「健康診断でオールAほど早死にしやすい」医師・和田秀樹が断言「国の正常値は長生きの観点では正しくない」
プレジデントオンライン / 2023年8月19日 9時15分
※本稿は、和田秀樹『やせてはいけない!』(内外出版社)の一部を再編集したものです。
■他人のよさを褒め、自分もしっかりと褒めること
テレビを見ているとやせてプロポーションのいい女優さんやモデルさんがたくさん登場してきます。そんなとき、あなたの中にどのような感情がわきますか?
「ああ、私もあんなふうになりたい」と憧れる。
「私なんてあんなふうになれるはずがない。ああ、ダメな私」と落ち込む。
「どうせ食べたいものを食べずに我慢しているんでしょ、ふん」と嫉妬する。
「素敵だな」と相手の美点を褒める。
これらの感情は人間ですから、あって当然。そんな自分を否定する必要はありません。
これから残された人生を、自由に元気いっぱい楽しむためには、まずはしっかり食べることが何より大切ですが、その前に高齢者専門の精神科医としてみなさんにお伝えしたいことがあります。
他人を羨むのでも恨むのでもなく、他人のよさを褒め、そしてありのままの自分を認めて褒めてください。
それが若々しく元気でいられる第一の秘訣(ひけつ)です。
人は褒められて、承認されて輝きます。他人に褒められるのでも承認されるのでもなく、あなた自身が自分を褒めてください。あなたにはまだまだ伸びしろがあります。
「どうせ私は後期高齢者だから、無駄だ」
そんなふうに思わないでください。
残された人生をどんなふうに生きるかを決めるのは、あなたです。
「どうせ私はダメだ」と卑下するか。
「私ってすごい」と自分を褒めるか。
自分をどうとらえるかによって、残りの人生に大きな差が生じます。
「いまの自分が一番」と思うには、自分と他人は別の人間で、まったく別物であることを知ることです。他人と自分を比べても意味がありません。あなたは世界にひとつだけの花なのです。
いまの自分が一番と思うことは、わがままではありません。自分を大切にできる人です。自分を大切にする人が、いつまでも若々しく元気でいられるのです。
自分を大切にしていますか?
自分を大切にするためには、しっかり食べることです。
■基準値が「正常値」とは限らない
いまさらあらためていうまでもないことですが、体重や血圧、コレステロールの値などすべてにおいて、年齢や体質によって人それぞれ異なるのが当たり前です。それが個性です。
健康診断では「基準値」なるものが示されます。その数値を基準にして、医者はあなたの健康を「よい」とか「悪い」などと判断します。そんな数字に惑わされないでほしいのです。
数値がよいから健康とはかぎらないからです。私たちの身体は、その人の身体や生き方に合うように、体内で調整されています。基準も正常もありません。
また、身体の外から受ける環境や内部の変化があっても、体温や血糖、免疫などが一定に保たれるよう身体がコントロールしています。それが生体恒常性(ホメオスタシス)というものです。
それなのに医者は、健康診断で中高年以上の方々をわざと若い人たちの基準値に当てはめて、薬をたくさん飲ませようとします。
頭が痛いときに痛みを和らげるために薬を飲むのはいいのですが(私もよく飲みます)、数値を基準値にするためだけに薬を延々と毎日毎日、飲み続けるのはお勧めしません。
たとえ薬で数値が基準値になっても、それがあなたの「正常値」とはかぎりません。頭がボーっとしたり、だるかったり、日々のQOL(生活の質)が下がってしまうことも多いからです。
■「いい人生だった、ありがとう」と満足しながら死ねるか
私がみなさんに願うのは、この本を読んで「ちょっと太め」の人を見たら、「ああ、私もあんなふうになりたい」「素敵だな」と思うようになることです。
ちょっと太めの人は、やせている人よりも長生きで、肌や髪に張りと潤いがあって、エネルギーを脂肪の中に蓄えているので、熱量が高く、元気で活動的です。
やせていると疲れやすく、シワが目立つので老けて見えることも多いのです。私がそのことをずっといい続けてきた甲斐もあって、いまや「ちょっと太め」の方は、みんなの憧れの的になりつつあります。
他人と比較するのではなく、長所も短所も含めて「いまの自分が一番」「いまの自分が好き」という気持ちで毎日を過ごしてください。
![晴れた日に小麦畑で両手を広げている幸せそうな若い女性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/a/1200wm/img_1ab5685d956b320748a97cd3646df31f347606.jpg)
「人は人、自分は自分」とスッパリと割り切れると、ストレスとは無縁になり、人生がバラ色になります。
あなたは自分らしく自分の人生を生きていますか?
