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友達と遊びたいなら電話すればいいのに…高校生がわざと「自分の位置情報」をさらして声がけを待つ理由

プレジデントオンライン / 2023年8月19日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/west

Z世代の若者たちの間で「位置情報共有アプリ」が人気を集めている。なぜ現在地を共有したがるのか。芝浦工業大学の原田曜平教授は「位置情報アプリ『Zenly』は高校生5人に1人が利用する人気アプリだった。2023年2月にサービス停止となったが、若者のニーズは高いままで、次々と新しいアプリが生まれている。背景には、誘いを断られたくない、傷つきたくない、友情を深めたいというZ世代の心理がある」という――。

■スマホの充電残量まで他人に公開していた

2023年2月、女子中高生を中心に人気を集めた位置情報共有アプリ「Zenly」(ゼンリー)がサービス終了になりました。Zenlyはフランス発のSNSで、2019年ごろから日本の若者の間に一気に広がりました。

自分の現在地を公開し、つながっている相手が今いる場所も地図上で確認できます。自宅や学校、職場も共有できますし、滞在時間や、移動中の場合は移動速度、スマホの充電残量までわかります。

ゼンリーのプレスリリースより。
画像=ゼンリーのプレスリリースより。

サービス終了の発表に若者はとても失望していました。サービス終了が発表された時点で、日本の実業家インフルエンサーが買収を検討したり、世界中で複数の類似アプリが乱立したりしました。それほど若者はZenlyを利用していたのです。

なぜ今の若者たちは位置情報を共有したがるのか、昭和世代にはとても理解できません。「位置情報の共有なんて、24時間監視されているみたいじゃないか」「奥さんに浮気防止目的で見張られているんじゃあるまいし」と抵抗を感じる人は多いでしょう。僕もその一人です。

ところが、ネット上からZenlyが消えても、若者たちの「位置情報を共有したい」という気持ちはそう簡単になくなりません。むしろ共有する対象は位置情報にとどまらず、さまざまな分野に広がっている実態が見えてきます。企業側もこうしたZ世代の心理を突いたアプリを次々とリリースしています。どれも「次のZenly」の座を狙っているのです。

本稿では、「Z世代が位置情報を共有したがる理由」を読み解いていきます。

■アプリは高校生の5人に1人が使っていた

サイバーエージェントによる2022年9月の調査によると、16歳から24歳までの若者におけるZenlyの使用率は、11.1%。若者の10人に1人は使っていたことを考えると、決して小さい数字ではありません。

さらに、対象を高校生に絞ると、使用率は約20%に倍増します。SNSの利用率は概して女子のほうが高くなる傾向があるなか、Zenlyは男女で同程度に利用されていたことも、見逃せません。高校生の5人に1人が自分の位置情報を喜々として晒(さら)していたことが分かります。

驚いたのは、Zenlyを使っていない若者たちも、位置情報を共有すること自体に抵抗はなかったということです。僕が実際にインタビューしたZ世代の若者たちも、「別に位置情報を共有してもいいんじゃないですか」「必要がないから自分は使ってないけど、Zenlyを使う気持ちはわかりますね」というスタンスが大多数でした。一部の若者だけに人気なのかと思いきや、ZenlyはZ世代に広く支持されていました。

■位置情報を共有する理由

「位置情報を共有する」と聞くと、Twitter(現X、本稿ではTwitterと表記します)やFacebook上の「渋谷なう」という投稿、あるいは一昔前に「エアポート投稿おじさん」と揶揄(やゆ)された「いま空港です」といった投稿を思い浮かべる人もいるかもしれません。

たくさんの人に自慢したい、みんなからすごいと思われたい、という心理が、投稿の背景にはあるでしょう。

しかし、若者がZenlyを使ってリアルタイムで位置情報を共有する理由は、これとは全く異なります。友達との待ち合わせが楽。遊びに誘う時、「今ヒマ? 何してる?」といちいち聞かなくて済む。彼氏に送ったLINEに既読がつかなくても、既読スルーされることを無駄に心配しなくていい。若者からは、こうした声が聞かれます。

この背景には何があるのでしょうか。僕は3つの理由があると考えています。一つ目は恋愛観の変化です。僕のような昭和世代の若い頃は、結婚という絶対的ゴールに向かって、「どれだけたくさんの人と付き合ってより良い相手を見つけ出すか」という社会的競争がありました。まだ付き合っているだけの相手から束縛されようものなら競争で不利になりますから、「浮気防止ツール」(そう思ってしまいます)などまっぴらごめんです。

スマホでGPSアプリを使用中のイメージ
写真=iStock.com/Suwaree Tangbovornpichet
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Suwaree Tangbovornpichet

