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これほど陳腐で侮辱的な言葉はない…心理学者が「いいね」は「ほめ言葉ではない」と断言する理由

プレジデントオンライン / 2023年8月18日 18時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yacobchuk

他人から「いいね」と言われたとき、あなたはどう思うだろうか。組織心理学者のジョン・アメイチさんは「『いいね』ほど陳腐で侮辱的な言葉はない。何かに対して『いいね』以外の感想が浮かばなかった時、あなたはそれを理解していないということだ」という――。(第1回)

※本稿は、ジョン・アメイチ『巨人の約束 リーダーシップに必要な14の教え』(東洋館出版社)の第2章「成功するために全力を尽くす」を再編集したものです。

■「勝者」は時に冷酷で不愉快に映る

残酷な人とか偽善者だと思われないよう注意しながら、勝利について書くのは難しい。冷酷で不愉快な「勝者」をしばしば見かけるが、それは彼らが勝つためなら冷酷になれるからだ。

わたし自身もスピーチしたときに、「ライバル企業から二度とうちの組織と張り合いたくないと思われるほど、徹底的に打ち負かしたい」と言ったことがある。確かにそう言ったし、本気で言った。とはいえ、競合他社すべてを苦しめてやるぞと言いたかったのではなく、むしろ自分を鼓舞するために言ったのだ――有無を言わせぬ説得力、入念な準備、勤勉な仕事ぶりをもってすれば、少なくともうちの組織は同業他社よりも優位に立てるはずだ、と。

ほとんどの状況では、人生で成功するのに敗者を生み出す必要はない。

■勝利に必要な7つの要素

言うまでもなく、あなたは勝つために努力しているに違いない。結局のところ、あなたが読んでいるこの本は個人的な成功、対人関係での成功、組織の成功の実現をテーマとしているからだ。読書は時間がかかる。時間をかけるのは努力しているということだ。理屈から言って、この本を読んでいるということは、すでに勝つために真剣に取り組んでいるということだ。

誤解のないように言うと、本書の文脈に出てくる「勝利」とは、個人の目標を達成することに過ぎない――できれば気高い目標が望ましいが、たとえ気高くなくとも、少なくとも誰かを傷つけないような目標を想定している。わたしにとっての勝利とは、長期的な展望のもとで行うプロジェクトだ。つまり、成功した場合の状況をしっかりと理解したうえで、明確で長期的な個人の目標および組織の目標を達成すべく真剣に取り組むことだ。勝利に関しては、次の7つの項目も明確にしておきたい。

1.「いい人」(または愛想が良い/思慮深い/誠実な/道徳的な/公平な/正直な人)は必ずしも失敗するとは限らない
2.成功するのに冷酷である必要はない
3.成功の定義は人それぞれ
4.成功するには、明確で生き生きとしたビジョンが必要だ
5.成功には妥協が必要だ
6.成功はゼロ・サム・ゲームではない――成功するために誰かを負かす必要はない
7.成功は細部に宿る

本章では、これらの項目について一つずつ検証していこう。

■「嫌な奴ほど成功しやすい」は勘違い

1.「いい人」は必ずしも失敗するとは限らない

権力の座に就く著名人には、嫌な奴が多いからだろうか、嫌な奴ほど成功しやすいと思われがちだ。次のような三段論法があるが、これは事実とは違う。

成功する人はみな、不愉快で嫌な奴である。

成功できない人はみな、「いい人」である。

ゆえに嫌な奴になれば、パフォーマンスが向上する。

思いやりがある人か好感度が高い人、または穏やかな人である必要はないが、嫌な奴である必要もない。地位の高い人が嫌な奴であることが許されるのは、成功者とは得てして嫌な奴だと思われているからだが、実際にはそのような関連性はない。

いい人は成功しないと言われる。たとえいい人でも、計画性がない、スキルがない、リーダーシップがない、または協力者がいなければ、成功しない。だが、同じことは計画性のない嫌な奴にも言える。

計画性のない嫌な奴は、失敗するにとどまらず、仲間を見つけて関係性を維持するのも難しい。ましてや自分たちの戦略に全面的に尽力してもらうどころではない。

■「いい」という言葉は無価値である

「いい」という言葉について、もう少し説明しよう。最初に言っておくが、わたしはこの言葉が好きではない。この本を読み進め、ここに書かれてある提案やアイデアを検討するうちに、うなずいて「ふうむ、これはいいアイデアだ。やってみよう。いい発想だな」などと思うかもしれない。

