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爪を剥ぎ、排泄物を食べさせ、全裸で引き回す…1500人以上が殺害された「インドの魔女狩り」の惨い実態

プレジデントオンライン / 2023年8月25日 14時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ajiravan

■インド東部で続く「魔女狩り」の知られざる実態

無実の女性をやり玉に挙げ、暴行・殺害する「魔女狩り」の風習が、インドの一部地域に色濃く残る。一方的に「魔女」と宣言された若い女性が2時間にわたり腹部を蹴られたり、老婆が身内によって血まみれで惨殺されたりと、痛ましい事件が続く。

ニューヨーク・タイムズ紙は、2021年までの12年間で1500人以上が殺害されたと報じている。

医療システムの届かない村では、疫病や災害が発生した際、人々はその原因を「魔女」に求める場合がある。家父長制の色濃い地域社会のなかで、立場の弱い女性に悪意が向かう。

昔ながらの呪術的な性格に加え、現代では黒魔術信仰の形を借り、私怨(しえん)を晴らす口実にもなっている。なかには村の名家が地位を悪用し、性的行為の誘いを断った女性を魔女として吊り上げる事件が発生している。

■村の有力者に恨まれ、26歳女性は「魔女」になった

東部ジャールカンド州では、26歳女性が魔女と呼ばれ暴行を受けた。ニューヨーク・タイムズ紙が報じている。

女性は村の名家の一族によって家に連れ込まれ、激しい暴行を受けたという。戸口に立った女から「お前は魔女だ」と身に覚えのない罵声を浴びせられたのを皮切りに、腹、胸、顔などあらゆる箇所に、パンチやキック、ビンタの嵐が飛んだ。女のほか、首謀者の男性ら3人が暴行に加わった。

2時間ほど続いた虐待から、解放されたと思ったのもつかの間。こんどは髪を引っぱり村中を引きずり回され、意識を失うと寺院の脇に棄てられた。事件は2021年に起き、魔女狩り防止法に基づいて加害者の全員が起訴されている。首謀者の男とその弟は数カ月を刑務所で過ごしたが、その後保釈された。被害女性はいまも、腰と背中に痛みを抱えている。

暴行事件のあと、被害女性の暮らしはいっそう困難となった。村の水道を使うことを禁じられ、池での沐浴(もくよく)も許されなくなった。家の周囲には、村への侵入を禁じる柵が立てられた。それでも彼女は、断固とした意志で村に留まっている。「3人の幼い子供たちがいます。自殺など決してしません」

■原因は「性的な誘い」を断ったこと

女性は以前、村の有力者である男性から性的な誘いを受けていた。これを断ったことでトラブルに発展したという。男性は女性を魔女と決めつけ、自身の妻や娘など身内4人で襲撃に及んだ。

ニューヨーク・タイムズ紙は本件を、現代に残る悪習だと指摘している。「インドでは法律をはじめとする取り組みが多数行われているにもかかわらず、古くからの悲劇の元凶である魔女狩りの根絶にいまだ苦慮していることを示す証拠となった」と同紙は論じる。

村内の対立はもとより、おなじ一族のなかで惨劇が繰り広げられたケースもある。

2019年9月のある日、ジャールカンド州の州都・ラーンチーから15キロほど離れたバロティの村で、高齢の女性が親戚によって殺害された。ムンバイで政策研究にあたるNPO法人のインディア・スペンドが詳細を報じている。

女性は夫と一緒に暮らしていたという。夫婦は毎日昼下がり、近くの森へと交代で足を運び、薪を集めていた。その日も食事を終えた夫が森へ向かおうとしたところ、2人の甥が訊ねてきた。妻はどこか、と聞いてくる。森にいるはずだ、と夫は答えたが、それ以来、夫が妻に会うことはなかった。

■「息子が病弱なのは魔女のせい」呪術医を信じた甥2人の蛮行

夫はたまたま帰省で訪れていた娘とともに、必死になって妻を探した。だが、2人は惨状を目にする。娘はインディア・スペンドに対し、「突如として、血まみれの痕跡が目に飛び込んできました」と語る。

「まるで何者かが、血に濡れた物体を引きずって歩いたかのようです」。夫と娘は赤い痕跡をたどった。斜面の下、痕跡が途切れた地点に、妻の無残な遺体が横たわっていた。

ジャールカンド州東部ドゥムラ村で、彼女の悪霊が村の牛を死に至らしめたと村民に疑われ、魔術を行ったと非難されたインド人女性=2015年8月26日
写真=AFP/時事通信フォト
ジャールカンド州東部ドゥムラ村で、彼女の悪霊が村の牛を死に至らしめたと村民に疑われ、魔術を行ったと非難されたインド人女性=2015年8月26日 - 写真=AFP/時事通信フォト

のちに判明したところによると、妻を殺害したのは、夫に行方を聞いた2人の甥だったという。片方の甥には15歳になる息子がいるが、長年病弱であった。事件の3日前、息子が高熱と疲労感に襲われており、地元のオジャ(呪術医)にすがった。

少年の病因を問われたオジャは、被害女性が少年に対して「悪意に満ちた目を向けている」ことが原因だと答えたという。女性は「魔女」であり、その「力」をもって少年の健康を害しているとの預言であった。真に受けた2人の甥は、親族である女性の殺害に及んだ。

ジャールカンド州警察は、州内で黒魔術信仰を原因とする殺人事件が多発していると発表している。2019年に公式に記録されたものだけで、27件に上る。

インドの狭い路地を駆け抜ける女性
写真=iStock.com/danishkhan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/danishkhan