一方、Z世代の若者は、価値観の多様化に伴って、結婚に対する社会的プレッシャーが弱まっていると感じています。マッチングアプリなどを通じて気軽に出会える時代になりました。選択肢が増えたことで、目の前の恋愛にガツガツする必要がなくなった。今の若者はかえって、その時々の相手との関係を楽しもうとしているように思えてなりません。

■「広く浅い関係」より「深く狭い関係」を求めている

2つ目の理由は、若者たちの「人間関係」によるものです。

以前、「ネットだけの『広く浅い人間関係』にはウンザリ…Z世代が『本当の友情』を求めて始めた4つのトレンド」でも触れたように、SNSによって人間関係が「広く浅く」なった反動が表れていると考えられます。

Twitterやインスタグラム、TikTokなどのSNSが浸透し、大勢の人とつながることが可能になった結果、交友範囲は広くなりました。顔の見えない、知らない相手であっても気軽につながれるようになった分、リアルな友人に割ける時間も少なくなり、関係性は浅くなりました。

不特定多数とゆるくつながる、その反動として、一部のリアルな友達と深くつながるために、位置情報をお互いに共有し、友情を確かめ合う――。位置情報にはそんなZ世代のインサイト(心理)が隠されているように思います。

■Z世代は「本物の友情」に飢えている

3つ目は新型コロナによる行動制限の影響です。ただでさえ一人の友達に割く時間が減り、関係性が希薄になるなか、リアルな友達にすら直接会えない期間が長く続きました。

こればかりは今の若者も、昔の若者と同じなのでしょう。本当に欲しいのは、自分のことをよく理解してくれて、なんでも話せるような、深い絆です。

「自分が今どこで何しているか」を共有するということは、そもそも親密な相手としかできないことですし、関係性をさらに深めることにもつながります。

「位置情報の共有」が若者の間で大流行しているのは、深い人間関係を築きたいという若者のニーズであり、アプリがちょうどいい受け皿になったと言えるでしょう。

■共有するのは「位置情報」だけにとどまらない

「インサイト」という言葉があります。この言葉はマーケティングにおいて、一つひとつの流行現象を生み出す背景にある人々の根源的なニーズや意識を表します。1個1個のトレンドは何の脈略もなく発生しているように見えても、実際にはひとつのインサイトが複数のトレンドを生み出している可能性があるのです。

Zenlyを流行させたインサイトは、「深い人間関係を築きたい」という若者の心理でした。Zenlyが今年2月にサービスを停止しても、このインサイトは健在です。親しい人との人間関係を維持し、深めるためのアプリが、どんどん登場しています。

今、大ブレイクしているのは「BeReal」(ビーリアル)です。最大の特徴は、インスタのような写真の加工ができないこと。投稿できるのは1日1回で、アプリの通知が来てから2分以内に、その場で撮った写真を投稿するのがルールになっています。

その瞬間にスッピンだったとしても、盛ることはできません。さらに外側のカメラと内側のカメラの両方で同時に撮影されるので、今どこで、何しているかが相手にバレバレです。通知が送られる時間はランダムなので、食事中かもしれないし、入浴中かもしれない。僕は、シャワーを浴びている時に通知が来て、バスタオル姿のあられもない写真を投稿したことがあります。

■昭和世代には「相互監視」に見えてしまうが…

投稿するといっても、不特定多数に公開するわけではありません。写真が共有されるのは、つながっている数人の親しい友人だけに限られます。2分以内に投稿できない場合は、次に自分が投稿するまで、友人の写真を見ることができないペナルティーもあるのです。

「相互監視じゃないか」と感じる人もいるでしょう。しかし、若者たちは、純粋に楽しいゲームとしてこのアプリを活用しているのが実態です。

僕の周りの学生たちは、通知が来ると「ヤバい、ヤバい、どうしよう」と大盛り上がりです。授業中やバイト中もやっているようで、正直、教壇に立つ身としては、イラっとすることもあります。

MIXI(ミクシィ)が今年3月からサービス提供をはじめたmiatto(ミアット)もじわりと人気を集めています。これは最大6人までつながれるコミュニケーションアプリです。

5月には、位置情報を基にした「ステータス機能」が新たに導入されました。Zenlyのように具体的な住所情報ではなく、自宅、学校、勤務先、外出中という大まかなステータスを表示することによって、「プライバシーを守りながらもリアルタイムの状況を伝えることができる」(公式ウェブページ)といいます。

mixiのプレスリリースより。
画像=mixiのプレスリリースより。

プライバシーを守りながらステータスを共有……。僕は「なんという矛盾だ」と思ってしまいます。不特定多数に対してプライバシーは守りながらも、親しい人にはシェアしたいのが若者の心理なのでしょう。

