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「パチンコ依存→借金→コンビニ強盗」という悪循環…世界でも類を見ない「ギャンブル大国・日本」という現実

プレジデントオンライン / 2023年8月18日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/aluxum

ギャンブル依存症の患者が増えている。国⽴精神・神経医療研究センターによると、2013年度の患者は1123⼈だったが、2020年度には3954人となっている。読売新聞メディア局の染谷一さんは「要因の一つは、これまでギャンブルと依存の関係がきちんと研究されてこなかったことがある。パチンコやスロットを依存症の元凶と糾弾しても根本的な解決にはつながらない」という――。

※本稿は、染谷一『ギャンブル依存』(平凡社新書)の一部を再編集したものです。

■パチンコ依存→借金→コンビニ強盗

運用方法に課題はあるにしても、生活保護というシステムがあり、国民皆保険に守られている日本でも、ホームレスが後を絶たない現実を踏まえ、独自に「ギャンブル依存症問題研究会」を立ち上げた「ビッグイシュー基金」は2016年、ギャンブル問題当事者の体験談集『ギャンブル依存症からの生還――回復者12人の記録』を発行した。

「高校生のときにパチンコにはまり、消費者金融からの借金を重ねて、最後にはコンビニ強盗で逮捕された20代男性」「育児ノイローゼのため、子供を預けて逃避したパチンコがやめられなくなり、やがて精神科にかかって安定剤の薬剤治療を受けつつも、泣きながら打ち続けた40代主婦」……。

掲載された体験談を目で追っているだけで、読む側の胸は張り裂けそうになる。さらに、ビッグイシュー基金は、2015年、18年の2度にわたって冊子『疑似カジノ化している日本』を発行し、気鋭の学者らと一緒に、統計的な根拠などに基づいてギャンブル依存の問題を多角的に検証した。

GDP世界第3位の先進国が「国家的疑似カジノ」とはなかなか過激だが、まとめられたデータを見る限り、それが決して大げさではないことが理解できる。

■世界でも突出したギャンブル依存の割合

たとえば、各国の「ギャンブル障害(依存)」の有病者割合。アメリカ0.42(ラスベガスに限ると3.5)パーセント、カナダ0.5パーセント、英国0.5パーセント、スイス0.8パーセントなどの数字が並ぶが、日本はなんと3.6パーセントだった。

アジアでも、カジノが盛んなマカオでさえ1.8パーセントなので、日本の突出ぶりは際立っている。しかも、日本国内の2008年の調査にさかのぼると、男性9.6パーセント、女性でも1.6パーセントと、目を疑うような結果が出た。電子ギャンブル機数は米国の5倍、イタリアの10倍以上驚くデータはまだある。

もともと、ギャンブル(賭博)は、伝統的にルーレットやカードなどのテーブルゲームが主流だった。日本でも、江戸時代にはサイコロを使った「丁半賭博」、昭和になると「花札」「賭けマージャン」が中心だった。

ところが、1990年代からは、スロットマシンなどに代表されるEGM(ElectronicGamingMachine)、いわば電子ギャンブル機が、世界的に広がりを見せた。

「ゲーム機械世界統計2016」の国別EGM設置台数によると、米国86万5800台、イタリア45万6300台、ドイツ27万7300台などの2位以下を大きく引き離し、日本は457万5500台。文字通り、桁違いの結果となっている。それがパチンコ台、パチスロ台であることに疑問を挟む余地はない。

■街のあちこちにあるギャンブル施設

国ごとの調査方法の違いを考慮したとしても、ビッグイシュー基金が「日本は疑似カジノ化している」と断言していることは大げさではなさそうだ。

限られたエリアにギャンブルの機会が凝縮する海外のカジノとは違って、日本国内では人の集まる場所には、必ずといっていいほどギャンブル施設が点在する。これはパチンコだけの問題ではない。

最近は減ってきたものの、かつては街のあちこちに麻雀荘があった。そこでは、仲間内だけのゲームにとどまらず、居合わせた者同士が現金を賭けて卓を囲む「フリー麻雀」が当たり前のように行われていた。

昭和の人気作家、阿佐田哲也は、小説の登場人物にこう言わせた。

「お前もそうだろうが、俺も小さい時から博打場で育った。博打ってものア、大きな顔で人前でやるもんじゃねえって教わってきた。俺たちはいつもコソコソ、裏街道を歩いてきたもんだ。ところが、有難え世の中になったもんじゃねえか。戦争に負けたおかげで、大通りに堂々と、博打宿が出せるんだとよ。俺ァ夢みたいだぜ」(『麻雀放浪記㈠青春編』角川文庫)

■日本だけの異様な光景

今でも、都会や地方を問わず、学校の近くだろうが、病院の近くだろうが、大通りに堂々とギャンブル施設がある。阿佐田いわく、「大きな顔で人前でやるものではないと教わってきた」にもかかわらず――。そんな国は、世界を探しても、おそらく日本ぐらいのものだろう。

