都内に通勤可能な中古住宅1軒500万円の日本は夢の国…外国人が日本の「空き家・農地・森林」を買い漁るワケ
プレジデントオンライン / 2023年8月26日 6時15分
※本稿は、谷本真由美『激安ニッポン』(マガジンハウス)の一部を再編集したものです。
■1軒500万円程度で中古住宅を買える日本は夢の国
日本の空き家物件サイトをのぞいてみると、都内に通勤可能な地域でも、中古住宅が500万円とか800万円で出回っています。
海外からの需要が高い別荘地であっても価格は非常に割安で、たとえば神奈川県逗子市の高級住宅地にある富裕層が住んでいたと思われる豪邸でも値段は1億円程度です。
これがサンノゼだったら1LDKの中古マンションしか買えないわけですから、どれだけ手頃かということがよくわかるでしょう。
日本人が自宅用として買わないような別荘地やリゾート地はすでに外国人がたくさん買っています。北海道のリゾート地ニセコは今、外国系資本が続々進出しています。ニセコのメインストリート「ひらふ坂」の物件はすでに8割が外国人所有になっているといいます。
少子化によって人口が減少する日本では、これから激安の住宅がどんどん市場に出回ることになります。
野村総合研究所の調査によると、2033年にはおよそ2150万戸が空き家になり、空き家率は30%を超えると予測されています。
収入がどんどん上昇し、インフレで物価や不動産価格も上がっている国に住んでいる人にとっては、空き家だらけで、しかも1軒500万円程度で中古住宅を手に入れることができる日本はまるで夢の国なのです。
■バブル後も建てられ続けた新築住宅
日本では人口減少がものやサービスの値段がなかなか上がらない原因にもなっています。それが最も明らかなのが住宅市場です。日本はバブル崩壊以後に家の価格が崩壊してそのまま値段が回復していません。
そしてバブル期にはたくさんの戸建やマンションが建てられて、住宅不足が解消されてむしろ余るようになってしまいました。
住宅は余っているのにもかかわらず、日本人は中古住宅を買わない人が多いので、たくさんの新築住宅がバブルの後も建てられ続けてきました。しかし、少子高齢化で日本人はどんどん減っているので、住宅は供給過多に陥っています。
しかも震災が相次ぐ中、買いたいという人が多いので古い家は売れなかったりします。
また、共働きの家が増え、子どもがいる夫婦は都市部で通勤が便利なところに住まないと子育てをしながら働くことがなかなか難しいので、地方や郊外の不便な家には住みません。
![若い両親と子供が手をつないで公園を散歩する](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/3/1200wm/img_93d64629780f1b25d4245488fb880578770828.jpg)
■「買い手」が減る日本
なので、ますます家が余ってしまうわけです。最近は住宅価格の上昇がニュースになることもありますが、それは東京都や大阪府などの大都市とその周辺県が平均を大きく押し上げているだけです。
それ以外の地域では海外の金融関係者や経済学者は日本の住宅の値段が今後も上がることは考えにくいと述べています。人口がどんどん減っていくのに家はたくさんあるわけですから、買いたい人が少ないので値段が上がらないというわけです。
他の先進国はこれと逆で、日本のようなバブル期がなかったので、多くの国では家やマンションを建ててきませんでした。
こうした物件をどんどん建ててしまうと、質の悪い建物が乱立したり、景観が変わってしまったりするので、建設には厳しい規制がある国が多いのです。
また、海外では地震がほとんど起きない国も多いので、日本のように最新の耐震基準の家も必要ないわけです。
このように、家の数が限られているので人口が増えて買いたい人が多くなれば価格が上がります。他の先進国はどんどん移民を受け入れて人口が増えているところもあるので価格が上がり続けているわけです。
不動産価格も、一部の都心部を除いて、「日本の安さ」を表す一例となっているのです。
■地元のJAと協力する外国の農業法人
外国人が買っているのは不動産だけではありません。彼らは日本の農地も買っているのです。
日本では、農地を買ったり使ったりするのにはさまざまな制限があり、届け出や審査が必要ですが、農業法人を設立し、農地を所有することは可能です。ただしその法人は「農業関係者が総議決権の過半数を占めること」という決まりを満たさなくてはいけません。
