1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

原付に3人乗りで小学校に登校してきた…中学生を引き連れて歩くような小5男子が指導官に語ったこと

プレジデントオンライン / 2023年8月18日 13時15分

原付に3人乗りで小学校に登校してきた(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/imamember

なぜ非行に走る少年少女が後を絶たないのか。元福岡県警少年育成指導官の堀井智帆さんは「私が関わったある少年は、母親が覚せい剤使用で何度も警察に連行されていて、警察を嫌っていた。非行の裏側には家族の問題が隠れている場合が多い」という――。

※本稿は、堀井智帆『非行少年たちの神様』(青灯社)の一部を再編集したものです。

■原付に3人乗りで現れた小学生

サポートセンターで支援の仕事を開始して、一人で担当した初めてのケースで、私は衝撃的なシーンを目の当たりにしました。

小学校5年生の非行の相談だったのですが、その子に会いに学校に行き、先生が「あ、来ました」と言うので外を見ると、原付バイクにサンケツ、つまり3人乗りで、ブーンと坂を駆け上がって小学校に登校してきたのです。

もちろん無免許ですし、ノーヘルメットです。自転車どころではなくバイクに3人乗りで小学生が登校してくる姿を見て、目を疑いました。

その衝撃的光景を見た時、何となく言葉には表しにくいのですが、あ、私、これからこういう仕事をしていくんだな……と漠然と感じ、覚悟が決まりました。異文化を受け入れた瞬間とでもいいましょうか。

■中学生を引き連れて歩く小学生

私が会いに行ったのは、その3人の中でも中心的なハヤトです。

中学生を引き連れて歩くような小学生でした。

養護の先生が、将来が心配だからと繋いでくれた子で、その先生が、「今日堀井さんという人が来るから、ちょっと会ってみて」と言ってその子を保健室に案内してきてくれました。

「福岡県警の少年サポートセンターの堀井です」と挨拶したら、聞き終わるその前に、その子は保健室からさっさと出て行って、慌てて追いかけると男子トイレに入っていってしまいました。

多分、私が女だから男子トイレだったら追いかけてこないと思ったのでしょう。

■話もせず「嫌いだから帰せ」

私も一瞬どうしようかなと迷いましたが、ここで女だからといって入らなかったら、毎回トイレに逃げれば私は来ないと学習して、会えなくなる。

「よし、入ろう」と決めて、私は「入りまーす!」と言って男子トイレに入りました。

授業中だったのでトイレには誰もいません。その中で、この子はトイレの個室に入って鍵を閉めてしまったのです。

私はドアを外からコンコンとしながら「堀井です」と自己紹介をしました。

無言の彼に対し、バイクに乗ったりしたら危ないとか、命にかかわるから心配して会いに来たんだよ、といつもの押し売りをドア越しに続けました。

だけど、その子から返ってきた言葉は「帰れ」の一言です。

どうして会いたくないの、なんで? と訊いてみてもずっと無言で、私もトイレの前で粘って待っていましたが、全然出てくる気配もなく、根比べのようになりました。

そのうち、養護の先生が心配して来てくれました。ハヤトと関係ができている先生が、せっかく堀井さんが来てくれているのだから出てきたらと言ってくれるのですが、「嫌いだから帰せ」と言うのです。話もしていないのにすっかり嫌われ者です。

■母親は覚せい剤で何度も連行されていた

だけど、それにも必ず理由があるはずです。何とかその理由を探らなければいけません。

「分かった、じゃあなんで嫌いなのか、理由を教えてくれれば、今日は帰るよ」と伝えると、この子からは「警察はお母さんを捕まえるから嫌い」という返事が返ってきました。

「警察はお母さんを捕まえるから嫌い」(※写真はイメージです)
写真=iStock.com/y-studio
「警察はお母さんを捕まえるから嫌い」(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/y-studio

なるほど、ちゃんと理由がありました。

この子は、お母さんが覚せい剤使用で何度も警察に連行される姿を見てきていたのです。警察は大好きなお母さんを連れ去る敵だったのです。

■子どもとの関係が前進しない原因

ああ、そうか、それは嫌な思いをさせたね。でも堀井さんは警察だけど、捕まえる仕事じゃないよ。子どもの相談を聞く専門職で、辛い思いや寂しい思いをしている子どもを助けるのが仕事なんだよ、捕まえたりするのが仕事じゃないから安心してと伝えましたが、結局その日は会えないまま帰ることとなりました。

