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異常なこだわりで面倒なのに価格は安い…海外の木材メーカーが日本向け輸出を嫌がるようになった理由

プレジデントオンライン / 2023年8月26日 18時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

国内で深刻な木材不足が続いている。調達・購買コンサルタントの坂口孝則さんは「米国で起きたウッドショックの影響だが、それだけではない。そもそも海外の製材メーカーが日本向けの輸出を嫌がるようになったという背景がある」という――。(第1回)

※本稿は、坂口孝則『買い負ける日本』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

■材料が手に入らずマイホームが建たない

「そんなに遅れるの?」

キッチン用品の展示場では来店するお客から、そのような感想が多数寄せられたという。2020年から2022年にかけて、システムキッチンを展示しているのに、売れても納品ができない。給湯器等も仕入れられない。納期が遅延する前提で売らなければならない。建設資材ではほぼすべてが影響を受けた。

コンクリート、キッチン、および給湯器などキッチン備品、アルミサッシ、壁のクロス、その他、センサー付きの照明器具、トイレ設備、換気扇、コンロ、IHヒーター……。建設資材は価格が全面的に上がり、工期に影響した。

この時期に住宅を建てた人を失望させた。基礎工事が止まる、材料が届かないといわれ別場所での仮住まいを長引かせることになった。挙句の果てには、見積もり費用が異常に膨らんだ。「ふざけるな」と怒りをぶつけても、現場の担当者にとってもどうしようもない。木材が手に入らないのだ。

なかにはマイホームを夢見ていたのに、着工後に部屋数を減らすように勧告された購入者もいる。間取りを変更しなければ当初予算のままでは建てられなかったのだ。苦しんだのは住宅関連産業だけではなく、他の産業も同様だった。楽器メーカーがギターの生産に影響が出るとした。

■深刻な影響が出た「バイオマス発電」

バイオマス発電にとっても事態は深刻だった。発電用の木質バイオマス材料は高騰し入手しにくくなった。関西電力の朝来バイオマス発電所は稼働を停止した。他にも稼働を停止したバイオマス発電所は多い。バイオマス発電の事業者は長期契約を結ぶケースが多くなく、価格が市況に影響を受ける随時調達で購入するケースが少なくない。

バイオマス発電で使用する木材チップは、その原料となる植物の成長過程で二酸化炭素を吸収するためにエコな燃料と考えられている。環境面からも推進されていたものの、その方針がつまずいた。

2021年に米国発のウッドショックが起きた。1970年代の「オイルショック」になぞらえた単語だ。コロナ禍のテレワークで郊外への移住が進んだことや、歴史的低金利で建設・住宅需要が伸びた。巣ごもりのDIYブームもあった。また、もともと脱炭素を推進する関係で森林伐採を縮小させていた。

さらにアジアでは移動制限とロックダウンで労働者もコンテナも不足した。さらに米国の各港で物流が滞り、不足に拍車をかけた。木材価格の指標となるシカゴ・マーカンタイル取引所の先物価格が2021年には異常値をつけていたほどだ。次に起きたのがロシアのウクライナ侵攻だった。

木材チップ
写真=iStock.com/urbazon
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/urbazon

■セメントや石炭はロシアに依存している

森林認証機関であるPEFCとFSCがベラルーシ産とロシア産を、紛争鉱物ならぬ紛争木材として認証を停止した。紛争鉱物とは、人権蹂躙(じゅうりん)を引き起こす地域で、テロ組織などが資金源とする天然鉱物を指す。当該地域から調達するほどテロ組織に加担することになる。

有名なのはコンゴ民主共和国で採掘されるスズやタンタル、タングステンだ。だから米国などを中心に、これら紛争鉱物を調達しないように進めてきた。その木材版だ。PEFCとは国際基準に則って林業が操業されていると第三者が認証するものだ。FSCも似た仕組みだ。

PEFCが紛争木材とみなしたベラルーシとロシアの森林面積は世界の認証面積の12.5%にいたっていた。欧州はベラルーシからの木材調達を制限。結果、欧州の木材が不足し高騰した。ロシアも対抗措置を講じた。非友好国へ木材や製紙材料やバイオマス発電用の木材チップなどを輸出停止すると発表した。このように米国とロシアの大国発の第一次・第二次ウッドショックが世界を襲った。

