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「アマゾンプライム年会費は1万4900円になってもおかしくない」経営コンサルがそう予想する"複合的理由"

プレジデントオンライン / 2023年8月15日 11時15分

米アマゾン・ドット・コムの物流施設に掲げられた同社のロゴ(フランス・オニー) - 写真=AFP/時事通信フォト

アマゾンプライムの年会費が4900円から5900円へと引き上げられる。経営コンサルタントの鈴木貴博さんは「そもそも日本の年会費は欧米に比べてとても安い。来年以降、追加で値上げをすることは十分考えられる」という――。

■「お急ぎ便無料」だけで元が取れているはず

Amazonプライムの年会費が現在の4900円から5900円に値上げされることが発表されました。

「いよいよ来たか」

というのが私個人の正直な感想です。月額契約の方は500円から600円に値上がりになります。

Amazonプライムはアマゾンのプレミアム会員サービスです。アマゾンは公式には国別の会員数を公表していませんが、2021年にメディア・パートナーズ・アジアとインテージが行った調査では日本には1460万人の加入者がいると推定されています。

私も会員のひとりです。Amazonプライムに加入する一番のメリットがお急ぎ便の配送料無料です。アマゾンのアカウントサービスのマイページを確認すると私の場合、この4カ月で配送料が7210円分お得になったと表示されています。私の場合、昨年も1年間で2万円以上配送料が得になったと表示されていました。コンスタントにアマゾンを利用する顧客はこの配送料無料だけで年会費の元が取れているはずです。

■年会費4900円はお得な価格設定だった

次に会員がよく使うのがPrime Videoです。『シン仮面ライダー』などの新作映画、『推しの子』などの人気アニメ、『バチェラージャパン』などアマゾン独自制作作品などの動画コンテンツが無料で視聴できます。

我が家ではアマゾンのFire TV Stickという別売りのデバイスを大画面テレビにつけることで、こういったコンテンツを日常的に楽しんでいます。このPrime Videoのコンテンツラインナップがいいことが日本でネットフリックスやディズニー+(プラス)などの動画配信サービスが伸び悩んでいる一因でもあります。

これだけ便利なサービスですから年会費4900円というのはお得な価格設定で、それが月100円、ないしは年1000円値上げされると聞いても正直、

「仕方ないな。便利だし、値上げラッシュのご時世だから」

と思います。日本では値上げをしても解約せずにそのまま使い続ける人が大半になると予測します。

とはいえこの先、ディズニーランドのように毎年値上げが行われるのでしょうか? そして他のサブスクサービスにこの値上げの動きは広がるのでしょうか? この先どうなるのか? 3つの疑問について予測してみましょう。

■来年以降も追加の値上げリスクがある

1.Amazonプライムはこれからも値上げが続くのか?

Amazonプライムはこれから先も、さらに値上げが続くのでしょうか? 私は以下の理由からAmazonプライムには来年以降、追加の値上げリスクがあると考えます。

今回の値上げの要因のひとつが物流業界の2024年問題です。物流に関わる従業員の残業規制が強化されることで、業界全体に人手が不足すると見込まれています。

宅配便を受け取る人
写真=iStock.com/show999
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/show999

「アマゾンの場合は宅配を個人事業主に頼んでいる例も多いので、2024年問題は関係ないんじゃないの?」

と思われる方もいらっしゃるかもしれません。法律上は個人事業主は自分が雇い主なのでどれだけ過重労働をしても法律の抜け穴になるという指摘があります。一方でアマゾンの宅配をする自動車の事故も社会問題となっています。

この点については物流業界の働き方改革の観点では脱法行為として捉えられるでしょう。同時に物流以外の業界でも個人事業主という契約を悪用した過重労働について問題になっています。

そのため、個人事業であっても労働についての規制は来年以降間違いなく強まるでしょう。基本的にはアマゾンも2024年問題の影響を受けることになり、その観点から今回値上げが行われたというのがひとつめの側面です。

■値上げすればアマゾンの利用者はさらに増える

一方でこれは逆説的な現象になるのですが、値上げ後はアマゾンの利用者がさらに増えるでしょう。コロナ禍による引き籠りや夏の酷暑の際に外出を控えるといった事情から、ここのところインターネット通販の需要が急増しています。

問題はそこにAmazonプライムの値上げが加わることで、消費者心理的には、

「年会費を払っているのだから元をとるためにもっとアマゾンを使おう」

という行動が起きることです。結果、来年の今ごろは今年よりもさらにアマゾンの配送網は忙しい状況になっているはずです。

とはいえAmazonプライムの配送料無料はグローバルに提供している人気コンテンツです。であるがゆえに「それを止める」という決断は日本では難しいでしょう。そうなるとやれることは年会費を上げて少しでも配送問題を緩和するという考えです。

配送キャパシティのひっ迫がどうしようもないほどの大問題になる状況が発生すれば、プライムの会費をとんでもない価格にまで値上げすることすら起こりえます。会員数を減らすのが解決策になるからです。このように物流にこれから起きる問題を念頭におくと、プライムの値上げはこの先も続く可能性が予測されるのです。

■日本のプライム年会費は海外よりはるかに安い

2.その場合、どこまで値上げが続くのか?

