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「リーダーは若手を育てよ」は間違っている…ラグビー日本代表主将が「わがままを押し通す」と決めたワケ

プレジデントオンライン / 2023年8月13日 13時15分

ラグビー日本代表の姫野和樹選手 - 撮影=岡本武志

組織のリーダーはどんな役割を果たすべきなのか。ラグビー日本代表キャプテンの姫野和樹さんは「下を育てる、自分の経験を伝える、といった聞こえのいいことを言うのではなく、わがままに思いを貫くべきだ。その姿が結果的に、次の世代を育てることになる」という――。

※本稿は、姫野和樹『姫野ノート 「弱さ」と闘う53の言葉』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。

■「次のリーダーを育てる」は本当に大切か

スポーツに限らず、ビジネスの世界、会社組織でも管理職の間でよく語られているリーダー論がある。

「リーダーの一番大事な仕事とは、“次のリーダー”を育てることだ」

たしかに重要な役目だとは思う。

僕は社会人1年目から6年以上も同じチームに在籍して、その間、ずっとキャプテンを続けてきた。チームの中で影響力が一番大きい選手だと自覚しているし、29歳になって、年齢的にも中堅というポジションになってきた。

すると、たしかに最近は僕の中でも、そういう考えが大きくなっていた。

「もっと下の世代、次のリーダーを育てなきゃいけない」
「若手にもリーダーのポジションをやらせてあげて、経験を積ませないといけない」

■自分が楽なほうに逃げているだけではないか

特に2022-2023シーズンはキャプテンをピーターに任せていたこともあって、僕自身がどんどん前に出たり、リーダー的立場から発言することを意図的に控えていた。

育てるほうに立ち位置を変えていた。

リーダーシップとは、ある意味でそのリーダーの“わがまま”だ。「こうしよう」という自分のわがままを押し通すことで、チームや組織を引っ張っていく。僕はそのわがままを押し通すことを少なくして、あえて一歩引いたところでチームを支えよう、そんな役割に自分をシフトしようとしていたのだ。

「下を育てる」という名のもとに、中心になることを譲っていたわけだ。

でも、それは間違いだったと僕は思う。

「次を育てる」という考え方は結局のところ、「逃げ」だ。自分が楽なほうに逃げているだけだ。

■リーダーこそ、先頭に立って戦う姿を示すべき

「若手選手を育てる」「次のリーダーを育てる」「自分の経験を伝える」なんていかにも聞こえはいいけれど、自分で先頭に立ってチームを引っ張り続けることよりも、本当は、この立ち位置にいるほうがずっと楽だと感じていたんじゃないか。

矢面に立って、練習でも常にベストなプレーヤーでいることが、キツくなっただけなんじゃないか。

「人を育てる」のを体のいい言い訳にして、無意識のうちに楽な道を選んでいただけなんじゃないか。

それはリーダーの仕事を果たした気になっているだけで、結果的にチームのためにはなっていない。

キャプテンとして、リーダーとして、自分が全力で前に出て、わがままを押し通しながら道を切り拓いていくことがチームにとって最善なのであれば、何を差し置いてもそれを実行すべきなのだ。リーダーこそ、先頭に立って汗みどろになって、戦う姿を示すべきだ。

聞き分けのいいことを言っていないで、わがままに思いを貫くべきだ。

少なくとも僕は、それがリーダーの仕事だと思う。

その姿が、必ず次の世代を育てているはずだから。

人的資源の管理
写真=iStock.com/Dilok Klaisataporn
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Dilok Klaisataporn

■喜怒哀楽を隠せないので、そのまま伝えてきた

「喜怒哀楽を隠さずに伝える」のは子どもの頃からだ。

そもそも隠さないというよりも、感情が隠せないが正しい。感情のコントロールが苦手で、ラグビー部の顧問の先生に食ってかかって言い争いをしてしまうくらいには、感情がそのまま表情や態度、言葉になって出てしまうタイプだった。

大人になった今でも、ムカつけば「何言ってんだ、コイツ」と顔に出てしまうし、悔しい時、悲しい時にはみんなの前でも本気で泣く。試合の応援に来てくれていた子どもにまで、「姫野選手、もう泣かないで」なんて慰められてしまうこともあった。

「それは違う」ということがあれば、たとえチームメイトでもストレートにぶつかっていくこともある。

だいぶ前のことだが、岩村昂太(現・三菱重工相模原ダイナボアーズ)ともリーダーシップを巡って大喧嘩をしたことがある。当時、岩村はチーム内に数人いるユニットリーダーの1人として、僕と一緒にチームをまとめていく立場だった。