■アバター、タスク管理、SNS疲れ用の共有アプリも登場

韓国の20~30代の間で口コミで広がり、日本のZ世代にも波及したBondee(ボンディー)も「次のZenly」を狙うアプリの一つです。メタバース空間に自分のアバターを登場させ、自分が今なにをしているかをアバターで表現できます。こちらも、つながる人数を50人までに制限されており、親しい友人としかつながることはできません。

位置情報やステータス情報ではなく、「タスク管理」を共有しようというアプリまで現れました。Habitica(ハビティカ)は、自分一人でも使えるアプリですが、若者たちは「早起きする」「ダイエットする」といった目標を、親しい数人の友達と一緒に立て、お互いに励まし合うという使い方をしています。

「SNS疲れ」に対応した共有アプリも登場しています。TapNow(タップナウ)は友達が送ってきた写真を自分のスマホのホーム画面に大きく表示される写真共有アプリです。友達を検索したり、メッセージのやり取りをしたりする機能がないのが特徴です。仕事中に友達から変顔の写真が送られてきて、上司に見られたら……なんて僕は心配してしまうのですが、若者には親密感が受けているのだと思います。

■いまはクローズドSNSの時代

Twitter、インスタグラム、TikTokといった従来のSNSは、不特定多数への発信を基本とし、多くの人と広く浅くつながることができる「オープンSNS」でした。

ところが、BeRealをはじめとするこれら新興SNSはすべて「クローズドSNS」です。つながる人数をあえて限定し、外には発信せず、自分たちの輪のなかだけで交流する――目的は、深く狭い人間関係を育むことです。

クローズド化の波は、従来のオープンSNSにも押し寄せています。インスタグラムは、親しい友達にだけシェアすることができる「ストーリーズ」機能をいち早く追加。これは、アメリカで人気のクローズドSNSのひとつ、Snapchat(スナップチャット、略称スナチャ)の台頭に対処するための動きでした。2022年にはTwitterも、公開範囲を制限できるサークル機能を付けました。

閲覧できる人を限定する「鍵アカ」も多くなっています。2020年の調査によると、Z世代はインスタグラムのアカウントを平均2.3個持っているそうです。1個は鍵をかけず、キラキラした自分を不特定多数に発信するためのアカウント。もう1個が、鍵をかけて、仲の良いリアルの友人とだけ気楽に交流するためのアカウントです。

■共有していれば「傷つかずに済む」

「仲良くなりたいならアプリなんてやっていないで、電話でもかけて一緒に遊びにいけばいいのに」と昭和世代の人たちは思うかもしれません。

しかし、自己肯定感が低く、親しい相手にも過度に気を使い、傷つきやすいのが今の若者の特徴です。邪魔したくないから、電話はしない。誘って断られたら傷つく。傷つきたくないからこそ、クローズドSNSのニーズがあるのです。

相手の位置情報や状況を自分のスマホで把握できれば、「家にいるってことは、今なら遊びに誘っても断られづらいかな」「近くに来てるなら声かけてみようかな」というように、できるだけ相手に迷惑をかけないようにしながら、OKをもらえる確率を高めたうえで、連絡を取ることができます。

あるアプリ開発会社の知り合いが、こうしたアプリの特性を「計画的セレンディピティ」と表現していました。セレンディピティとは「偶然の産物」との意味です。一見矛盾する造語ですが、できるだけ断られずに、傷つかずに遊びに誘いたい若者には、こうしたアプリが不可欠なアイテムなのだと感じます。

学生たちの団体を上から見ている
写真=iStock.com/urbancow
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/urbancow

■アプリを使った「裸の付き合い」

クローズドSNSは、ゲーム性が高いのも特徴です。時間制限のあるBeReal、友達と一緒にモンスターと戦うHabitica、友達のスマホ画面にドッキリを仕掛けられるTapNow……。ゲームをするかのようにSNSをすれば、傷つく危険を冒してまで遊びに誘わなくても、相手の時間を長く奪わなくても、一緒に遊び、友情を深めることができます。

コミュニケーション方法は違えども、広く浅い人間関係ではなく、深いつながりが欲しいのは、いつの時代も変わりません。昭和風に言うと、「裸の付き合いがしたい」。クローズドSNSの流行からは、こうした若者の心理が見えてきます。

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原田 曜平(はらだ・ようへい)
マーケティングアナリスト、芝浦工業大学教授
1977年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーを経て、現在はマーケティングアナリスト。2022年より芝浦工業大学教授に就任。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。主な著作に『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(幻冬舎新書)、『パリピ経済 パーティーピープルが経済を動かす』(新潮新書)、『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)、『寡欲都市TOKYO』(角川新書)、『Z世代に学ぶ超バズテク図鑑』(PHP研究所)などがある。

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(マーケティングアナリスト、芝浦工業大学教授 原田 曜平 構成=奥地維也)

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