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宇宙と地球を3万km超のチューブでつなぐ…大林組が「25年で建設可能」とする宇宙エレベーター構想

プレジデントオンライン / 2023年8月15日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/peepo

人類はなぜ月を目指すのか。宇宙ビジネスコンサルタントの齊田興哉さんは「食糧危機や自然災害、地球上の災厄から逃れるためと言われているが、それだけとは思えない。宇宙は、新しい発見、ビジネスの可能性に満ちている」という――。

※本稿は、齊田興哉『空想が実現する時代のビジネス地図』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。

■アメリカ主導の「アルテミス計画」が進んでいる

月をめぐって加熱する米中競争おおよそ半世紀前、人類は月に降り立っている。皆さんもご存じのアポロ計画だ。残念なことにアポロ計画以降、人類は月を含む地球以外の惑星に降り立っていない。しかし人類は、再び月に向かう計画を始動している。それは、「アルテミス計画」だ。アメリカが主導し、先進国がこのビッグプロジェクトに参加している。もちろん、日本もだ。

アルテミス計画は、宇宙飛行士が生活し、働く場所として、月の地表に「アルテミス・ベースキャンプ」という拠点を築き、ハブ(中継地点)となる月の上空に「ゲートウェイ」という宇宙ステーションを建設する。この計画のためにいくつかのプロセスを経るのだが、まず第1弾として、2022年11月16日、超大型ロケット「SLS」が無人宇宙船「オリオン」とともに打ち上げられた。オリオンは順調に月を周回し、2022年12月12日(日本時間)、計画通り無事地球へと帰還し、最初のプロジェクトは見事成功している。

■中国・ロシアが進めるILRS計画

ほかにも、中国も月への計画を進めている。ILRS(International Lunar Research Station:国際月面研究基地)計画といい、ロシアも参加している。中国国家航天局(CNSA)から発表されたILRS Guide for Partnership(現在非公開)には、月面および月の軌道上を活用することで、有人活動、無人活動を含めて月に関する“科学的な”研究を行う計画と定義されている。アルテミス計画同様、ILRS計画も水(氷)が地中に多く存在するとされる月の南極地域を目指すとされている。

実はこれ以外にも、中国がすでに進めている月でのプロジェクトがある。それは、「嫦娥計画」と呼ばれる。月の資源をサンプルリターンする月の裏側で実施されている計画といわれるが、詳細は不明だ。

■月で食料を生産すれば、危機を乗り越えられる

なぜ私たち人類は、月を目指すのだろうか。

地球に発生する、または発生する可能性が高い問題を回避するためという理由が挙げられるだろう。世界はいま80億人もの人で溢れている。さらに人口増加は加速すると考えられていて、食料不足になる危機も叫ばれている。そのため、月へと移住することで人口を分散させ、月で生産される食料でこの危機を乗り越えるのだ。

ほかにも自然災害の回避のためという理由もありうる。地震、津波、台風、豪雨、土砂崩れ、雪崩などありとあらゆる自然災害があるが、これによる人災や物損を回避できる。

しかし、私はそう簡単な話には思えない。月にも大量の放射線が降り注ぐし、隕石(いんせき)も大小さまざまなものが高頻度で降り注いでいる。そのため、人類の知的好奇心、新たな発見、新たなビジネスの創造が主な目的と考えている。

■日本でも月を目指す企業がある

そんな人類が持つ好奇心を満たすべく果敢に挑戦する企業がある。

一つは、日本企業ispace。ispaceは政府に頼らず、月に経済圏を組成しようとチャレンジしている民間企業だ。2022年12月11日に無事、月面着陸船の打ち上げに成功している。そして、2023年4月26日に月面着陸を試みたが、あと一歩のところだった。これが成功すれば民間企業初となる歴史的偉業になる。

第一段階では、月面着陸の成功を目指すものになっているが、今後の後継ミッションとしては、地球と月の間の輸送サービスに向けた技術検証や、月にあるといわれている水資源の探査、月の詳細情報の収集などを挙げている。この蓄積によって、未来に経済圏を構築するというのだ。

また、日本企業のスーパーゼネコン清水建設を紹介したい。清水建設は、月面のレゴリスなどの資源を利用することでコンクリートを作り、科学実験施設・天体観測所、そしてビジネス、観光の拠点となる月面基地を構想している。

■月に住める未来も遠くない

これだけではない。同じくスーパーゼネコンの鹿島建設は、京都大学と共同で、「ルナグラス構想」を発表している。ワイングラスのようなおしゃれな形状で、直径約100m、高さが約400mの巨大な施設を建設する。

このルナグラスは、自転するように回転し、20秒かけて1回転することで、遠心力(人工重力)を発生させ、ちょうど地球と同じ1Gを作ることができる。このワイングラスの形状の内側は、水が膜のように張られており、遠心力でこぼれない。この水を利用して船を交通手段としたり、生態系を構築したり、人が居住できたりするのだ。2050年までに実現したいと意気込んでいる。

現在確認できる構想はこのようなものだ。観光や実験施設的な位置付けが強い印象がある。そのために人が住む居住施設があると考えるのが自然だろう。例えば、地球から大きく隔離されているので、月面刑務所というのもできるかもしれない。

■大手ゼネコンが夢見る宇宙エレベーター

「宇宙エレベーター」をご存じだろうか。その名の通り、宇宙へとエレベーターを使ってアクセスするテクノロジーだ。宇宙とはロケットで行くもの。そんな常識を壊す広大な構想に果敢に挑戦し続ける企業がある。それは、日本のスーパーゼネコンの大林組だ。

