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「上級国民の特権」をこれ以上増やすべきではない…日本が「二重国籍」を導入する巨大リスク

プレジデントオンライン / 2023年8月17日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yobab

日本では法律上、二つ以上の国籍を持つことが認められていない。そのため、多重国籍を認める法改正を求める声もある。評論家の八幡和郎さんは「二重国籍の場合、課される義務は一人分だが、得られる権利は二人分に近く不公正だ。テロや脱税の温床になるリスクも問題で、世界的にも規制する動きが強まっている」という――。

■蓮舫氏は二重国籍が発覚し、台湾籍から離脱

7月にインターネットテレビ局ABEMAのニュース番組「ABEMA Prime」(アベマプライム)に出演して、二重国籍問題を論じた。

私は2016年に、民進党代表選挙に立候補していた蓮舫参議院議員(当時の本名は日本人としては村田蓮舫、台湾人としては謝蓮舫)が二重国籍であることを発見し糾弾したことがあり、その経緯は『蓮舫「二重国籍」のデタラメ』(飛鳥新社)にまとめている。蓮舫氏ははじめ否定していたが、結局、法律で義務づけられている国籍選択をしていないことを認め、台湾国籍から離脱手続きをした。

このとき、政治的には大問題になったのに、マスメディアはセンシティブだとして、大々的には取り上げなかった。当時、私自身もテレビ番組出演時に、この問題には触れないようにと念を押された。

海外では、一般的に二重国籍が認められていても、政治家となると別であるケースが多い。オーストラリアでは、発覚して議席を失った人もいるし、英国のボリス・ジョンソン元首相も、地位が上がっていく過程で米国籍を放棄した。まして、隠すなどありえない。

■二重国籍に反対するのは「不公正」だから

ABEMAの番組では、女性弁護士で、米国籍を現地で取得し、日本国籍を喪失した近藤ユリさんが、二重国籍擁護派を代表していた。帰国しているときに日本旅券が有効期限を迎えたため、更新しようとしたら、外務省から日本国籍を失っていることを告げられ、再発行をしてもらえなかったという。

日本国内では現在、このように外国籍を取得し、自動的に日本国籍を失った人などが、国籍法の規定によって二重国籍が認められないのは憲法違反だとして、複数の民事裁判を起こしている。

しかし私は、むしろ、リベラルな立場から「二重国籍は公正さを欠く」として反対している。自分のフランス生まれの息子が二重国籍になる可能性があったため、自分の問題としても利害得失をよく知っている。本稿では、この主張の根拠を紹介したい。

■二重国籍を認めるようになった歴史的背景

国籍の基本的な機能は、その国に住むことが保証され、海外にあっても本国政府の保護を受けられることだ。ところが、民主主義になると、参政権と兵役の義務が加わり、第一次世界大戦では仏独などの二重国籍者が厄介なことになった。

1930年に国際連盟の会議で「国籍抵触条約」が結ばれて、単一国籍を原則としつつ、現実に存在する二重国籍への対処が定められた。

欧州諸国では父系主義(出生地にかかわらず、父親の国籍を与える考え方)だが、米国などの新大陸では出生地主義(出生した国の国籍を与える考え方)が主流で、移民がなかなか自国の国籍を取ってくれないので、二重国籍にも寛容になったようだ。

戦後は、男女同権が進展したので父系主義が取りにくくなり、二重国籍が増えている。蓮舫氏の場合、生まれたときは父親の「中華民国籍」に入ったが、法律が改正されたので日本国籍も取得し、成人しても国籍選択をしていなかった。

■フランス、アメリカでは二重国籍を規制する動き

一方、移民規制や脱税などの犯罪防止の観点で、二重国籍を認める範囲を狭くする動きがある。フランスでは出生地主義と血統主義の両方を採用しており、フランスで生まれた私の長男は将来、フランス国籍を取得する権利があった。しかし、反移民法と言われる1993年のパスクワ法の成立で、18歳になるまでに5年間の居住が必要になり、権利がなくなった。