■むち打ち、レイプ、火あぶり…女性が不満のはけ口にされている

国際NGOのアクション・エイドは、魔女狩り問題を追跡している団体のひとつだ。インターン生であるリナ・ヴォルクマン氏と、コミュニケーション担当職員のシャリニ・ペルマル氏は、米外交専門誌のディプロマットに寄稿している。

記事によると魔女と烙印(らくいん)を押された女性は、むち打ち、レイプ、火あぶりなどの暴力を受け、そして殺害される場合がある。

ターゲットとなるのはほとんどが「集落のなかでかろうじて暮らしている女性」であり、老若や既婚・未婚を問わないという。しかし、なかでも高齢の独身女性は「子をもうけられず性的なサービスを提供することもできない」ため、家父長制が色濃い社会制度において邪魔者として扱われることが多い、と記事は指摘する。こうした女性が災厄の原因である「魔女」に仕立て上げられ、集落の不満のはけ口とされるという。

ニューヨーク・タイムズ紙は、魔女狩りは古い迷信の枠を越え、現代では女性たちを抑圧する手段としても利用されていると指摘する。作物が不作だった、井戸が涸れた、病人が出たなどの不利益が、すべて村の「魔女」のせいになっている。

冒頭の26歳女性の件でも、村の名家の男性の性的な誘いを断って以降、牛が死ぬたびに彼女の責任になっているという。

■爪を剝ぎ、排泄物を食べさせ、全裸で引き回す

類似の事件は無数に起きている。インド犯罪記録局によると、2021年までの12年間で1500人以上が殺害された。被害は深刻だ。ニューヨーク・タイムズ紙は、「魔女の烙印を押された女性たちは、爪を剝がれたり、糞を食べさせられたり、裸で引き回されたり、黒や青のあざができるまで殴られたりしている」と報じている。

今年5月には、ジャールカンド州のある部族内で13人が加わる集団リンチが発生。標的となった60歳と58歳の夫婦が死亡した。タイムズ・オブ・インディア紙によると、部族の暦で新年を祝う3月のサルフル祭で事故が起き、少年2人が死亡。夫婦の「邪悪な力」が事故の元凶とされ、村の聖職者を含む13人で襲撃して私刑に処したという。地元警察は13人全員を逮捕した。

より多くの被害者を生んだ事例もある。2015年には、ジャールカンド州の州都・ラーンチーからわずか数キロに位置するマンダー地区で、女性5人が殺害された。インド紙のデカン・ヘラルドによると、女性たちは魔女の烙印を押され、「拷問され、殺害された」という。

■呪術医が「魔女」をでっち上げる

NPO法人のインディア・スペンドは、先住民族のあいだに根強い黒魔術信仰に加え、貧弱な医療システムが魔女狩りを生んでいると指摘する。

ジャールカンド州では医療が受けられない人が多く、もともと薬剤師として働いていた偽の医者を名乗る人々から薬を手に入れている。人々は偽医者の薬に頼らざるを得ないのが現状だ。

偽医者の薬で対処できなくなると、人々は集落に住む「オジャ」と呼ばれる呪術医を頼る。ほとんどの家庭が自家用車を持てず、公共交通機関も発達していない現地で、最後の頼みの綱となっている。オジャは占いや儀式によって問題の原因を判断し、薬草などを使った超自然的な治療法を施す。

一方でオジャは、トラブルの種となることがある。ある村の長はインディア・スペンドに対し、オジャは高額な料金を家族に請求し、現金がない場合は現物での支払を要求すると明かしている。誰かを「魔女」と糾弾し、村内で騒乱を引き起こすケースも多いという。

ニューヨーク・タイムズ紙によると、最も被害の多いジャールカンド州では、2021年だけで854件の被害例が発生している。うち32件が殺人事件に発展した。同州では貧困問題が深刻であり、人口に占める先住民族の割合も4人に1人と高い。魔女狩りは先住民族の多いインド中央部や東部の地域を中心に、いまでも例年発生している。

バッファローを連れて歩く女性がいるインドの光景
写真=iStock.com/Pandit Vivek
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Pandit Vivek

■無くならない魔女狩りに、州の裁判所が動く

相次ぐ事件を受け、ジャールカンド州高等裁判所は対策に本腰を入れ始めた。州政府に対し、魔女狩り防止のためにどのような措置を講じているか、詳細な報告書を提出するよう命じた。インド紙のデカン・ヘラルドなどが報じた。

これまでにも対策は施されてきたが、効果は限定的だ。2001年には魔女狩りを抑止すべく、州議会が魔女行為防止法を可決した。魔女と認定することや、魔女であることを理由として精神的・肉体的に拷問を加えたものに対し、罰金刑や懲役刑を規定している。

しかし高裁の判事らは、魔女だと吹聴され集団リンチを受ける類いの事件がなおも「極めて頻繁に」報道されていると指摘。州政府の対策は目立った成果を生んでいないとして懸念を表明している。

■無実の女性たちを死に追いやる「村の狂気」

インドの一部地域に残る魔女狩りの風習は、部族の不満の矛先を無実の女性や老人たちに公然と向ける、あってはならない制度だ。真に恐れるべきは、いわれもなく「魔女」のレッテルを貼られた女性たちではなく、黒魔術に追随し無実の女性たちを死に追いやる村の狂気だと言えよう。

魔女狩りはまた、後味の悪い結末を残す風習でもある。自分のため親戚が殺されたと知った15歳少年は、一体何を思うだろうか。医療の届かない地域では、病状の改善をオジャに頼らざるを得ず、結果として誰かが犠牲となる悪習が続いている。

意識の変革には時間がかかることが予想される。高裁の動きが結実し、古い因習が徐々にでも改められることを願うばかりだ。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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