だが、その時のユニットリーダーたちの姿勢を、僕はずっと物足りなく感じていた。

■唯一、コントロールするのは「怒り」

ある時、リーダーだけのミーティングの帰りにそれをストレートにぶつけた。

「みんな全然アカン!」
「リーダーなのに主体性がないし、練習でもベストを尽くせているか?」
「ただいるだけじゃ意味がない!」

僕の言葉に岩村もカチンと来たのだろう。

「なんでそんな言い方すんだよ!」

感情を隠さないゆえに、真剣にぶつかり合うことも少なくなかった。

だが、ここまでのエピソードと矛盾するようだが、普段の僕は怒る――怒りにかられるということが一切ない。

チームメイトとのミーティングで怒りをぶつけたのは、決して感情に任せてではなく、「ここは本気で出し合わなきゃダメだ」と判断したから出したに過ぎない。

僕が言うまでもなく、怒りという感情は上手く使えば大きなエナジーを生むものになるが、使い方を誤るとそれまで積み重ねてきた信頼や信用、人間関係を一瞬で壊してしまう。

色々な考え方や意識の違いを持った大人が大勢集まっているチームの場合、そうなると一気に沼にハマったり、最悪、空中分解が起きてしまう。

■怒りをまずはキャッチして、一度考えてみる

元々は喜怒哀楽のコントロールなんて、まったくできなかった僕ができるようになったのは、大学、社会人時代での経験が大きい。

「怒りはコントロールしたほうが得だ」
「コントロールできるものだ」

そう、自分の意識を変えることができたからだ。

「意識を変える」とは、「そう考える習慣、クセをつける」ということ。

具体的に僕はどういうクセをつけたのか。

難しいことは何もない。怒りを我慢するのではなく、一度沸き上がってきた怒りをまずはキャッチして、反射的に返さないようにするだけでいい。例えるならば、投げたボールが壁に当たってすぐに跳ね返ってくる“壁当て”だったものを、ボールをキャッチして、キャッチしたそのボールを一度見る、というようなイメージだ。

まず、怒りが出そうになったら、怒っている相手の顔の後ろにあるもの――バックボーンや言動の背景を考えてみる。

「なんで、この人はこんなことを言うんだろうか?」
「どうして、こんなことしちゃうんだろう?」

その人の言動の背景を考え想像しながら、よく相手を見る。すると、だんだんとなんなく見えてくる。

「……あぁ、そうか。この人が今できないのは昨日寝てないからかな」

■自分を納得させられれば怒る必要がなくなる

そう。我慢するのではなく、「自分を納得させる」作業をするのだ。

納得しさえすれば、怒る必要もなくなってしまう。

逆に「まずは寝たほうがいい」とアドバイスすることもできる。怒る必要のない時に感情のおもむくまま、怒りのままにぶつかってしまえば、怒りが裏側にある物事や事象の本質を見えなくしてしまう。

それでは、問題解決につながる糸口も見つけられない。

クセをつける時に僕が使っていたのは、プロ選手になってから始めた「ノート」だ。目標や練習、試合で気づいたこと、その日のプレーの反省点や修正点を書き留めている、いわゆるラグビーノートというものだ。

ノートに怒ってしまったことや、ついムカッとした出来事を正直に書いておいて、ふと思い出した時に後から見返す。

「あの時は、つい自分に負けて感情的になっちゃったな」
「じゃあ、どう言えばよかったんだろうか」
「次、そういう場面があったらどうするか」

同じ失敗を繰り返さないように復習するわけだ。こうして一度クセがついてしまえば、反省するどころか最終的には怒る気すらなくなる。

■リーダーは正しいタイミングで怒ることが大切

「この人、かわいそうな人なんだな……」

怒りをぶつけてくる相手に対してそう考えられるようになったら、それはもう完全に怒りをコントロールできている。

コントロールできるようになれば、逆に「あえて出す」こともできる。

練習でも試合でも、ミスや失敗に対して僕は怒ったり責めたりすることは絶対にない。でも、チーム全体で単純なミスを繰り返す時、ミスが起きることに対して準備ができていない時ははっきりと怒る。プレーに気持ちが入っていない時、厳しさが足りない時、ルーズボールに誰もリアクションしないような怠慢な雰囲気を感じた時にも、いったんプレーを止めて、時間をかけて全員に怒る。

「こんなのスタンダードじゃない!」
「しっかりやれ!」

姫野和樹『姫野ノート 「弱さ」と闘う53の言葉』(飛鳥新社)
姫野和樹『姫野ノート 「弱さ」と闘う53の言葉』(飛鳥新社)

リーダーとして全員に「これはアカンぞ」ということを、はっきりと伝える。

怒りは、出すタイミングを間違えてしまうとチームや選手個人の自信を失わせてしまったり、ポジティブな状態をネガティブに変えてしまうこともある。そして、そのタイミングというのは“自分のタイミング”ではない、ということも忘れてはいけない。自分の都合で怒るのは、感情にまかせて当たり散らしているのと変わらない。それでは、相手に正確に届かない。だからこそ、正しいタイミングで正しい量を出す。

リーダーは、正しくタイミング良く怒るための“感度の良いアンテナ”を持っておく必要がある。

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姫野 和樹(ひめの・かずき)
ラグビー日本代表
1994年、名古屋市生まれ。リーグワン・トヨタヴェルブリッツ所属のプロ・ラグビー選手。ポジションはNo.8、フランカー。中学からラグビーを始める。高校時代から高校日本代表、U20セブンズ日本代表に選出される活躍を見せる。帝京大学では、ケガに悩まされながらも大学選手権8連覇に大きく貢献。2017年、トヨタ自動車ヴェルブリッツへ入団。1年目からキャプテンに任命されチームの中心選手に。同年、日本代表に初選出。2019年に日本で開催されたラグビーワールドカップでは、得意プレー“ジャッカル”をはじめ攻守にわたってチームを牽引、日本代表初のベスト8入りに貢献した。2021年には、ニュージーランドの名門ハイランダーズに期限付きで移籍し、“ルーキー・オブ・ザ・イヤー(新人賞)”を獲得するなど、日本ラグビーを代表するプレーヤーとして活躍中。

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(ラグビー日本代表 姫野 和樹)

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