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なぜ「歩きスマホ」をする人は仕事がデキないのか…最新研究が明らかにした「人間の脳の限界」とは

プレジデントオンライン / 2023年8月15日 14時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ultramansk

仕事の生産性を上げるにはどうすればいいのか。明治大学の堀田秀吾教授は「ひとつの仕事に集中して取り組む『シングルタスク』がいい。一度に複数の仕事をこなす『マルチタスク』がもてはやされているが、さまざまな研究で、ミスが増え、生産性が落ちることが明らかになっている」という――。

※本稿は、堀田秀吾『24 TWENTY FOUR 今日1日に集中する力』(アスコム)の一部を再編集したものです。

■デジタル化で仕事がどんどん増えていく

デジタル技術が進化し、さまざまなことがボタン一つ、クリック一つ、タップ一つでできるようになった結果、私たちは当たり前のように、一度に複数の仕事をこなす「マルチタスク」を行うようになりました。

おそらくみなさんも、「複数の案件を同時並行で進める」「仕事相手の話を聞きながらパソコンで入力作業をする」「歩きながらスマホでメールや情報をチェックする」といったことを、日常的にやっているのではないでしょうか。

人間の脳の作り自体は20万年前とほぼ変わっていないにもかかわらず、処理しなければならない情報が加速度的に増えていること。

特にネガティブな情報の量が増えたために、将来に対する不安や懸念が大きくなり、「原因となるものを取り除いたり、乗り越えたりするための行動を起こし、不安を解消しなければ」といった意識が働いて、ますます人々が「やらなければ」と思うことが増えていること。

社会のスピードが速く、人々が常に多くのことに気をとられ、「あらゆることをできるだけ早く終わらせなければ」という思いに駆られていること。こうしたことが、今のマルチタスク社会の背景にあります。

■人間の脳はマルチタスク用にできていない

現代社会で働く多くのビジネスマンが、「より多くの情報を処理し、多くの仕事をこなし、生産性を高めるためには、マルチタスクが不可欠であり、一度に一つの仕事だけを行うシングルタスクは効率が悪い」「同時に複数のことをやることで、限られた時間でより多くの課題を解決することができる」と考えているはずです。

ところが、人生を効率化・最適化するために情報を集めることが、かえって良くない選択につながりやすいように、生産性を高めるためにマルチタスクを行うことは、かえって生産性を損なう原因となります。

そもそも人間の脳は、マルチタスクには向いていません。

フランス国立衛生医学研究所のシャロンとケクランは、シングルタスクのときとマルチタスクのときに、脳がどのように働くのかを実験した結果、「シングルタスクでは、前頭葉にある左右の内側前頭皮質が共同で働き、マルチタスクでは、判断力や理性などを司る前頭前野によって複数のタスクが調整され、左右の内側前頭皮質が分割して働く」ことを確認し、「人間の脳が同時に推進できるタスクは2つが限界である」と科学誌『Science』で報告しています。

■判断力や集中力が落ち、心身の不調が表れやすくなる

スタンフォード大学の神経科学者であるオフィールらによると、私たちが「2つのタスクを同時に行っている」とき、実際には、脳が猛スピードで複数のタスクを連続的に切り替えているだけだそうです。

あるタスクを行いつつ、別のタスクを行うとき、脳は一度停止し、情報を再編成し、新しいタスクや思考のために回路を切り替えることを余儀なくされるため、結局は時間がかかり、疲れてしまうのです。

マルチタスクによって脳が疲れると、前頭前野の機能が低下し、物忘れによるミスが起こりやすくなったり、判断力や集中力が落ちたり、自律神経のバランスが乱れて、心身の不調が表れやすくなったりします。

オフィスで働く女性
写真=iStock.com/Asia-Pacific Images Studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Asia-Pacific Images Studio

また、マルチタスクは短期記憶への情報流入を妨げるともいわれています。短期記憶に入らないデータは、長期記憶に転送されることもありません。

■マルチタスクで得られるのは「まやかし」の満足感だけ

オハイオ州立大学のワンとチェルネフによる、19人の学生を対象に4週間にわたって行った調査では、マルチタスクは、一時的に「まやかし」の満足感を与えてくれるものの、パフォーマンスが落ちることを明らかにしました。