なお、日本にとっては木材だけではない。コンクリートの原料であるセメント、その燃料である石炭はロシアに頼っている。影響は大きい。

■なぜ森林が多いのに木材の自給率が低いのか

ところで日本は美しい自然を誇る。森林も多い。なぜ緑にあふれた国が木材を外国に依存しているのだろうか。日本では大半の住宅が木造なのに、日本は木材を自国内で完結できない“奇妙”な国だ。

もともと日本の木材自給率は1955年になんと96.1%もあった。しかしその後に輸入が続伸。ロシアや北米からの木材に依存するようになり、2000年代の前半には自給率は20%弱となった。2000年代の中盤から木材自給率はやや上昇し、2010年以降はバイオマス発電などの用途も加わったことから40%強となっている。

ただ近年に限っていえば供給量は横ばいとなっているし、まだ未来が明るいとまでは言いにくい。日本の林業は儲からないと有名で、林野庁の試算では補助金なしでは林業はたちゆかない。住宅以外の需要を探そうと、先に書いた通りバイオマス発電用途を見出した。しかしさほど儲からずに、十分に機械化されていない。

林業
写真=iStock.com/bee32
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

日本には伐採したまま放置された山が多くある。これから植林しても、使用できるのは数十年も先になる。なぜ日本の木材は採用されないのか。住宅メーカーの関係者に質問すると、国内材を使いたい希望はある。ただし質と価格が伴えば、と条件をつける。

外国産は品質が良いと評判が高い。たとえば冷寒地の木材は節(枝がその幹に丸く巻き込まれた部分)が大きくなく、力をかけた加工に強い。価格も安かった。国内は少量ゆえの非効率化が目立つ。木材が不足する局面であれば日本メーカーが増産に動いてもよいはずだ。

■伐採業者はニーズを把握することができない

しかし、調達側企業が中長期的に日本メーカーへ切り替える方針を出さない以上は、生産増に足を踏み出しにくい。人手不足もある。さらに住宅市場も先行き不透明で一部の在庫もダブつく。

一般的に森林で伐採された原木丸太は、製材工場に送られ角材や合板に変わる。それを建材工場が購入し、建築用部材に加工し、それを住宅メーカーや建設会社が調達する。これは単純化したサプライチェーンであり、実際には多層に入り組んでいる。伐採以降は、誰もが資本の論理で動いているから、高ければ国産のものを買わない。さらにサプライチェーンが多層だから、森林で伐採する業者は、その先のニーズがわからない。

また、たとえば住宅メーカーは、工場で木材を規定サイズに切断・加工することを求める。ただ多様なサイズがあるため、国内では大量に処理することができなかった。懸念される強度の問題も、CLT(Cross Laminated Timber)といった技術が進化してきた。合板とも集成材とも違い、木材の繊維方向を直交させながら積層するものだ。これで強度が安定する。

しかし質が高くなってもコストの面での問題があり、道半ばだ。さきほど日本の木材の自給率を見た。6割は海外に頼っている。輸入の内訳を見ると、丸太の6割ほどは米国に依存し、製材はEUとカナダ、集成材もEUと、特定国に偏る。もちろん多くは友好国だが、当然ながら、危機時には米国やカナダは自国を優先する。

■海外メーカーを困惑させた「日本の異常なこだわり」

たしかにこれまでは世界中に張り巡らされた調達網を使えば、必要な量だけを安価に購入できた。ただ森林大国であるはずの日本は、米国の新規住宅増に影響を受けるほどの脆(もろ)さを露呈した。

ところで、日本側に落ち度はなかったのか。日本各社は必死に調達しようとしていた。しかしさまざまな困難に直面した。理由は日本側の要求品質の高さだ。仕上がりの注文が細かい。それはJQ(Japan Quality)と呼ばれる。

たとえば木材のそり・曲がりの許容度は他国より厳しく、さらに面積における節の比率は低く抑えられている。外国の製材メーカーは日本の住宅メーカー向けに特別な検査工程や別工程を用意せざるをえなかった。さらに日本の住宅メーカー向けのものは不良品となる率も高い。かつて日本の新設住宅着工戸数は順調に推移していたし、正規品ではないと弾かれる不良品があっても、外国の製材メーカーは許容していた。日本側が重要顧客だったからだ。

