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今井絵理子議員は令和のマリー・アントワネットか…政治家が空気を読めないSNS投稿をしてしまう根本理由

プレジデントオンライン / 2023年8月8日 10時15分

内閣府大臣政務官 今井絵理子(写真=内閣府/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

自民党議員らのフランス研修が「観光旅行のようだ」と批判を集めている。PR戦略コンサルタントの下矢一良さんは「今回の炎上劇の背景には、権力者が陥りがちな『勘違いの構図』がある。具体的には『業界の当たり前に浸り、世間の常識を見失う』『自分には人気があると勘違いしてしまう』『自分を諫める存在がいない』という3つの落とし穴が見て取れる」という――。

■海外研修で羽目を外している様子を「自ら」投稿

松川るい参議院議員や今井絵理子参議院議員らがX(旧ツイッター)に投稿した写真が批判を浴びている。自民党女性局の海外「研修」でフランスを訪問したのだが、どう見ても観光旅行にしか見えない写真の数々を投稿したのだ。

松川議員はエッフェル塔のポーズで記念撮影、今井議員も他の参加者と一緒にバスの車中で笑顔で撮った写真などをあげていた。当然、X(旧ツイッター)では「国民は物価高や重税に苦しんでいるのに、税金でフランス観光か」といった批判が殺到した。その結果、自民党女性局長の松川議員が「大変軽率だったと反省している」と、報道陣の前で謝罪せざるを得ない事態となったのだ。

今回の炎上劇だが、海外「研修」で羽目を外している様子を週刊誌や観光客などに盗撮されたわけではない。本人が「自ら」進んで投稿した結果、批判を浴びているのだ。本人は炎上するまでは、炎上どころか「応援してもらえるはず」と思い込んでいたのだろう。

なぜこのような本人による勘違いが生じてしまうのだろうか。実はこの「勘違いの落とし穴」は、国会議員だけに限ったものではない。経営者や管理職などでも陥りがちなものなのだ。

かつてはテレビ東京経済部の記者として、現在は企業の広報PRを支援する立場として、数多くの有名経営者に接してきた経験から権力者ほど「勘違いの落とし穴」に嵌まる構図を解き明かしてみたい。

■国会議員の海外視察はどれほど多いのか

落とし穴、その1:「業界」の当たり前に浸り、「世間」の常識を見失う

夏休みシーズンに政治家の海外「視察」が相次ぐというのは、少しでも永田町に関わったことがある者には「常識」だ。どれほど海外「視察」が多いのか、コロナ禍で海外渡航が困難になる前の2019年を例にみてみたい。「衆議院の動き」という衆議院が発行している冊子の「議員海外派遣」の項目に詳しく書かれている。

これによると2019年は全17回、議員団が派遣されている。そのうち、実に13回が8月に集中、8月は70人近い議員が派遣されている。衆議院の正式な議員団だけに、与野党の混成部隊だ。自民党では森山裕氏(現・選挙対策委員長)、高木毅氏(現・国会対策委員長)、立憲民主党では辻元清美氏、野田佳彦氏(元総理)、海江田万里氏(現・衆議院副議長)など、「大物議員」も含まれている。

■夏の海外渡航は「業界の常識」

所属政党だけではなく、行き先も多岐にわたっている。「南部アジア各国における政治経済事情等調査」では「インド・ブータン・ミャンマー」、「欧州各国における財政金融経済事情等調査」では「ポルトガル・スペイン」、「欧州各国における教育、文化芸術及びスポーツ振興に関する調査」は「イタリア・バチカン・ポルトガル・英国」、「イタリア共和国等における議会制度及び政治経済事情調査」は当然「イタリア・バチカン」といった具合だ。期間は概ね1週間から10日となっている。

衆議院の公式派遣だけで、70人近いのだ。参議院、さらに政党や議連などでの派遣まで含めれば、その数は大幅に増える。つまり「夏の海外渡航」は国会議員のあいだでは「みんながやっていること」であり、いわば「常識」なのだ。

自民党の松川るい女性局長のフランスへの海外研修に関する投稿[松川氏のSNSより]
写真=時事通信フォト/松川氏のSNS
自民党の松川るい女性局長のフランスへの海外研修に関する投稿[松川氏のSNSより] - 写真=時事通信フォト/松川氏のSNS