YES or NO
あなたらしく生きられれば、あなたは人生を全うできます。
人はそれぞれ年齢も体型も性格も考え方もすべて違います。でも、すべての人に共通することがひとつあります。それは、人はやがて死んでいくということです。
最期に「いい人生だった、ありがとう」と満足しながら死ぬか。
自分の生き方に納得できず、さまざまな不満を抱えながら「あのときああすればよかった」と後悔して死んでいくか。
どちらが幸せでしょうか。
もっとやせようとかダイエットしようとか、いまのあなたは十分に素晴らしい。
「幸せ」とは本人の主観です。他人が決めるものではありません。自分がどう考えるかによって決まります。
■「それって本当?」と疑う目を持っている
この本を手にとられた方は、物事を自分の頭でちゃんと考えられる健康リテラシーの非常に高い人だと私は感じています。
自分の頭で物事を考えられない人は、医者がいうことやテレビでいっていることを、すぐにそのまま鵜呑みにしてしまいます。洗脳されやすいのです。
薬を飲まないほうが健康を維持できる場合も多いのに、医者のいうことを聞いてずっと出された薬を飲み続けている人が私の周りに大勢います。
昔は、「先生のいうことを聞く子がいい子」でした。しかし、いまはまったく逆です。
「先生のいったことは、本当に正しいのか?」
そんなふうに先生がいったことへの疑いの目を持てる子のほうが、将来的に高い所得を得る可能性が高まる時代になっています。なぜなら科学も医学もすべての学問は、疑う目を持つことで進歩するからです。
卵はコレステロールが高いから食べ過ぎに注意しろだの、食べ順は野菜から先に食べろだの、標準体重のほうが長生きするだの、白いご飯より玄米のほうがいいだの、肉より魚のほうが健康にいいだの、これらはすべてひとつの側面からしか見ていない偏った情報です。
そして、何よりも大事なことは正解はひとつではないということです。正解は、人によって、立場によって、文化によって違います。
だからこそ自分にとって「何が正しいのか?」と問いを立て、仮説を立てたり、新たな課題を発見して、適切な検索ワードで情報をリサーチし、それらの情報を自分の人生で活用できる人のほうが健康を維持できる時代になっています。
「それは本当だろうか?」
ぜひ、こんなふうに目の前の情報に対する疑いの目を持ってください。年をとると前頭葉の萎縮によって頑固になる人も多いのですが、疑う目を持てる人は、頭が柔軟で若さを保てます。
前頭葉の働きが悪くなると、こんなふうな変化が生じます。
・喜怒哀楽が激しくなる
・考えることが面倒になる
・意欲が衰える
・集中できない
人の脳は、面白いもので自分が正しいと思い込んだ情報が自然に目について、その情報が集まるようになっています。これを心理学では「カクテルパーティー効果」といいます。
カクテルパーティーのような騒がしい場所にいても、人は自分の名前や興味関心がある話題は自然と耳に入ってくるという心理効果のことです。
脳がすべての情報をキャッチしていたらパンクしてしまうので、必要な情報以外はシャットアウトしようとする仕組みになっています。
自分が信じた情報だけしか入ってこないのは非常に危険です。若々しく元気な人は、自分の考えとはまったく違う否定的な情報も、柔軟に受けとることができる人です。
■健診での適正体重をオーバーしている
40歳以上の日本人35万人の調査データから、長生きしている本当の適正体重をみなさんにお伝えします。
![【図表】身長別に見る40歳以上の長生き体重(BMI24から27に相当)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/d/1200wm/img_ed172b8bd749f1caba18906b65e236a1336959.jpg)
例えば、身長160cmの方であれば、61kg〜69kgまでが「長生き体重(長生きする適正体重)」です。
メタボ健診ではここで示した長生き体重は「肥満」と判定され、食事制限が課される数字です。
これまでの標準体重とするBMIを18.5以上25未満にするなら、47kg〜61kgですから、一番下を目指すのであれば、50kgを切る体重にしなければいけません。
高齢者にも同じ数値を課したら非常に危険です。食べたいのを我慢して、相当に厳しい食事制限が必要になり、低栄養に陥る危険があります。
日本のメタボ対策は、高齢者医療の現場をまったく知らない学者や官僚たちが主導した誤った施策なのです。
あらためて健康診断で示されているなBMI値の判定基準を紹介します。
・標準 18.5以上25未満
・肥満 25以上30未満
・高度 肥満30以上
