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「うつ病をきっかけに起業」月商500万円をたたき出す1万3200円の"ノーパンではけるショートパンツ"の意外な効用

プレジデントオンライン / 2023年8月14日 8時15分

撮影=渡邉茂樹

ふんどしといえば、神輿の担ぎ手や和太鼓の奏者を思い浮かべる。そのふんどしをヒントに「sharefun(しゃれふん)」や「ととのうパンツ」など、イメージを一新するプロダクトを次々開発し、注目されているのが「一般社団法人日本ふんどし協会」の会長を務める中川ケイジさんだ。しかし、その「ふんどし人生」は、けっして平坦なものではなかった――。

■コンサル会社で5年間かけて売り上げたのは4万5000円

中川さんがふんどしで起業しようと思ったのは、うつ病になったのがきっかけだったというのだから驚く。

兵庫県で生まれ育った中川さんは、高校3年生だった1995年、阪神・淡路大震災で被災。

「実家は全壊し、同級生が亡くなり、人はいつ死ぬかわからないと思ったんです。自分は生かされたのだから、好きなことをやって、人の役に立つ仕事をするべきだと思いました」

東京の大学を卒業すると、美容師を目指した。神戸に戻り、美容サロンで働きながら、美容師の資格を取得したが、30歳のときに兄が経営する東京のPR系のコンサル会社に転職した。信頼できる身内が近くにいてほしいと、兄から懇願されたのだ。

「ところが、セールスポイントが何かまったく理解できず、営業のスキルも一向にアップしません。結局5年間で売り上げたのは、たったの4万5000円。『社長の弟だから』と最初は甘やかされていましたが、次第に私を見る周囲の目が厳しさを増していきました。そして『これではマズイだろう』と自責の念に駆られ、精神的に追い詰められるようになったのです」

■ふんどしを締めて得た人生初の開放感

そうこうするうちに、出社時刻になると頭痛と眩暈で、布団からなかなか起き上がれなくなった。そんな折、2011年3月、東日本大震災が発生する。会社のある渋谷から自宅のある巣鴨まで4時間ほどかけて歩いて帰る最中、阪神・淡路大震災のことも思い出した。

「今回の震災でも多くの人たちが亡くなった。一体自分はなにをやっているんだろう」

病院に行くとうつ病と診断され、仕事は休職せざるを得なくなった。

そのときに思い出したのがふんどしだった。休職前、取引先の人から「ふんどしを締めると血の巡りがよくなる」と薦められたことがあったのだ。実際につけてみると、素っ裸と思えるほど、身につけている感じがない。

「なんという開放感か」──。生まれて初めての心地よさに感動を禁じ得なかった。それからというもの、就寝時にふんどしを締めて寝るようになった。すると不思議なことに、うつ病の症状が次第に軽くなっていったのだ。

■妻が渡してくれた30万円を元手に起業

ちょうどその頃、ステテコがブームになっていた。おしゃれな柄で商品化されたステテコは、従来のイメージが払拭され、ルームウエアとして男性だけでなく女性にも人気だった。

「ふんどしにも、このストーリーを当てはめられるかも。なによりも安眠できるし『自分をいたわる時間を創る』という価値も付ければ、究極のリラックスウエアになる」

中川さんは「ふんどしはビジネスになる」と直感した。しかし「ふんどしで起業する」なんて言おうものなら、誰もが反対するに違いない。ましてや妻にはなんと説明すれば。

驚くことに妻は「やってみたらいいんじゃない」と背中を押してくれた。中川さんは感謝した。当時は新婚で、起業の資金はまったくない状況。妻は引っ越し費用にためていた虎の子の30万円を手渡してくれた。そのうち20万円はオンラインショップ立ち上げに使った。

ジェンダーレスで使える「越中ふんどし」
撮影=渡邉茂樹

■2月14日を「ふんどしの日」に制定

「ふんどしには中立的な立場で普及、啓蒙する協会がありませんでした。とにかく、ふんどしを世の中に広めようと思い「日本ふんどし協会」を設立。同時にふんどしという言葉をメディアに取り上げてもらうため、日本記念日協会に7万円(現在は1件・15万円)を払い『ふんどしの日』を登録。記念日は、語呂合わせで読める、2(ふん)月14(どし)日を『ふんどしの日』としました。バレンタインデーにぶつければ、ギャップが大きいし、変わり種としてメディアでも取り上げられるだろうという狙いもありました」

残りは3万円しかない。中川さんは、京都の老舗メーカーの社長に財政状況が苦しいことを正直に話し、ふんどしで新たな価値をつくりたいと訴えた。社長は中川さんのことを信用しバックアップすることを約束。こうして完成したのが、「越中ふんどし」タイプの「sharefun」だ。内側には肌あたりの良いガーゼ素材を使用し、縫い代の当たりをなくすよう工夫を凝らした。

■初月の売り上げ実績は5枚のみ

満を持して通信販売を開始。しかし、残念ながら初月は5枚しか売れなかった。

その頃、中川さんの取り組みや働きかけとは別に、女優や女性声優がふんどしを愛用していると公言したり、医師がふんどしの健康効果を語ったりする現象が起こり出した。

追い風と感じた中川さんは、ふんどしを愛用し、普及に貢献した著名人に「ベストフンドシスト賞」を授与するイベントを2月14日に開催。メディアを使って一気に攻勢に出た。

