妻が休むヒマもなく掃除をしているのにソファでゴロゴロ…そんな夫にイライラしなくなる成熟した思考法
プレジデントオンライン / 2023年8月26日 12時15分
※本稿は、和田秀樹『65歳から始める和田式心の若返り』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。
■掃除を手伝わずにゴロゴロする夫の価値観
1つ、質問です。自分が休むヒマもなく掃除をしているというのに、ともに暮らす人がソファでゴロンとしていたら、あなたはどう感じますか。
その答えで、先述した「かくあるべし思考」に縛られやすいかどうかが、だいたいわかります。
多くの場合、「かくあるべし思考」に縛られやすい人は、自分に厳しい一方で、人にも厳しくなっています。
たとえば、自分が掃除をしているときに、「夫がソファで寝転んでいるのを見ると無性に腹が立つ」という女性たちの嘆きを聞くことが、多々あります。
夫の気持ちばかりを代弁するつもりではありませんが、夫が掃除を手伝わずにゴロゴロしているのは、妻を挑発したいわけではないのです。
おそらく、部屋が散らかっていても気にならないだけでしょう。そんな夫に腹が立つのは、妻に「家はキレイにしておくべき」という思考の偏りがあるためです。
一方、掃除をしない妻に、「部屋が汚い」と文句をいう夫もいます。これも、夫の思考の偏りから出てくる言葉です。
「部屋はキレイなほうがいい」と思っていながら自ら動かず、妻に文句をいうのは、「掃除は女がするもの」という古典的な「かくあるべし思考」に囚われている証拠です。
■自分自身の決めつけが相手へのマイナス感情を生む
私たちは、怒ったりイライラしたりする際、つい「相手が悪い」と思いがちです。
しかし、人に厳しくなる本当の理由は、自分自身にあります。自分の「かくあるべし思考」が相手の言動に違和感を覚えて、思い通りに動かない相手にマイナスの感情を抱いてしまうのです。
そもそも、この世界に唯一絶対の正解はありません。自分には自分の価値観があるように、人には人の価値観があります。
そうだというのに、「自分は絶対に正しい」と一方的に思い込めば、相手の価値観を否定することになります。当然、否定されれば相手の心にも反発心が生まれます。
「自分のほうが正しい」
「いや、絶対に自分は間違っていない」
このように、「どちらが正しいか」という議論を続けても、解決はできません。
反対に、正しさで自分を縛れば縛るほど、不機嫌やストレスから逃れられなくなります。自由気ままに振る舞って、楽に生きているように見える他者を許せなく思えるのです。
■「まぁ、こんな人だからしかたがない」
「かくあるべし思考」から解放されるには、「人には人の価値観がある」ことを受け入れることです。それを理解すれば、他人の言動に振り回されずに済むようになります。
先ほどの夫婦の例でいえば、妻は自分が掃除をしたいときにして、やりたくないのならばやらなければよいでしょう。一方、夫は、部屋が汚れていて嫌ならば、妻に文句をいうのではなく、自ら掃除をすればよいだけの話です。
「自分がやりたいように生きる。そのかわり、自分の価値観を相手に押しつけない」と思えたとき、自分のなかの「かくあるべし思考」の多くが消えていくはずです。
では、相手が「かくあるべし思考」を押しつけてきたときには、どうすればよいでしょうか。それは、相手の発言を「スルーする(気にしない)」ことです。
相手の話を無視するわけではなく、「まぁ、こんな人だからしかたがない」と心の中で受け流し、口では「そうかもしれないね」といっておけば、相手と険悪になるのを防げます。
人間には、いろんな価値観があって当然です。他人にまで自分の価値観を押しつける必要はありません。感情的にならずに柔軟に対応できれば、気ままに生きている他者にも寛容になれるでしょう。
■ロシア・ウクライナ問題の本質
人の判断をゆがめてしまう不適応思考には、「かくあるべし思考」のほかに、「二分割思考」があります。
二分割思考とは、物事を白か黒かにハッキリ分けて考えてしまう極端な考え方です。
「敵か味方か」「正しいか正しくないか」「正義か不正義か」「善か悪か」「安全か危険か」など、中庸の考えを持たず、完全に2つに分けてしまいます。
たとえば、ロシアとウクライナの戦争に対する意見が、わかりやすい典型例です。
冷静に考えれば、戦争とは、どちらか一方が完全に悪で、もう一方が完全に正義ということはありません。ウクライナ侵攻によって大変な被害が出ているのは事実ですが、ロシアにしてみれば、元は同じ国だったという意識があるなど、それなりの言い分があったのでしょう。
ところが、そんなことを、たとえば私がテレビで発言したら、大変な騒ぎになってしまいます。日本人は二分割思考の人が非常に多いからです。「ロシアが100%悪で、ウクライナが100%正義」と思い込んでいる視聴者に向かって、
「まぁ、ロシアだって、ウクライナが西側につくとなれば、自国を脅(おびや)かされそうで怖いし、強い不安を抱えてしまったのではないでしょうか」
そんなことをいおうものなら、誹謗・中傷の嵐が吹き荒れるはずです。このように、他者を一方的に批判する人は、ほぼ間違いなく二分割思考に囚われています。
■長年親しく付き合ってきた友人と決裂しやすい人
加齢とともに、人は無意識のうちに、この二分割思考に囚われてしまいます。
理由は、脳の前頭葉が縮んでいくからです。前頭葉が衰えてくると、物事の決めつけが激しくなり、白か黒か、善か悪かで考えるようになりやすいのです。
たとえば、長年親しく付き合ってきた友人でも、「小さな約束を破った」「ささいな金銭トラブルがあった」など、誤解や行き違いと呼べる細かなことで、「あいつは許せん。二度と会いたくない」と決裂しやすくなります。こうして、味方である人も敵と区別してしまうので、孤立しやすくなるのです。
また、二分割思考の人は、自分に対する考え方も厳しくなります。何事も完璧に成し遂げようとする、完璧主義者になりやくなるのです。
しかし、老いると完璧にできないことが増えていくため、「オレは、こんなにダメになってしまった」と落ち込みます。また、「完璧にできないことはしない」と、100かゼロかで物事を決めるようにもなります。
■「限りなくグレーが広がっている」と考えられるか
二分割思考をする人は、思考の偏りが強いため、うつ病を発症しやすくなります。
しかも、その頑固さから、かかったら治りにくい、という傾向があります。
ですから、心の老い支度をするにあたって、この二分割思考に陥らない思考法を身につけることが大切です。
そのためにも、新しい考え方をもう一つ足していきましょう。「曖昧さへの耐性」です。つまり、白と黒の間に、グレーの部分があることを認めていくのです。
ちなみに、ひと言でグレーといっても、白に近い色から黒に限りなく近い色まで、無限にあります。思考のグレーの度合いをその都度柔軟に変えていけることを、専門的には「認知的に成熟している」といいます。
たとえば、人と話すときに、「3割は自分と違う要素があるけれど、7割は同じ」と思えば、相手の言葉にいちいち腹を立てずに済みます。
また、「嫌なことをよくいうが、よいところもある人だ」と思えば、相手を敵視せずに済みます。自分のことも「この歳で3割、うまくできれば上々」と認められれば、できることが広がります。
人の思考は、年齢とともに成熟するのではなく、放っておくと老化します。グレーの部分を認めることは、大らかな気持ちを育み、心の成熟につながるでしょう。
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精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)
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