まさかの生き残り計画も…四面楚歌ビッグモーターに数百億円貸している"メガバンク"が悶絶する大人の事情
プレジデントオンライン / 2023年8月15日 14時15分
■四面楚歌のビッグモーターの現状
ビッグモーター(以下、BM)の問題が大きく取り上げられています。修理に預けられた車を故意に傷つけ保険金を多く請求するという詐欺的行為や、店舗前の歩道にある街路樹を枯らせるなど言語道断と言っていい行為を繰り返していたわけで、経営コンサルタントとしてももちろん許せる話ではありません。そして、世間の大きな関心のひとつは、この後、BMの命運はどうなるのかということでしょう。今回は、財務状況などを勘案しながら、今後を占っていきたいと思います。
BMは上場していないため、正確な財務状況は分かりません。ここで説明するのは、あくまでも新聞やテレビで報道されている内容がベースで、その報道内容も推測の域を出ないことをあらかじめご了承ください。
まず、売上高ですが、昨年度で5800億円程度といわれています。そのうちの大半が中古車の販売です。記者会見で兼重宏行社長(当時)が修理部門を「2%程度」という話をしていましたが、売り上げの大部分(9割程度)が中古車販売で、残りが修理や保険販売などと考えられます。
中古車販売の利益率は車によって大きな差があると考えられますが、競争の激しい業界でもあり、おおむね15%から20%前後であると見られます。粗利率がその程度だと仮定すると、ざっくり1000億円程度を全事業から得ていると考えられます。
一方の経費ですが、従業員が正社員5000人、非正規従業員が1000人の合計6000人と同社ホームページにはあります。給料は比較的高いと言われており、正社員の年収が平均800万円、非正規社員の年収が500万円と仮定すれば、450億円程度の人件費がかかっていることになります。
また、よく見かけたテレビCMなど広告宣伝費も膨大な額、おそらく年間で数百億円程度に達するはずです。他に、店の維持費や賃借料、店舗設備などの減価償却費などを考えると、あくまで推測ですが、全体で700億から800億円程度の経費がかかっており、営業利益で200億から300億円程度と推測できます。税金を30%程度と考えると、純利益でざっくり150億円から、200億円程度と考えられ、営業キャッシュフローも同程度だと推測できます。つまり、1年でそれくらいのキャッシュフローは通常の営業活動で稼いでいたということです。
■急拡大のため3メガバンクなどから数百億円借り入れ
BMは膨大な広告宣伝費を投じるとともに、店舗を急拡大することで業容を拡大していました。300店舗を超える店舗を擁しています。
店舗拡大には、土地の取得とともに、店舗建設の費用が必要となります。土地は賃借物件が多いと考えられますが、店舗は自前で立てる必要があります。また、拡大にともなう人件費の増加もあり、いずれにしても多額の資金が必要なことは言うまでもありません。
![ビッグモーター 宇都宮鶴田店(写真=Asanagi/CC-Zero/Wikimedia Commons)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/e/1200wm/img_0e86592d39233386a3de0681dcc7d371502578.jpg)
店舗展開で事業を拡張するビジネスモデルの場合には、店舗建設のためや中古車の在庫確保のために、先に資金が必要なことが多いのです。BMのホームページには、取引銀行として、三井住友、広島、三菱UFJ、みずほ、中国の各銀行名が取引銀行として記載されています。他にもあると記されています。通常は関係の深い順に記載することが多いので、これが融資順位に近いと考えられます。
山口県岩国市がスタートのBMですが、当初は地元の取引銀行で資金を賄っていたのが、業容拡大によりメガバンクなどと取引を拡大していったと考えられます。
融資残高を推測するのは難しいですが、3メガバンクを含むこれだけの銀行と取引があることを考えれば、数百億円規模の借り入れがあると考えて間違いはないでしょう。8月11日付けの日経朝刊では昨年9月末で600億円規模の借入れがあったとされています。
先にも述べましたが、店舗拡大をともなう業容の拡大を行う場合には、多額の設備投資資金が必要になるとともに、在庫の維持や人件費などの資金も必要となるため、数百億円規模の借り入れを今でも長短合わせてしていると推測できます。
つまり、のちに詳しく述べますが、同社の命運を握っているのは、各銀行の融資姿勢だと言えます。
■生き残りをかけて中古車の買い取りに活路
評判の急激な悪化により、業績が大きく落ちていることは間違いありません。
具体的には、この状況でビッグモーターに修理や車検を出す人はいないでしょう。私の知り合いも、同社に車検に出したら、法外な費用を請求され、さんざん交渉しても一切それには応じず泣く泣く支払ったと言っていましたが、もともと評判が悪い同社に、今後修理や車検を持ち込む人はまずいないと考えられます。
さらに、損保各社も、深い関係を取りざたされている損保ジャパンはじめ、代理店契約の継続は難しいと考えられます。金融庁が調査に入っていますが、金融庁としてもある意味メンツがつぶされたわけですから、別に起こっている損保各社の談合問題も影響し、今後はビッグモーターと関わりを持たない方向で進むものと考えられます。