「チョコを贈るのじゃなくて、何でふんどしを贈るのとなりますよね。前年に震災があり、国内の空気は沈んでいましたし、ふんどしの話で笑顔になりコミュニケーションが取りやすくなれば、それは意義のあることなんじゃないかなと思いました」

「一般社団法人日本ふんどし協会」の会長を務める中川ケイジさん
撮影=渡邉茂樹

■コロナ禍で抱えた2000万円の借金

次第に「sharefun」は、リラックスウエアとして女性から支持されるようになった。売り上げ全体の7割を、女性の利用者が占めた。しかし、浮き沈みが激しく、年商は700万円から2500万円の間をいったりきたり。

しかもタイミングが悪く、新型コロナウイルスの感染拡大に備え緊急事態宣言が発出。製造工場の稼働が止まり、ヨーロッパから生地の輸入が途絶えた。気が付くと、借金が2000万円に膨らんでいた。さすがに心が折れそうになった。

「そうしたなか、これまで二度の震災を経験し、仕事がうまくいかずうつになり、その一番辛い時期に『ぐっすり眠る』という価値に救われたことを思い出しました。そして、『自分をいたわる時間を創るお手伝いをする』という、真に自分がやりたかったことに立ち返ることができたのです」

■サウナでひらめいた新製品のアイデア

そんなある日のこと、中川さんは気分転換にサウナへ行った。もともとサウナは唯一の楽しみだった。全身の血が巡り、心身ともに「ととのう」ことで、爽快感に浸れるからだ。その日は、なぜかゴムの入ったボクサーパンツが気になった。「サウナ後に締めつけの強いパンツを履けば台無しになるじゃないか」

そして中川さんは、リラックスウエアとしての「ふんどし」製作のノウハウを活かし、締め付けないショートパンツをつくることを思いつく。ふんどしはハードルが高い。ならば受け入れられやすい形にすればどうだろう。コンセプトは「ノーパンで履けるショートパンツ」に決まった。

■ふんどしの製法で心地よさを演出

「ふんどしの形態に固執する必要はない。今までとは違うものを開発しようと思い、できたのが『ととのうパンツ』です。男女を問わず、抵抗感なく履くことができます」

構造は立体の二重にし、外側は涼しい素材、インナーには肌なじみのよい素材を使用。インナーは、デリケートゾーンへの負担を軽減して心地よくするため、縫い目が真ん中にこないように設計するなど、ふんどしの製法を活用した。そして、キャッチフレーズは「#実はノーパンです」というインパクトのあるものにした。

ととのうパンツ
撮影=渡邉茂樹

■売値は強気の1万3200円に

売り値は1万3200円で、強気の価格設定だ。普通のパンツに比べれば値段ははるかに高い。しかし、研究と創意工夫による機能性と健康効果、背景にあるストーリーの魅力などが、決断を後押しした。その結果は正解で、瞬く間に人気が広がっていった。「僕は震災で人生変わったのと、震災復興の狙いもあって、製造は福島のメーカーに委託しています。また、オンラインストアの発送は長野県の就労支援施設に依頼しています。関わる人が全員ハッピーになる循環をつくることを目指したいのです」

■オンライン含めて月商500万円をキープ

2022年には、同社のそうしたプロダクトへのこだわりが評価され、「ととのうパンツ」と「sharefun」は「グッドデザイン賞」を獲得。さらに持続可能な社会の実現を目指す「ソーシャルプロダクツ賞」も受賞した。さらに、伊勢丹のポップアップショップで販売すると、購入してくれた阿部サダヲ氏がラジオや情報番組でおすすめしてくれるなど芸能界にも愛用者が広がった。

「父の日などは、プレゼント用によく売れるようになりました。そのときは2週間で200万円ぐらい売り上げがあり、伊勢丹新宿店メンズ館の店員も驚くほどの人気ぶりでした。これらの効果もあって、オンラインの売り上げも伸び、月商は500万円前後をキープしています」

「一般社団法人日本ふんどし協会」の会長を務める中川ケイジさん
撮影=渡邉茂樹

■羽田空港から世界へ羽ばたく

ととのうパンツは、今夏、羽田空港での販売にもこぎ着けた。2011年にふんどしで起業して以来、中川さんは「空港を経由して世界中に広めたい」という目標を持ち続けてきた。ととのうパンツをメイドインジャパンのお土産の一つにしたいのだという。

「僕がやりたいのは、今までにない新しいライフスタイルを提案すること。うつで辛かったときに、ふんどしを履いたらぐっすり眠れた。あの感動とともに、自分をいたわる時間を一人でも多くの人に提供したい」

ふんどしとの出会いによって、大きく変わった中川さんの人生――。ふんどしが持っている効果や効能を、日本だけではなく世界にまで広げていくことがいまの中川さんの夢である。

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中川 ケイジ(なかがわ・けいじ)
一般社団法人日本ふんどし協会会長
1976年生まれ。一般社団法人日本ふんどし協会会長。大学卒業後、美容師を経て、親族が経営する営業会社に転職するも成績が悪く思い悩みうつ病に。その時たまたま出会った「ふんどし」の快適さに感動。2011年ふんどしブランド『sharefun®(しゃれふん)』をスタートさせ有限会社プラスチャーミングを設立。現在は茨城県水戸市に移住し、子育ての時間も大切にしながら新たな働き方を実践中。著書に『人生はふんどし1枚で変えられる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)『夜だけ「ふんどし」温活法』(大和書房)がある。

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(一般社団法人日本ふんどし協会会長 中川 ケイジ 文=篠原克明)

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