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「静かに死を迎えさせてほしい」ほぼ寝たきりの34歳長女の元に行列のできる心療内科医が緊急往診した結果

プレジデントオンライン / 2023年8月16日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ChristianChan

66歳の女性には、子供時代から病弱で大学卒業後も働いたことがない34歳のひとり娘がいる。30歳以降、メンタルが不調でほぼ寝たきりで外出も一切できず、食事もろくに取れずやせ細っていくばかり。2年前には夫もがんで急死。自分の死後、娘は生活していけるのかと、不安を覚え、FPと医師に助けを乞うた――。

■66歳母「無職の34歳娘は私の死後も生きていけますか」

外出が一切できなくなってしまったひきこもりの長女(34)。長女は就労が難しいので障害年金の請求を検討しているが、病院に通院することもできない。一体どうすればよいのか? そのような相談を持ちかけてきたパートで働く母親(66)から、筆者は事情を伺うことにしました。

■家族構成
母親(66)年金受給者 パートで就労
長女(34)ひきこもり 無職
父親は2年前に死亡

■収入
母親のパート収入 月額6万円
母親の公的年金(老齢年金および遺族年金) 月額14万円

■支出
生活費など 月額16万円

■財産
貯蓄 1200万円
自宅土地 2500万円

長女は幼い頃から体が弱く、熱を出して寝込んでしまうことが多かったそうです。あまり社交的ではなかったので、学校では友達と遊ぶより一人で静かに本を読むことを好んでいました。長女は大学まで進学しましたが、生来のおとなしい性格のためか、就職活動はなかなかうまくいきません。

「私は会社に就職することは難しいかもしれない。それならば本を書いて世に送り出したい」

いつしかそう思うようになったそうです。大学卒業後は就職することなく、家にこもり本を読んだり物語を書いたりしていました。

両親には子どもが長女一人だったこともあり、長女に対して理解を示し、口うるさく言うことはなかったそうです。

そのような環境の中でも、長女は納得いく作品ができず、新人賞などに応募するほどの勇気もなく、ただただ時間だけが過ぎていきました。

「自分は一体どうなってしまうのだろう?」

漠然とした不安を抱えながら、何も進展がないまま長女は30歳の誕生日を迎えました。

そんなある日の夜。家族と夕食を取っていた長女は、突如頭から血の気が引いていく感覚に襲われてしまったのです。今までに経験したことのない強い不安感に包まれ、両手で頭を抱えこみ悲鳴を上げました。びっくりした母親は長女を自室まで連れて行き、休ませることにしました。

■パニック障害発症、最愛の父ががんで急死し病状は悪化

しばらく横になっていれば治るだろう。母親はそのように思ったそうです。

しかし、長女は起きている間ずっと理由の分からない不安感に悩まされ、落ち着きがなくなってしまいました。眠りが浅くなり、食欲は落ち、大好きだった本を読むこともできなくなってしまったのです。

長女が母親に強い不安感を訴え続けたため、母親の知り合いから紹介された心療内科を受診することになりました。

受診の結果、パニック障害と診断され薬を処方されました。しかし、ここで思いがけない事体が発生してしまいました。薬を飲んだところ、身体に赤い発疹(薬疹)がでてしまい、さらに胃の不快感や吐き気に襲われてしまったのです。食事もろくにとれなくなってしまい、長女はさらに衰弱していきました。

医師と相談して薬は漢方薬に変えてもらいましたが、恐怖心から毎日服薬することは難しく、体調は悪化していく一方でした。

さらによくないことは続きます。長女が32歳の頃、父親ががんで急死してしまったのです。

よき理解者だった父親の死に大きなショックを受けてしまった長女は容体が急速に悪化。気力を失い、食事もほとんど取れなくなってしまいました。長女は自室の掃除をすることもできず、布団は敷きっぱなしで、布団や床にカビが生えてしまったこともあります。入浴は月に1~2回あればいい方。湯舟につかると動悸(どうき)がしてしまうので、シャワーを少しだけ浴びる程度で済ませてしまいます。着替えも月に1~2回程度しかできませんでした。

シャワー
写真=iStock.com/OneForAll
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/OneForAll

