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6時間睡眠の人は「日本酒を2合飲んで仕事をしている」と同じ…今晩から短時間睡眠をやめるべき理由

プレジデントオンライン / 2023年8月25日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/carlosgaw

仕事の生産性を高めるにはどうすればいいのか。東京大学特任研究員の安川新一郎さんは「最新の研究では、睡眠時間の不足と生産性の低さに相関があると指摘されている。感情を整理する『レム睡眠』を確保するためにも、7~8時間の睡眠時間の確保することが大切だ」という――。

※本稿は、安川新一郎『ブレイン・ワークアウト』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■日本人の低い生産性の元凶、短時間睡眠とその礼賛

日中に仕事や勉強をしたり、運動をした後は、誰しも休息と睡眠が必要です。しかし、効率化と競争のプレッシャーに晒され続けている我々は、それらを軽視しがちです。私は、日本の失われた30年の元凶は「昭和の高度成長時代の働き方ノスタルジー」にあると思っています。

高度成長期は、少しでも長く働いたほうが個人も会社の業績もあがりました。そして新卒大学生を大量一括採用し、長時間残業で働かせ、「男性主体、女性はサポート」と男女の役割を明確に分け、体力勝負の男性中心の組織と昇進システムを作り上げました。

■高度経済成長期の「出世するサラリーマン」

バブル期やITバブル期などの高度成長企業の職場を経験した私には、その時の様子がありありとイメージできます。日本経済や業界がうねりと熱量を持って急成長している時は、少しでも長い時間働けば、個人にも組織にも必ず結果が付いてきます。

職場全体にある種の高揚感があるなかで仕事をしているので、気づいたら終電の時間になっていたり、深夜遅い時間からでも皆で飲みに行ってしまったりしました。経済全体も業界も会社も激しく変化しているので、早起きして誰よりも早く出社した人間が、職場の情報をいち早くつかみ、上司の意向を理解して先に仕事に取り掛かれ、結果として高い評価を得ます。

高度成長期とは、空からハラリハラリと紙幣が永遠に落ちてくるイメージです。誰もが同じ方向を向いて、寝る時間を惜しんで少しでもそれらを拾おうとします。遅くまで残業をし、終電で帰って家では寝るだけ、また誰よりも早起きして出社する、一生懸命上司のいう通り働いていると、給与は保証され、人生の帳尻は最後には合う(と信じている)――それが、高度経済成長期において出世するサラリーマンの働き方と生き方でした。

■睡眠時間の不足と生産性の低さには相関がある

さて、運動の必要性については誰もがある程度認識しているのに対して、睡眠の重要性の認識は、特に日本においては進んでいません。日本人は受験勉強でも仕事においても、夜遅くまで長時間、オフィスで頑張る人が、未だに評価される傾向があります。

フランスのヘルスケアスタートアップ、ウィジングスが睡眠デバイスで各国ユーザの睡眠について調査した結果、2020年の日本人の平均睡眠時間は6時間22分と14カ国中最下位でした。また、日本生産性本部によると、2020年の日本の就業者1人あたりの労働生産性は7万8655ドルで38カ国中28位と低く、主要7カ国(G7)で見れば最下位になっていて、研究者によって「睡眠時間の不足と生産性の低さに相関がある」とも指摘されています。

慶應義塾大学の山本勲教授の分析によると、社員の睡眠時間が長い上位20%の企業と下位20%の企業で売上高経常利益率に3.7ポイントの差があり、睡眠以外の要素を統計的に除外して算出しても、1.8~2.0ポイントの差が生じたとされています。

高層ビルが立ち並ぶビジネス街
写真=iStock.com/fazon1
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fazon1

■日本人の睡眠不足による経済損失は15兆円規模

睡眠時間を削ると脳のパフォーマンスが著しく低下します。6時間睡眠を14日間続けると48時間徹夜したのと同程度の認知機能になります。別の研究では、6時間睡眠を10日間続けただけで、24時間徹夜したのと同程度の認知機能になるという研究もあります。

具体的には、日本酒1~2合飲んだような状態で仕事をしているということになります。また、2016年の世界的シンクタンクのランド研究所の試算では、日本人の睡眠不足による経済損失は15兆円規模に上っているとされています。

日本人に特有の長時間労働と慢性的な睡眠不足は、高度成長期の悪しき残滓です。

終業から始業まで一定時間の休息を義務づける制度を導入した企業への助成金支給や税制優遇がEU企業からようやく始まり、日本でも徐々に広がりを見せています。仮眠も含めて睡眠時間を増やして労働生産性の向上につなげる狙いがあり、徐々に変化の兆しはあります。