大林組が構想する宇宙エレベーターでは、静止軌道と地球上をケーブルで結ぶ。このケーブルを通じて、人や物資を宇宙へと輸送するのだ。

大林組は宇宙エレベーターを次のような建設方法で検討している。まず、低軌道である高度300km付近に宇宙船を建設する。この宇宙船はロケットで打ち上げられ、国際宇宙ステーション(ISS)のように組み立てられて大型化していく。次に宇宙船は高度を上げ、静止軌道へと上昇する。宇宙船は、静止軌道からケーブルを地表に向けて垂らしながら、さらに高度9万6000kmまで上昇する。ケーブルは、地表面のアース・ポートに接続される。

9万6000kmかなたの宇宙へと伸びるタワー「宇宙エレベーター」
参照=大林組
9万6000kmかなたの宇宙へと伸びるタワー「宇宙エレベーター」 - 参照=大林組

このケーブルにクライマーを設置し、クライマーによってケーブルを補強していく。クライマーとはケーブルに沿って移動し、さまざまな輸送・建設作業を実施するロボットだ。そして、このケーブルをつたって、建材や物資を輸送しながら、静止軌道に宇宙ステーションを建設するのだ。これによって、地上から静止軌道まで物理的に繫がれた輸送システムが構築されたことになる。

■「課題」さえクリアできれば、実現まで25年

現在までに、宇宙エレベーターの実現にはさまざまな課題がある。

地球上の建築物で最も高いブルジュ・ハリファ内のエレベーターとはわけが違う。これだけの高度を確実に上れる前人未到の技術が必要になるのだ。

ケーブルには、強度が高いカーボンナノチューブ製のものが検討されているが、これだけの長距離のものを作り上げる技術はなく、宇宙放射線への耐性確認など、宇宙環境に耐えうるものなのかについての研究を進める必要がある。クライマーも開発しなければならない。

ほかにも課題はあるが、これらの課題がクリアできれば、アース・ポートの建設に着工してから25年の年月で建設可能だという。予算についての言及はない。この宇宙エレベーターの実現について、専門家の間では「不可能だ」「実現はもっともっと未来だ」などという悲観的な意見もある。

■ロケットは「宇宙ゴミ」になる

一方で大学などでは、さまざまな研究が行われている。例えば神奈川大学では、宇宙エレベータープロジェクトを立ち上げ、地上でクライマーなどの研究を実施したり、静岡大学では、実際に小型の人工衛星を打ち上げて、ケーブルを垂らしてクライマーの上昇下降などの研究を行ったりするなど、宇宙エレベーター実現に向けた要素技術の研究に尽力している。

宇宙エレベーターが実現すれば、どのような未来が待っているだろうか。

一つは効率的・経済的に、宇宙へとアクセスできる点だ。例えば、ロケットなどの輸送機は、複雑なシステムをある程度の期間をかけて製造しなければならないが、宇宙エレベーターの場合、エレベーターに乗るだけで済む。輸送が容易で経済的だ。

そして、ロケットは使い捨てである。宇宙空間に捨てられたものは、宇宙空間を漂い続け、いま問題となっている宇宙ゴミ(スペースデブリともいう)になる。ほかにも、地球上に落ちて建物などへの被害を及ぼしたり、人の命を奪ったりする可能性もゼロではない。

宇宙ゴミ
写真=iStock.com/janiecbros
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/janiecbros

当然落下地点は綿密に検討されたものであるとはいえ、いま現在でも宇宙ゴミが畑に落ちてきたなどのニュースも耳にする。使い捨てではない、再利用型の輸送機もあるが、エンジンの噴射や大気圏への突入による損傷を改修しなければならず、その分のコストと時間がかかる。

■人工衛星の設計に革命が起きる

もちろん、宇宙へアクセスする手段であるロケットなどの輸送機がなくなることはないだろうが、宇宙エレベーターはもう一つのアクセス手段として重宝されるだろう。

宇宙エレベーターは静止軌道へのアクセスだけではない。大林組によると「低軌道衛星投入ゲート」というものが準備されている。大部分の人工衛星が飛行する低軌道という高度数百kmあたりに、そのゲートから衛星を投入することができるのだ。

齊田興哉『空想が実現する時代のビジネス地図』(サンマーク出版)
齊田興哉『空想が実現する時代のビジネス地図』(サンマーク出版)

これにより、人工衛星の設計に革命が起きると考えている。ロケットで衛星などを運ぶ場合、ロケットの振動、音響、衝撃など過酷な機械環境が課される。これに耐えうる設計をしなければならない。しかし、宇宙エレベーターであれば、それは不要になる。

つまり、人工衛星の設計、製造が根本から変わり、多くの部品部材が変更され、試験項目が省かれ、コストや工期が大幅に削減されることが予想されるのだ。

こう考えると、人工衛星は政府や企業が持つものであったが、自家用車を持つように個人が趣味やビジネスなどの目的で保有するような未来になってもそうおかしくないかもしれない。

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齊田 興哉(さいだ・ともや)
宇宙ビジネスコンサルタント
東北大学大学院工学研究科量子エネルギー工学専攻博士課程修了、工学博士。JAXA(宇宙航空研究開発機構)に就職。人工衛星の設計フェーズ、打ち上げ、運用までを2機経験した。その後、日本総合研究所へ入社。宇宙ビジネスのコンサルティングに従事し、政府事業や民間企業を支援したのち独立。NHK、TBSテレビ「ひるおび」、ABEMA Prime、毎日放送「せやねん!」などのテレビ番組に宇宙ビジネスの専門家として出演。著書に『最新宇宙ビジネスの動向とカラクリがよ〜くわかる本』(秀和システム)『ビジネスモデルの未来予報図51』(CCCメディアハウス)などがある。

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(宇宙ビジネスコンサルタント 齊田 興哉)

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