マルチタスクによって、短期的に効率や集中力が上がったように感じることはあるかもしれませんが、一方で、マルチタスクを行うと、脳内でストレスホルモンであるコルチゾールが増加することがわかっています。

コルチゾールは、脳内の記憶を司る部位にダメージを与えるため、マルチタスクをし続けると、長期的には脳の機能の衰えや、脳細胞の損傷を招き、注意力が低下したり、うつ病のリスクが増大したり、認知症のような症状が引き起こされたりするおそれがあるともいわれています。

■仕事を2.8秒中断するだけで集中力は崩壊する

そして、カーネギーメロン大学のジャストらの研究では、集中力が散漫になると、人間の「情報を符号化する能力」に負担がかかることが明らかになっています。

運転しながら誰かが話しているのを聞いているドライバーの、脳のMRIを撮ったところ、注意力が37%も低下していることがわかったのです。

さらに、ミシガン州立大学のアルトマンらの研究では「300人の学生に、パソコンで集中力が必要な作業をさせ、その途中でさまざまな秒数の広告のポップアップ画面を出して作業を中断させる」という実験を行い、どの程度の時間で学生の集中力が途切れるかを調べました。

その結果、ポップアップによって作業が2.8秒中断されると、ミスの発生率が2倍になり、4.4秒中断されると、ミスの発生率が4倍になることがわかったのです。

今、やっている作業が2.8秒妨げられるだけで、生産性は半分に低下するのですから、複数の作業を並行で行うマルチタスクで生産性が上がるはずがありません。

■マルチタスクで、生産性が40%低下、作業ミスが50%増加する

ワシントン大学のメディナは、マルチタスクをする人には次のようなことが起こると指摘しています。

・生産性が40%低下する
・仕事を終えるまでにかかる時間が50%増加する
・ミスの発生が50%増加する
・創造性が大幅に低下する

また、スタンフォード大学のオフィールらの研究では、マルチタスクを行うと記憶に干渉が起き、正しく記憶できなかったり、課題の切り替えがうまくいかなかったりすることがわかっています。

さらに、ユタ大学のワトソンとストレイヤーが100人を対象に行った、運転をしながら音声課題をこなすというマルチタスクの実験では、マルチタスクをした場合としなかった場合で、パフォーマンスに違いが出なかった人はわずか2.5%だったとのことです。

■目の前にある一つのことに取り組むほうがいい

マルチタスクを行っていると、短期的には快楽を感じ、満たされるかもしれませんが、それは目の前のことに集中する脳の使い方とは異なります。

マルチタスクにより、大量の情報を処理しテクノロジーを使いこなすことに価値を感じるようになればなるほど、人は情報への依存を高め、長期的な視野を持つことや内省的な思考ができなくなります。

マルチタスクを行う人もまた、情報を追う獣なのです。

このように、マルチタスクはさまざまな形で私たちから集中力を奪い、心身の不調をもたらし、パフォーマンスを低下させます。

真に生産性を高めたいと思ったとき、私たちが心がけるべきなのは、今、目の前にある一つのこと、シングルタスクに集中することなのです。

■「生産性」という言葉にとらわれてはいけない

人間の脳は昔からほとんど進化していないのに、なぜ現代社会に生きる私たちは、情報を集め、さまざまな物事を同時並行で進めようとするのか。それは、究極的には、「今を生きる」大切さに気づかず、知りえぬ未来と戦ってばかりいるためだといえるでしょう。

すでにお伝えしたように、人がやたらと情報を集めたがる背景には「情報を集めることで、失敗や間違いをなくしたい」という心理があり、人がマルチタスクを行うのは、「そのほうが生産性が高い」と思い込んでいるからです。

そして、これらはいずれも、「仕事や人生を効率よく成功させたい」という思いにつながっています。

しかし、いくら情報を集めて危機を回避し、自分を有利な状況に持っていこうとしても、いくらさまざまな仕事を同時にこなし、生産性を高め、自分の価値を高めようとしても、いくらタイムマネジメントを徹底し、人生をコントロールしようとしても、その先にビジネスの成功や豊かで幸せな未来が待っているとは限りません。