海外で羽を伸ばす国会議員とは対照的に、一般的な有権者の置かれた状況は厳しい。厚生労働省が先月発表した5月の実質賃金は前年同月比で1.2%減っている。マイナスとなるのは14カ月連続という惨状だ。

国会議員にとって海外渡航は「常識」でも、一般の有権者の眼には「自分たちの納めた税金で遊んでいるのか」と映ってしまう。「業界の常識」に浸るあまり、一般有権者の眼にどう映るか、想像が至らなかったのではないか。

■「不人気総理」の登場に大歓声が上がる理由

落とし穴、その2:自分には人気があると勘違いしてしまう

私は記者として、最も長い時間を費やしたのは企業取材だが、スタートは政治部だった。テレビの政治部記者は、まず総理大臣を担当する「総理番」となるのが定番だ。

「国の最高権力者をなぜ駆け出し記者が取材するのか」と思われるかもしれない。だが、総理大臣の動静を追うのは、実は最も簡単な取材なのだ。なにしろ総理大臣といえば公人中の公人。「隠密行動」が取りにくいので、経験の浅い新人記者でも十分に対応可能なのだ。

私が総理番として担当することになったのが、当時の森喜朗総理だった。口の悪い週刊誌からは「サメの脳みそ・ノミの心臓」などと揶揄され、内閣支持率も8%まで低迷。まさに「歴代屈指の不人気総理」だった。

そんな不人気極まりない森総理の地方視察に同行取材したときのことだった。「きゃーっ、森さーん‼」。大勢の女子高生たちが、大声で森総理に呼びかけているのだ。まるで「国民的アイドルが町にやって来た」ような大騒ぎだ。森総理もまんざらでもないようで、笑顔で呼びかけに応じていた。

■別に好きだから歓声を上げるわけではない

私は森総理を担当後、当時、政治家として全盛期を迎えていた亀井静香自民党政調会長の番記者に担当替えとなった。当時の亀井氏は「強面」で鳴らす「自民党有数の権力者」だが、決して「国民的人気」を持つ政治家ではなかった。だが、亀井氏の地方視察に同行したときも、森総理同様、やはり若い女性たちの熱狂的な歓声を受けるのだ。

入所者のお年寄りの出迎えを受ける森総理
入所者のお年寄りの出迎えを受ける森総理(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

なぜ「歴代屈指の不人気総理」や「強面の有力政治家」が、行く先々で若い女性の歓声を受けるのか。しばらくは謎のままだったのだが、あるとき私の疑問は氷解した。同行取材の際、ついさっきまで歓声を上げていた女子高生たちの、政治家が去った後の会話を耳にしたからだ。

「テレビで見るのと同じだったね」。彼女たちはそう、嬉しそうに話していた。「この歓声は『テレビで見たことがある有名人』の来訪に対する驚きであって、別に好きだからというわけではない」という「当たり前の事実」に、私は気がついたのだった。

■「支持者のような人々」に囲まれやすい職業

番記者として「歴代屈指の不人気総理」や「強面の有力政治家」と話していて、驚いたことがある。「マスコミには不人気かもしれないが、自分を支持する人たちは多い」。そんな自信が言葉の端々に溢れているときがあるのだ。

「内閣支持率」という客観的な証拠があるのだから、不人気であることは疑いようがない。だが東京を離れれば、女性たちの熱烈な歓声を受ける。この倒錯した2つの事実を前に、孤独な政治家は「自分を支持してくれる人は少なくない」という「事実」のほうに「すがりたくなる」のだろうか。

昔話が長くなったが、国会議員とは仮に圧倒的不人気で鳴らしていたとしても、「支持者のような人々」に囲まれやすい職業なのだ。不人気で知られ、普段から最も批判を浴びる総理大臣や自民党の政調会長ですら、「自分はそれなりに人気がある」と信じてしまう。そうであれば、元トップアイドルの国会議員が「相当数の人に支持されている」と勘違いするのは無理からぬことではないか。

■筆者が自民党本部で見た女性議員の困難な状況

落とし穴、その3:自分を諫める存在がいない

国会とは「超」が付くほどの「男社会」だ。衆議院の場合、女性議員の割合は1割程度に過ぎない。今回の炎上を引き起こした「女性局」なる部門が昔から存在するほど、女性は「特別な位置付け」にあると言える。

