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静岡県の仕事もJRになすり付け…リニア妨害のためなら「残土置き場」にもケチつける川勝知事の"知事失格”

プレジデントオンライン / 2023年8月21日 7時15分

8月8日の定例会見で燕沢の適格性を否定した川勝知事(=静岡県庁) - 筆者撮影

リニア中央新幹線のトンネル工事で出る残土置き場としてJR東海が示した建設予定地について、静岡県の川勝平太知事が「深層崩壊などのリスクがあり不適格だ」と主張している。ジャーナリストの小林一哉さんは「深層崩壊などへの対策は行政の仕事だ。それなのに川勝知事はJRに責任をなすり付けようとしている」という――。

■トンネル残土置き場「不適格」を繰り返す川勝知事

リニア中央新幹線南アルプストンネル静岡工区工事で、燕沢(つばくろさわ)上流側に建設されるツバクロ残土置き場の位置選定に課題があるとして、静岡県は、「残土置き場の計画を見直せ」とJR東海に迫っている。

川勝平太知事は2023年8月8日の会見で、国交省の調査結果や一部の地質学者の見解によって、燕沢付近に「深層崩壊」が起きることからツバクロ残土置き場が不適格だと主張した。

8月3日に行われた県地質構造・水資源専門部会のツバクロ残土置き場の議論は、いくら何でも、今回の知事会見のようなデタラメな認識に基づくものではなかった。

川勝知事は深層崩壊の事実関係をねじ曲げた上で、常人には理解できない意味不明な話を持ち出して、記者たちを煙に巻くことでごまかそうとした。

■県行政の役割を全く認識できていない

ところが、深層崩壊のためにツバクロ置き場は不適格だとする川勝知事のデタラメな理由に、複数の女性記者が「深層崩壊があるとその先にはどのようなリスクがあるのか?」「深層崩壊の危険性に対して静岡県の対策をしているのか?」など正当な質問を繰り出して厳しく追及した。

川勝知事は、女性記者たちの質問の意味を理解できなかったり、あるいは質問を意図的にはぐらかしたりして、「ツバクロ残土置き場が適地ではない」とだけを繰り返した上で、「深層崩壊の対策を行うのは事業者のJR東海である」など行政責任を逸脱した発言をした。

本稿では、反リニアに徹するだけで、ツバクロ残土置き場選定での事実関係を全く踏まえず、また静岡県行政の役割が何かを全く理解できない川勝知事の無能ぶりをわかりやすく伝える。

■川勝知事が「不適格」のよりどころとするマップ

まず、川勝知事が燕沢付近を不適格とする根拠に挙げる「国交省のマップ」について説明する。

川勝知事は会見で、「国交省がいわゆる、正確な名前を忘れましたけれども、4つぐらいの段階に分けまして、山体崩壊が、深層崩壊と言ったかもしれませんが、それが最も起こりやすいところと起こりにくいところと全部マップを色分けした、あそこの地域(燕沢付近)は、最も頻度の高いところに分類されている」などあまりにも曖昧な説明をして、燕沢付近が不適格だと断定した。

川勝知事の言う「マップ」とは、国交省と土木研究所が2010年8月に作成した「全国深層崩壊推定マップ」。

※国交省によると、「深層崩壊」とは、表土層だけでなく、深層の風化した岩盤も崩れ落ちる現象で、一度起きると大きな被害をもたらすことがあると説明している。

このマップは、日本全国各地の崩壊の推定度合いを「特に高い」「高い」「低い」「特に低い」の4段階に分けている。

燕沢だけでなく、静岡県の南アルプス全域が「特に高い地域」となっている。

このマップを根拠にすれば、JR東海は、燕沢を含めて南アルプスのどこにも残土置き場を造れない。

ただ「全国深層崩壊推定マップ」は、「簡易な調査で相対的な発生頻度を推定したものであり、各地域の危険度を示す精度はない」とする国交省の断り書きがある。つまり、日本全国を網羅したマップであり、精度の信頼性に欠けることを国交省自身が認識しているのだ。

■より精度の高い別のマップがあるのに…

そのため、国交省は、あらためて「深層崩壊が特に高い地域」を対象に、2012年9月、空中写真判読などによる詳細な調査結果を公表した。

その結果が「渓流(小流域)レベル評価」である。8月3日の県専門部会でJR東海は、同レベル評価の図を示している(図表1)。

※図表1=深層崩壊渓流(小渓流)レベル評価マップの大井川上流域。国交省の資料を基にJR東海が加工し、8月3日の県専門部会で説明に使用された。
※図表1=深層崩壊渓流(小渓流)レベル評価マップの大井川上流域。国交省の資料を基にJR東海が加工し、8月3日の県専門部会で説明に使用した。(東海旅客鉄道株式会社「発生土置き場について」より)

