「野菜中心生活」はむしろ寿命を縮めることになる…食事に気を遣っている人が誤解している「栄養」の真実
プレジデントオンライン / 2023年8月23日 11時15分
※本稿は、和田秀樹『頭がいい人、悪い人の健康法』(PHP新書)を一部抜粋・編集したものです。
■「肉食は身体に悪い」は日本人には当てはまらない
読者のみなさんのなかには、歳をとったら肉は控え目にして、野菜中心の食事にするのが健康にいいと思っている方がいるかもしれません。長年にわたって肉食は体に悪いとやかましくいわれてきたため、これは半ば“常識”といえるくらい広まっています。
でも、これは、欧米人の健康法であって、日本人には当てはまりません。というのも、肉類をたくさん食べて肥満が多い欧米では、多くの国で死因の1位が心疾患だからです。
肉類を多食していると、動脈の壁にコレステロールが溜まって動脈硬化となり(これは現在では否定されている学説です)、血圧が上がり、血管が詰まりやすくなって心筋梗塞のリスクが高くなる――そう考えられてきたため、欧米の医師たちは、「肉を食べすぎてはいけない」と指導してきたわけです。
すなわち、心疾患で死ぬ国の健康法です。
日本でも「メタボリックシンドローム」(通称「メタボ」)が不健康の象徴のように思われています。ご存じのとおり、メタボとは内臓脂肪が蓄積することによって、肥満症、高血圧、高血糖、脂質異常などが引き起こされることで、肥満のなかでもとくに動脈硬化が進みやすい状態です。
■心疾患の予防は「がんリスク」を高める
「メタボにならないようにしましょう」という呼びかけの目標は、動脈硬化を遅らせて心筋梗塞などの心疾患を減らすことにあります。
一方、日本は、がんで死ぬ国です。毎年、厚生労働省が発表する「人口動態統計」によると、日本人の死因の第1位は「がん」で、2022年の統計では約25パーセントの人ががんで亡くなっています。心疾患は約15パーセントとがんの6割程度ですが、急性心筋梗塞に限れば、その12倍以上の人ががんで亡くなっているのです。
それなのに、肉を食べすぎるのは体に悪いから減らそうとか、太りすぎはよくないからやせようという欧米型の健康法が、そのまま移入されているわけです。
「がんの予防にはならなくても、心疾患の予防になっているのでいいのでは?」
「太りすぎは健康によくないのでは?」
と思っている人もいるかもしれませんが、それは違います。心疾患の予防が、がんのリスクを高めているのです。
疾病構造の違いも考えず、日本人にそのまま当てはめようとすると、さまざまな弊害があることを知っておく必要があります。
■コレステロール値が低いと寿命が縮む
私が、高齢者に「肉を食べましょう」と勧めると、多くの方から、「でも、コレステロールが心配なんです」と返ってきます。みなさん、コレステロールには善玉と悪玉があることなどもご存じなのですが、基本的に健康を蝕むものとして忌み嫌われているようです。
しかし、コレステロールは、私たちの体に必要なものなのです。おもに体内でつくられており、大切な役目を持っています。
70歳の高齢者を対象に15年間にわたって追跡調査した、東京都老人総合研究所(現・東京都健康長寿医療センター)の「小金井研究」によると、最も長生きするのは、男性ではコレステロール値が190〜219mg/dl、女性は220〜249mg/dlの正常よりやや高めのグループでした。
一方、コレステロール値が、男性では169mg/dl未満、女性では194mg/dl未満の低いグループが、いちばん死亡率が高かったことが明らかになっています。
このことから、コレステロール値が正常であることが長生きにつながるわけではなく、まして低いと明らかに寿命を縮めていたことがわかったのです。
■コレステロール値が高い人ほどがんになりにくい
また、ハワイの住民に対する調査によると、コレステロール値が高くなると、心筋梗塞などの虚血性心疾患が少しずつ増加し、240mg/dlを超えると急増していました。ところが、コレステロール値が高い人ほどがんにかかりにくく、低い人ほどなりやすいことも判明したのです。
コレステロールが悪者として見られがちなのは、動脈硬化を促進し、心筋梗塞のリスクを高くするとされるためですが、コレステロール値が高いと本当に体全体に悪いのかどうかは、じつはよくわかっていないのです。
免疫学者には、コレステロール値が高いほうが長生きできると考える人が少なくありません。コレステロールは細胞膜を構成する重要な物質であり、免疫細胞にも必須であるのです。
■がん細胞の増殖は「免疫」で防げる
みなさんもご存じのとおり、免疫とは細菌やウイルスなどの異物が体に侵入するのを防いだり、攻撃して排除したりする能力のことです。
私たちの体内では、ウイルスや紫外線、それ以上に加齢によってDNAのミスコピーが起こり、できそこないの細胞がつくられ、その一部ががん細胞となって増殖していくわけです。これらを、ごく小さなうちに排除しているのが免疫です。
免疫学の専門家に聞くと、がん細胞の増殖が始まっても、100個とか1000個といった数なら免疫によってやっつけることができるのだそうです。これがミクロン(1000分の1ミリ)単位の微小ながんの段階です。
人間は誰しも、このくらいの目に見えないがんを体内に持っているのですが、免疫が働くことで大きながんにならずに防いでいるわけです。
がんが1〜2センチメートルの大きさになると、健康診断などで見つかるようになります。発見されるがんとしては小さなサイズですが、こうなるとがん細胞は数千万〜兆の単位になっているので、免疫ではがん細胞をやっつけることができません。手術などでがん細胞を切除するしかないのです(がんを取り去ったほうがいいとはかぎらないという問題もあるのですが)。
![健康診断シート](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/3/1200wm/img_9334edf3d40c8ca413a02f0d0a466c50387202.jpg)
■免疫細胞にはコレステロールが欠かせない
がんの種類にもよりますが、できそこないの細胞ががん細胞として増殖し、発見できる数センチメートルの大きさになるまでには、数年から10年以上の時間がかかります。したがって、がん検診で初期のがんが見つかったという場合、何年も前に免疫機能がとり逃したがん細胞が増殖したと考えられます。
![和田秀樹『頭がいい人、悪い人の健康法』(PHP研究所)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/c/1200wm/img_fc3ff67e184ac942a1672c2603c7acc8370049.jpg)
免疫の活性は、さまざまな原因で高まったり弱くなったりしますが、何らかの原因で、免疫の活性が下がった状態が続いていたのかもしれません。免疫細胞に必須であるコレステロールの不足も、免疫機能が低調となる原因の一つとなります。
こうしたことから、心疾患で死ぬ人が多い国は、コレステロール値を低めにしておいたほうがいいのです。逆に、がんで死ぬ人が多い国は、コレステロール値をむしろ高めにしておいたほうがいいといえます。
免疫機能が活性化していれば、新型コロナや肺炎といった感染症にもかかりにくくなるうえ、がん化する細胞もかなりの確率で排除されます。がんで死ぬ国・日本では、まず免疫力を保つことを、「頭がいい人」の基本的な健康法として覚えておきましょう。
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精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)
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