この「超・男社会」で、私は女性議員の困難な状況を垣間見る機会があった。今から約20年以上前に私が政治記者だった頃、自民党本部を歩いていたときのことだ。党本部の廊下で野田聖子議員とかなり高齢の男性議員が立ち話をしている。この高齢の男性議員、なんと野田議員と話している最中、ずっと野田議員の手を握っているのだ。握手ではなく、両手で包み込むように手を握りしめている。この間、野田議員は特に嫌な顔もせず、平然と会話をしている。

平成29年12月1日、野田総務大臣は、放送サービス高度化推進協会が主催する「新4K8K衛星放送開始1年前セレモニー」に出席
平成29年12月1日、野田総務大臣は、放送サービス高度化推進協会が主催する「新4K8K衛星放送開始1年前セレモニー」に出席(写真=総務省/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

この高齢の議員だが、派閥の長、幹事長といった権力者ではない。なので、野田議員が権力者に媚びて手を握らせていたということは、決してない。ただの「スケベ親父」による、若い女性議員へのセクハラなのだ。さすがに今ではここまで露骨なセクハラはないだろうが、立法府にあるまじき、お粗末極まりない「職場環境」ではないか。

■会社での上司にあたる「教育役」が存在しない

このように国会とは男性優位にして、女性が不利益を被りやすい「職場環境」と言える。

会社には自分の上に必ず上司や先輩がいる。上司は部下を教育する責任を負っている。それゆえ、会社に勤めていれば「教えられる機会」は多い。だが国会議員には「誰かに教えてもらう機会」というのは、少ない。というのも、国会議員には会社での上司にあたる「教育役」が存在しないからだ。国会議員とは各々が独立した個人事業主、あるいは零細企業の社長と言ってもよいかもしれない。

男性議員同士であれば、酒の席などでざっくばらんに先輩が助言することもあるだろう。男社会では、仕事の本音の話は男同士で語られることがほとんどだ。圧倒的な男社会にあって、女性議員が先輩からストレートな忠告を受ける機会はほとんどないのではないか。

議員として発信すべき情報、逆に発信を避けるべき情報。こうした振る舞い方を日常的に指導する先輩がいれば、このような炎上は起きなかったかもしれない。

■「広報上手」の経営者が共通して持っているもの

ここまで勘違いによる炎上が発生する構図を見てきた。「業界の当たり前に浸り、世間の常識を見失う」「自分には人気があると勘違いしてしまう」「自分を諫める存在がいない」。これらは何も国会議員だけに当てはまるものではない。むしろ企業の経営者や部長以上の管理職のほうが、より陥りやすい構図ではないか。

私が経済記者として取材してきた「広報上手」の経営者には共通点がある。それは「自分を客観視する仕組み」を持っているということだ。

例えば「日本で最も広報上手な経営者」であるソフトバンク・孫正義社長はX(旧ツイッター)で一般の批判者ともよく絡んでいた。あるいは「目上」である渡邉恒雄・読売新聞グループ本社代表取締役主筆、あるいは異業種の著名人、中国のEC最大手アリババグループを創業したジャック・マー氏のような海外の有力企業の経営者など、「自分に忖度(そんたく)しない相手」とも積極的に交流していることで知られる。

今回の国会議員によるSNSでの炎上劇。企業の経営者や部長以上の管理職は「自分を褒め称えてくれる快適な空間」に止まることなく、炎上の根本的原因を「他山の石」とし、自らを諫めたいものだ。

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下矢 一良(しもや・いちろう)
PR戦略コンサルタント、合同会社ストーリーマネジメント代表
早稲田大学大学院理工学研究科(物理学専攻)修了後、テレビ東京に入社。『ワールドビジネスサテライト』『ガイアの夜明け』をディレクターとして制作。その後、ソフトバンクに転職し、孫正義社長直轄の動画配信事業を担当。現在は独立し、中小企業やベンチャー企業を中心に広報PRを支援している。著書『小さな会社のPR戦略』(同文舘出版)、『巻込み力』(Gakken)。

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(PR戦略コンサルタント、合同会社ストーリーマネジメント代表 下矢 一良)

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