大井川上流域の「深層崩壊渓流(小流域)レベル評価マップ」は、「相対的な危険度の高い渓流」から「相対的な危険度の低い渓流」まで、やはり4段階に分けている。

このうち、ツバクロ残土置き場計画地は下から2番目の「相対的な危険度のやや低い地域」に区分される。つまり、深層崩壊の危険度は相対的にやや低い地域であり、「最も頻度の高いところ」(川勝知事)ではない。

県専門部会に出席した森貴志副知事はじめ事務方は「深層崩壊渓流(小流域)レベル評価マップ」を確認している。

それなのに、川勝知事は定例会見で、各地域の危険度を示す精度はない「全国深層崩壊推定マップ」を挙げて、「あそこの地域は、最も頻度の高いところ」や「深層崩壊については、国交省の調査結果がある」などと述べたのだ。

これでは川勝知事が「ツバクロ残土置き場を不適格と断定した」説明はすべて筋が通らないことになる。

実際には、川勝知事は、一般の人にはよくわからない「国交省の調査結果」を持ち出して、「ツバクロ残土置き場を不適格」にするための意図的な情報操作を行ったのだ。

■県専門部会委員が唱えた「新たなリスク」

もう1つ、川勝知事がツバクロ残土置き場を不適格の根拠に挙げたのが、地質を専門にする塩坂邦雄・県リニア専門部会委員の見解である。

8月12日公開のプレジデントオンライン(これでは地震大国・日本では何も造れない…無意味な「タラレバ」でリニア妨害を続ける川勝知事のデタラメ)で、塩坂氏の指摘についての問題点を明らかにした。

8月3日開催の静岡県地質構造・水資源専門部会(=静岡県庁)
筆者撮影
8月3日開催の静岡県地質構造・水資源専門部会(=静岡県庁) - 筆者撮影

塩坂氏は8月3日の県専門部会で、「地震や豪雨により大規模な土石流等が発生し、ツバクロ残土置き場の周辺で天然ダム(河道閉塞(へいそく))ができるおそれがあり、この天然ダムが崩壊した場合、ツバクロ残土置き場の盛り土が侵食され、下流側に影響を及ぼすリスク」を唱えた。

「広域的な複合リスク」として、同時に多発的な土石流等の発生するリスク、対岸の河岸侵食による斜面崩壊の発生リスクまで課題として、JR東海に対策等を検討する必要があるなどとも述べた。

塩坂氏の言う「下流側に影響を及ぼすリスク」の「下流側」とは、4、5キロ離れた椹島(さわらじま)周辺を指している。

南アルプス登山基地の椹島周辺は集落などから遠く離れた山間にあり、人家などは全くない。そこからさらに約10キロ離れた下流には中部電力の畑薙第1ダムがある。

万が一、残土置き場が崩壊するような事態になったとしても、土石流等は最悪でも畑薙第1ダムでせき止められる。

つまり、「下流側の影響」と言っても、人的被害や建物損壊などは全く想定されないのだ。

■残土置き場を造るから深層崩壊が起きるわけではない

この問題点を踏まえ、NHKの女性記者は知事会見で、「ツバクロ残土置き場でのリスクは何か」とダイレクトに質問した。

川勝知事は「すぐ上のほうに上千枚岳があって、そこに今まで、複数回の深層崩壊があった。それによって、あそこのいわゆる燕沢ができている。そこに樹木が生えていないのは、深層崩壊の後で、そこは段丘状になっているのは、天然ダムのようなものが造られて、それが段々削っていて段丘状になっている。そういうことを前提にして、残土置き場を考えたのかっていう議論がいくつかのところから出ている」などと説明。「リスク」とは単に深層崩壊が起きることだと回答した。

これは地質を専門にする塩坂氏の見解に同調しただけで、静岡県行政のトップとしての見解ではなかった。

だがこれは事実を無視したデタラメな回答だ。なぜなら、深層崩壊は、JR東海が燕沢上流側に残土置き場を造ることによって起こるものではないからだ。

■「深層崩壊が起きた先のリスクとは」の質問に川勝知事は…

JR東海は県専門部会で、ツバクロ残土置き場について、後背地の深層崩壊が起きる懸念などの調査を行い、安全性、安定性の確認した上で、耐震性に優れた残土置き場の構造などを説明している。

