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子どもが夜間に具合が悪くなった…小児科医が解説「オンライン診療」「往診サービス」は頼りになるか

プレジデントオンライン / 2023年8月15日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Vladimir Vladimirov

オンライン診療や往診サービスの利用者が増えている。子どもの急病時にこれらの診療を利用してもいいのか。小児科医の森戸やすみさんは「それぞれのメリットとデメリットを知っておいたほうがいい」という――。

■オンライン診療と往診サービスの実際

いよいよ暑さが厳しくなってきました。先月の記事でお伝えした通り、小児科外来は夏には空いていて冬に混雑するのが通例です。ところが、この夏はRSウイルス、溶連菌、ヒトメタニューモウイルス、アデノウイルスなどのさまざまな感染症が流行し、小児科外来は大混雑しました。

最近、ヘルパンギーナやインフルエンザはおさまってきましたが、いまだにRSウイルス感染症や溶連菌感染症は流行しています。また、新型コロナウイルス感染症もおさまっておらず、小児科の発熱外来は混雑しているようです。うちのクリニックも高熱のお子さんがたくさん受診され、発熱外来の予約枠を増やしました。近隣の小児科でも発熱外来はすぐにいっぱいになり、かかりつけ以外を探す保護者の方も多いようです。今は少しずつ落ち着きつつあるように見えますが、この先どのような感染状況になるのか、誰にもわかりません。

こうして小児科の予約を取ることが難しかったり、お子さんが夜間や休日に急に具合が悪くなったりすると、インターネット上で医師による診療が受けられる「オンライン診療」、医師が自宅を訪ねて診療する「往診サービス」を利用したいと思う方もいるでしょう。どちらも以前からありましたが、コロナ禍を機に利用者が増えています。しかし、それらの診療は通常の外来とは違います。どういう点が違うのかを知っておきましょう。

■オンライン診療に適しているケース

オンライン診療とは、厚生労働省の定義によると「遠隔医療のうち、医師―患者間において、情報通信機器を通して、患者の診察及び診断を行い診断結果の伝達や処方等の診療行為を、リアルタイムにより行う行為」のこと。つまり、患者さんが病院やクリニック、薬局に行かずに、スマホやパソコンなどの通信機器を使って、自宅で予約・診察・処方・決済を行う方法です。

最低限遵守すべき事項として「初診からのオンライン診療は、原則として『かかりつけの医師』が行うこと(注1)」、「急病急変患者については、原則として直接の対面による診療を行うこと(注2)」とあります。また「リアルタイムの視覚及び聴覚の情報を含む情報通信手段を採用することにより、対面診療に代替し得る程度のものである必要があるため、チャットなどのみによる診療は認められません」とされている点に注意が必要です。

オンライン診療は、普段の様子を把握している「かかりつけ医」に慢性疾患を診てもらう場合に向いています。例えば、夜尿症や便秘などの疾患ですね。皮膚の様子をよく見られるような状態であれば、軽度のアトピー性皮膚炎、痤瘡(ニキビ)などもいいでしょう。親子ともに大変な思いをして受診しなくても済む、家庭での日常の様子がわかるというメリットもあり、必要に応じて対面診療にできるのであれば、オンラインのほうがいいときもありますね。

注1:ただし、既往歴、服薬歴、アレルギー歴等の他、症状から勘案して問診及び視診を補完するのに必要な医学的情報を過去の診療録、診療情報提供書、健康診断の結果、地域医療情報ネットワーク、お薬手帳、Personal Health Record等から把握でき、患者の症状と合わせて医師が可能と判断した場合にも実施できる(後者の場合、事前に得た情報を診療録に記載する必要がある)。
注2:なお、急病急変患者であっても、直接の対面による診療を行った後、患者の容態が安定した段階に至った際は、オンライン診療の適用を検討してもよい。

■オンライン診療のデメリット

一方、オンライン診療にはデメリットもあります。急性疾患には向いていません。比較的症状がはっきりしている感染症――例えば手足や臀部(でんぶ)や口の周囲に皮疹ができる手足口病などであればわかりやすいかもしれませんが、いずれにしても急性期には向いていません。小児科で対面での診療を受けましょう。

また診察では、視診・聴診・触診を行うことが多いですが、オンライン診療では視診がメインになります。ただ、喉の奥などの見えづらい場所は視診が難しいこともあるでしょう。また音声は聞こえても聴診器は使えないため、明らかにゼイゼイ言っていたり、胸がへこむほどの陥没呼吸を伴ったりする場合はわかりやすいですが、かすかな喘鳴などは聞こえません。また触診はできないため、例えば血便が出る腸重積症、体内の水分が失われる脱水の程度などの見極めが難しくなるでしょう。子どもは悪化するスピードが早いので、直接診療したほうが安心だと思います。

また、オンライン診療では検査や処置ができません。小児はさまざまな感染症になるため、溶連菌、RSウイルス、ヒトメタニューモウイルス、インフルエンザウイルス、新型コロナウイルスなどの検査キットが必要な場合が多いものです。百日咳やマイコプラズマも一般的には確定診断に検査が必要です。またオンラインで診断がついたとしても、吸入をする、水いぼを摘除するなどの処置が必要だったら、やはり来院が必要になります。

■小児科医が往診するとは限らない

一方の往診サービスはどうでしょうか。最近ソーシャルメディアで広告をよく見かけますね。アプリを使って往診の要請をすると、医師が患者さんの自宅などを訪れて診察し、検査キットを持っている場合は必要に応じて検査し、その場で薬を出すというサービスで、数社から提供されています。往診サービスは、医師が治療計画を立てたうえで定期的に患者さんの自宅に行って診る「訪問診療」とはまったく違うものです。