日本の住宅メーカーへ販売する単価はさほど高くなかったものの絶対量が確保できていたためだ。しかし、さきに挙げた通り、とくに2021年に米国などを中心とした建設需要の急増から潮目が変わった。欧米はインフレとともに、労働者の給与増が続く。日本が要求するほどには木材の品質が高くなくて良い。

しかも高く買ってくれる。ゆえに日本向けに生産するインセンティブはない。

木材
写真=iStock.com/ma li
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ma li

■市況を無視した交渉で外国からそっぽを向かれた

住宅メーカーの幹部に聞いた。

「これは木材に限りませんけどね、とにかく日本向けは面倒くさい。外国だったら信じられないレベルの要求をする。他の国に次々に売れていくのに、日本だけに特別な対応はしませんよって。人材もかけられないよ、と。高額のオプション価格を上乗せして払わないと出荷できません、と。さらに、国内の商社からは日時や量を細かく指定した搬入指示も厳しいですよ、とクレームが来ました」

第一次・第二次ウッドショックが起きた際、早い段階から大口の注文を出して木材を確保すればよかった、という人もいる。しかし大胆な発注ができなかった。一つには国内景気の不透明さがあった。コロナ禍からいつ抜け出せるかもわからず、会社として多額の注文に踏み出せなかったのだ。読みを誤ると大量の在庫になる。ただ供給の逼迫に対して大口の注文どころか、海外勢を刺激した日本企業もあった。

たとえば住宅の梁(はり)に使う挽き板(ラミナ)がある。この挽き板とは、集成材を構成している小角材ピースだ。日本のメーカーには、コロナ禍の景気の不透明感のなかで、この挽き板の調達価格を下げようとしたところがあった。しかし欧州の供給者からすれば「なぜこの時期に下げる必要があるのか」となる。市況を無視した交渉でそっぽを向かれた。

■規格に合わない木材もあり供給不安は続いている

また日本の住宅メーカーはこれまで海外製に舵を切っていたため、日本の製材メーカーは設備投資を低く抑えていたので増産は難しかった。ウッドショックが起きたからといって日本に調達先を切り替えようとしても上手くいかなかったのは前述のとおりだ。ふたたび住宅メーカーの幹部との会話に戻る。

「ただ日本はすごく真面目にやっている。技術側も少しでもいい家を建てようと必死に頑張っているし、そもそも高い品質の住宅はお客様の要望だからね。それに木材の品質は時間をかけて決めたものだから、すぐに切り替えるわけにはいかない。たいしたことのない部材だってじっくり時間をかけて検討する。調達側も価格を抑えるために必死にやっていますよ。外国人バイヤーよりも真剣。だけど、海外では住宅が高騰しているし、賃金も上がって、住宅に支払える金額も上がっているわけでしょう。なかなか難しい状況ですよ」と正直に伝えてくれた。

なお、これは日本の品質要求が高いから、とは一概にいえないが、中国木材でも問題が起きた。各商社ともロシアから木材が輸入できなくなったので、なんとか中国木材を入手し混乱を防ごうとしたときだ。

住宅に使用する中国製合板が品質不適合になった。合板のサイズが規格に合わない、あるいは品質管理書類を提示しないなどのトラブルが続き、一部のメーカーはJAS(日本農林規格)として認証されなくなった。日本の品質要求が高いというより、管理体制が日本の望むレベルにないというべきか。日本への輸入は急減し供給不安はくすぶり続けている。

■柔軟な価格改定は認められているが…

また値上げについては、スライド条項を取り上げたい。

これは国土交通省の説明を引用すれば「特別な要因により工期内に主要な工事材料の日本国内における価格に著しい変動が生じ、請負代金額が不適当となったとき、請負代金の変更を請求できる措置」だ。つまり市況価格が上がったら受注価格の改定を堂々と要求していい。

