年功序列で働く日本企業が世界に太刀打ちできるわけがない…日本企業の給料が一向に上がらない根本理由
プレジデントオンライン / 2023年8月28日 6時15分
※本稿は、谷本真由美『激安ニッポン』(マガジンハウス)の一部を再編集したものです。
■5500円の赤字を垂れ流している日本企業
ここからは「日本人の給料はなぜ上がらないのか」を見ていきましょう。
まず、その理由の1つは、日本企業のアウトプットが増えていないということです。それは要するに、時間・お金・材料・労働といったインプットを増やしても、お金を稼げる製品やサービスを提供できていないのです。
インプットが多いということはどういう意味か。
・たくさん予算を使う
・たくさん材料を使う
・長い時間働く
・たくさんの人が働く
ということです。非常に単純ですね。
それでは、1杯のラーメンをつくるのに「材料費に2000円」使い、「時給1000円の人が3時間」働き、「電気代が500円」かかったとしましょう。また、ラーメン1杯あたり、「家賃が1000円」かかるとしましょう。
合計すると全部で6500円もかかっています。
しかしこれを1000円で売っているとすると、5500円の赤字になります。
6500円かけてつくったものを1000円で売るというと、バカげていると感じるでしょうが、今の日本の多くの組織でやっていることはこれに近いのです。
■「だらだら働く」から給料が上がらない
特に日本と海外の違いは労働時間の長さです。
他の国では15分でやる作業を、日本では無駄なプロセスがあったり細かいところまでこだわったりしてしまうので、1時間も2時間もかかることがあるのです。
これはなぜかと言うと、製造業を除き、日本の多くの産業では費用対効果をきちっと計測をしないからです。計測してしまうと、管理職の無能さがばれてしまうので、なんとなくうやむやにされているのです。
もっと言うと、組織の規模や予算を維持するために、簡単にできることも難しそうに見せたり、短時間でできることも長くかかるように見せかけたりしたほうが得をするわけです。
私の夫は日本のショッピングモールで買い物をしたときに「商品の種類の多さ」に大変驚いていました。そして、「日本は文房具も本も食品も各企業がすさまじい種類を提供し、多様な製品も販売することで消費者を満足させる戦略を取っている。
しかし、その分、高コストで利益率が低くなり、疲弊している」と分析していました。
イギリスでは、そこまで商品の種類は多くなく、新商品も毎年のように発売されたりしません。消費者側も生活必需品などは、いちいち選んだりせず、定番の商品をネットショップで購入し、自動的に定期配送されるようにしています。
いろいろな選択肢の中から選ぶ楽しみがあることもわかりますが、商品の数を増やせば増やすほど、原材料のコストも配送料も宣伝費も余分にかかり、労働時間も長くなっていくのです。
■末期のソ連と同じインプットを評価するシステム
日本はアウトプットそのものより「インプットの量=どれだけ頑張ったか」を評価するので、どうしてもそうなってしまうわけです。つまりこれは何と同じかというと、末期のソ連と同じです。
共産主義が崩壊した理由の1つは、インプットに対して効率よくアウトプットを出すことができる仕組みになっていなかったことです。
そして、非常に価値の低いサービスや商品を生み出し続け、成果を出しても報酬はそれほど変わらないので、自分が仕事しているように見せかけたり非効率をわざと維持したりということが常態化していました。
実は日本の多くの組織でこれが起こっているのです。身に覚えのある人もいるのではないでしょうか。高度経済成長期からバブルまでは経済が成長していたので、たとえ価値が低いものでも飛ぶように売れていました。
しかし、今はそうではありません。経済は低調なのに、仕事のやり方はバブルの頃とほとんど変えていない。なので、非効率なままでインプットに見合ったアウトプットが出せていないのです。
■時代に合わない「日の丸株式会社」のビジネスモデル
ここで注意しなければならないのは、日本企業のビジネスモデル自体が今の社会の変化に合わなくなってきているということです。
たとえば、日本が苦戦しているソフトウェア業界で急成長を遂げた企業を見てみましょう。「Ghost」というツールを提供しているアメリカ企業があります。
2013年にクラウドファンディングを成功させて開発されたこのツールは、一般の人がブログやニュースレターをつくるサポートをしてくれます。
アメリカをはじめとした英語圏ではブロガーやジャーナリストに特に人気です。
すでに、同じような機能がある「Substack」などのツールは存在していましたが、手数料が高いうえに、機能をすべて使うには追加料金がかかったりして、ユーザーから不評を買っていました。そこを改善したいと考えたのが「Ghost」でした。
「Ghost」は会員やユーザーの数に応じた月額の使用料金を払えば、あとは追加料金を払うことなしに自分で自由にサイトを構築できるうえ、他のツールでは提供されていない機能をいろいろ使うことができます。
月に数万円から数百万円を稼ぐ人気ライターやジャーナリストにとっては経費が削減でき利益がアップするので、「Ghost」へ乗り換える人も少なくありませんでした。