それからというもの、会ってくれるかどうかは分からないまま、とにかく何度も学校に足を運びました。なんとなく顔だけは見慣れてきた感じはありましたが、決して心を開いてくれているという関係ではありませんでした。

何とか打破しなければいけません。サポートセンターと子どもが会うことへの保護者の了解は、学校がとっていました。とはいえ、親と私の直接の関係がとれていないことが、この子との関係が前進しない原因ではないかと考えました。

■「うちの子は何も変わらんよ」

何とか祖父については、第一関門を突破しました。残されたのは、母親です。

養護の先生からは、あの親はかなり強敵で、敬語で話そうものなら、絶対に関係はつくれませんよと言われました。

私は最初、言われている意味が分かりませんでした。初対面の相手と話すときに敬語を使うことは、常識中の常識です。敬語で話したら嫌われる? どういうこと? 最初からタメ口? どうやって?……と、頭の中は混乱です。

敬語で話したら関係が作れないのなら、とにかく封印するしかありません。しかし開口一番、「サポートセンターの堀井です。あの子のことが心配で、これから私も一緒に考えたいので、関わらせて頂けませんか」と、気づけば敬語のオンパレード。分かっていても修正のしようがありません。

すると案の定、母親からは鼻で笑われ、「あんたなんかが関わったって、うちの子は何も変わらんよ」と言い放たれます。

「うちの子は何も変わらんよ」(※写真はイメージです)
写真=iStock.com/D-Keine
「うちの子は何も変わらんよ」(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/D-Keine

■「私も鑑別所に7回入って少年院にも2回行った」

私も食い下がって、このままだといずれ鑑別所や少年院に入ったりすることになってしまうかもしれない、と伝えると、「ふん。鑑別所に入ったら悪いんかね? あのね、私も鑑別所に7回入って少年院にも2回行った。それで私は色々なことに気が付いた。だからあの子だって、そうなったらその中で気付くでしょ」と言うのです。

言葉に詰まりながらも、私も必死です。

確かにお母さんは鑑別所に行って少年院に行って気付いたかもしれないけど、この子も同じとは限らないでしょう。どちらにも行かせずに気付かせることもできるかもしれないし、その間に事故に遭って命に関わるかもしれないじゃないかと。

■「一般社会の常識」が正解とは限らない

だからこのままじゃダメだと私が言うと、母も母であんたに何ができるの……と、気づいたらすっかり敬語を忘れ、ため口で必死に2時間やりとりを繰り返していたのです。

すると、最後には「はいはい。あんたも大概しつこいね。ならもういい、好きなようにやれば」と言ってもらい、何とか支援を受け入れてもらうことができたのです。

電話を切ったときには、受話器が当たった耳が痛くなるほどでした。

受話器が当たった耳が痛くなった(※写真はイメージです)
写真=iStock.com/byryo
受話器が当たった耳が痛くなった(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/byryo

敬語で話すなど、一般社会の常識が、私たちの世界では、正解とは限りません。敬語が、いかにも行政的というような冷たさや、人と人の距離の遠さを感じさせ支援を妨げることもありうるのです。

これは私にとって、とても面白い発見でした。

支援者にとっては、言葉の使い方・選び方、見極めのテクニックも重要な要素の一つです。

■「あの子が轢かれた!」

第一戦は、こうして何とか終わりました。ここからが、支援のスタートです。

とにかく、家や学校やたまり場に足を運び、祖父や母ともこまめに連絡を取りながら、関係を深めます。「来なかった」と言われないように、近くを別件で通ったときにも意識して立ち寄ったものです。

そんな中、本当の意味でこのお母さんと繋がれる出来事がありました。

この子が中学校に入学する前の小学6年生最後の春休みに、バイクで事故を起こし、大けがをして救急車で運ばれるという事故がおこったのです。

バイクで事故を起こし、大けがをして救急車で運ばれる(※写真はイメージです)
写真=iStock.com/Jamie
バイクで事故を起こし、大けがをして救急車で運ばれる(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Jamie