最近ではテロ対策でさらに規制が強化され、国籍が剝奪されることも増えている。また、米国は、二重国籍を認めてはいるが、「方針としては支持していない」と米国大使館のホームページに明記しているし、大統領選挙に名乗りを上げている共和党のデサンティス・フロリダ州知事は、出生地主義の廃止を公約とし、移民・難民の子に米国籍を与えないことを主張している。

在日米国大使館・領事館の公式サイトより
在日米国大使館・領事館の公式サイトより

欧米、とくにヨーロッパでは、兵役義務が二重国籍の抑制要因になっていたが、多くの国で停止され、二重国籍から生じるデメリットが一つ減った。ただし、国民意識の低下を防ぐため、男女とも対象にした徴兵制(実質は軍事訓練)を復活させる傾向があり、事態は複雑だ。

■例外の場合も20歳になるまでに選択を迫られる

伝統的に東アジアは単一国籍で、中国は厳格に運用している。日本に帰化したのに、それを隠していると財産を没収されたりするケースもあるようだ。台湾は国民の数を多くみせたいといった狙いがあり、二重国籍を認めている。

韓国は2011年、李明博大統領のときに、新自由主義的な発想で経済やスポーツ系の人材を誘致するため、限定的に二重国籍を認めた。

日本の国籍法は二重国籍を認めていない。例外は、両親の国籍が違う場合とか、出生地主義の国で生まれた場合で、当初は22歳、2022年4月の民法改正以降は20歳に達するまで、重国籍となった時が18歳以上であるときはその時から2年以内に「国籍選択」をすることが求められる。日本国籍とイラン国籍の二重国籍だったダルビッシュ選手のケースが話題になったことを記憶している人もいるだろう。

 

日本国籍を選択したら、もう一方の国籍を離脱するように努める義務があるが、徹底されていないのは、離脱することが許されない国があったり、多額の時間と費用がかかったりするため強制していないからだ。

また、女性が国際結婚すると、自動的に夫の国籍が与えられるイスラム国などの場合、本人にどちらかを選ばせるのは酷かもしれない。

■「権利は2人分、義務は1人分」はアンフェア

正義の観点から二重国籍が好ましくないのは、二人分の権利を行使できる一方、義務は一人分でいいことがほとんどだからだ。選挙権はどちらかにすべきだし、旅券も一つにするか、少なくとも同時に二つを平行して使うのは禁止すべきだ。

日米で就労ビザなどをとらずに働けるのは、本人にとっては得だが競争相手にとっては、アンフェアである。テロ対策について考えると、日本政府が例えば北朝鮮などへの渡航を自粛するように求め、渡航したら把握できるようにしても、二重国籍の人がもう一方のパスポートを使うと追跡できない。脱税の温床にもなる。

反対に義務が二人分になることは少ないが、面倒なことはたまに起きる。近年、両親がフランス人で米国生まれ、フランス在住の二重国籍者が、突然、フランスの銀行から「あなたは米国民として納税番号の登録をせずブラックリストに載せられているので、当行ではあなたに融資すると米国から制裁を受ける可能性がある」とローンを拒否される事件が続発した。

また、欧米は徴兵制を停止しているだけだから、もしベトナム戦争のような状況になった場合、二重国籍者が入国したら徴兵されるかもしれない。ただ、普通は、権利は二人分、義務は一人分に近い。

■ルールは徹底しつつ、例外には柔軟に対応すればいい

日本が世界から優秀な人材を集めるのに二重国籍が必要かといえば、決してそうではない。永住権で十分だ。一時的に日本代表になってもらったり企業で働いてもらうために、韓国人のスポーツ選手や技術者に、韓国に忠誠を誓ったまま、一生使える日本国籍をプレゼントする必要などない。韓国では国籍取得のときに、かなり丁寧な忠誠宣言を強いているのだから馬鹿げた話だ。外国人に日本に来てもらうためには、重国籍を認める前にいくらでもすることがある。

外国に帰化した人の日本国籍剝奪は徹底すべきだし、国籍選択しないまま放置すれば、国籍は失うということでいい。日本国籍を選択したのにもうひとつの国籍を離脱しない場合には、国籍選択を取り消せばいい。現在の正直者が馬鹿を見る状況は正義に反する。