父親の死後も、長女は母親の運転する車で通院していましたが、車の中で動悸や息切れ、強い不安感に襲われてしまうようになり、とうとう通院することもできなくなってしまいました。

通院もできず、食事の量が極端に減ってしまったため身体はやせ細り、ふらふらの状態になってしまった長女。心配した母親が「いっそのこと入院したらどうか?」と提案してみました。すると長女からは「薬は飲めないし、自分の体はもう駄目だと思う。お願いだからこのまま自宅で静かに死を迎えさせて欲しい。私の人生はもうそれだけしかない」といった返事が返ってきたそうです。そのようなこともあり、母親は無理に入院をさせることもできませんでした。

長女が一切外出できなくなってから2年が過ぎた34歳の頃。先々の収入に不安を覚えた母親は「長女は今後も就労することは難しいだろう。せめて障害年金を受給することができないだろうか?」と考えるようになったそうです。

■収入は月20万円、支出16万円だが…いつまで働けるか

現在は、母親のパート収入が月6万円、これに母親の年金と遺族年金が計14万円で、合わせて月20万円。一方、支出は16万円で、貯蓄が1200万円あり、持ち家で住む場所には困りません。ただ、今後、66歳の母親がいつまで働けるのか、また母親の死後、残された長女がひとりで生活していけるのか……。

母親は大きなため息をつきました。表情は暗く、疲労の色も見受けられます。大まかな状況がつかめた筆者は母親に質問をしてみました。

「障害年金を請求するためには医師の書く診断書が必ず必要になります。診断書を書いてもらうためには医師による診療を受けなければなりません。ご長女様は外出が難しいとのことですが、医師に診療してもらうこと自体は拒否していないのでしょうか?」

「長女に聞いてみないと分かりませんが……。それが通院と何か関係があるのでしょうか?」

「医師の診療を拒んでいないようであれば、自宅まで来てもらえる訪問診療が検討できるからです。訪問診療であれば、ご長女様が外に出ることなくご自宅で診療を受けられますし、診断書も書いてもらえます。新型コロナ発生以降、訪問診療をする医療機関も増えているようなので、検討の余地はあると思います」

「そのような方法があるのですね! 知りませんでした。もし長女が障害年金を受給できたとすると、金額はどのくらいになるのでしょうか?」

「そのためにはいくつかご確認させていただくことがあります」

筆者はそう言い、母親から長女の年金加入状況を聞き取ることにしました。

長女が初めて病院を受診した日は30歳の頃で国民年金に加入中。長女の国民年金は父親の生前までは保険料を納付しており、父親が死亡した後は免除の手続きをしたとのこと。以上のことから、長女は障害基礎年金を請求することになり、金額は次の通りになります。

■障害基礎年金の2級に該当した場合(月額換算)
障害基礎年金2級 6万6250円
障害年金生活者支援給付金 5140円
合計 7万1390円

■障害基礎年金の1級に該当した場合(月額換算)
障害基礎年金1級 8万2812円
障害年金生活者支援給付金 6425円
合計 8万9237円
※いずれも令和5年度の金額

金額の説明をした後、筆者は母親に言いました。

「まずはお母様からご長女様に訪問診療のお話をしていただき、ご長女様の同意を得るところから始めてみましょう。同意が得られたら、訪問診療先を探すことにいたしましょう」
「わかりました。長女にも話してみます」

母親は力強くうなずきました。

ベッドに横たわる女性
写真=iStock.com/Marjot
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Marjot

■患者を多数抱える心療内科医が緊急で駆け付けた理由

筆者との面談後。母親は長女に「障害年金を請求するためには医師の診療が必要であり、それは訪問診療でも構わない」ということを伝えました。通院でなくてもよいということに長女もびっくりしたようですが、無事、訪問診療に同意を示してくれました。

長女からの同意を得た後、母親と筆者はインターネットで訪問診療の圏内にある心療内科や精神科を探しました。すると該当しそうな医療機関が3つ見つかり、さらにそれぞれのサイトを見比べ、長女が「この先生に診てもらいたい」という病院に決めました。

