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「筆者の主張」や「本の要旨」はどうでもいい…伝説の経営コンサルが本に赤線を引いている意外な箇所

プレジデントオンライン / 2023年8月28日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hirun

一流の人はどのように本を読むのか。早稲田大学名誉教授の内田和成さんは「『著者の文脈』を完全に無視して、『自分にとって役に立つか』『面白いか』という視点で読んだほうがいい。いくら多くの本を読んだところで、その本の内容や著者の主張を理解しているというだけでは、差別化は図れない」という――。

※本稿は、内田和成『アウトプット思考』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

■「2次情報」と「1.5次情報」

一次情報(自分が直接見聞きした情報が)が最もパワフルであることは言うまでもないが、一次情報を手に入れるには時間も手間もかかる。新聞やテレビ、雑誌、書籍、ネットなどのメディアから情報を入手することももちろん重要だ。いわゆる「二次情報」である。

ちなみに私は二次情報をもう少し細分化して、二つに分けて考えている。

一つめが、いわゆる世間で言うところの二次情報というもの。つまり、新聞や雑誌などに載っている情報、インターネット上の各種サイトやデータベースから誰でも引き出せる情報、といったものだ。

二つめは、それらの情報に自分の経験から得られた話や考察などを加えたものである。こうなると、単なる二次情報とは違って、独自な見方や考え方が少しは含まれることになる。書籍や新聞・雑誌・オンラインメディアの署名記事、個人ブログなどがこれにあたるだろう。「一・五次情報」と言ってもいいかもしれない。

■「アイデアの元になる情報」を得るには紙媒体が便利

最初に、「好き嫌い」の話をしてしまえば、私はテレビや動画よりも、書籍や新聞・雑誌などの紙媒体のほうが好きである。

理由はいくつかあるが、やはり私の情報に対するスタンスが大いに影響しているだろう。

数ある情報の中でも、私は「アイデアの元になる情報」を最も重視している。こうした情報を得るためには、網羅的に情報を漁るというよりも、「何か面白いことがないかな」という視点で情報をチェックして、気になったものを頭の中でマークし、頭の中の引き出し(「20の引き出し」)に入れていくほうがいい。

そして、こうした情報の読み方をするにあたっては、紙媒体のほうが便利なのである。新聞や雑誌、書籍といった紙メディアはテレビと違って自分が読みたい記事だけ、あるいは好きな記事だけを選んで読めるからだ。

一方、テレビは基本的に受け身のメディアである。発信者が発信したとおりに情報を受け取らざるを得ない。また、ある部分をすっ飛ばしたり、ある部分を考えながらゆっくり深く観るといった情報の取捨選択も難しい。これが私にとってはあまり心地よくない、ということである。

とはいえ、これはあくまで好みの問題である。どのメディアが優れていてどのメディアが劣っているということはなく、それぞれ目的に合わせて使い分ければいい。私だってテレビも観ればネットも使う。

その使い分けは人それぞれだと思うが、以下、私にとっての使い分けをご紹介していきたい。

■内田氏が実践する本の読み方

まずは書籍である。本離れが進んでいるなどと言われているが、本は今も昔も、私にとって重要な情報源の一つだ。別にビジネス書だけではない。小説やノンフィクション、あるいはコミックスまで、あらゆる本を読む。そして、気になる箇所があればどんどん線を引いたり、書き込みをしたり、付箋を立てたりする。

電子書籍も使うが、急いでその本を手に入れなくてはならない場合や、やはり急ぎで情報をサッと頭に入れなくてはならない場合に限られる。紙の本のほうが書き込みなどがやりやすいからだ。電子書籍にもマーカー機能などがあり、それを活用するのもいいかもしれないが、私は使っていない。

書き込みや付箋の貼り方に、特にルールは決めていない。書き込みはそのとき持っている筆記具を使う。色もまちまちだ。付箋も色や貼り方にルールを設けているわけではない。筆記具も付箋もなければ、そのページに折り目をつけてしまう。

■著者の意図は無視、感情移入も不要

この分野ではかつて、齋藤孝氏が提唱する「三色ボールペン」による色分けがブームになった。これは、「客観的に見て最も重要な箇所」に赤ボールペンで、「客観的に見てそれなりに重要なところ」に青ボールペンで、「主観的に、つまり自分自身が面白いと思った箇所」に緑ボールペンで線を引くというもので、なるほど優れたメソッドであると思う。

明治大学における、坂東玉三郎と齋藤孝教授の対談
明治大学における、坂東玉三郎と齋藤孝教授の対談(写真=UZM/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

だが、私はずっと単純な方法を取っている。それは、本に対して求めているものが違う、ということかもしれない。

本というものはおおむね、「著者の主張を知るためのもの」と考えられているはずだ。

もちろん、それは間違いではないし、そもそも私自身も本を書く身として、一つの主張を立ててそれを元に論を進めていく。つまり本とは、「著者の文脈」で組み立てられているものなのだ。