■ヒト属の睡眠は徐々に進化してきた

地球上の生物は全て活動と休息のバイオリズムを持っていますが、ホモサピエンスに至るヒト属の睡眠は、徐々に進化してきました。例えば、深い眠りのノンレム睡眠と、浅い眠りで夢はみるが全身の筋肉は弛緩(しかん)してしまうレム睡眠が、約90分交代で訪れます。そのある種無防備なレム睡眠を取るようになったのも、サバンナの地面で仲間と暮らすようになり、木に摑まったまま眠る必要がなくなったからと言えます。

また、私達は一人ひとりが、概日リズム、最適な睡眠時間、朝型か夜型かのクロノタイプ(概日リズムの型)に、個人で異なる遺伝傾向を持っています。

睡眠や夢のメカニズムとその役割は全ては解明されていませんが、睡眠中や、ただボーッとしている間も、意識があって脳神経細胞が繫がり、感情や思考が発生するというのは、AIにはない脳の神秘的な働きです。

空を見つめる女性とたくさんの上向きの矢印
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■「ボーッとしている時」にも脳は働いている

私達の脳は、意識的に集中して思考や発言をしている時だけでなく、睡眠中もボーッとしている時も活発に活動しています。21世紀に入って、ワシントン大学医学部のマーカス・レイクル教授の研究により、意識的な活動をしていないときにも脳は働いていることが判明しました。

意識下とは異なるこの脳の状態は「デフォルトモードネットワーク(DMN)」と呼ばれています。DMNがあるおかげで、色々と考え事をしながら通勤したり、突然、市中で名前を呼ばれても反応できたりします。逆に、作業を実行しているときの脳の状態は実行に集中しているため「タスクポジティブネットワーク(TPN)」と呼ばれています。

脳のエネルギー消費の割合は、議論や読書等の意識的な活動は5%程度で、意識的な活動をしていないときに60~80%が使われています。何も考えずにボーッとしている時のほうが、仕事をしているときの20倍エネルギーを使っているというのは、理解し難いかもしれませんが、携帯電話が電波の悪い山の中などでは様々な基地局の電波を探しに行く為に、エネルギーの消費が多く電池の減りが早いのと同じだと私は理解しています。

ボーッとしている状態の時は、異なる基地局と電波をやり取りするように、複数の領域が分断的に活性化し、思考や感情が移ろっている状態といえます。

■深い睡眠で記憶を「固定化」させる

睡眠の目的は、身体を休ませて疲れを取るだけではありません。脳を有効に機能させるためにも重要です。

主に前半の深い眠りのノンレム睡眠と、主に後半の浅い眠りのレム睡眠は、それぞれ脳にとっての役割は異なります。

ノンレム睡眠の熟睡は、身体を休め身体機能を回復させるだけでなく、日中の記憶の中で重要な記憶をある種オフライン処理して、短期記憶の海馬から長期記憶の大脳新皮質に移し、定着させ「固定化」させる役割があります。

同時に、ノンレム睡眠中の脳脊髄液によって海馬の脳の老廃物が流され、短期記憶を司る海馬の記憶容量に空きスペースが生まれ、これによって翌日の短期記憶容量が確保されます(昨晩ぐっすり眠れて、朝起きて頭がスッキリしていて勉強も仕事も捗るという感覚です)。

このノンレム睡眠の時間が不足すると、脳神経細胞の「洗浄」が行われずに、アルツハイマー病の原因とされるアミロイドβ等の老廃物が溜まり続けます。短期記憶容量が十分に確保されず、遂には新しいことを全く覚えられない認知症状態になりやすいと言われています。

【図表1】睡眠深度
出典=『ブレイン・ワークアウト』

■浅い睡眠で感情を整理する

このノンレム睡眠において、前半よりも、ステージ2と呼ばれる後半のノンレム睡眠を確保することが記憶への影響が大きいとされています。記憶の移行と脳神経細胞の洗浄のためには、このノンレム睡眠を十分に深い睡眠にする必要があります。そのためにも、日中の間に適度に運動を行うことで、入眠前には心地よく疲れている状態にしておき、毎夜ぐっすり眠れるようにすることが望ましいです。