また、残土置き場下流側の燕沢は、段丘状に治山ダムが建設され、2019年10月の台風19号の通過の際にも、土砂堆積の流出が残土置き場計画地には何らの影響も与えなかったのだ。

女性記者たちの厳しい追及があった川勝知事の会見(=静岡県庁)
筆者撮影
女性記者たちの厳しい追及があった川勝知事の会見(=静岡県庁) - 筆者撮影

だから、NHK記者は「深層崩壊が起こる可能性があると、その先にはどのようなリスクがあるのか」とさらにただした。

川勝知事は「川がせき止められて、水の供給にも、水質にも生態系にも甚大な影響が出る」などと述べた。つまり、川勝知事は記者の意図する「リスク」の意味を全く理解できていなかったのだ。

この回答に、共同通信社の女性記者が「ツバクロ残土置き場に深層崩壊の危険性を認識したと強調しているが、リニアの残土置き場の有無にかかわらず、深層崩壊は発生する可能性がある。(水の供給や水質、生態系などに甚大な影響が出るという)深層崩壊に対して県の講じている対策は何か?」と追及した。

川勝知事は「砂防をやるとか限界があります。千枚岳の崩壊にどういうことができるのか、専門家に聞いていないが、相当に厳しい土木事業になる」と全く無責任な回答をした。

■記者の追及をデタラメ回答でかわす川勝知事

共同記者は「JR東海の残土置き場を建設することで、深層崩壊の危険性がより高まることを強調するならば、残土置き場うんぬんの話ではなく、その対策を立てる必要があるのではないか」と突っ込んだ。

川勝知事は「JR東海は、当事者だから、彼らが対策を講じる必要がある。場合によっては、それが非常に難しいことであれば、別の場所を考えることも1つの方法です。事業者が考えるべき基本的な対策なわけです」などと事業者であるJR東海に深層崩壊対策の責任をなすり付けた。

そのため、共同記者は「(JR東海ではなく)県が(深層崩壊の)対策を講じるべきである。深層崩壊は残土置き場があるなしにかかわらず起こることだ」とさらに追及した。

質問の意味を理解できないのか、川勝知事は「事業者であるべきです。トンネル工事については事業者責任ってことですよ。(深層崩壊の)対策を含めて」などと、行政の責任を放棄する頓珍漢(とんちんかん)な発言で逃げた。

行政分野の知識が著しく欠如する川勝知事は、リニア妨害のシナリオに沿って、デタラメな回答を行うしかないのだろう。ただ、この回答で静岡県行政への信頼性は完全に失われたのだ。

■事務方には耳を貸さない「裸の王様」状態

地震、豪雨の発生時に、深層崩壊が南アルプスで起こり、天然ダム(河道閉塞)等の崩壊する可能性をいくら議論しても、「水の供給や水質、生態系などに甚大な影響が出る」(川勝知事)ことによる責任と役割を担うのは、JR東海ではなく、河川管理者の静岡県である。

そんな簡単なことも静岡県行政の最高責任者である知事が承知していないのだ。

逆に言えば、NHK記者の質問した「リスク」について川勝知事は全く理解できず、共同記者の質問では、頓珍漢な回答に終始するしかなかった。

静岡県は県民の財産、人命等を守ることを最優先した河川管理に取り組んでいる。まさか、人家等のない南アルプス源流部の深層崩壊を想定して、河川管理を行うことなどない。また事業者のJR東海にそれを押し付けることなどあり得ない。

塩坂氏による問題提起は、想定できない天災が起きることによって、JR東海の残土置き場が管理不能となると大騒ぎして、人家等もない下流域に影響があるリスクを議論しただけである。川勝知事はすっかりと塩坂氏の見解を信じ込んでしまったようだ。一度県専門部会に出席して、JR東海の説明を聞いたほうがいい。

森副知事をはじめ事務方は当然、行政の責任と役割を承知している。

「裸の王様」川勝知事は、塩坂氏らの意見に従っても、事務方の説明に耳を傾けないのだろう。これでは、静岡県は「笑いもの」となるしかない。

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小林 一哉(こばやし・かずや)
ジャーナリスト
ウェブ静岡経済新聞、雑誌静岡人編集長。リニアなど主に静岡県の問題を追っている。著書に『食考 浜名湖の恵み』『静岡県で大往生しよう』『ふじの国の修行僧』(いずれも静岡新聞社)、『世界でいちばん良い医者で出会う「患者学」』(河出書房新社)、『家康、真骨頂 狸おやじのすすめ』(平凡社)、『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太「命の水」の嘘』(飛鳥新社)などがある。

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(ジャーナリスト 小林 一哉)

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