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次の箱根駅伝で「関東学生連合」は走れない…なぜそんな重大事が学生不在の"密室"で取り決められたのか

プレジデントオンライン / 2023年8月22日 11時15分

撮影=プレジデントオンライン編集部

■箱根駅伝、第100回大会は「関東学生連合」なし

箱根駅伝は来年2024年に第100回大会を迎えることになる。記念大会ということで、出場校は例年の「20」から「23」に拡大。10月14日に行われる予選会には関東地区以外の大学も出場できる。

一方で第100回大会には選抜チームである「関東学生連合」は結成されない。一部の学生や関係者の間では、関東学生陸上競技連盟(関東学連)の学連チームなしの発表までの過程について疑問の声が上がっている。

■選抜チームの目的は箱根の経験をチームに持ち帰ること

箱根駅伝に「選抜チーム」が登場したのは、それほど昔の話ではない。初登場は第79回大会(2003年)。その目的は「実際の箱根駅伝を経験して、それを各大学に持ち帰り、チームの財産にしてほしい」というものだった。

「関東学連選抜チーム」(当時)は予選会で落選した大学の選手(基本、出走するのは各校1名ずつ)で編成。すごいチームができるのでは? とささやかれていたが、実際はそれほどでもなかった。初年度は16位相当。「日本学連選抜」として参戦した第80回記念大会(2004年)は6位相当まで上がったものの、以後、18位相当、19位相当と伸び悩んだ。

第83回大会(2007年)からはオープン参加ではなく“正式参加”となるも、20位に終わった。選抜チームが最も輝いたのは、第84回大会(2008年)だ。予選会で次点だった青山学院大学の原晋監督が指揮を執り、後にマラソンで大活躍する川内優輝(学習院大)が6区を区間3位と好走。総合4位と大健闘したのだ。翌年も9位に入ったが、その後は下位を低迷することになる。

第90回記念大会(2014年)は結成されず、第91回大会からは「関東学生連合チーム」(以下、連合チーム)という名称で復活した。しかし、またしてもオープン参加扱いとなっただけでなく、「第91回大会以降で本戦出場が1回までの選手(単独校、連合チームを問わず)」というルールができたため、さらに弱体化。第91~99回大会の成績は19位、11位、20位、21位、21位、19位、20位、14位、20位相当だった。

連合チームに選ばれたとしても、本戦を狙える大学にしてみればモチベーションは上がらない。加えてメンバーに入る大学も“常連化”してきて、新鮮味がなくなった。

個人的には、連合チームは5年に一度の記念大会で結成されるくらいでいいのではと感じている。その理由は単純で、駅伝はチームスポーツだからだ。箱根駅伝に出たければ、出場が見込める大学に進学して、勝負していくしかない。

箱根駅伝に出られなくても、インカレなど個人で輝ける舞台は準備されている。どちらを選ぶかは、個人の自由だ。もしくは「出場は1校1名」と「本戦出場が1回までの選手」というルールを撤廃して、もっと夢のあるチームで参加できるようになれば、箱根駅伝の楽しみが増えるはずだ。

一方、チームとして箱根に出場するのが絶望的な大学の選手にとっては、選抜チームの存在意義は大きい。大学卒業後“公務員ランナー”として大活躍した川内優輝は関東学連選抜で2度の箱根出場を経験。他大学の選手との交流が始まり、その後の競技に生きていることもあり、川内はかねて「選抜チームの存続」を強く訴えてきた。

では現役学生ランナーの意見はどうなのか。

■学生ランナーの意見を無視しての強行決議

第100回記念大会で連合チームは結成されない。同90回記念大会も選抜チームの出場はなかったため、今回も出番がなくても仕方ない部分はあっただろう。だが、そこまでのプロセスが良くなかったようだ。

関東学連は昨年4月19日の段階で連合チームを編成しない案を加盟校へ提出した。それを受けて東京大学の学生は同26日、連合チーム編成可否の最終決定の時期を問うメールを関東学連へ送信。しかし、学連側からの返答が得られないまま同6月30日の代表委員総会で連合チームの編成可否が採決され、「関東学生連合チームは編成しない」と発表された。

関東学生陸上競技連盟「第100回東京箱根間往復大学駅伝競走予選会 選考方法・参加資格について」
関東学生陸上競技連盟「第100回東京箱根間往復大学駅伝競走予選会 選考方法・参加資格について」