だからといって、パチンコ・パチスロ店、競馬や競輪などの公営ギャンブル、麻雀荘、さらに宝くじをやり玉に挙げても意味はない。法律の範囲で、ささやかなスリルを良識的に楽しんでいる愛好者もいて、ギャンブルにおける一喜一憂が日常生活のアクセントになっていることも忘れてはいけない。

「依存の元凶」として、パチンコやパチスロばかりを頭ごなしに糾弾しても解決につながらないし、そもそも法的には「3店方式による遊戯」を標榜している以上、現状では強制的に規制をかけたり、閉店させたりすることなどはできるわけがない。

さらに、機器メーカー、パチンコ・パチスロの店舗、景品交換所などで働く人には、自分の生活を守る権利がある。わずかなお小遣いで「遊戯」を楽しんでいる人だっている。問題は、日常の風景となっているギャンブル(遊戯)施設ではなく、依存を生み出す構造のほうだ。

■誰も調査をせず、状況を把握してこなかった

日本におけるギャンブル依存の高さの原因の一つには、これまでギャンブルと依存の関係がきちんと研究されてこなかったこともあるという。

東京大学の米本昌平客員教授は「これまでは、ギャンブル依存に至る実態については、だれもまともに研究してこなかった。スイスでは、カジノ導入の際、入念に調査をした上で十分に議論し、連邦の賭博法として施行した。そこには、賭博の主催者がとるべき措置や、依存症などの危険防止についてまでも詳細に記されている。日本でも、今後の政策立案の根拠になるように、学術的な研究に取り組むべきだ」と指摘する。

さらに、1960年代から70年代の公害問題を例に挙げて、こう付け加える。「当時の環境学者で公害問題研究家の宇井純さんは、環境汚染は単に規制をする前に、しっかりと調査をすることで、不思議ときれいになっていくもの、と指摘していた。今まで、だれも調査をせず、きちんと状況を把握してこなかったことも、現在のギャンブル問題を大きくしている」

カジノで彼のお金を失う男
写真=iStock.com/sanjeri
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sanjeri

■ギャンブル依存をなくすために必要なこと

2020年2月、20年度の診療報酬の改定が決まり、「ここに来て」というか、「このときだから」というか、ギャンブル依存の治療に保険が適用されることが決定した。

昭和大学附属烏山病院の常岡俊昭医師は「ギャンブル依存が精神疾患であることを、国が認定したことは大きい。患者・家族だけでなく、精神科の医療従事者への啓発としての効果も期待できます」と歓迎する。

一方で、「ギャンブル依存の治療には、自助グループや回復施設のほうに実績があります。診療報酬がつくことで、医療機関が患者を囲い込んだり、自助グループの力を衰退させたりする方向に進んではならない」と、保険適用となったことへの懸念も話す。

ギャンブル依存に対する医療の役割は、川の流れに例えると、もっとも下流における対処だ。本当に必要なのは、もっと上流で「大人が良識の範囲で楽しめる順法的なギャンブルの存在」「依存しそうな人を、事前に救済する仕組み」「反社会勢力に金が流れ込まないような構造」をつくること。そのために、日本の独自性を考慮しながら時間をかけて調査を行い、現状をきちんと把握することが、まず必要なはずだ。

■IR事業推進のためのアリバイなのか

染谷一『ギャンブル依存』(平凡社新書)
染谷一『ギャンブル依存』(平凡社新書)

図らずも、「カジノを含む統合型リゾート(IR)」をめぐって、2019年末には、現職の国会議員が収賄容疑で逮捕された。そこに巨額のギャンブルマネーによる「おいしい利権」が埋まっていることが、皮肉にも国民の代表によって明らかにされてしまった。

つまり、あまりにも唐突にギャンブル依存の治療が保険適用になったのは、「IR事業を進めるためのアリバイづくり」と勘ぐることもできる。苦しむ人が減るのであれば、アリバイづくりだって歓迎だが、そもそも依存に苦しむ人を減らす工夫こそが、カジノ導入の前に必要ではないか。

「統合型リゾート」などと「きれいなイメージ」で経済効果を訴える前に、「ギャンブルにおける日本の特殊性」をきちんと理解し、時間をかけた調査研究を先行すべきであることは、この国の現状を見れば明らかだ。これ以上、日本の「疑似カジノ化」を進めないためにも。

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染谷 一(そめや・はじめ)
1961年東京都生まれ。84年、大学卒業後に渡米し、ウエストヴァージニア大学大学院修士課程を修了(Master of Arts)。専攻は文学・言語学。88年、読売新聞社(現 読売新聞東京本社)入社。医療情報部(医療部)、文化部などを経て、2015年から調査研究本部主任研究員、医療ネットワーク事務局専門委員、メディア局専門委員として勤務。現在は主に医療・健康のニュース情報サイト「yomiDr.」でコラムの執筆などを行う。精神・神経分野への関心が強く、科学の面だけでなく、社会学、心理学の側面からも医療取材を続けている。

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(染谷 一)

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