上司は「部下の悩み」を解決してはいけない…「1on1のプロ」が警告する部下の可能性を潰す4つの質問
プレジデントオンライン / 2023年8月23日 14時15分
■1on1ミーティングがうまくいかない根本原因
「ありたい姿がないメンバーはどうすればいいか」「1on1ミーティングの最後に次回までの実践について訊いても、メンバーには『言わされ感』があり、前向きなアクションプランを引き出すことができない」
こんなお悩みをよく聞きます。上司がメンバーのために質問しても、メンバーからはポジティブな答えが返ってこないループに陥っているとすれば、その真因と、背景にある上司自身の心の動きを理解することが大切です。
上司が「このメンバーにはありたい姿がない」と思う時、メンバーは「ビジネスパーソンとして、ありたい姿をしっかり持っているべきでしょう?」という、上司からのある種の圧を感じるかもしれません。上司が心の深いところでメンバーを認めていなければ、メンバーがありたい姿に想いを馳せるのは難しくなります。
「こんな職場や働き方は、自分には合っていない」「あんなふう(人)にはなりたくない」という言葉を聞くことがありますが、それはその裏側に「本当はこんな職場で、こんな働き方ができたらいいな」「こんな人に憧れるな、本当はこんな自分になりたいな」という想いがあるということではないでしょうか。
■部下の可能性を潰してしまう4つの質問
つまり、どんな人にもありたい姿はありますが、それがどんなものかを自覚できていないことがあるということを意味しています。したがって上司には、「ありたい姿を一緒に明らかにしていこう」というスタンスが大切になります。
しかし私たちは、「相手をコントロールしよう」としたり、「人間は感情の生き物である」ことを忘れたりしがちです。それにより、上司がメンバーにやってしまいがちな、ありたい姿が引き出されない質問をしている可能性があります。それは、次の4種類の接し方です。
①理想的な結果について訊く前に、アクションプラン(解決策)についてばかり質問する
②上司が期待するあるべき姿(正解)に導こうと、誘導尋問をする
③上司がメンバーの悩みを解決しようとして、情報収集や仮説検証の質問をする
④「なぜ・なぜ」と、原因論型の質問で追い詰めてしまう
■「あるべき姿」ではなく「ありたい姿」
①理想的な結果について訊く前に、アクションプラン(解決策)についてばかり質問すると、ありたい姿は引き出されない
「どうすればいいと思う?」とアクションについてばかり質問すると、「それがわからないから相談してるのに……」とメンバーはフリーズしがちです。それよりも「何かしら良い方法が見つかったとして、結果的に、どうなったら嬉しい?」のように理想的な結果について質問すると、メンバーは視界が開けてきます。
ところで、理想的な結果について質問しても、時に「そうですね、こうあるべきだとは思うんですけど……なかなか難しいんですよね」といったふうに、重たい空気になることもあります。なぜでしょうか。
私は、「ありたい姿」と「あるべき姿」を明確に使い分けることをお勧めしています。ビジネスでは往々にして「あるべき姿」を掲げますが、コーチングでは「ありたい姿」を明確にするサポートをします。
■心理的安全性を考慮するには
「あるべき姿」には「正解」「望ましい合理的な状態」といったニュアンスを感じませんか? 一方、「ありたい姿」には「本人にとって価値ある答え」「本人が心から望む状態」といったニュアンスがあります。つまり、ありたい姿はメンバー固有の価値観が満たされた状態で、「嬉しい」「楽しい」などのポジティブな感情が湧くため、実現のために行動せずにはいられないものです。
「イベントの幹事を適切にやって」と言われただけでは、ポジティブな気持ちでは動きにくいですが、「人生の恩人である主賓の○○さんには、どうしても喜んでほしい!」というありたい姿(理想的な結果)が明確な時は、「少なくともこれだけはやりたい!」など、内側から動きたい気持ちが溢れてくる、といったことです。
したがって、理想的な結果についての問いにメンバーが重たい雰囲気で答えるのは、「あるべき姿を問われている」と誤解しているから、ということになります。
ありたい姿は本人の中にしかなく、上司の中にはありません。したがって上司にできることは、「“正解”は言わなくていいよ」と誤解を解くことと、メンバーが安心して自問自答に没頭できる環境を用意すること。そしてメンバーの自問自答を促す効果的な質問を提供し、その答えを勇気づけることです。
メンバーからなかなか答えが出ないと焦るよりも、メンバーには「自分のペースで自分ならではの答えを見つけてほしい」といったスタンスで、ゆったり接することが大切です。そして、1回の1on1ミーティングで、ありたい姿が明らかにならなくても大丈夫です。自問自答の答えが出ていない時は、他のことをやっていても潜在意識が考え続けるといわれているからです。次回のセッション時やふとした瞬間に答えが見つかることがあるのも、コーチングの特徴です。
■モチベーションを下げてしまう質問
②上司が期待するあるべき姿(正解)に導こうと誘導尋問をすると、ありたい姿は引き出されない
上司がメンバーをあるべき姿に誘導するのは、ティーチング的アプローチと言えます。上司としては、会社の方針に従うため、またメンバーを失敗させないための使命感や愛情からかと思います。
上司の誘導尋問でメンバーが答えたものは、世間的には正解であっても、メンバーの価値観から出たありたい姿とは異なります。ゆえにモチベーションは湧きません。さらに、正解を「言わされた」となると、メンバーは良い気持ちはせず、やらされ感や反発心が生まれることもあります。
