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なにかと日本にゴネる韓国を、なぜ日本は突き放せないのか…地政学で「アジアの政治状況」を解説する

プレジデントオンライン / 2023年8月13日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MicroStockHub

地政学とはどんな学問なのか。経済評論家の上念司さんは「現代地政学の基礎として、世界の国を『ランドパワー』と『シーパワー』の対立構造にあるという考え方がある。この場合、シーパワーである日本にとって、中国というランドパワーとの間にある韓国は『橋頭堡』と呼ばれる足掛かりになるため、非常に大切な存在だ」という――。

※本稿は、上念司『経済で読み解く地政学』(扶桑社)の一部を再編集したものです。

■国際情勢は「ランドパワー」vs「シーパワー」

現代における地政学は、いくつかの仮説によって構築された理論体系を意味します。その中で最も有名な仮説が、「世界はランドパワー対シーパワーという構造で出来ている」という仮説です。

本書でも、この「ランドパワー」と「シーパワー」の地政学をメインに、話を進めていきます。

まず、簡単に両者について説明すると、「シーパワー」はアメリカ、イギリス、日本、オランダ、スペインといった海洋国家が中心となり、形成されています。分散的に存在する独立主体の国家が、ネットワークのように結びついています。

彼らが重んじる世界観は「それぞれの国家が独立し、自由で開かれた交易を行って世の中を発展させること」です。そのため、海上交通の安全性を重視し、交易路を防衛する上で強力な海軍を必要とします。

イギリスやアメリカ、日本のほか、過去、歴史上存在したベネチア共和国や現在の台湾やシンガポールなども典型的なシーパワーの国と言えるでしょう。

■より広い「生存権」を求めるロシア、中国

これに対して「ランドパワー」とは、ロシア、中国、ドイツ、フランスといった大陸国家の間で生まれた考え方です。これらは、自分たちの領地内で自給自足を完結させるために、より広い領地、すなわち「生存圏」を得ることを目的としており、国土を防衛し、新たな領地を獲得するために強力な陸軍を必要とします。

歴史上を振り返ってみても、モンゴル帝国やオスマントルコ帝国は自分の領地を広げるためにどんどん他国を侵略していきましたが、これらは典型的なランドパワーと言えるでしょう。なお、ランドパワーの地政学は閉鎖的で、自給自足的な世界観を持つ傾向が強いようです。

■地政学とは「人間の世界観を巡る戦い」

ランドパワーとシーパワーの地政学を説明する上で、まず押さえておくべき点は、両者の世界観の違いです。

東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授であり、国際政治学者の篠田英朗氏は、地政学とは「最終的には人間の世界観を巡る戦いである」と指摘しています。どちらの地政学にしても、「人間の理性の働きをどうとらえるのか」という二つの異なる思想に基づいて成り立っているからです。

では、理性とは何か。理性とは、みなさんもご存じの通り、人間に備わっているとされる知的能力であり、人類を発展させる原動力にもなりました。

理性は、神に匹敵する能力なのか、そうではないのか? 人間がいかに理性を持っていたとしても、人間はやはり不完全であり、神ならざるものか? この問いに対して、哲学者たちは長年にわたって議論を続けてきました。

地政学のシンボル、チェスの遊びで世界地図からチェスボード
写真=iStock.com/posteriori
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/posteriori

■ルソーは「国民の一般意志は正しい」と説いた

18世紀の哲学者であるジャン=ジャック・ルソー(1712-1778)は、『社会契約論』の中で、誤解を恐れずに言えば、「人間は神のように賢い存在だ」と述べています。

人民とは一般意志を持ち、一つの主権者である。そのような理性的な意志を持つ一人ひとりの国民の集合体が国家であり、その一般意志は必ず正しい。ゆえに、行政はこの国民の一般意志に従うべきであるとルソーは結論づけました。

権力者である王を頂点として成り立つ絶対王政が当たり前だった当時において、こうしたルソーの考え方は非常に画期的であり、多くの国民の共感を呼びました。その結果、民衆たちが蜂起し、国内では数々の暴動が起こり、フランス革命へとつながっていきました。