今年4月に入り、東大や東京工業大学を中心とした8つの大学は、その決定を覆すためのプロジェクトチームを結成。5月17日までにオンライン署名で関東学連規約の臨時総会の開催条件にあたる「代表委員(加盟校の代表者)の3分の1以上」の賛同票を獲得するも、関東学連から加盟校の直筆の署名と押印をした書類を再提出するように指示を受けたという。

そのような状況にもかかわらず、関東学連は6月28日の代表委員総会当日の午前、加盟校に対し、10月14日の箱根駅伝予選会の要項を送付。午後の総会を経て、第100回大会で連合チームが編成されないことを公式ホームページ上で発表したのだ。

今回の発表に至ったことに違和感を覚えたプロジェクトチームはその後も署名活動を続け、7月20日に臨時総会開催の要望書を再提出している。プロジェクトチームが不満をもらす理由は以下の通りだ。

関東学連の規約では代表委員総会が開催される2週間前までに会議の議事内容を通達する必要があると明記されているが、会議の議事内容を示した資料は前日や当日の朝にしか送付されなかったという。そのため、連合チームの編成可否を巡る議論の場が十分に設けられなかった。

また承認/不承認の票数が議事録に明記されておらず、具体的な数字が不透明。さらに連合チームを編成しない案は強豪校の監督らが務める駅伝対策委員会で話し合われたため、草案時に学生の意見は反映されなかった。

要するに、箱根駅伝の“主役”といえる現役学生ランナーの“意見”がほとんど届いていないのだ。

■箱根駅伝は誰のものか?

今回の“騒動”について、川内優輝はヤフーコメントにエキスパートという立場で以下のコメントを書き込んでいる。

明確な議論の場が設けられずに学生連合チームが廃止されたのは今回が初めてではありません。10年前の90回記念大会でも当時の学連選抜チームが今回と同じような構図で廃止されました。10年前も東京大学を中心に学連選抜存続を望む学生達が関東学連の会議で議論を続けた結果、多数決で91回大会以降の復活が決まりました。しかし、順位ありの「学連選抜」チームはオープン参加の「学生連合」チームに名称や記録の扱いが変更されて、1校1人などチーム編成の方法も変更されました。ですので、この「学生連合チーム存廃問題」は直近数年に出てきた問題ではなく、10年以上前から続いている問題なのです。

これは箱根駅伝が誰のための大会なのか、よくわかるエピソードのように感じる。連合チームの存続を望む大学があるなかで、正式な手続きを行わずに“密室”で決定してしまう関東学連の体質は変わらないようだ。

これまでも「関東インカレポイント」(関東インカレの成績を予選会のタイムに換算する)を導入するなど、多数決では絶対に通らないであろうルールが承認されてきた。

給水ポイント
写真=iStock.com/kanzilyou
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kanzilyou

正月に開催される箱根駅伝は絶大な人気を誇っている。主催する関東学連は1919年(大正8年)に創立。日本陸上界では最古の連盟組織だ。国民的な大イベントになった箱根駅伝は“学生主体”で大会を運営されてきたはずだったが、いつしか“特定の権力者”が強行で新ルールを決めるような組織になっているようだ。

第101回大会での連合チームの編成可否は現時点で未定だが、関東学連の加盟校数は244校(2023年度)。一方で箱根駅伝の通常出場枠は「20校」だ。箱根駅伝に出られない大学の方が圧倒的に多い。純粋な多数決になれば、連合チームが存続される可能性は高い。廃止にするなら、合理性のある理由が必要になるだろう。誰もが納得するかたちでルールを決めていくしかない。

また第100回大会は全国の大学に門戸が開かれたが、この発表も予選会が開催される1年ほど前だった。遅くとも4~5年前にアナウンスしなければ、自力で夢をかなえることはできない。

予選会だからといって、フリーパスで出られるわけではないからだ。予選会のエントリーは各校10人以上14人以下で、「エントリー者全員が10000m34分以内のトラックでの公認記録を有していること」という条件がある。

単に人数をそろえればOKではない。ある程度の走力を求められるため、長距離部員が少ない大学は予選会に出場するのもなかなか難しい。フィクションの世界のように、わずか1年でチームを整えて、予選会を突破するのは不可能だ。

箱根駅伝の人気が高くなったゆえに、大人たちの暴走が目立っている。箱根駅伝は誰のための大会なのか。第100回大会を“お祭り騒ぎ”で終えるのではなく、しっかりと考えるべきだろう。

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酒井 政人(さかい・まさと)
スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)

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(スポーツライター 酒井 政人)

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