たとえば、わたしがこんな提案をしたとしよう。椅子に座って仕事しているときに、誰かが雑談か質問しにやって来たら、相手の方向へ椅子をきちんと回転させるべきではないか。ビデオ通話の場合は状況が異なるものの、ぼんやりと画面を見るのと、相手が映っている空間をしっかり見つめるのとでは違う。

オフィスで話しかける人
写真=iStock.com/Hybrid Images
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hybrid Images

成功するには、仲間たちに真剣に関わってもらう必要がある。それはつまり、椅子を回転させて相手としっかり向き合うことであり、相手の話にたびたび頭を動かして反応することでもある。電子メールやエクセルを処理しながら、椅子を半回転させて会話することでも、うつろな目で対応することでもない。椅子を目一杯回転させて向き合うことだ。

さて、それを読んだあなたは「なるほど。これはいいアドバイスだ。お互いの話をもっと集中して真剣に聞き、みんなが強い絆でつながれば、何かが変わるかもしれない。椅子を回転させるのか。なかなかいい案だ。気に入った。互いにもっと良く接した方がいいと提案するなんて、この紳士的でやさしい巨人はいい人間になるためのいいアイデアを持っている。わたしたちももっといい人間にならないと」と思うかもしれない。

それは違う。そんな考えはすぐに捨てよう。「いい」というのは、言葉であれ、概念であれ、こと成功に関してはほとんど価値がない。

■「いい」は相手の行動を理解していない時の言葉

母はわたしに「いい」という言葉を使わせなかった。母は、好ましい行動を取った人に好意的なことを言いたければ、ほんの一瞬でもいいから知恵を絞って、もっと思慮深く、描写的で、意味のある言葉を使いなさいと言った。

誰かが真に思いやりのある善良な行為をしたのに、「よかった」という言葉しか出ないなら、あなたは相手の行動を理解していない。あるいは、思ったような成果が出ませんでしたねと言いたいときか、わたしは興味ありませんとほのめかしたいときか。

クリスマスに誰か大人にプレゼントを渡したところ、相手から「ありがとう。いいね、これ」と言われたら、相手はほぼ間違いなく「こんなものをもらってもなぁ。この人が帰ったら包み直して、どうでもいい人か、よく知らない人にあげてしまおう」と思っているだろう。

プレゼント
写真=iStock.com/miya227
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/miya227

一般的に「いいね」はトロイの木馬のような言葉として用いられる。その言葉の本来の意味とは矛盾することを押さえつつ、それを表現するためだ。惰性的に「いいね」とコメントする場合を除いて、通常この言葉には軽蔑、失望、からかい、そっけなさといった含みがある。

トロイの木馬のような言葉はいくらでもあるし、すぐにそれと気づくものだ。たとえば、誰かがさりげなく「ところで」とか「もう一つあるんだけど」と切り出した場合、相手が重要な話を切り出そうとしていることに気づく。つまり、あなたは気づかなかったようだが、重要なのはついさっきまで話していた内容ではない方だと示唆する言葉だ。

■「いいですね」は相手を侮辱する言葉

「おもしろい」はどうか? それは「おもしろくない」という意味だ。

「検討してみます」は「ありがとう。でも、もう検討済みで答えも出てます」という意味だ。

そして一目瞭然なのに、あちこちで見受けられるのが「失礼ながら」だ。もはや誰もこんな言葉では騙されない。にっこり笑って言おうが、顔をしかめて言おうが、「失礼ながら」が意味することを誰もがわかっている。つまり「あなたのような大馬鹿野郎に対して礼儀正しく振る舞いますが、ありったけの軽蔑を込めて言わせていただきます」といった意味になる。

よく知らない人から、もっと悪い場合には、あなたをばかにしている人からプレゼントをもらったときに、「いいですね」と礼儀正しく答えることがあるだろう。これは気のないほめ言葉で相手を侮辱しているのだ。公衆の面前でこき下ろしたくないときは、しぶしぶと「いいですね」と言ってやり過ごすものだ。相手を喜ばせる言葉だが、「もうこれで終わりにして、次の話題へ進みませんか?」と伝えたいときにも言う。使い勝手の良い言葉だ。

■「いいね」を語彙から消し去るべき

何よりも、わたしがこれまでに読んだ論文には、「いいね」という表面的な言葉が生産性やパフォーマンスといった成功に関わる重要な指標に関連づけられているものは一本もなかった。