しかもあろうことか、相手の車は、轢いた時に見たら子どもだったので、「お前、無免許やろう。バイクになんか乗って。お前が悪いんだから俺は知らない」と言って逃げたのだそうです。

お母さんから泣きながら電話がかかってきて、「堀井さん! あの子が轢かれた!」「今、救急車で○○病院に運ばれて、どうしたらいいか分からん」と言うのです。

■母のマスカラが涙で滲んでいた

とにかく病院に行こう、私もすぐ行くよと言って、お母さんをなだめ、一緒に病院へ行きました。

母のマスカラが涙で滲んでいました。そこに母の愛情と心配がこもっていて、私は何だか安心しました。

こうしてパニック状態のときに、困ったときに顔が浮かぶ関係が、支援者と相談者の真の信頼関係です。

しかし、ハヤトの非行問題はすぐには収まりませんでした。

■「無人の車が走っている」という奇妙な110番

中学生になると、起こす問題も次第に大きくなりました。バイクの無免許が車の無免許になり、身体が小さいこの子が運転していると外から見えないので、「無人の車が走っている」という奇妙な110番が多数入るのです。

とにかく車が好きな子で、中学2年生の時には、車の売り買いまでしていました。もちろん盗んだ車です。

しかも高級車が大好きで、キーなしでもクラウンなどの高級車を手早く盗んでいました。その技たるや、警察官も目を見張るほどでした。

ある時、親しい警察官から、ハヤトが今警察署にいるよという連絡が入りました。

家出ばかりしていてなかなか会えないので、すぐに警察署に飛んで行くと、警察署では持ち物の確認作業中でした。

■「これは先輩から2万で買ったグロリアの鍵」

ポケットの中からは、ジャラジャラと色んなものが出てきました。

ポケットの中から何本もキーが出てきた(※写真はイメージです)
写真=iStock.com/courtneyk
ポケットの中から何本もキーが出てきた(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/courtneyk

どこかで盗んだのか、同じ飴が何本も出てきて、それに加え驚いたのは、何本もキーが出てきたのです。

このキーは何のキー? と尋ねると、「これは先輩から2万で買ったグロリアの鍵」とか、「それは友達から借りているクラウンの鍵」とか、次々と車の名前が出てきます。

その車は今どこにあるの?と訊くと、「もういらなくなったから、土手に捨てた」と、まるで自転車か何かの話をしているかのように話します。

これが、彼の日常でした。

家出中も、情報をもとに探しに行くと、見ず知らずの男性宅の車の中で何人もの友人らと入り浸って生活していました。

■少年院に行くことも支援の一つ

そんな状態が改善しないこともあり、結局この子は事件を起こし、少年院に行くことになりました。

私はある上司から、関わっていた子が少年院に行ったということは、立ち直り支援が失敗したということだねと言われたことがあります。

確かに、少年院に行かないように食い止めることが、警察である私たち少年育成指導官の責務なのかもしれません。

堀井智帆『非行少年たちの神様』(青灯社)
堀井智帆『非行少年たちの神様』(青灯社)

でも私は、少年院に行くことは「結果」だとは思っていません。少年院に行くことそのものが一つの「支援」なのだと考えています。

少年院は更生支援のための重要な社会資源の一つです。子どもの状況に合わせて、更生するために少年院でのプログラムや時間が必要ならば、少年院を活用して更生を目指すべきなのです。

子どもたちは、少年院の中で様々な気付きを得ます。悪いことをしたから罰で罪を償うために少年院に行くのではなく、そこで彼らが気付きを得て、更生の機会を得る場所が少年院です。

少年院自体が支援です。だから今も支援の途中です、と、私は上司に伝えました。

----------

堀井 智帆(ほりい・ちほ)
元福岡県警少年育成指導官
1977年、横浜市に生まれる。西南女学院大学福祉学科卒業。児童養護施設勤務をへて、福岡県警察本部北九州少年サポートセンター勤務。少年非行の根っこに寄り添い、その背後にある虐待の問題に取りくむ。2020年10月、NHKテレビ「プロフェッショナル 仕事の流儀」に出演、大きな反響をよぶ。2022年、同センターを退職。現在はフリーの立場で子ども相談、講演活動などを行う。著書に『非行少年たちの神様』(青灯社)。

----------

(元福岡県警少年育成指導官 堀井 智帆)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください