信頼感と共感がぐっと高まります。では、ビジネスチャンスをつかめる1本、どのように選べばよいのでしょうか?
■苦手意識がある人にも喜ばれる日本酒
取引先を初めて接待する会食の席で、高級感を意識した結果、日本酒の取り揃えとモダン和食の料理が評判のくずし割烹(創作的な日本料理)を選ぶこともあるでしょう。
場も温まってきたところで、「そろそろ次の酒を」というタイミングに。先方からは「日本酒なんてどう?」と提案があった場合、どのような日本酒を選ぶのが正解でしょうか? 「普段から日本酒は飲むが、これといってお気に入りの銘柄があるわけではない」という人も多いはずです。「学生時代に悪酔いでひどい目に遭った経験があり、いわゆる昭和の“ザ・日本酒”的な匂いや甘くどさには抵抗がある」という声も、少なくありません。
こんなシーンでおすすめしたいのは、「風の森」の秋津穂純米シリーズ。「風の森」といえば、日本酒好きが通う割烹や高級居酒屋のリスト、最近ではガストロノミーレストランやビストロのペアリングに登場することも多い銘柄なので、聞き覚えがある方も多いのではないでしょうか。
醸造元は奈良県で300年にわたる酒造りの歴史をもつ油長(ゆちょう)酒造。日本酒発祥の地といわれる奈良にあって、常に新しい技術を取り入れながら伝統を改変し、革新を重ねてきた精鋭蔵です。十三代目蔵元にして新世代のホープと目される山本長兵衛さんが手掛ける無濾過生原酒の看板ブランド「風の森」のうち、蔵のシンボルである米品種“アキツホ”で醸す純米酒。精米歩合の数値をナンバリングした「507(精米歩合50%)」「807(精米歩合80%)」などのラインナップがありますが、初めての人にはバランス型の精米歩合65%の「657」がおすすめ。蔵元が“スタンダード”に掲げる、シリーズの代表酒です。
「風の森」全ブランドに共通する持ち味は、どんな人にとってもわかりやすく、一瞬にして心を鷲づかみにしてしまうフレッシュでジューシーな飲み口が特徴。無濾過生原酒は一般に酸化のスピードが速く、“生老ね(なまひね)”と呼ばれるオフフレーバーや雑味がつきやすい傾向にありますが、「風の森」には一切それがありません。
口に含んで感じるのは、白いブドウや青リンゴ、和梨を思わせる上品な果実香と、チリチリと繊細なガス感を伴う舌触り。洗米から仕込み、搾り、瓶詰、出荷、流通まで徹底した温度管理と独自の技術革新で、唯一無二の個性でもある凛としてピュアな透明感があります。一言で言えば、チャーミング。爽やかなだけでなく、米の旨味が滑らかに溶け込んだ完全無欠のバランスにも感動します。
■外国人からも注目される日本酒
日本酒を初めて飲む人はもちろん、日本酒の味を知っている人、特に苦手意識をもつ人を、「こんな日本酒があるなんて!」と感激させずにはおかない「風の森」の安定感は抜群。私自身、「プレゼントに間違いない日本酒を教えて」と相談されるとき、いつも真っ先にすすめるのが「風の森」です。
また、海外のSAKEファンや、日本以外の国で酒造りを始めた醸造家、ナチュラルワインの造り手たちからも、日本酒に興味をもつきっかけになった1本として「カゼノモリ」の名前がよく挙がります。さほどに“つかみ”は抜群! 硬水仕込みならではのミネラリーなタッチ、オリーブオイルやハーブを使った料理ともなじむきれいな酸の輪郭に、新鮮なインパクトを感じ取るのかもしれません。
コミュニケーションの場においては、シンプルに、わかりやすく伝えることが基本原則。いつ誰が飲んでも「おいしい!」とストレートに感じられる日本酒は、それだけで共通言語に代わりうるパワーをもっています。場を和やかに盛り上げ、関係を深めるための呼び水になってくれることでしょう。
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日本酒ライター
フリーライター。『dancyu』をはじめ、雑誌やWEBメディアで"食と酒"まわりの記事を執筆。特に日本酒を巡る風土、食文化、人に魅せられ、酒蔵訪問ルポやペアリング提案、商品紹介記事を数多く手掛ける。海外のSAKE事情にもあかるく、欧米やアジア、南米など、海外の日本酒蔵を取材で歴訪。現地でのワークショップ開催、SNSによる日本酒の情報発信にも注力する。
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(日本酒ライター 堀越 典子 撮影=小西範和)
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