さっそく母親が病院に電話をしたところ、看護師からは「現在込み合っているので、受診はかなり先になってしまうかもしれません」と言われてしまいました。

母親は一瞬目の前が真っ暗になってしまいましたが、すかさず「娘はほぼ寝たきりで、外出もまったくできません。食事もろくに取れず、やせ細っているのです」といった窮状を訴えました。すると「それは大変ですね。お子様の状況を医師に伝え、できるだけ早く診療できるように相談してみます」との回答を得ることができました。

母親が電話をしたその日の夜。医師から「時間外の往診になってしまいますが、できるだけ早く向かうようにします。ご家族様のご都合のよい日を教えてください」との連絡がありました。すみやかな対応に母親も長女も信頼を寄せることができ、この先生を選んでよかったと心から思ったそうです。

聴診器
写真=iStock.com/volodyar
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/volodyar

訪問診療当日。医師が長女の部屋に入ると、長女は布団の中で横になって休んでいました。その日は春の暖かい陽気に包まれていたのですが、長女は冬物の厚手の寝巻きを着ており、掛布団は厚手の冬ものを使用していました。

医師が来たことに気が付いた長女は、ゆっくりとした動作で上半身を起こしました。しかし長女の目は視点が定まっておらず、意識はもうろうとしています。とても医師と会話できる状態にはなく、医師の問いかけに対して弱々しい声で「はい。はい」と答えるのが精一杯。長女から医師に病状を説明することができそうもないので、母親が代わりに状況を説明することにしました。

あまりにも長女が衰弱していたので、医師からは入院も勧められたそうです。しかし長女は頑なに拒否したため、週に1回の訪問看護と2週間に1回の訪問診療で様子をみることになりました。

長女はうつ病の疑いがあると診断され、薬を処方されることになりました。薬への副作用を考慮し弱めの抗うつ薬を処方されました。それでも薬を飲むと薬疹が出て気分も悪くなってしまったので、後日医師と相談し、薬は漢方薬に切り替えてもらうことになりました。

■「障害基礎年金(月約9万円)が振り込まれました」

週に1回の訪問看護では、看護師による体温と血圧の測定をし、声かけもしてもらっています。

「体調はどうですか?」
「顔色が少しよくなってきたようですね」
「早くよくなるとよいですね」

看護師が親身になって声かけをしてくれ、その優しさに長女は少しだけ気力を取り戻していきました。とはいえ、食事の量はとても少なく、一日のほとんどを寝たきりで過ごしており、重い状態にあることに変わりはありません。

そのような長女の状況をふまえた診断書を医師に作成してもらい、筆者がその他の必要書を揃え、障害年金の請求を完了させました。

請求から4カ月がたった頃。母親から報告がありました。

「おかげ様で無事に障害基礎年金の1級が認められ、年金(月約9万円)が振り込まれました。ご相談する前は『通院しなければ障害年金は請求できない。もうどうすることもできない』と思っていたので、訪問診療のお話が出たときは暗闇の中から一筋の光が見えた気がしました。この度はご協力いただき、本当にどうもありがとうございました」

母親の声はとても嬉しそうでした。

せっかくなので、現在の長女の様子も伺ってみました。すると、長女は訪問診療や訪問看護をとても楽しみにしており、少しずつ気力が回復してきているとのこと。さらには「もう少し元気になったら、また大好きな本を読み始めたい」「先生(医師)や看護師の皆さんに読んだ本の話をしたい」と前向きな発言もするようになったそうです。

人の優しさに触れ、少しずつ元気を取り戻していく長女。その話を聞いた筆者の心も温かくなっていくのを感じました。

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浜田 裕也(はまだ・ゆうや)
社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー
平成23年7月に発行された内閣府ひきこもり支援者読本『第5章 親が高齢化、死亡した場合のための備え』を共同執筆。親族がひきこもり経験者であったことからひきこもり支援にも携わるようになる。ひきこもりのお子さんをもつご家族のご相談には、ファイナンシャルプランナーとして生活設計を立てるだけでなく、社会保険労務士として利用できる社会保障制度の検討もするなど、双方の視点からのアドバイスを常に心がけている。ひきこもりのお子さんに限らず、障がいをお持ちのお子さん、ニートやフリータのお子さんをもつご家庭の生活設計のご相談を受ける『働けない子どものお金を考える会』のメンバーでもある。

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(社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー 浜田 裕也)

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