受験直前に偏差値が「60→40」へ急降下…「頭のいい子」を潰してしまうダメ親がよく使うNGフレーズ
プレジデントオンライン / 2023年8月8日 15時15分
※本稿は、小川大介『頭のいい子の親がやっている「見守る」子育て』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■難関私立中学を目指していた小5の女の子
子どもを愛し、将来の幸せを願うほど、子どもの「できていない部分」が目についてしまうものです。するといつの間にか、「だから言ったでしょ」「そうじゃないでしょ」「普通はこれくらいできて当たり前なのに、この子はもう……」という、子どもを否定する言葉ばかりを並べてしまいます。
否定は、「認める」「見守る」「待つ」とは真逆の行動です。これでは親も子も悲しい気持ちになるばかりですし、子どもが萎縮し、本来持っている能力が発揮できません。
忘れられない1人の女の子がいます。かつて個別指導塾で私が担当していた生徒です。
彼女の家庭では、常にお父さんが主導権を握っていました。お父さんは自身の学歴にプライドを持っていて「娘を難関私立中学に入れるんだ」と娘さんの勉強にも干渉していました。
初めて私の元を訪れたとき、娘さんは小学5年生で、成績も上位。順調に学力を伸ばしていけば、志望校の合格も現実的な目標として見えてくるはずでした。
■授業には毎回父親が同席する
ただ、そのご家庭は異様と言ってもいいような状況でした。
授業には毎回、お父さんがついてきます。そして娘さんが問題を解くのにちょっと時間がかかるたびに、「何やってるんだ」「いつもぐずぐずして」「急げよ、昨日やっただろう」と延々、文句を言うのです。
お父さんと個人面談をしても、「あの子は努力が足りない」のひと言で片づけてしまいます。私は「彼女はちょっとマイペースなところはありますが、じっくり考えて、考えがまとまってから問題を解くスピードには目を見張るものがあります。本人のペースに任せてあげましょう」と提案するのですが、お父さんは聞く耳を持ちません。
彼女は、自分の頑張りを一度も認めてもらえず、毎日毎日、怒られ続けていました。
結果、成績が急降下。そのうちに病気がちになり、塾を休むことも増えていきました。しかしそれでも、お父さんは彼女を叱り続けます。頼みのお母さんも、自身が努力して難関校に受かったという方だったため、「この子は甘い」で終わりです。逃げ場のない彼女は、追い詰められていきました。
■偏差値が60→40に落ちてしまった
私は何とか、この状況を変えなければと考えていました。学力うんぬんの前に、彼女がかわいそうだったからです。
彼女はそのような状況でも、親の期待に応えようと一生懸命に勉強をします。しかし精神的に追い詰められていては、結果が出るはずもありません。私はいよいよ「できているところを見て、ほめてあげてほしい。そうでなければ彼女はつぶれてしまう」と訴えましたが、お父さんは「もういい。こちらの言う通りに勉強をさせられない先生はいらない」と突っぱね、塾を替わっていきました。
6年生の後半になろうかというころ、彼女のお母さんから「今からもう一度勉強を見てもらえませんでしょうか」と電話がかかってきました。
聞くと、「60あった偏差値が今では40にまで落ち込んでしまっている。それでも父親の第一志望である難関私立中学に合格させたい。だから今からもう一度見てほしい」と言います。
■「否定」は子どもを潰してしまう
助けになって差し上げたかったのですが、「絶対に第一志望に合格するという保証をしてください」と言われてしまいました。物事に「絶対」はありませんから、「それは難しい」とお答えしたところ、「じゃあ結構です」というお返事でした。
私は最後に、「お子さんとの関わり方についてご主人ともう一度、話し合ってみてください。あの子は本当に頑張れる子だし、伸びる力を十分に持った子です。どうかこの言葉を頭に残しておいてください」とお願いをし、受話器を置きました。親御さんの心をほぐして差し上げられなかった、当時の自分の力不足を思うと、また、あの女の子の必死に耐える目を思い出すと、今も心が痛みます。
ここまで極端な例はまれですが、否定はこのように、お子さんの可能性をつぶしてしまうどころか、本来ならばできるはずのことでさえ、できなくさせてしまう圧力を持っているのです。
■「親に嫌われた」と受け取ってしまう
子どもはコミュニケーションの経験値が少ないため、投げかけられた言葉をそのまま受け取ります。これがそのまま、「否定が子どもにとってプラスにならない理由」です。
