資料をていねいに読むのは時間のムダ…伝説の経営コンサルが実践する「爆速で資料を読む2つの方法」
プレジデントオンライン / 2023年8月23日 15時15分
※本稿は、内田和成『アウトプット思考』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■膨大な資料から効率的に情報を得る方法
「一次情報」を何よりも重視する私にとって、最も多くの情報を得られる場所こそが「ビジネスの現場」である。現場の社員の話、各種資料、オフィス内や工場の雰囲気など、すべてが貴重な情報源である。
とはいえ、単に現場に行き、人から話を聞いたからといって、有益な一次情報が得られるとは限らない。そのためには情報を集めるスキルや、相手の話を引き出すスキルも重要となる。
まずは、膨大な仕事上の資料から、いかに効率的に情報を得るかについて触れたい。実はこれは、コンサルタントの得意技でもある。
企業のコンサルティングを始める際、その企業の経理・財務データをはじめ、最初に膨大な資料を渡されることが多い。「まずはインプットから」とばかり、これを最初から最後まで丁寧に読もうとすると、それだけでコンサルティングの期間が終わってしまいかねない。
■「ここに問題があるのではないか」と仮説を立てる
では、必要な情報をどう効率的に拾っていけばいいのか。
ここでも、大事なのはアウトプットから入るアプローチだ。大きく分ければ、二つのパターンがある。一つは、まず仮説を立てて、それを念頭に置きながら情報を読み解いていくというアプローチだ。
「ここに問題があるのではないか」という仮説を事前に立てておき、それが正しいかどうかというスタンスで、情報を読み込んでいく。例えば、「在庫管理に問題があるのではないか」という仮説を立てたら、膨大な情報の中から在庫数の推移や欠品率、出荷までのリードタイムの情報などを中心的に読み込んでいく。こうすることで、ただ漠然と資料を読むよりも情報が効率的に頭に入ってくる。
そして、もし資料の中に求めている情報がなければ、「こういった情報はありませんか?」と担当者に聞いてみる。コンサルタントにとっては王道のアプローチとも言えるだろう。
■「異常値」が見つかったらチャンス
そしてもう一つが、「異常値」あるいは「例外」を見つけようとするアプローチである。
異常値とは、「これはちょっと、普通の会社と違うな」「常識と違うな」とか、「ここはどうもよくわからないな」といったもののことを指す。具体的には、同業他社に比べてある部門の人数が極端に少ないとか、ある経費が飛び抜けて多いなどといったことである。
こうした「異常値」を発見したら、チャンスである。担当の人に「ここ、もうちょっと詳しく教えてください」と話を聞いたり、それに関する新たな資料を出してもらったりする。そうしてどんどん深掘りしていくことで、問題の本質にたどり着くことがあるのだ。
コンサルティング時代の事例を紹介したい。ある銀行のケースだが、本部の方針に全く従わないのに、なぜか行く先々で好業績を上げている支店長がいた。
![銀行の看板](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/e/1200wm/img_0e35aaab7ba4ed3dccefd655e675304e141938.jpg)
本部としては示しがつかないが、数字を上げているのでなかなか口出しができない。まさに「異常値」である。
そこで早速、その支店長のところに行って話を聞いてみると、面白いことがわかってきた。
当時の本部の方針は、コンピュータを駆使したエリアマーケティングだった。確かにその支店長はコンピュータを使っていなかったのだが、実は紙のノートを使って、それ以上に緻密なデータベースを元にしたマーケティングをやっていたのだ。
結局、その支店長には同じやり方を続けてもらう一方で、彼のやっていることを本部の方針に反映するよう提案。結果として、より効果の上がるエリアマーケティングが可能になった。
■資料の読み方も自分の「ポジション」で決まる
「仮説」から入るアプローチが王道だとしたら、「異常値」から入るアプローチは、より差別化を意識したものと言える。
私はどちらのアプローチも好きであったが、どちらを選ぶべきかは、やはりアウトプットから考えるべきだろう。
自分が全体像を的確に把握することを求められるポジションにいるならば、やはりまずは「仮説」から入るアプローチを取るべきだろう。だが、チームの中でユニークな発見を求められる立場にいるとしたら、「異常値」から入るアプローチで、誰も気づかなかった視点を提示すべきかもしれない。
自分がどんな立場で、どのような切り口で資料を読めばいいかがわかれば、資料を読むスピードも、そこから必要な情報を得る精度も、自然と増してくる。「まずはインプットから」と漫然と資料を読むことこそ、時間のムダなのである。
■資料は「出してもらう」もの
ここでもう一つ、資料は「与えられるもの」だけではなく、「出してもらうもの」だという意識を持つことにも言及しておきたい。
これもコンサルティングの例で言えば、会社の財務諸表などは、こちらが黙っていても出てくる。
一方、例えば「社史」や「お客様センターの過去1年分のログ」などは、普通は言わないと出てこない。だが、こうした資料の中に課題解決のヒントが隠れているということは多々ある。
もちろん、たくさんの資料を請求すればするほどいい、というわけではない。その気になれば資料はいくらでも出てくるから、キリがない。
■問題意識や仮説を持って資料に臨む
この状態を、医者の診察にたとえてみよう。
何はともあれ治療の正確さにこだわる、というのなら、あらゆる患者に対して人間ドック並みの検査を行ってから治療を始めればいい。だが、そんなことをやっていたら医者も患者も大変だし、時間もお金もかかってしょうがない。保険制度もきっと、破綻してしまうことだろう。
![内田和成『アウトプット思考』(PHP研究所)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/1/1200wm/img_a1256d06d75d5411cceed22ca2d6e24366023.jpg)
だから普通の医者は、患者に簡単に症状を聞き、「胸に問題があるのかな」などと仮説を立て、まずは肺のレントゲンを撮ってみる、という手順を取る。あるいは、「ちょっと顔色がいつもより悪いようだ」という異常値を見つけて、そこから症状を導き出していく。結果的にこのほうが、より早く、的確な治療を行うことができる。
仕事における情報収集も、これと同じことである。
問題意識や仮説を持って資料に臨み、必要な情報だけをなるべく早く手に入れる、というスタンスが重要なのだ。
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早稲田大学 名誉教授
東京大学工学部卒業後、日本航空入社。在職中に慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了(MBA)。その後、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)入社。同社のパートナー、シニア・ヴァイス・プレジデントを経て、2000年から2004年までBCG日本代表を務める。2006年度には「世界の有力コンサルタント、トップ25人」に選出。2006年、早稲田大学教授に就任。早稲田大学ビジネススクールでは競争戦略やリーダーシップを教えるかたわら、エグゼクティブプログラムに力を入れる。著書に『仮説思考』『論点思考』『右脳思考』『イノベーションの競争戦略』(以上、東洋経済新報社)、『異業種競争戦略』『ゲーム・チェンジャーの競争戦略』『リーダーの戦い方』(日本経済新聞出版)、『意思決定入門』(日経BP)など多数。
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(早稲田大学 名誉教授 内田 和成)
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