医師が赤ちゃんの患者の自宅を訪れ病状をチェック
写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

こうした往診サービスのメリットは、オンライン診療と同じで、つらい症状のある子どもを動かさないで済むこと、親も出かけなくても済むことです。さらにオンライン診療と違って直接診察してもらえること、すぐに薬が手に入ることもメリットといえるでしょう。

ただし、いい面ばかりとは限らず、考慮しなくてはならない点もあります。まず、必ず小児科専門医が来てくれるかどうかはわかりません。小児の場合、大人とはかかりやすい疾患も使用する薬も違うため、できるだけ小児科の専門医にかかることが大切です。ところが、こういったサービスで派遣される医師は他科の医師であることも多く、往診サービス会社に所属する常勤医ではないことも多いようです。どの診療科の医師が来てくれるのかを確認する必要がありますね。

■薬剤師による処方薬チェックがないリスク

往診サービスでは、薬の間違いがないかどうかも懸念点です。例えば小児科に限らずクリニックや病院での診療では、医師が処方し、薬剤師が年齢や体重や飲み合わせなどを確認するという二重のチェックを経てから、患者さんが薬を受け取ります。しかし、往診サービスでは、医師が手持ちの薬から処方するため薬剤師のチェックを受けません。だから、子どもに適さない薬を処方したり、用法・用量を間違えたりしても気づきにくいでしょう。

少し前に往診サービスを提供する会社が、SNS上にアップした複数のPRマンガに、小児では使うはずのない薬とその用法・用量を例示していました。PRマンガ自体の確認体制に不備があったと謝罪されていましたが、医師としては不安を感じます。実際、ほかの小児科医から、上記とは違う往診サービスで子どもに使ってはいけない薬を処方した事例を聞いているからです。

また、私のクリニックを受診したお子さんの保護者が「昨日、往診サービスを受けたんです。でも家に来てくれたお医者さんが、薬が足りないからと本来の3分の1の量の薬を1日分しかくれませんでした」と話されたことがありました。とても驚いて処方を確認すると、確かにそのお子さんの体重からすると3倍飲まないと効果を望めない量でした。他の患者さんでも「往診サービスの医師にシロップ薬しか飲めないと伝えたのに粉薬しかくれなかったので、シロップ薬を処方し直してください」と言われたこともあります。

薬の処方
写真=iStock.com/SARINYAPINNGAM
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SARINYAPINNGAM

■自己負担がなくても医療費は増大している

そして往診サービスでは医療費が高額になることも知っておきましょう。以前、某ニュースで、新型コロナになった患者さん宅に区が連携する往診サービスの医師が行くという取り組みを紹介していたのですが、「診察や薬の処方などがすべて無料」と報道されました。でも、実際には医師が無料で働いているわけではありません。新型コロナの治療には公費――つまり税金が使われています。

どの往診サービスでも、ウェブサイトに「健康保険が適用されます」「乳幼児医療証が使えます」と書いてあります。健康保険でも治療費の約3割は自己負担になりますが、約7割は被用者保険や国民健康保険が負担します。そして多くの市区町村で、乳幼児には医療証がありますから、残りの3割を市区町村が負担しています。やはり税金が使われているのです。

往診サービスのアプリで会員登録すると医師の交通費が無料になるものがありますが、これも医師の持ち出しではありません。往診加算などで、交通費を無料にしても見合うほどの収益が会社にあるからです。往診サービスを利用した場合の緊急往診加算などの医療費増加分も、保険加入者と市区町村の税金でまかなわれます。

つまり、たとえ本人負担がゼロかごく少額でも、医療費は通常以上にかかっているのです。日本では医療費増大が問題になっていますが、たくさんの人が往診サービスを利用したら医療費はますます増大し、国民皆保険制度の崩壊または増税にもつながりかねません。ですから利用することは悪くありませんが、安易に往診サービスを選ばないようにしましょう。

■普段はかかりつけ小児科、時間外は当番医へ

たまにクリニックの外来を受診されたお子さんの保護者の方から「うちの子、割と元気だし診察してもらうほどではないので薬だけください」と言われることがあります。でも、診察をせずに薬を出すことはできません。医師が診察の上、必要だと判断した薬を出す場合のみ健康保険が適用されるのです。ですから、やはり診察が必要になり、診察料がかかります。保険証によって約3割の負担になっても、医療証によって無料になって窓口での支払いはなくても、実際にはお金がかかっているのです。

もしも本当に「診察してもらうほどではない」のであれば、市販薬を使うという選択肢もあります。ドラッグストアや薬局などで、子ども用の解熱鎮痛薬であるアセトアミノフェン、虫刺されの塗り薬やステロイド軟膏まで、さまざまな薬を処方箋なしで買うことができます。どの薬がいいかわからない場合は、薬剤師さんに相談してもいいと思います。よく使う薬を手元に常備しておくと安心ですね。

また、急に具合が悪くなったときには、やはり小児科で対面での診療を受けましょう。普段は、日中にかかりつけの小児科を受診するのが一番です。これまでの生育歴や疾患などをきちんと知っていますし、問診と視診だけでなく、必要に応じて触診や聴診、検査などをしっかり行うこともできます。時間外や休日は、市区町村の広報やホームページに載っている当番医にかかるのがおすすめです。ぜひチェックしておきましょう。

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森戸 やすみ(もりと・やすみ)
小児科専門医
1971年、東京生まれ。一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都内で開業。医療者と非医療者の架け橋となる記事や本を書いていきたいと思っている。『新装版 小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』など著書多数。

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(小児科専門医 森戸 やすみ)

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