そんなわけで大人気になった「Ghost」にはもう1つ大きな特徴があります。このソフトウェアはプログラムの文字列、つまり「ソースコード」が、無料で一般公開されているのです。ソースコードの公開は「Github」というサイト上で行われています。
「Ghost」側は基本的なソフトウェアを提供し、ユーザーは自身が使いやすいように自由にソフトウェアを拡張したり統合したりすることが可能です。ソースコードには誰もがアクセスでき、しかも改善したものを再配布するのも自由なのです。
そのため、世界中の有志のプログラマにより、継続的に改良されていくのです。
■世界の潮流「オープンな働き方」と年功序列の日本
「Ghost」の提供が始まった当初、アメリカではブログやコンテンツ出版ツールの間で戦争が起きていました。
自社の市場シェアを拡大するために、「Medium」などの有名サイトは著名ライターや芸能人に報酬を払って執筆を依頼していたのです。有名人の知名度に頼った市場拡大はツール自体の機能の発展を無視し、とにかくPRばかりを重視するようになります。
一方、「Ghost」はオープンソースで開発してもらうというモデルで、ツール自体の機能の向上に注力したわけです。サービスそのもののクオリティを高めるという基本を追求したからこそ、ライバルに勝つことができたのです。
しかも、「Ghost」は厳密に言うと「会社」ではありません。なんと、非営利団体なのです。なので、株主は存在しないし、上場もしていません。社長もいません。組織を売買することもできません。しかしこれは、オープンソース業界ではめずらしくない形態です。
そして、この非営利団体で働く人々はほとんどが100%リモートワークで、働く場所も服装もすべて自由です。また、情報もすべて透明化しています。
ユーザーから支払われる購読料金からツールが動いている時間、アクティブユーザーの数、ダウンロードされた数……などがリアルタイムで公開されています。
「Ghost」は年間7億円ものお金を稼ぎ出すようになりましたが、稼いだお金は基本的なソフトウェアをつくるエンジニアの人件費やツールの向上に再投資されます。
「Ghost」のような自由でオープンな働き方というのは日本の伝統的な組織とは全く正反対です。また、付加価値の高い知識やスキルを持った人々は、非常に短期間でさまざまな組織やプロジェクトを渡り歩きます。そうやって、多くの人と交わるなかで新しいアイディアが生まれます。
実は欧州の会社も、高い付加価値を生み出す組織ほど、このようなオープンな働き方がどんどん主流になってきているのです。
こういった組織に、いまだに年功序列で働いている日本企業が太刀打ちできるはずはありません。
----------
著述家、元国連職員
1975年、神奈川県生まれ。シラキュース大学大学院にて国際関係論および情報管理学修士を取得。ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関、外資系金融会社を経て、現在はロンドン在住。日本、イギリス、アメリカ、イタリアなど世界各国での就労経験がある。ツイッター上では、「May_Roma」(めいろま)として舌鋒鋭いツイートで好評を博する。
----------
(著述家、元国連職員 谷本 真由美)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
年収300万円の会社員、老後が不安なので「公務員」への転職を考えています。民間での“社会人経験”があれば活かせますか? 老後まで安泰でしょうか?
ファイナンシャルフィールド / 2024年6月26日 3時0分
-
「役職定年」を廃止する日本企業が増えた理由 タイプ別で変わってくる新潮流への適応方法
東洋経済オンライン / 2024年6月13日 7時10分
-
【高齢者の定義】70歳引き上げ議論のワケをわかりやすく解説「年金支給を遅らせたいの?」「定年制度は労働者のため?企業のため?」「70歳までの労働50年時代に必要なこと」
MBSニュース / 2024年6月6日 13時1分
-
なぜ「高学歴な人」は就活で優遇されるのか…大人が「良い大学→大企業」ルートをお勧めする残酷な理由
プレジデントオンライン / 2024年6月3日 9時15分
-
年収500万円の人の割合はどれくらい? 年収を上げるためにできることとは?
ファイナンシャルフィールド / 2024年5月30日 11時10分
ランキング
-
1那須2遺体 死亡夫婦の長女を殺人容疑で逮捕 店の経営権独占狙う?
毎日新聞 / 2024年6月27日 13時10分
-
2【速報】大学生が転落死した美人局事件「少年院送致」決定を不服とした少女側の抗告を棄却 大阪高裁
MBSニュース / 2024年6月27日 16時5分
-
3JR新宿駅で警察官が刺されたか “路上生活者の女”の身柄を確保
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年6月27日 10時44分
-
4元検事長の定年延長訴訟 原告側「100%勝訴。国会で真相解明を」
毎日新聞 / 2024年6月27日 16時50分
-
5繁殖用の小型犬3匹を殺した疑い、「行き場のない犬に対する責任取った」…「2匹はすでに死んでいた」と一部否認
読売新聞 / 2024年6月27日 11時8分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください