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セブン&アイ、フジテック、ツルハ…日本の老舗企業が海外ファンドから狙い撃ちされている根本原因

プレジデントオンライン / 2023年8月18日 9時15分

株主総会後、記者会見するツルハホールディングスの鶴羽順社長=2023年8月10日午後、札幌市 - 写真=時事通信フォト

■タブー視されてきた「経営の不備」を突いてくる

アクティビスト(物言う株主)と日本の老舗企業との攻防が相次いでいる。対象企業の株式を大量に保有し、経営者との「対話」を通じて企業価値の最大化を働きかけるというのがアクティビストの論理だ。

しかし、経営者にとってアクティビストによる大量の株式保有は買収リスクを想起させる恐怖でしかない。両者の「対話」は、ぎくしゃくし、対立するケースが大半だ。なぜ日本企業はアクティビストに狙われやすいのか。

「アクティビストは老舗企業の経営者にとって、長年タブー視されてきたガバナンスの不備を突いてくることが多く、経営陣にとって“はいそうですか”と安易に与(くみ)せる提案ではない。言い方を変えれば、現在のガバナンスの否定であり、経営者の交代を伴うことが多い」(市場関係者)ためだ。

アクティビストは老舗日本企業が抱える古い体質を問題視しているわけだが、同時に問われているのは「会社はだれのものか」という形而上学的な課題でもある。

今年3月10日、戦後経済を代表する経営者のひとりが鬼籍に入った。セブン&アイ・ホールディングスの創業者、伊藤雅俊名誉会長が老衰のため死去したのだ。98歳だった。日本に初めて本格的なコンビニエンスストアを導入し、一大流通グループに成長させた立志伝中の人物だ。

■不可侵だった祖業にメスを入れた背景

歴史的な節目を感じずにはおれないが、その逝去と軌を一にして同社は傘下のイトーヨーカ堂の店舗を26年2月末までに2割超削減するとともに、グループ発祥のアパレル事業から完全撤退すると発表した。祖業にまでメスが入るリストラを決断した背景には、物言う株主(アクティビスト)による経営陣への強烈な圧力があった。

イトーヨーカ堂はセブン&アイの祖業で、東京・浅草の洋品店「羊華堂」がルーツ。グループにとってヨーカ堂の構造改革は長年の課題として認識されてきた。これまでも不採算店舗の削減等を繰り返したものの、収益は回復せず、22年2月期は112億円の赤字と2期連続の最終赤字に陥っている。

「ヨーカ堂は祖業ということに加え、店舗は地域経済と直結し、雇用維持の要請もあり、リストラは容易なことではなかった」(取引先金融機関関係者)という。

そうした構造改革の遅れに業を煮やしたのが、アクティビストとして知られる米バリューアクト・キャピタルで、22年2月には、75ページにも及ぶ公開書簡「セブン&アイ・ホールディングス グローバルチャンピオンとしての7―Elevenへの変革」を公表、セブン&アイの経営陣のみならず、一般投資家の意見を募る強硬手段に打って出た。バリューアクトとはどんなファンドなのか。

■「パフォーマンスじみた表面的な対話」と批判

バリューアクトは、米サンフランシスコに本拠を置くアクティビストで、2000年にジェフリー・アッベン氏によって設立された。運用資産は150億ドル(約2兆550億円)と、アクティビストとして有数の規模を誇る。「米国では2013年にマイクロソフトに投資し、指名する取締役を派遣して経営を上向かせたことで名をはせた」(市場関係者)という。

日本では18年から投資を行っており、オリンパスや化学メーカーのJSR、任天堂などに投資している。手法は、発行済み株式の5~10%程度を保有し、経営陣との対話を通じて企業価値の向上に関与する。いわゆる穏当なアクティビストに分類される。

しかし、今回のセブン&アイでの投資では、バリューアクトの要望に耳を貸さないことに腹を立て、強硬手段に出た。バリューアクトはセブン&アイの経営陣との対話について、「パフォーマンスじみた表面的な対話で批判を回避している」と批判する。これに対してセブン&アイ側は「コーポレートガバナンスが適切に機能した状況のもので経営を遂行しており、十分な回数、対話も実施している」と反論している。

■高度成長期に勃興したトップの交代期を迎えている

バリューアクトは公開書簡の中で、コンビニエンスストアのセブン‐イレブンに経営を集中し、祖業であるヨーカ堂をはじめとする非中核事業は売却するなど撤退を求めている。経営についても社内取締役が過半を占め、子会社の取締役との兼務も多く、利益相反の懸念があると指摘している。

また、今後の対応は、井阪隆一社長ほか4月から新たに代表権を持った創業家の伊藤順朗取締役に託される。05年のセブン&アイ発足以降、創業家の出身者が代表権を持つのは初めて。創業者・伊藤雅俊氏の死去とともに歴史の因縁を感じる。

日本の企業は、戦後の高度成長期に勃興した創業者が高齢となり、交代時期を迎え、改めて「会社とは誰のものか」という課題がクローズアップしている。創業者の中には「俺の会社だから……」との感覚が強く残る者も数多く残り、アクティビストと軋轢が生じやすい。

それを象徴するのが、アクティビストによるフジテック創業家会長追放劇だろう。エレベーター大手のフジテックは3月28日、創業家出身の内山高一会長を同日付で解職した。

■創業家vs.物言う株主の攻防は訴訟に発展

アクティビスト(モノ言う株主)として知られ、全株式の17%超を握る香港の投資ファンド「オアシス・マネジメント」が会社と創業家の間に疑わしい取引があると主張し、関係を絶つよう要求していたもので、内山氏とのすべての契約を解除するという。物言う株主の主張を会社側が受け入れるという、創業家にとって悪夢のような結末となった。

メガバンクの幹部は、「オアシスは17%もの株式を買い集めたのに対し、創業家の資産管理会社であるウチヤマ・インターナショナルは議決権ベースで6%強の株式しか保有していない。資本の論理では勝ち目がなかった。しかも、オアシスによる他の株主への働きかけは巧妙で、詰め将棋のように創業家を追い詰めた」と指摘する。

その手法のひとつが、独自のホームページを作成し、内山一族のフジテックの私物化を告発するキャンペーン展開だった。ホームページでは内山一族が私的利用を目的として東京・港区の超高級マンションを購入したり、内山氏の自宅(兵庫県西宮市)の庭の手入れにフジテックの制服を着た人物を利用したりする様子が開陳されていた。

だが、解任された内山氏も黙ってはいない。「会社と創業家の間の取引について、オアシスが事実に反する主張をしたことで名誉を傷つけられた」として名誉毀損(きそん)による損害賠償請求訴訟を5月、東京地裁に起こした。取締役会決議の無効確認訴訟や株主代表訴訟も提起する構えだ。フジテックと物言う株主の戦いは第2幕に入っている。

東京の夜景
写真=iStock.com/kyonntra
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kyonntra

■創業家による経営体制を批判されたツルハ

アクティビストと創業家が対立するケースはフジテックばかりではない。ドラッグストアの優等生、ツルハホールディングス(HD)は8月10日の株主総会で同じくオアシス・マネジメントに厳しい株主提案を突き付けられた。

結果はオアシスの提案がすべて否決され、会社側が提案した鶴羽樹会長ら現経営陣8人と新たな社外取2人の計10人の選任案が可決されたが、アクティビストとの対立は燻り続けそうだ。

オアシスは株主提案で「創業三家のツルハHDの株式保有比率は10%未満であるにもかかわらず、監査等委員以外の取締役5人のうち4人を創業三家が占めており、その選任プロセスに疑問が残る」「創業家による各子会社への過度な支配体制は、シナジーの発現を妨げ、ガバナンスの低下を招いた」と指摘していた。

ツルハHDは18年に愛知県地盤のビー・アンド・ディー、20年に福岡地盤のドラッグイレブンなど中堅ドラッグストアの買収を繰り返しながら規模を拡大してきた。傘下にはくすりの福太郎やレデイ薬局、杏林堂グループなどもある。

会長には創業家3代目の鶴羽樹氏が、社長には樹氏の次男である鶴羽順氏が就いている。また、「社外取締役には創業家と親密な関係にある人物や、ツルハのルーツである北海道財界と馴れ合い人事で選出された可能性がある」と、オアシスは指摘していた。

■今回は筆頭株主イオンが救世主となったが…

株主総会決議で鍵を握ったのは、ツルハ株の13%強を保有する筆頭株主のイオンが会社側に賛成票を投じたことだ。

イオンの賛成票には思惑も感じられる。イオンは傘下に業界最大手のウエルシアホールディングスを抱えており、市場では「ツルハとウエルシアが統合すれば年間売り上げ2兆円規模のドラッグストアが誕生する」(大手証券幹部)と、再編を予想する市場関係者も少なくない。イオン関係者からも今回の株主総会で会社側に与したことで「貸しをつくった」との声が聞かれる。

オアシスはツルハ株12.8%を保有する。一方、鶴羽家の持株比率は5%弱(有価証券報告書における上位10位までの大株主中)に過ぎない。オアシスの創業者兼最高投資責任者のセス・フィッシャー氏は、「ドラッグストア業界には再編が必要です。再編は顧客、従業員、債権者、株主など、すべてのステークホルダーに利益をもたらすものです」とコメントしている。

再編をめぐりアクティビストの要求は今後も強まると予想される。

■100年企業の多さ=旧態依然の体質も色濃い

世界中の100年企業のうち、日本企業は約4割を占めるとされる。それだけ旧態依然の会社が多いという側面があることは事実だ。とくに2015年6月から金融庁と東証が「コーポレート・ガバナンス・コード」を制定、適用開始して以降、アクティビストによる攻勢は強まっている。

日本にアクティビストが本格的に上陸してきたのは2000年代初頭からだが、その性格は大きく変化してきている。当初は、大量に買い付けた株式を高値で買い取らせる「グリーンメーラー」として登場したアクティビストだが、現在は企業価値の最大化を謳(うた)い、経営の選択と集中や再編を求めてくるケースが増えている。

一見、長期的な視野に立った要望へと軸足を移しているようにみえるが、依然として自社株買いや増配要求などの短期的な利益追求もみてとれる。「アクティビストの裏側は強欲な投資家であり、投資の回収に期限を設けている」(市場関係者)ためだ。

株式市場のデータボード
写真=iStock.com/lucadp
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/lucadp

一方、経営者側もアクティビストの圧力を受け、予防策も高度化しつつある。

ゴールデン・パラシュート(金の落下傘)、ティン・パラシュート(ブリキの落下傘)、シャーク・リぺラント(サメ除け条項、別名:モーゼの靴底)、スタッガードボード(役員改選コントロール)、スーパーマジョリティー(絶対多数規定)、チェンジ・オブ・コントロール(資本拘束条項)などメニューは多彩だ。

■「変わらぬ日本企業」にNOを突き付けている

ゴールデン・パラシュート(金の落下傘)やティン・パラシュート(ブリキの落下傘)は、大量の株式保有に備えて、企業の経営陣の解任に対して巨額な割り増し退職金を払う契約を設けておくことで、一般従業員に対する割り増し退職金をティン・パラシュート(ブリキの落下傘)という。

シャーク・リぺラント(サメ除け条項、別名:モーゼの靴底)は事前に定款に各種の規定を設ける戦術で、スタッガードボード(役員改選コントロール)は、全取締役が一度に選出されないように役員の改選時期をずらして部分的に選任を行うもの。スーパーマジョリティー(絶対多数規定)は、会社の支配権の変更に係る合併等の株主総会決議について、株主総会の3分の2あるいはそれ以上を擁するとする定款規定だ。

また、チェンジ・オブ・コントロール(資本拘束条項)は、企業の主要株主の異動や、経営陣の交替の際に、取引先とのライセンス契約や代理店契約等の重要契約が終了したり、長期債務の即時返済が発生したりするような仕組みを、契約の中に盛り込んでおく戦略だ。

日本企業に対するアクティビストの攻勢は、今後、さらに増加することは避けられないだろう。「変わらぬ日本企業」にNOを突き付けるアクティビストの姿は、市場の代弁者の衣を着ている。その是非は個々の投資家の判断に委ねられている。問われているのは古くて新しいテーマである「会社は誰のものか」であり、日本企業の競争力そのものだ。

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森岡 英樹(もりおか・ひでき)
経済ジャーナリスト
1957年生まれ。早稲田大学卒業後、経済記者となる。1997年、米コンサルタント会社「グリニッチ・アソシエイト」のシニア・リサーチ・アソシエイト。並びに「パラゲイト・コンサルタンツ」シニア・アドバイザーを兼任。2004年4月、ジャーナリストとして独立。一方で、公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団(埼玉県100%出資)の常務理事として財団改革に取り組み、新芸術監督として蜷川幸雄氏を招聘した。

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(経済ジャーナリスト 森岡 英樹)

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