日本のAmazonプライムについては実は隠された問題があります。それは海外よりもはるかに安い年会費で運営されているということです。

アメリカでは2022年にAmazonプライムの年会費は139ドルに引き上げられました。実はこのとき日本以外の多くの国で年会費の値上げが行われ、その幅は20%から43%の幅でした。

今回日本の年会費が4900円から5900円になるということは約20%の値上げですから、昨年の各国の値上げ幅と比較すると少ない方に分類されます。

そして問題は年会費の絶対水準です。8月12日、為替レートが一時1ドル=145円台に突入しましたが、144円で計算するとアメリカの年会費139ドルはちょうど2万円に相当します。欧州の各国でもだいたい1万5000円前後がプライム年会費の相場です。日本は先進国の中では飛びぬけて年会費水準が低い国です。

積み重ねて置かれたコインの上に日本円のマーク、背景は為替チャート
写真=iStock.com/MicroStockHub
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MicroStockHub

■5900円は値上げの始まりのレベル

さらに為替レートの変遷を考えるとおかしな逆転現象が起きています。かつて円が強く、1ドル=80円だった時代の年会費3900円は、米ドル換算で49ドルになりました。ところが1ドル=144円で計算すると5900円に値上げをしても41ドルにしかなりません。

アメリカのアマゾンの幹部から見れば、

「49ドルだったのが41ドルになるのではむしろ値下げじゃないか。アメリカ並とまではいわないが、少なくとも欧州並の100ドル近辺までは行ってもいいんじゃないか?」

という議論が始まったとしても不思議はありません。

そうなるとAmazonプライムは年会費1万4900円ぐらいまでありえるという議論になるのですが、そこまで行くと日本人のアマゾン離れが起きるので、経営陣も途中で踏みとどまることにはなるでしょう。ただ前提として5900円というのはまだ値上げの始まりの金額レベルでしかないのだと覚悟しておく必要はありそうです。

■アマゾン以外のサービスもどんどん高くなる

3.他のサブスクはどうなるのか?

アマゾン以外のサブスクがどうなるかというと、基本的にはこの先、どのサービスもどんどん高くなると考えたほうがいいと思います。理由はインフレに伴う日本の賃金上昇です。コストが上がればどの企業もそれを値上げで取り戻したいと考えます。

その際に、普通の売り方であれば値上げは販売減につながるため、多くの経営陣が悩みに悩み抜きます。

ところがサブスクは普通の売り方と違って、値上げをしても値上げ幅ほどは売上数量が減らない傾向があります。そうなる理由は販売後に消費者がそのサブスクのサービスにロックインされるからです。

クレジットカードを片手にオンライン決済をする男性の手元
写真=iStock.com/damircudic
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/damircudic

ではどのようなサブスクサービスが値上げされやすいのでしょうか? 値上げは「これ以上会員数が増えるのは難しいな」と考えるサービスから行われる傾向があります。

たとえば今年2月にスポーツ分野の動画配信大手のDAZNが月額料金を3000円から3700円に値上げしました。実はその1年前の2022年2月に1925円から3000円へと大幅に値上げしたばかりのことでした。わずか2年でほぼ倍に値上げをしたことになります。

このような値上げでは新規の顧客獲得は難しくなります。それでも新規の顧客獲得がもう難しいところまで来たと経営陣が考えた場合には、利益を増やすには値上げが一番役に立つのです。

■ネットフリックスが「実質値下げ」をした背景

一方でまだ会員数が増えると経営陣が考えている場合は、値上げ幅はマイルドになります。2015年に950円だったネットフリックスのスタンダードプランはその後、何度かの値上げを繰り返して1490円にまで値上がりしました。

ところがこの段階で世界的にネットフリックスの会員数が頭打ちになるという現象がおきました。まだ会員数は拡大できる余地が大きいと考えた経営陣は実質値下げを行いました。それは990円のベーシックプランの画質を上げて実質的にスタンダードプランと内容が大きく変わらなくしたことと、その下に790円の広告付プランを導入したことです。

これらの事例から見れば、動画配信にせよ、ゲームにせよ、音楽にせよ、アプリにせよ、この先会員数がまだまだ増える激戦区ではサブスクは据え置きないしは実質値下げに、そしてもう会員数が増えない状況では値上げに向かいます。そして業界全体で見ればインフレと賃金上昇でサブスク価格の平均値は値上げ方向に動きます。

さて今回のAmazonプライムの値上げのニュースについて、このように値上げのメカニズムをまとめてみました。便利なサービスですからなるべく値上げしてほしくはないところですが、経済環境的には仕方のない事情がたくさんあるわけです。しばらくは日本全体で我慢が必要な局面が続きそうです。

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鈴木 貴博(すずき・たかひろ)
経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』など。

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(経営コンサルタント 鈴木 貴博)

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