情報のほうから勝手に集まってくる…伝説の経営コンサルの秘蔵ノウハウ「20の引き出し」を紹介する
プレジデントオンライン / 2023年8月9日 17時15分
※本稿は、内田和成『アウトプット思考』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■誰にでも使える汎用的な方法
私自身、すべてのアイデアや情報を取っておくようなことはしていない。だから、街中でふと「これは面白いかも」と思ったネタがあっても、そのまま二度と引き出されないことも多々ある。それはそれで仕方がない、と割り切っている。自分にとって大した情報ではなかったということだ。
だが、そのようなやり方で本当にアウトプットが、つまり優れたアイデアが生み出せるのか、不安に思う人もいるだろう。ここで、私の秘蔵のノウハウを紹介したい。それが「20の引き出し」である。
実はこの「20の引き出し」については、いろいろな本や雑誌で何度も書いているのだが、なかなか理解してもらえないことが多い。「本当にできるのか」とか、「内田さんだからできることだ」などと思われがちなのだ。
ただ、私としては長年このやり方を活用しているし、誰にでも使える汎用(はんよう)的な方法だと自負している。以下、その方法についてお話ししたい。
■得た情報を「頭の中の引き出し」に放り込む
「20の引き出し」とは何かをひと言で説明すれば、「頭の中に情報を整理して入れるための仮想の引き出しを作っておく」ということになる。新聞や雑誌、ウェブなどで得た情報や、人から聞いた話、街中で見かけてふと気づいたことなど、入手した情報を、その頭の中の仮想の引き出しの関連する場所に入れておくのだ。
あなたが「リーダーシップ」「イノベーション」「人材育成」に関心があるとすると、とりあえずこれが三つの「引き出し」となる。そして、ある情報を得たときに「これはリーダーシップにとってのヒントになるな」と思ったら、それを頭の中の「リーダーシップ」の引き出しに入れる、ということだ。
この引き出しは実際に存在するものではなく、あくまでイメージだ。引き出しよりも、机の上に置かれたファイルボックスや、パソコンのフォルダのほうがイメージしやすいというのなら、それでもいいだろう。
つまり、自分にとって必要な情報が得られた際、その情報を頭の中の引き出しやファイルボックス、あるいはフォルダに入れるとイメージするのだ。
■誰もが無意識に「引き出し」を持っている
これは何も特別なことではない。すでに誰もが意識せず、頭の中にこうした「引き出し」を持っているはずだからだ。
もしあなたが「旅行が趣味」で「ワイン好き」なら、あなたの頭の中にはすでに「旅行」「ワイン」という引き出しがあるはずだ。そして、誰かとの会話の中でお勧めの旅行先の話が出たり、テレビでワインを紹介していたら、無意識のうちにそれぞれの引き出しにその情報をしまっている、と考えることができる。
これらの「引き出し」に入れた旅行先やワインの情報は、もちろん忘れてしまうこともあるだろうが、関心のない分野の情報に比べ、確実に記憶に残っているはずだし、折に触れて引き出すことも容易だろう。
つまり、それを意識化したものが、この「20の引き出し」なのだ。
「20」という数には別に意味はない。私にとってちょうどいい数が20くらいというだけで、人によっては多すぎるという人も、これでは足りないという人もいるだろう。
大事なのは、自分の頭の中にはどんな引き出しがあるのかを、一度リストアップしてみることだ。今、自分が何に関心を持っているのか、何を目指しているのかが一目瞭然となる。いわば「脳内知の形式知化」である。
![たくさんの引き出し](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/7/1200wm/img_774f6a16ce25d48b14cdb9a255e360cc251325.jpg)
■情報が自然と飛び込んでくる
この引き出しを持つことのメリットはいろいろあるが、まずは、先ほどの旅行やワインの例のように、引き出しを意識することで、頭の中に情報が定着しやすくなる。
優れたアイデアを「スパーク」させるには、とりあえず面白そうだと思った情報を頭の中で泳がせ、熟成させるべきというのが、私の持論だ。だが、単に「面白い情報」というだけでは、記憶に残りにくいのも事実。「この引き出しと関連した面白い情報があったな」というほうが、記憶への定着率が格段に高まる。
また、情報に対する感度が鋭くなるのもメリットだ。漠然と「何か情報はないかな」と探したところでろくな情報は集まらない。「どんなアウトプットのために、どんな情報が必要か」がわかっていればこそ、最短で必要な情報が集まる。
それと同じで、自分がどんな分野に関心を持っているかがわかっていれば、情報に対するアンテナの感度も上がる。すると、必要な情報が次々に飛び込んでくるのだ。
例えば、自分の中に「人材育成」という引き出しがあることを意識していると、単なる企業の成功事例が、実は人材育成に関する重大なヒントになっていることに気づいたりする。そうしたら、その事例を自分の「人材育成」の引き出しにしまう、というわけだ。
■「すぐに引き出せる」というメリットも
今現在、私の頭の中にある「20の引き出し」は以下のようになっている。
右脳思考
ゲームチェンジ
リーダーシップ
コーポレートガバナンス
運(勘)
シェアリングエコノミー
自動運転
イスラエル
ブロックチェーン
論点思考
ビジネスモデル(プラットフォーム)
パラダイムシフト
経営者育成
社外取締役
イノベーション
EV
MaaS
GAFA
AI
これはあくまでバーチャルなものであり、現時点で棚卸しをしてみたら、こんな引き出しがあった、ということに過ぎない。内容はしょっちゅう変化するし、常に20あるとも限らない。その時々の関心によって、二つの引き出しが一つに統合されることもあれば、一つの引き出しが二つに分かれることもある。
![内田和成『アウトプット思考』(PHP研究所)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/1/1200wm/img_a1256d06d75d5411cceed22ca2d6e24366023.jpg)
引き出しだけに「引き出しやすい」のもメリットだ。誰かとリーダーシップについて話している最中に、「そういえばリーダーシップの引き出しにあの話があったな」というように、スムーズに情報を引き出すことができるようになるのだ。
実際に自分が見聞きした事例はもちろん、新聞や雑誌、テレビなどで見た情報を、「いつか使えるかもしれない」ということで頭の引き出しの中に入れておく。すると、実際にそのテーマの話が出た際に、比較的スムーズに取り出すことができるというわけだ。
その意味では、「20の引き出し」はアイデア創出のためだけでなく、「コミュニケーションの手段としての情報」を集める際にも役立つのである。
また、私の場合は、講演のネタや書籍の材料としても使っている。このように一粒で何度もおいしいのである。
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早稲田大学 名誉教授
東京大学工学部卒業後、日本航空入社。在職中に慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了(MBA)。その後、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)入社。同社のパートナー、シニア・ヴァイス・プレジデントを経て、2000年から2004年までBCG日本代表を務める。2006年度には「世界の有力コンサルタント、トップ25人」に選出。2006年、早稲田大学教授に就任。早稲田大学ビジネススクールでは競争戦略やリーダーシップを教えるかたわら、エグゼクティブプログラムに力を入れる。著書に『仮説思考』『論点思考』『右脳思考』『イノベーションの競争戦略』(以上、東洋経済新報社)、『異業種競争戦略』『ゲーム・チェンジャーの競争戦略』『リーダーの戦い方』(日本経済新聞出版)、『意思決定入門』(日経BP)など多数。
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(早稲田大学 名誉教授 内田 和成)
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