1on1ミーティングの目的である「メンバーが自身のありたい姿に自律的に成長するのを支援する」関わりとは異なることになります。「それではメンバーが勝手なことばかり言ったらどうするんですか?」と怒られるかもしれませんが、1on1ミーティングで話す内容は「メンバー本人にとって重要なこと(含プライベート)、感情、価値観、本質的な気づき、ありたい姿などについて」であり、基本的に緊急対応やリスクの高い案件などではありません。
一般的な面談で話題になる「主に目標達成や問題解決の方法、日々の仕事の進捗や緊急対応など」とは異なりますので、1on1の場ではメンバーの本心を大いに話してもらって問題ないのです。メンバーが自ら気づいたアクションプランを実行した結果、うまくいってもいかなくても、それについて次回の1on1で深掘りし、学びや気づきを深めながら真にありたい姿に近づいていきます。
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■上司は一生懸命になってはいけない
③上司がメンバーの悩みを解決しようとして情報収集や仮説検証の質問をすると、ありたい姿は引き出されない
上司が解決しようとしていますので、コンサルティング的アプローチと言えます。なお、仮説検証の質問とは、「結局、こういうことが問題なんじゃない?」のように上司が正解と思っている答えを確認する質問です。
メンバーは情報収集ばかりされると、尋問されているような気持ちになりかねません。また、上司の力で素晴らしい解決策を出したとしても、メンバーの価値観に基づいたありたい姿ではありませんので、メンバーが自ら動きたいとはならないのです。
そして、上司が解決に一生懸命ですと、メンバーに当事者意識がなくなり、依存心が出てくる可能性もあります。
■1on1ミーティング本来の目的とは
なぜ上司は自ら解決したくなるのでしょうか。その理由は3つ考えられます。
1つは、これまで常に自ら解決してきましたし、メンバーに相談されたら解決してあげるのが上司の役割だと思っているから。
2つ目には、メンバーより自身の方が高い解決力を持っていると考えているため。これらは、重要かつ緊急な「一般的な面談」においては素晴らしい上司力(解決力)を発揮していると言えますが、1on1ミーティングの目的とは異なります。
そして3つ目には、メンバーの問題を解決してあげないと、上司としての存在意義が薄まってしまうという恐れから。1on1の場では、問題解決してあげなくても、上司の存在価値が失われることはありません。やはり、「メンバーが自身のありたい姿に自律的に成長するのを支援する」という1on1ミーティング本来の目的、サポート役であることを思い出す必要があります。
■「解決」に焦点をあてるべきではない
④「なぜ・なぜ」と原因論型の質問で追い詰めてしまうと、ありたい姿は引き出されない
「なぜそんなことになったの?」「なぜ毎回、同じことが繰り返されるの?」
このように「なぜ・なぜ」と原因を追求していく問答は多くの場面で目にします。これは「原因論」的アプローチといえます。上司はメンバーの問題解決を手伝おうとしているのですが、メンバーは責められたと感じます。
一方、「そんなことになって、どんな気持ち?」「本当はどんな風になったら良さそう?」
このような問いかけは、“メンバーがそんな気持ちを感じるのは、本当は何を得たいからなのか”を質問しており、「目的論」的アプローチといえます。
![本田賢広『1on1ミーティングの極意』(ワン・パブリッシング)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/2/1200wm/img_0242b35517bb0e77523033e653e32d27182874.jpg)
原因論的アプローチは、物理的な問題解決には大変有効ですが、人に対して上記のような使い方をすると、メンバーの意欲を削ぐ結果になりかねません。
ありたい姿とは「本人にとって価値ある答え」「本人が心から望む状態」、言い換えると私たちが欲する「目的」であるため、コーチングでは目的論的なアプローチが有効であるということになります。
それによりメンバーは上司への信頼を深め、自らのありたい姿に気づき、主体的になっていきます。
コーチングは「解決」ではなく、「人、気持ち」に焦点を当てて行います。これは極めて大切なポイントです。
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エグゼクティブコーチ
セブンフォールド・ブリス代表取締役。国際コーチング連盟(ICF)マスター認定コーチ。1994年東京大学工学部卒、三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行。外資系生保などを経て、2012年、セブンフォールド・ブリスを設立。グロービス経営大学院MBA。エグゼクティブコーチとしてのセッション時間は3000時間超。研修講師としても、メガバンク、大手生保、大手IT企業、製薬メーカーなどにおいて、延べ登壇回数は2500回を超える。
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(エグゼクティブコーチ 本田 賢広)
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