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球児よりヤバいのは審判・チアガール・吹奏楽・観客…夏の甲子園でバタバタ倒れ「熱中症死」が出る日

プレジデントオンライン / 2023年8月8日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

炎天下での夏の甲子園が始まった。滝のような汗を流してプレーする選手の中には試合中に足がつるといった症状を起こすことがある。スポーツライターの酒井政人さんは「選手はもちろん過酷ですが、もっとリスクが高いのは審判員、チアガール、吹奏楽といった日陰のない場所に数時間いる人々です」という――。

■暑さ対策しようと言いつつ、カンカン照りの中で試合

「夏の甲子園」(全国高校野球選手権)が始まった。テレビ画面に映し出される選手の顔には大粒の汗が光る。酷暑のなかでの熱闘甲子園。視聴者も球児たちのハツラツとした動きと一生懸命のプレー、それから彼らの涙に胸を熱くする。

春より夏の甲子園の方が、人気が高いのは、「暑さ」が関係しているかもしれない。キラキラ輝く水滴が、球児たちの“頑張っている感”をさらに引き立てているからだ。

そのせいか弁護士の橋下徹氏はフジテレビ系「めざまし8」で、こんな発言をして話題になった。

「高校球児にとって大切な大会だとは思いますが、日中のあの大会、暑さ対策しようと言いながら、日中さなかの試合を大々的に放送するのは、僕は考えないといけない。主催者に考えてもらいたい」

甲子園への切符をかけた石川県予選でも、同県の馳浩知事が「決勝戦の時間帯はおかしいと思います。全国における(厳しい)気象条件のなかで昼の12時30分のプレーボールというのは、私は健康の観点から配慮があっても良いという意味でおかしいと思います」と意見した。

このように一般視聴者からすれば夏の甲子園は「灼熱(しゃくねつ)」というイメージが強いが、実態はじゃっかん異なる部分もあるのをご存じだろうか。

■甲子園のベンチ内はエアコンガンガン

全国高校野球選手権を高野連とともに主催する朝日新聞は積極的に報じているようには思えないが、甲子園球場のベンチは2列目のイス後方に冷房設備があり、常に冷風が噴き出ている。2014年からは臨時の「スポットクーラー」も設置。グラウンド内と比較してかなり涼しいのだ。

さらに近年は熱中症対策が進んでいる。「水分補給の徹底」はもちろん、日陰になるベンチ内ではアイスタオルや氷嚢などを使って、火照ったカラダを冷やすことも可能だ。今大会からは5回終了時に10分間の「クーリングタイム」も設けられた。

■選手より過酷なのは審判員、チアガール、吹奏楽部員…

そもそも野球はピッチャーとキャッチャー以外のポジションの運動量は比較的多くないと言われる。また「攻撃」と「守備」に分かれているため、ベンチ内で休む時間が多い。高校野球の試合は平均で約2時間、ボールが動いているプレー時間はトータルで20~30分間だ。

「熱中症警戒アラート」が発表された場合、環境省と気象庁は「外出を控える、エアコンを使用するといった熱中症の予防行動を積極的にとりましょう」と呼び掛けている。

そうした熱中症対策で世間的には「原則的に運動禁止」とされているカンカン照りの日中にグラウンドに立っていること自体が奇跡的だが、以前に比べれば球児たちの過酷さは抑えられているのかもしれない。

実は選手よりも過酷なのは炎天下のグラウンドに立ち続ける審判員だ。さらに、屋根のないアルプススタンドで2時間近くも滞在することになるチアガールや吹奏楽部員や地元応援団たちだ。

演奏中の吹奏楽部
写真=iStock.com/yenwen
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yenwen

7月としては最も暑くなった日本列島。静岡県予選では「応援していた吹奏楽部の生徒が体調不良」と119番通報があり、6人が熱中症の疑いで搬送された日もあった。

そもそも高校野球の応援に盗撮が問題視されているチアガールや、雨で楽器が濡れるリスクのある吹奏楽が必要なのか、というそもそも論もある。

大人が観戦するのは各自の判断に委ねてもいい。しかし、これだけ気温が高くなった現代では、高校野球の応援スタイルを真剣に考え直す必要があるだろう。

ホームプレート上の砂を払う審判
写真=iStock.com/gacooksey
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gacooksey