また民間同士の契約であっても同種の価格改定措置が盛り込まれている。たとえば、これは民間企業の調達規則だが「仕入先から単価改定の要望があった際、仕入先からその事情を聞いたうえで市況を調査する。結果、単価改定がやむを得ないと判断した場合は、価格変更要望書を起案する」としている企業がある。もっとも、価格変更要望書を作成しなければならない煩雑さがあるものの、これは組織の意思決定として証拠を残す意味がある。

しかし現実的にどうかというと、このスライド条項を認めてもらうことは困難だ。なぜなら民間には売買をする窓口である購買部門のKPI(Key Performance Indicator)があるからだ。簡単にいえば業績評価の基準だ。

困った男
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

■「契約を曖昧にする」のが日本の文化

歴史的に購買部門は「納品してもらって当然。安く買えるかが重要」とプレッシャーを受けている。だから価格を上げるのは評価の対象にならない。その価格上昇を許容しなければ仕入先はダメージを受けるかもしれないが、そこまで配慮するシステムではない。

私が個人的に米国で見た契約の風景は印象的だった。契約書が電話帳の厚みほどあった。そこには、どれだけ市況が変動したら、どのように価格に反映させるか、など細かな条件がびっしりと書かれていた。日本で契約を曖昧にするのは文化ともいえるが、曖昧がゆえに下層ほど影響を受ける。

本稿の冒頭でマイホームの見積もり費用が膨らんだ例をあげた。負担に苦しむ購入者には言いにくいが、価格を転嫁できた住宅メーカーや工務店からすればマシだったかもしれない。企業間の工事で注文者側に契約金額の変更を受け入れてもらうのは難しい。

契約をだいぶ前に交わしたゆえに価格に転嫁できなかった場合もある。たとえばフローリング施工などは、契約してから実施までの期間が長いと知られる。そのあいだに木製品の価格が上昇し、利益を圧迫した。各社とも最終価格に転嫁できなければ人件費を削るしかない。苦渋の決断として、ただでさえ上昇していなかった職人の報酬を抑えた企業もある。もちろん業界全体が停滞し、さらに金が取れない業界になっていく。

■低価格志向は日本をダメにする

もちろん海外に依存するのが悪いことではない。ただし、品質要求を柔軟にしつつ、日本木材の活用はリスク分散の観点からも重要だろう。

伐採しても同時に森林を育てれば問題がない。さらに自国森林の活用は二酸化炭素の吸収を考えても重要だ。海外からの物流における二酸化炭素も排出しない。住宅以外の建物にも有効活用すればSDGsにもつながる。木造ビルが増えれば世界的なPRにもなる。

坂口孝則『買い負ける日本』(幻冬舎新書)
坂口孝則『買い負ける日本』(幻冬舎新書)

また日本には自宅に納得のいく木材を使いたいニーズも一部にある。地産地消の木材を使って家造りをしたい希望をもつ人たちもいる。山に足を運んで育林状況を把握して、国内木材の利用につなげていく必要がある。私は「一部に」と書いたが、それがどれだけ広がるだろうか。ある関係者がこう言ったのが印象に残った。

「中国のアパレルブランドで有名になった企業がありますよね。安くてたくさん買える。とくに日本で人気です。大量生産で大量廃棄。日本では環境を守るとかSDGsって言っていますけれど、消費者はほんとうにそれを考えて買っていますかね。また地産地消って言いますけれど、価格が高かったら買ってくれない」

私は日本の消費者が悪いとは思わない。消費者にとっては安いほうがいいに違いない。ただし結局は程度問題だ。価値を認めるべきは認め、価格を上げるべきは上げる。その当然の値上げがなく、ひたすら低価格志向を重ねれば日本は世界から置き去りにされていく。

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坂口 孝則(さかぐち・たかのり)
調達・購買コンサルタント
未来調達研究所株式会社所属、講演家。2001年、大阪大学経済学部卒業後、電機メーカー、自動車メーカーに勤務。原価企画、調達・購買に従業。現在は、製造業を中心としたコンサルティングを行う。『牛丼一杯の儲けは9円』『営業と詐欺のあいだ』『未来の稼ぎ方』『買い負ける日本』(すべて幻冬舎新書)、『製造業の現場バイヤーが教える調達力・購買力の基礎を身につける本』『調達・購買の教科書』(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。

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(調達・購買コンサルタント 坂口 孝則)

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