さて、このルソーの思想を引き継いだのが、18~19世紀に活躍した哲学者のゲオルク・ヴィルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲル(1770-1831)です。ヘーゲルは、国家は個人の寄せ集めではなく、個人という独立する細胞を持つ一つの有機的組織であるという「国家有機体説」を提唱しました。その中で、「すべての部分が同一性へと向かわない場合、一部分が独立したものとして定立される場合には、全部が滅亡せねばならない」とも定義づけたのです。

■シーパワーの日本がランドパワーの憲法を導入

その後、ドイツでは、ヘーゲルの国家有機体説をベースにしたドイツ国法学が花開き、プロイセン憲法などがつくられます。なお、日本が明治期につくった大日本帝国憲法も、このドイツ国法学に倣って作成されました。地理的には海洋国家であり、シーパワーである日本が、ヨーロッパを代表するランドパワー国家・ドイツの憲法を導入する。この時点で悲劇の種がまかれていたことを知る人はいませんでした。

プロイセン憲法や大日本帝国憲法などこれらの憲法では、「人間は神のように賢く、一般意志を持っている。そんな賢い国民こそが主権者である」との考え方がベースになっています。国家は一つの生物のようなもので、その主権を守るために、生存権や交戦権、関税自主権などいろんな権利を持っており、自らが生き残るためにはその権利を行使し、領地を広げることは悪ではないとされました。

そして、この国家有機体説が、典型的な大陸系地政学へとつながっていきます。

■人間の理性を信じないシーパワーの地政学

大陸系地政学は、主にかつてのドイツや、現在のロシアなどが含まれます。これに対して、いわゆるシーパワーの地政学が生まれたのはイギリスからです。正確に言うと、そもそもシーパワーとランドパワーという概念そのものを考え出したのがイギリスの地理学者、ハルフォード・マッキンダーでした。

「人間は理性的な生き物である」という前提から成り立っていた大陸主義的な思想に対して、「それは、おかしいのではないか」と指摘したのが、18世紀に活躍したイギリス人の政治思想家であったエドマンド・バーク(1729-1797)でした。

バークは、フランス革命を厳しく批判した人物でもありました。いかに理念自体は良いものであったとしても、民衆がギロチンによる残酷非道な粛清を望むなど、やっていることは野蛮な行為でしかない。

理性を絶対視する大陸の人々を、バークは非常に冷笑的、かつリアリスティックに捉えていました。あまりにも人間を理想化していた政治哲学は、個人の権利を重んじるイギリス人にとっては思弁的すぎて受け入れられなかったのでしょう。

■アメリカが強力な海軍をつくった理由

また、アメリカでも同様に、国家の権利よりも個人の権利を重んじる思想が広く受け入れられていたため、ドイツ的な政治哲学は懐疑的に捉えられていました。

シーパワーの登場に大きく影響を与えたのが、戦前のアメリカの国家戦略に貢献し、海軍大学校の教官として『海上権力史論』というアメリカ地政学の教科書のような本を記した海洋学者・アルフレッド・セイヤー・マハン(1840-1914)です。

同著の中で、マハンは次のようなテーゼを発表しています。

1.海を制する者は世界を制す。
2.いかなる国も、大海軍国と大陸軍国を同時に兼ねることはできない。
3.シーパワーを得るためにはその国の地理的位置、自然的構成、国土の広さ、人口の多少、国民の資質、政府の性質の6条件が必要である。

つまり、国家を繁栄させるには、シーパワーが必須条件であると提唱しました。この理論が、その後のアメリカでは大きく取り入れられ、強力な海軍をつくり、アメリカ的な世界観(国際秩序)を国外へと拡大する際に大きく参考とされました。

日没の背景にアメリカの近代的な軍艦。3D イラストレーション。
写真=iStock.com/3DSculptor
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/3DSculptor