「長生き体重(長生きする適正体重)」はBMIが24〜27ですから、この範囲にいる人たちに日本の医者は「太りすぎなのでやせましょう」とダイエットを指導しています。
間違った指導によって、「やせなきゃ健康になれない」「私はデブだ」と多くの女性が自己否定し、心身を痛めつけられてきました。
もう一度、みなさんにお伝えします。
身長160cmの方であれば、64kg〜69.12kgまでが「長生き体重(長生きする適正体重)」です。これ以上、やせようと思わないでくださいね。やせたら命を縮めますよ。
■かなり不真面目である
真面目に医者によるメタボ指導に従ってダイエットをしてやせた人は、逆に命を縮める結果を招いてしまうことを統計データが示しています。
反対に、医者のいうことを聞かず、医者から見たら不真面目な人のほうが長生きできるということです。
私は以前、『やってはいけない健康診断早期発見・早期治療の「罠」』という本を近藤誠医師と共著で出版しました。
近藤先生は、「僕は医者ですが、40年間、健診を受けていません」ときっぱりといっています。その大きな理由は、医療被ばくです。
英国での、22歳未満でCTを受けた人たちの調査では、たった一度のCTでも脳腫瘍や白血病のリスクが増えることがわかっています(Lancet 2012;380:499)。
オーストラリアの未成年の調査でも、CT被ばくで発がん率が増加することが明らかになり、CT1回につき発がん率が16%ずつ増えます。
健診を受ける人ほど早死にするカラクリについて明らかにする内容です。つまり、健康診断というのは、異常を見つけて、健康人を病人にするビジネスなのです。
いまの医療ビジネスのターゲットは、高齢者ではありません。老化が気になり始める働き盛りの40〜50代がターゲットです。
厚生労働省「国民健康・栄養調査報告」で年代別に見ると、男性では40代、50代の肥満(BMI≦25.0)の割合が約4割ともっとも多いからです。
テレビのCMでは手を替え品を替えて、これらの世代の人たちに健康不安を煽ります。そうすると商品がよく売れるのです。
会社員の人は、受けたくなくても健診を強制されます。1970年代に「労働安全衛生法」がつくられ、社員に健診を受けさせることが義務になりました。違反すると50万円以下の罰金が科せられます。
不真面目な人は健康でいられますが、会社員には向いていないかもしれませんね。
■「健診でオールAほど早死にしやすい」
私たちは「健康診断を受けることはよいことだ」と信じ込まされています。しかし、健診を受けたら健康になる、寿命が伸びるという証拠などどこにもありません。
日本は企業への健康診断を強要し、厳しい基準を設定してメタボを増やし、病人を量産する仕組みをつくっています。
国が定める「正常値」「基準値」は、長生きの視点から見たら正しい数値ではありませんから、私はこれまで健康診断は不幸の始まり、「オールAほど早死にしやすいですよ」とお伝えしてきました。
最近になってやっと、「中高年はやや太めのほうが長生き」ということが世の中に徐々に知られるようになってきました。
「BMIと長生き体重計算(ちょい太シニア補正)」という計算サイトも登場し、数値を入力するだけで自分が長生きできるBMIが手軽にわかるようになっています。
![和田秀樹『やせてはいけない!』(内外出版社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/c/1200wm/img_dc576a5353cb059aa791557a2dd2a471151163.jpg)
宮城県での調査でもちょっと太めのほうが長生きできることが証明されました。5万人を対象に大規模調査をした結果、やせ型のほうがちょっと太めの人よりも、6〜8年早く死ぬことが明らかになっています。この場合のちょっと太めは、BMI25以上30未満のことです。
これらのデータを示しても、「いやいや肥満は身体に悪いに決まっているでしょ」といい張る人もいます。これは疑いの目を通り越して、頭が頑固なのですから、仕方ありません。
若いころはやせていたのに、中高年になって体重が増加し、周りから「太った太った」と毎日いわれてストレスフルな生活を送っている女性は、「ちょっと太めが正しい」とみんなに教えて、「太ろうキャンペーン」をどんどん啓蒙(けいもう)していってください。
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精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)
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