注目は、中古車の買い入れ、販売の事業です。このうち、この状況で中古車をBMから買う人も減少する、少なくとも当面は激減すると予想できます。さらに、中古車にローンをつけるリース会社も、BMとの関係を見直す動きが進んでおり、また、広告掲載も手控えの動きが出ていることともあいまって、中古車販売も当面は苦境に立たされることは間違いないでしょう。
![ビッグモーター 半田店(写真=HQA02330/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/6/1200wm/img_f68d0cdb10bd7eb38f2228ac27dbe34f453499.jpg)
中古車の買い取りはどうでしょうか。こちらも取り扱いは減ると考えられますが、ある程度はビジネスを維持できるかもしれません。買った後で値引かれるなどの苦情は出ているようですが、とにかく他社よりも数万円高い値段を提示すれば、車を売る人は一定数いると考えられます。
中古車市場はクレームの多い業界ですが、消費者からのクレームのうち約2割はビッグモーターに対するものだと言われています。違う見方をすれば、残りの8割は他社だということで、ある意味クレームが絶えないマーケットだと言えます。その点を考えれば、他社に持ち込んでも似たり寄ったりで、そうなると買い取り価格が大きな決定要素です。
この状況でBMは、生き残りをかけて中古車の買い取りに活路を見いだそうとするでしょう。その際には、買取り後の値引きなどクレームの極力回避とともに、他社より少し高い値段での買い取りを行う可能性もあり、そうであれば、業容は縮小するものの中古車買い取りの事業はある程度は継続できると考えます。
もちろん、買い取った中古車を自社店舗で売却することは難しくなっているので、オークションに出品することで売却を行うものと考えられます。
■銀行の態度いかんで「生きるか死ぬか」が決まる
こうした状況の中で、利益、そしてキャッシュフローの確保ができるかというのが最大の焦点ですが、業容が大きく落ちている中での利益確保はかなり難しいと考えます。先に説明したように、中古車の買い取りおよびそのオークションへの販売である程度のビジネスはやれると思いますが、これまでのような利益確保は到底望むべくもありません。
また、従業員の給与のかなりの部分は歩合だったらしく、その引き留めのために、今後は給与の補塡(ほてん)を行うとBMは言っています。辞めた従業員が同社のことを非難することも多く、それを避けたい意味合いもあると考えられますが、これも資金負担がかかります。
![ビッグモーター岡崎店(写真=Evelyn-rose/CC-Zero/Wikimedia Commons)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/3/1200wm/img_f329c24f0a70513cb292416900a11dc0503114.jpg)
こういう点を考えれば、今後、銀行が融資を継続するかが焦点です。金融庁の保険を担当する部門と銀行を担当する部門はもちろん違いますが、金融庁は各取引行のBMに対する融資姿勢を厳しくチェックする可能性もあります。ただ、銀行としてはビッグモーターが破綻した場合には、十分な担保も取れていないでしょうから大きな損失が出るという問題があります。
こうした状況でBMの命運は取引銀行の融資姿勢にかかっていると言えますが、BMにとっては簡単な話ではないことは容易に想像がつきます。
8月10日にBMは都内で取り引きのある銀行団と会合を開き、8月半ばに期限を迎える借入金90億円の借り換えを要請したものの、銀行団はこれに応じない方針を伝えたとの報道がありました。
これを受けて、「犯罪行為をしたことが濃厚な会社にお金を貸さないでほしい」「反社的企業は救済しない、という判断を下すべき」といった声も上がっています。銀行も難しい選択を迫られています。
■兼重親子が保有する住宅などの財産を担保にするか
こうした中、前社長と前副社長の兼重親子は、BMの経営から退きました。責任を取った形にはなっていますが、経営責任は法的には追及できないということです。兼重前社長が保有するビッグアセットという資産管理会社がビッグモーターの全株式を保有しており、議決権を確保したまま経営責任から逃れた形となっています。
もちろん、BM株の価値が落ちた場合には、かれらの資産価値は減りますが、それだけで終わりということになりかねません。現場で器物損壊などの刑法犯が大量に出る可能性があるにもかかわらずです。
銀行は、BMの資金繰りを助けるのに際して、ビッグアセットが保有する(つまり兼重親子が実質的に保有する)住宅などの財産を担保に入れることを要求するかもしれませんが、法的にはその義務はありません。
いずれにしても、今後の銀行のスタンスとBMの命運に注目です。
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小宮コンサルタンツ会長CEO
京都大学法学部卒業。米国ダートマス大学タック経営大学院留学、東京銀行などを経て独立。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座2020年版』など著書多数。
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(小宮コンサルタンツ会長CEO 小宮 一慶)
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