一方で、ブラジルやアルゼンチンのように相手国が国籍離脱を認めない場合は、一定の条件で例外を認めるとか、離脱のために面倒な手続きが必要であれば、政府として手続き面や費用面で援助する仕組みをつくるべきだ。

いったん外国に帰化したり、国籍選択をしないまま外国籍となった日本人が、事情があって日本国籍への復帰を希望する場合には、無条件ではないにしろ、あまり負担がかからずに認められる仕組みを用意すればいい。

■政治家や国家公務員は二重国籍禁止にすべき

政治家や国家公務員については、二重国籍の人は排除すべきだ。少なくとも、立候補時や採用時に隠していたら、当選や採用を無効にすべきだ。

また、合法的な二重国籍者でも旅券の二重発行は制限すべきで、日本旅券を発行するときは外国旅券を預かるか、海外へ行くときは両方を持つことを義務づけ、帰国時にはそれをチェックするといったこともテロ対策上は必要だ。

ここまで、二重国籍に反対する理由を説明してきたが、もし「日本は二重国籍を認めてもいいか」と尋ねたら、賛成する人も多いだろう。その理由のひとつは、韓国・朝鮮や台湾、中国などの国籍を持ち、「心は韓国(台湾、中国……)人で現在の国籍は保持したいが、日本人としての権利は享受したい」という人を応援したい人がいるからだ。

しかし、それ以上に重要なのは、米国など生まれで外国籍を持っていたり、新たに外国籍を取得したのにそれを隠している人たちの存在だ。

■「上級国民」の特権をさらに増やしていいのか

こうした人は、日本に本拠を置いて米国に規制なしに出入りできるので、両国を股にかけて働くことができ、非常にお得である。「米国の国防省の予算をもらいたいから」とか言う人もいる。

本人は海外に住んで外国籍を取りたいが、親が日本国籍離脱を嫌っていて板挟みになるので二重国籍を認めてほしいというケースもある。当然、そういう人は、国際ビジネスマン、留学経験者、そして官僚や政治家の縁者に多い。あまり好きな言葉でないが、いわゆる「上級国民」である。

本人にとっては、二重国籍が認められれば権利は二人分、義務は一人分なので好都合だろうが、それは特権以外の何物でもない。また、両親の国籍が異なる子供に、母親と父親どちらの希望を叶えるか選択させるのは気の毒だと言う人もいるが、家族のどちらの希望に沿うか選択しなければならない場面はいくらでもあるのに、国籍だけは例外である必要などない。

■「忖度」で容認することはあってはならない

ただ、政治家も官僚もジャーナリストや学者も、親戚や友人にそういう状況にいる人が多ければ、「法律で認められていない二重国籍者を放置するな」とか言いにくいし、「二重国籍を認めるような法改正をしてあげたらどうか」と言いがちだ。

逆に、私のように二重国籍についてネガティブな主張をしていると、いろんな人が「そんなことは言わないでほしい」と頼んでくることがある。私は、それは正義に反するから受け付けないが、政治家などに規制を強化すべきだと意見すると、「私の親戚にも二重国籍で困っている人がいるからなあ」と難色を示されることが多いのである。

このように上級国民の中で「忖度(そんたく)」が進み、二重国籍を容認する方向へ進むことはあってはならない。とくに政治家や官僚には、二重国籍のリスクを正しく認識し、現行のルールを徹底することが求められている。

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八幡 和郎(やわた・かずお)
徳島文理大学教授、評論家
1951年、滋賀県生まれ。東京大学法学部卒業。通商産業省(現経済産業省)入省。フランスの国立行政学院(ENA)留学。北西アジア課長(中国・韓国・インド担当)、大臣官房情報管理課長、国土庁長官官房参事官などを歴任後、現在、徳島文理大学教授、国士舘大学大学院客員教授を務め、作家、評論家としてテレビなどでも活躍中。著著に『令和太閤記 寧々の戦国日記』(ワニブックス、八幡衣代と共著)、『日本史が面白くなる47都道府県県庁所在地誕生の謎』(光文社知恵の森文庫)、『日本の総理大臣大全』(プレジデント社)、『日本の政治「解体新書」 世襲・反日・宗教・利権、与野党のアキレス腱』(小学館新書)など。

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(徳島文理大学教授、評論家 八幡 和郎)

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