■甲子園以上に「過酷」な夏のインターハイ

高校スポーツ界では「夏の甲子園」が最も注目度が高いが、夏休みにはインターハイ(全国高校総体)も開催されている。陸上競技、サッカー、テニス、ハンドボール、ホッケーなど屋外で行われる競技は、夏の甲子園と比べて「暑さ」という意味ではさらに上をいく。

サッカーは通常の90分(45分ハーフ)ではなく、試合時間を70分(35分ハーフ)に短縮。途中で「クーリングブレイク」と「飲水タイム」を挟むとはいえ、決勝まで進出したら7日間で6試合をこなすことになる。夏の甲子園以上に過酷な状況だ。

炎天下でのスポーツが問題視されるなか、男子400mハードル日本記録保持者・為末大氏のツイート(現X)が拡散された。

「【夏季期間において10-17時は18歳以下のスポーツ大会を禁止する】としてはどうでしょうか。(公財)日本スポーツ協会『スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック』では、『35度以上では、原則運動を禁止する(特に子供)』というガイドラインを出しています。今の日本では気温の上昇が著しくなっており、38度を超えることも珍しくありません。ガイドラインに従えば、すでに大会もトレーニングもできないことになっています」

為末氏は夏のスポーツ活動を禁止するのではなく、大会の開催時間を夕方以降にするなど、涼しい時間帯にズラす案を示している。ただ中高生の大会を夜に行うのは好ましくない。

走り出したスプリンター
写真=iStock.com/Pavel1964
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Pavel1964

そこで筆者は、夏の全国大会を競技別で「聖地化」することを提案したい。

夏に開催されるインターハイ(全国高校総体)は地域(南関東、近畿、東海など)での持ち回り方式で開催されている。毎年、開催場所は異なるが、それを固定してしまうのだ。

冬のインターハイは全国高校駅伝が京都、全国高校ラグビーが大阪。それから全国高校サッカー選手権、全国高校バスケットボール選手権(ウインターカップ)、全日本バレーボール高校選手権(春高バレー)は東京で開催されている。そのためラグビーでいえば花園(東大阪市花園ラグビー場)、サッカーでいえば国立(国立競技場)がプレーヤーにとっての“聖地”になっている。

なお今年のインターハイは北海道で開催中。福岡から現地取材に行った記者は、「福岡の暑さと比べたら、全然違う。毎年、北海道でいいのに」とぼやいていた。

記者でもそう感じるくらいなので、選手たちも北海道など涼しい開催地が良いに決まっている。熱中症の問題だけでなく、パフォーマンスにも影響してくるからだ。

■陸上競技、サッカーは北海道など涼しい地区で開催を

筆者はインターハイの取材を20年近く経験しているが、取材時は滝の汗だ。陸上競技は9~10時に始まり、遅い場合は20時近くまでかかる。暑さで体力をかなり削られるので、ホテルに戻るとクタクタだ。選手だけでなく、関係者のダメージも相当に大きい。

陸上競技、サッカーなどは北海道など涼しい地区で原則、固定して、スポーツの聖地化を推し進めていくのはどうだろうか。

参考までに昨年8月の平均気温は東京が27.5度(日最高平均は32.0度)、札幌が22.7度(日最高平均は26.8度)。5度ほど涼しいので、例年通りの時間帯で開催しても、暑さによる体力消耗はかなり小さくなるはずだ。

インターハイや国体は全都道府県から選手、役員、応援などを含めれば、万単位の人が訪れるビッグイベントだ。経済効果を考えて、全国大会を開催したいと考えている県もあるが、夏のインターハイは「暑さ」という課題がある。選手や関係者の健康面を考えると、競技別の分離開催を進めていくフェーズに入ったのではないだろうか。

夏の全国大会は主催者が各競技の実施に必要な条件(施設面、気象コンディション面など)を提示。各都道府県の立候補制にして、健康面を考慮した持続可能な開催地選定をしていただきたいと思う。

競技によっては、高校と中学校の全国大会を同じ場所で連続して開催するのも面白い。日本各地に中高生たちが憧れる“スポーツの聖地”ができれば、それは街の魅力にもつながっていく。工夫次第で夏の全国大会はもっと快適でワクワクしたものになるはずだ。

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酒井 政人(さかい・まさと)
スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)

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(スポーツライター 酒井 政人)

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