一方でレム睡眠のほうにも重要な役割があります。私達は、子供の頃から、朝布団でグズグズしているのなら起きてしまいなさい、と早起きを勧められて育ちました。しかし現代の私達に必要なのは、実は深夜のノンレム睡眠よりも、明け方のレム睡眠(R3、R4)です。

レム睡眠時には、①複雑な視覚認知、②運動野、③記憶を司る海馬、④感情を司る扁桃体の4つが活発になるとされています(特に④は起きているときよりも30%活動量が増えます)。一方で、理性や深い思考の前頭前皮質は全く不活発なことが確認されています。

これらのことから、レム睡眠において、記憶や感情の統合と整理が行われていると考えられているのです。

■赤ちゃんの睡眠の5割は「レム睡眠」

興味深いことに、生後6カ月の赤ちゃんは、寝るとすぐにレム睡眠に入り、1日にトータル14時間ほど眠りますが、その5割はレム睡眠であるとされています。近くで見ているとわかると思いますが、眠っている赤ちゃんは、笑ったり、手足をばたつかせたり、かすかに声を出したり、おっぱいを吸う仕草をみせたりと、様々な動きをします。

そして、薄いまぶた越しに、眼球が右左と動いています。5歳になると睡眠時間は11時間でレム睡眠の割合は3割になり、10代後期からは2割になり、その後中年期まで維持されます。赤ちゃんから10代にかけて私達が脳を成長させる過程において、レム睡眠が外部情報の記憶を整理し、脳の感情や意識を整理し、長期記憶を形成する重要な役割を担っていると推定されます。ですから、脳の機能の健全な成長のためにも、赤ちゃんや幼児はなるべく早く寝かせることが大切です。

現代に生きる私達は、エッセンシャルワーカーの方以外、よくも悪くも日常生活においてあまり肉体を使わないため身体疲労はあまりありません。一方で、様々な情報や精神的なストレスにさらされているため、記憶や感情の整理は以前より重要になっています。

■現代人は7~8時間の睡眠時間を確保すべき

そのため、疲労回復のためのノンレム睡眠よりも、記憶や感情を整理する後半のレム睡眠のほうがより重要になっているのです。この記憶と感情を整理する朝のレム睡眠を削り続けると(つまり短時間睡眠を続けると)、不安や混乱、抑うつ傾向が強まることが報告されています。

安川新一郎『ブレイン・ワークアウト』(KADOKAWA)
安川新一郎『ブレイン・ワークアウト』(KADOKAWA)

また、レム睡眠が少なくなると、感情のシグナル(表情)を読み取る能力が奪われるとされており、さらに冷静な判断力が鈍るとされています。睡眠不足の状態では、お互いの感情に鈍感になり、後悔するような感情的な発言、行動をしやすくなります。早朝、子供のお弁当作りのために頑張って早起きしていた家族に話しかけて、なぜか怒られたという人も少なくないと思います。前日の感情の整理が終わらないままに、早朝に起こされているからです。

確かに、寝入り端に足等踏んで起こしても、人は特に怒らずまた寝てしまうのに、同じことを朝方にされると大抵不機嫌になります。逆にレム睡眠をしっかり取ると、夢の中で記憶と感情が整理され、場合によっては朝起きてぼんやりしている時に、ふと良いアイデアが浮かぶことがあります。

農場や工場での肉体労働中心の昔は、主に前半の深いノンレム睡眠で体力回復さえすれば十分だったため、頑張って早起きすることには合理性がありました。しかし、知識社会でかつ感情労働の現代は、感情を整理する後半の明け方の浅いレム睡眠を確保するためにも、7~8時間の睡眠時間の確保は大切です。加齢によって明け方に目が覚めるようになってしまっても、頑張って二度寝、三度寝して、朝方の睡眠時間は確保したほうが良いということになります。

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安川 新一郎(やすかわ・しんいちろう)
東京大学未来ビジョン研究センター特任研究員
グレートジャーニー代表。1991年、一橋大学経済学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーへ入社、東京支社・シカゴ支社に勤務。99年、ソフトバンクに社長室長として入社、執行役員本部長等を歴任。2016年、社会課題を解決するコレクティブインパクト投資と未来社会実現のための企業支援に向けグレートジャーニーを創業。これまで東京都顧問、大阪府・市特別参与、内閣官房政府CIO補佐官、Well-being for Planet Earth共同創業者兼特別参与等、行政の現場や公益財団活動からの社会変革も模索している。

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(東京大学未来ビジョン研究センター特任研究員 安川 新一郎)

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