従って、わたしたちの語彙(ごい)から「いいね」を撲滅しようと提案したい。この言葉が陳腐で代用のきくうすっぺらい言葉だからだ。困難なときには、「いいね」はカットすべき脂肪だ。「あったらいいね」と思われる程度の新規構想や優先事項は、「あったらいいね」リストにしか入らないだろう。そして破壊的変化に見舞われた瞬間に、そのリストがどうなるかもわかる――「あったらいいね」程度の提案は消えてなくなるだろう。

言うまでもなく、現代にはその破壊的変化が現在進行形で起きているという現実がある。そして長期にわたって変化し続けるだろう。産業は変容し、ルールや規範は変化し、予期せぬ競合他社が次々と現れ、社会的にも政治的にも不安定なのが明らかだ……。また、パンデミックのような世界規模の危機も、わたしたちの身体と心の健康を損ねる恐れがある。

このような状況下では、「あったらいいね」程度のものはすべて、最後まで待合室で手持ち無沙汰に待たされるだろう。危機的な状況では、きわめて重要なものにしか酸素を投与しないものだ。

■「いいね」は「あったらいいね」でしかない

もし、椅子を回転させて相手と向き合うことが「いいこと」なら、無害でやらないよりはマシ程度の行為と見なされるなら、誰もやらないだろう。

椅子を回転させようと提案するのは、いかなる状況であれ、成功するにはこの種の行動が不可欠だからだ。インクルージョンや協力、またはマインドフルネスの価値を議論するときにも同じことが言える。

これらの話題から宗教か、健康おたくか、スピリチュアルを思い浮かべるのであれば、すぐにそのイメージを払拭してほしい。これらは「いい人」になるためにやった方が「いい」ことではない。勝つため、すなわち自分と周囲の人々のパフォーマンスを最高の状態にするためにやるのだ。〈巨人の約束〉は21世紀の“パフォーマンス特権”だ――破壊的な変化の著しい新しい景色のなかで、個人や組織が成功するためにまずすべきことであり、欠かせない要素でもあるのだ。

■「いいね」の上に成功を築くことはできない

わたしは温和であいまいな心理学者ではない。わたしを「いい人」だと思い込んでいる人は、ツイッターの投稿を見ればすぐにその幻想から解放されるだろう。わたしは無知やあら探しを見過ごしたりはしない。わたしが長年ピン留めして、何度も再掲してきたツイートを紹介しよう。

ジョン・アメイチ『巨人の約束 リーダーシップに必要な14の教え』(東洋館出版社)
ジョン・アメイチ『巨人の約束 リーダーシップに必要な14の教え』(東洋館出版社)

「無知な人が『意見する権利』があると主張するせいで、明らかな嘘ですら真実として広まってしまう。そんな社会では、意見よりも事実を優先すべきだと主張するよりも、あたかも事実であるかのように意見を主張する方がはるかに傲慢(ごうまん)だ。そのことを忘れず、訴えなければならない」

今やわたしは、誰かの愚かで偏狭な発言を見つけると黙認できなくなった。すぐに阻止する。デマやナンセンス、そうした情報を拡散している人を、暴露して骨抜きにしたい衝動に駆られる。デマが広がれば、世の中に悪影響を及ぼすことが明白だからだ。

「いいね」は陳腐で、軽くて、信頼できない。そしてそんなあやふやな土台の上に成功を築くことはできないだろう。

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ジョン・アメイチ 組織心理学者
ニューヨーク・タイムズ紙ベストセラー作家でもあり、人気の講演家、エグゼクティブ・コーチおよびAPSインテリジェンス(APS)の創業者でもある。さらに、FTSE 250種指数に含まれる中堅の優良食品会社や、年商24億ポンドの医療系企業の社外取締役を務めている。イギリス北部のマンチェスター近郊にあるストックポート出身。18歳のときにイギリス人初のNBA選手になるという夢を叶えるために、一人でアメリカへ旅立つ。初めてバスケットボールに触ってからわずか6年でその目標を達成し、2000年にはマサチューセッツ州にあるバスケットボール殿堂でジャージが展示された。この殿堂でジャージが展示された唯一のイギリス人である。スポーツ界から引退後も研究と指導の両方を続けている。CIPD(人事開発公認機関)の公認科学者、公認研究員であり、英国公衆衛生協会およびビジネス心理学者連盟の研究員でもある。イースト・ロンドン大学の研究員も務め、効果的でインクルーシブなリーダーシップ、ハイ・パフォーマンスなチーム作り、また未来の労働環境に備えて、生産性と人々の活気を最大限にできる組織の設計方法などを研究している。

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(組織心理学者 ジョン・アメイチ)

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