外国人が所有する法人でこの規定を満たすことは難しく、加えて地元の協力も得なければならないので、なかなかハードルが高くなります。しかし、外国人の農業法人は激増しているわけではないのですが、間違いなく存在はしています。
たとえば、愛媛県西条市の「イーキウイ」という農業法人があります。親会社はニュージーランドの企業ですが、香港資本が49%を占めます。
イーキウイは地元のJAと協力し、キウイフルーツの大規模栽培計画を打ち立て、西条市の土地取得を進めています。元々西条市は「キウイブラザーズ」というキャラクターで有名なゼスプリキウイの生産をしていました。
そうした背景もあり、イーキウイは西条市で農地を取得し、ゼスプリキウイの生産を増やそうとしているのです。
![コピースペースと木製の背景にキウイフルーツ](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/c/1200wm/img_6c7216fc43e2813935d316c29893cd821235398.jpg)
■「農地買収」が引き起こすトラブル
しかし、約束していた金額が農協に支払われなかったり、生産に大量の水を使うことにより井戸水が枯渇するのではないかという懸念が広がったりなどして、農協との間に亀裂が入っています。
地元の人々は、外国資本の法人が農地を取得していくことに不安の声をあげる人もいます。しかし、こういった地域は過疎化が深刻化し、働き手がいないために耕作放棄地が多く、買い主の外国企業からは足元を見られている状態のところも少なくないようです。
外国企業がそういった姿勢でくれば、西条市のように地元住民が不利益を被る可能性も高くなります。
農地の荒廃には日本政府も頭を悩ましており、政府は農地の取得条件を徐々に緩和しています。
日本では2023年4月に農地法が改正となり、農地の権利取得に際して下限面積要件が廃止されることとなりました。また、法人による用地の取得も以前より緩和されたので、今後は外国法人による取得がおそらく増えていくでしょう。
■北海道、千葉、新潟、長野の「森林」も買収
さらに、外国人は日本の森林も買収しているのです。林野庁の調査によれば、外国の個人や法人による日本の森林買収は2006年から増え続け、2021年までの累計は303件で2614ヘクタールになっています。
つまり、毎年200ヘクタールほどが買収されているわけです。そのほとんどは北海道ですが、千葉県や新潟県、長野県の森林も買われています。
![谷本真由美『激安ニッポン』(マガジンハウス)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/0/1200wm/img_20a709cc356e82b3ae65d6543de7d067406873.jpg)
買い主は個人も法人もいて、香港やシンガポール、マカオなどに住む華僑が多いと言われています。また、それ以外にはアメリカや英領バージン諸島、中国の人も購入しています。
このように、北海道では森林が特に買収されているわけですが、他にも水源周辺の土地も買われています。
先ほど例に出したニセコでは、2011年4月に「ニセコ町水道水源保護条例」を制定し、5月に施行しています。これは、事業者が水資源に絡む土地取引について、事前届け出や自治体との協議を義務づけることなどを規定したものです。
この条例がつくられたのは、外国人が法人経由で水資源に絡む土地を取得し、開発する事例が増えてきているからです。
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著述家、元国連職員
1975年、神奈川県生まれ。シラキュース大学大学院にて国際関係論および情報管理学修士を取得。ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関、外資系金融会社を経て、現在はロンドン在住。日本、イギリス、アメリカ、イタリアなど世界各国での就労経験がある。ツイッター上では、「May_Roma」(めいろま)として舌鋒鋭いツイートで好評を博する。
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(著述家、元国連職員 谷本 真由美)
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