落ち込む人
写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

■マルチタスクが余計な仕事を増やす

みなさんも、過去を振り返って考えてみてください。

情報をたくさん集めたことで、危機を完璧に回避できたでしょうか?
集めた情報は、あなたの人生を大きく変えてくれたでしょうか?
マルチタスクを行ったことで、本当に生産性は高まったでしょうか?
仮に生産性が高まったとして、そこで何が得られたでしょうか?
余計な仕事が増えただけではありませんか?

タイムマネジメントを徹底したことで、どれだけ人生をコントロールすることができたでしょうか? 仮に、「時間の空き」が生まれたとして、そこで自分のやるべきこと、やりたいことができたという実感はありますか?

いたずらに情報を集め生産性を高めても、それは人生の充実感や幸福感をもたらしてはくれません。

さまざまなことを上手にこなしているような気になり、情報や、本当はやる必要のない仕事への依存度が高まるだけで、あなたの人生にクリエイティブなことはまったく起きないのです。

■仕事に追われ、幸福度はどんどん下がる

そもそも、知りえぬ未来と戦うこと自体が、人生の幸福度を下げることも少なくありません。

過去に「こんな未来にしたい」という思いを抱き、そのための最適解を考え、努力したにもかかわらず、望むような結果が得られなかった。そんなとき、人は、かつて自分が抱いていた理想と現実とのギャップに苦しむことになるからです。

たとえば、一生懸命勉強して、いい学校、いい会社に就職することこそ、幸せな人生を歩むための最適解だと思って頑張ってきたのに、今の自分は日々、仕事に追われ、自分のやりたいこともできず、幸福とは言いがたい。

定年になればたくさんのお金と自由な時間が手に入り、悠々自適の生活が待っていると思って頑張って働いてきたのに、いざ定年になってみると、体力が落ちて自由がきかなくなり、定年後にやろうと思っていたことが何もできていない。

■1日24時間を幸せに生きるために

ほかにも「昇進すれば」「転職すれば」「結婚すれば」素晴らしい未来にたどり着けると思っていたのに、そうならなかった……という思いにさいなまれ、苦しみや悔しさを感じている人はたくさんいるでしょう。

知りえぬ未来に多くのことを望んでも、それが叶うとは限りません。また、現在に不満があるからといって、過去を変えることもできません。つまり、私たちは、未来も過去もコントロールすることはできないのです。

堀田秀吾『24 TWENTY FOUR 今日1日に集中する力』(アスコム)
堀田秀吾『24 TWENTY FOUR 今日1日に集中する力』(アスコム)

では、私たちがコントロールできるのは何なのか。今、すなわち1日=24時間です。

この本の中でみなさんに伝えたいのは、効率化を求めて情報をあさったり、生産性を求めてマルチタスクを行ったり、タイムマネジメントに固執したりすることをやめ、過去を悔やんだり「いつか望む通りの人生が手に入るはずだ」と未来に望みをかけたりするのをやめ、今に目を向けることの大切さです。

今日の24時間にやるべきシングルタスクを決め、集中して取り組むこと。

私たちに確実にできるのはそれだけであり、その積み重ねの結果として、仕事の成功や、充実した幸福な人生がもたらされるのではないかと私は思います。

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堀田 秀吾(ほった・しゅうご)
明治大学法学部教授
1968年、熊本県生まれ。シカゴ大学博士課程、ヨーク大学ロースクール修士課程修了、同博士課程単位取得満期退学。言語学博士。立命館大学准教授、明治大学准教授などを経て、2010年より現職。専門は司法におけるコミュニケーション分析。脳科学、言語学、法学、社会心理学などのさまざまな分野を横断した研究を展開している。『科学的に元気が出る方法集めました』(文響社)など著書多数。コメンテーターとしても活躍中で、メディア出演も多い。

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(明治大学法学部教授 堀田 秀吾)

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