私も小説を読むときには、すっかり感情移入をしてその世界に入り込む。だが、それ以外の本に関しては、「著者の文脈」を完全に無視して、「自分にとって役に立つか」「面白いか」という視点で読んでしまうのだ。そして、アンテナに反応したところのみ、印をつけたり書き込みをしたりして、頭の中に入れていく。つまり、齋藤氏のメソッドのうち「緑のボールペン」の箇所のみをチェックしていることになるだろう。

■線を引き、付箋を貼ることが大事

では、読み終わった本をどうするかというと、取り立てて何かするわけではない。気になるページのコピーを取ったり、ワープロで打ち直したり、スキャンしてデータベース化する、というようなこともほとんどしない。

要は、そのときペンを使って印をつける、あるいは付箋をつけるという行為そのものが大事だと考えているのだ。そうすることで、脳の引き出しにより強く刻み込まれ、忘れにくくなる。いわば、「思考の目印」だ。これを私は「脳にレ点を打つ」と言っている。

こんなことでは後で忘れてしまうのではないか、と思われそうだが、忘れてしまうような情報はそもそも重要ではなかったと割り切っている。また、正確には覚えていなくても、どの本に書いてあったかくらいは意外と覚えているもの。必要があれば本棚から取り出して、線や付箋をたどっていけばいいわけだ。

このような読み方をしている以上、当然、著者の最も言いたいことを私が重要な情報として拾うとは限らない。著者にとっては大したことのないことが、私にとって重要な情報になることもあれば、ときに著者の意図と反対のことを頭に入れることもある。

本の読み方も、最初から最後までじっくり、ということは少ない。途中まで読んでそのまま、という本もある。著者の方に怒られてしまいそうな読書法ではあるが、私はそれでいいと思っている。

積み上げた本
写真=iStock.com/thomas-bethge
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/thomas-bethge

■目的を明確にした「アウトプットから始める読書術」

また、これは半ば無意識的にやっていることだが、ある本を読む前に、その本を読む「目的」を明確にして、それに応じた読み方をしている。まさに「アウトプットから始める読書」だ。

例えば、著者やタイトルを見てピンときて買う本。これは、この本には何か面白いことが書いてあるに違いないという、ある種の勘で買ったわけだから、こちらもそのような意識で読む。つまり、何か自分の脳を刺激するような情報がないか、探っていくような読み方だ。

逆にベストセラーのような本は、「話のタネにでもなれば」くらいの気持ちで読むことが多い。こちらはもう少し気楽に、「何か面白いことがあればいいけど、なければないでいいや」くらいの気持ちで読むイメージだ。

一方、ある情報について深く知る必要がある場合は、必要な情報の検索をかけるような読み方をする。意思決定について知りたいなら、意思決定論の本を片っ端から買ってきて、意思決定に関係ありそうなキーワードを意識しながら、一気に目を通したりするわけだ。

■「日本の国語教育」を無視してしまおう

このように目的はいろいろだが、共通しているのは「著者の文脈は気にせず、こちらの文脈で読む」ということだ。

内田和成『アウトプット思考』(PHP研究所)
内田和成『アウトプット思考』(PHP研究所)

ちなみに、これは「差別化」という意味でも重要だ。ある著者の主張をきっちり理解したところで、それは人の考えの受け売りに過ぎない。そして、本というものは読めば読むほど、そうした「受け売り」の傾向が強くなってしまうものとも言える。いくら多くの本を読んだところで、その本の内容や著者の主張を理解しているというだけでは、差別化は図れない。

日本の学校の国語教育では普通、「著者の意図を理解する」ことを文章を読む目的としている。「この文章で著者が伝えたかったことは何か?」という設問がよく国語のテストで出てくるのも、そのためだ。ちなみに私は昔からこうした読み方をしていたせいか、学生時代、国語がずっと苦手だった。

そうした教育を受けてきたため、私が提唱する読み方に抵抗感がある人も多いかもしれない。だが一度、あえてこれまでの読み方から距離を置き、自分の文脈で自分の思ったとおりに本を読んでみる、という体験に挑戦してほしい。

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内田 和成(うちだ・かずなり)
早稲田大学 名誉教授
東京大学工学部卒業後、日本航空入社。在職中に慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了(MBA)。その後、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)入社。同社のパートナー、シニア・ヴァイス・プレジデントを経て、2000年から2004年までBCG日本代表を務める。2006年度には「世界の有力コンサルタント、トップ25人」に選出。2006年、早稲田大学教授に就任。早稲田大学ビジネススクールでは競争戦略やリーダーシップを教えるかたわら、エグゼクティブプログラムに力を入れる。著書に『仮説思考』『論点思考』『右脳思考』『イノベーションの競争戦略』(以上、東洋経済新報社)、『異業種競争戦略』『ゲーム・チェンジャーの競争戦略』『リーダーの戦い方』(日本経済新聞出版)、『意思決定入門』(日経BP)など多数。

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(早稲田大学 名誉教授 内田 和成)

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