■「ハートランドを支配する者が世界を制す」

ロンドン大学の地理学院院長でもあったハルフォード・マッキンダー(1861-1947)は、「ランドパワー」と「シーパワー」という二つの力について初めて言及し、現代地政学の基礎を築きました。

1919年に発表した著書『デモクラシーの理想と現実』では「東欧を支配する者はハートランドを制し、ハートランドを支配する者は世界島を制し、世界島を支配する者は世界を制す」と指摘。ハートランドとは、世界最大の大陸であるユーラシア大陸を重要な大陸とした場合、その中心部にあるシベリアやモンゴル、イランの一部を意味します。

ハートランドは、北に位置しているので、北方から攻め入られることはありません。その一方で、海に通じる港を持たないため、ユーラシア大陸の奥に封じ込められてしまいます。

ただ、そんなハートランドが軍事力を高めて凍らない港を求めて南下し、勢力を拡大する。これらの特徴を持つ国家を指して、陸上権力、すなわち「ランドパワー」と呼んだのです。

■シーパワーはランドパワーを取り締まる警察

ランドパワーに対抗するのが、「シーパワー」の存在です。

シーパワーの国々は、具体的な位置としては、ユーラシア大陸縁辺域(えんぺんいき)にあるインナークレセント(内側の三日月地帯)と外側にあるアウタークレセント(外側の三日月地帯)という二つの地域を支配しています。

マッキンダーは、アウタークレセントに属するイギリスや日本、アメリカ、カナダ、オーストラリアや、半島部分にあるフランスやイタリアなどをシーパワーの国だと認定しています。

シーパワーは、ランドパワーとは全く反対の地理的な条件を持っており、島国ゆえに外の国へと領土拡大しようとはしません。海にアクセスしやすいために、貿易などを通じて大きな利益を上げることができるので、ランドパワーの国を侵略する必要がないからです。

一方で、ランドパワーの国々が領土を拡大して、シーパワーの国の世界へのアクセスや交易を妨げるようであれば、その拡大を抑える行動に出ます。立ち位置としては、シーパワーは、ランドパワーを取り締まる警察のようなものだと考えると、理解がしやすいでしょう。

■地政学上、日本が韓国を突き放すことはできない

ランドパワーとシーパワーの間にいるインナークレセントの地域は、両者からの介入を受けるため、何かと紛争に巻き込まれがちです。

上念司『経済で読み解く地政学』(扶桑社)
上念司『経済で読み解く地政学』(扶桑社)

そこで、ランドパワーを取り囲むようなアウタークレセントに位置するイギリスや日本などのシーパワーの国は、インナークレセントの半島に「橋頭堡(きょうとうほ)」と呼ばれる自分たちの足掛かりを置くことで、大陸へのアクセスを確保していました。

ランドパワーの国にとっても、シーパワーの国にとっても、橋頭堡は地政学上、非常に大切です。韓国があれだけ日本にゴネても、日本側が突き放すことができないのは、韓国がアジア大陸のインナークレセントにおける橋頭堡だからなのです。

なお、マッキンダーはこの理論を1904年に締結された日英同盟に着想を得て考えたと言われています。

このとき、ランドパワーの大国として知られていたロシアが、領土拡大を進める中、どちらも島国であるイギリスと日本が手を組み、ロシアを封じ込めようとしました。イギリスと日本はどちらもアウタークレセントに位置しており、地理的条件は極めて近い。その両国がシーパワーの国として同盟を組み、ランドパワーを抑え込むのは非常に理に適っていると考えたのです。

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上念 司(じょうねん・つかさ)
経済評論家
1969年、東京都生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。在学中は創立1901年の日本最古の弁論部・辞達学会に所属。日本長期信用銀行、臨海セミナーを経て独立。2007年、経済評論家・勝間和代氏と株式会社「監査と分析」を設立。取締役・共同事業パートナーに就任(現在は代表取締役)。2010年、米国イェール大学経済学部の浜田宏一教授に師事し、薫陶を受ける。金融、財政、外交、防衛問題に精通し、積極的な評論、著述活動を展開している。

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(経済評論家 上念 司)

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