親の思い通りに動いてくれないとき、あるいは、奮起を促そうとするときの否定を、子どもは額面通りのメッセージとして受け取ります。「お前はダメだ」と言われたら、そのまま「自分はダメだ」と受け取るわけです。これは、「認める」「見守る」「待つ」とは真逆の関わり方をしてしまっていることになるのです。
ドリルを真面目にやらない子に「どうしてちゃんとしないの!」
鉄棒の練習をしていて「そんな持ち方じゃダメだ!」
部屋中におもちゃを出しっぱなしにする子に「散らかさないでよ!」
親から否定されると、子どもは「お父さん・お母さんが自分のことを嫌いになっちゃった」と感じます。親からしてみれば、行動に対して「ダメ」と言っただけなのに、子どものほうは「お父さん・お母さんと自分との関係すべてがダメ」というふうにとらえてしまうのです。コミュニケーションの経験値が少ないのですから、仕方のないことです。
■「~してはいけない」ではなく「~しよう」
だからこそ親御さんには、「なぜ否定するのか」をもう一度、考えてほしいのです。
おそらく、「うまくいって喜ぶ子どもの顔が見たい」「本来持っている能力を十分に発揮してほしい」「ケガや病気をしてほしくない」という、子どもの幸せや安全を願う気持ちと、親自身が安心したい気持ちが入り交じっているのでしょう。
それはとても自然な感情です。ただ、そこで考えてほしいのです。「子どもの幸せ」と「自分の安心」を両立するために、否定的な言葉を使わずに済ませることはできないだろうか、と。
わかりやすい例をひとつ挙げましょう。
「廊下を走ってはいけません」という張り紙と「廊下は歩いて移動しましょう」という張り紙とでは、子どもたちが廊下を走る割合は後者のほうが圧倒的に少ないという実験結果が出ています。
「~してはいけない」ではなく、「~しよう」と肯定的に伝えたほうが、子どもは素直に受け取り、行動できるのです。
■「ダメ出し」は大人にしか通用しない
「そんなんじゃダメだよ。もっとできるだろう」「こんなこともできないの?」といったダメ出し。「奮起して本来の力を発揮してくれるだろう」という、親としての期待によるものであることは理解できます。
ただそれは、「もう一度頑張れ。お前ならきっとできる、という意味だな」という、ダメ出しに込められた真意がわかるからこそ有効なコミュニケーションです。
さきほど述べたように、子どもは「ダメだ」と言われたらそのまま「自分はダメだ」と受け取ります。そして、「そんな自分が次に頑張ったって、うまくいくはずがない」と考えます。そのため、チャレンジを避けるようになります。
ダメ出しに込められた「もっと頑張ったらできるようになるよ」というメッセージを、子どもはまだ受け取ることができないのです。
■自分自身が頑張ってきた親ほど危ない
大人である私たちでも、ダメ出しをされると落ち込んでしまうものです。そこで奮起して「よし、やってやるぞ」という気持ちになる人がどれだけいるでしょうか。それが子どもなら、なおさらのことです。
それならば親御さんの真意が伝わるように、否定ではない声かけをしていきましょう。
特に、あなたが高学歴であったり、努力して社会的に成功してきたり、恥ずかしい思いをしたくないと自分を律してこられたりした方である場合は、要注意です。
このような方はダメ出しに対して奮起できてしまう、ごく限られた人だからです。
頑張れてしまうあなたが特別なのであって、お子さんを含めほとんどの人にとっては、ダメ出しを前向きなエネルギーに変えるのはとても難しいと理解してください。
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教育家・見守る子育て研究所所長
京都大学法学部を卒業後、中学受験個別塾を創設。コーチングと学習タイプ分析を融合した独自ノウハウで受験学習、幼児からの能力育成、子育て支援で実績を重ねる。執筆、講演、教育系企業への助言など幅広く活躍中。6000回の面談で培った洞察力と的確な助言が評判。著書に、『頭のいい子の親がやっている「見守る」子育て』・『自分で学べる子の親がやっている「見守る」子育て』(KADOKAWA)、『頭がいい子の家のリビングには必ず「辞書」「地図」「図鑑」がある』・『子どもが笑顔で動き出す 本当に伝わる言葉がけ』(すばる舎)、『1日3分! 頭がよくなる子どもとの遊びかた』(大和書房)、『子どもの頭のよさを引き出す親の言い換え辞典』(青春出版社)など多数。 中学受験情報局「かしこい塾の使い方」
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(教育家・見守る子育て研究所所長 小川 大介)
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