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3年間休みなしで「1057連勤」を更新中…現役コンビニオーナーが証言する「24時間営業の本当のキツさ」

プレジデントオンライン / 2023年8月26日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Vorawich-Boonseng

コンビニの24時間営業は、オーナーにとって大きな負担となっている。現役コンビニオーナーの仁科充乃さんは「1日のなかでもせめて深夜の数時間でいいので、安眠できる時間がほしい。私は約3年間、1057連勤を経験している。たとえ休みが取れても24時間営業では葬式や旅行に行っても気持ちが休まらない」という――。(第1回)

※本稿は、仁科充乃『コンビニオーナーぎりぎり日記』(三五館シンシャ)の一部を再編集したものです。

■あまり知られていない“炎天下での作業”

一般にあまり知られていないようだが、多くの人々に知っておいてほしいことがある。炭酸飲料の入っていたペットボトルの危険性についてだ。コンビニでは、お客の飲み終えたペットボトルを回収(*1)している。

ペットボトルの回収車は、キャップがついていると持っていってくれないので、店側でボトルのキャップを外す作業をしなければならない。これが結構、手間でたいへんな作業となる。真夏の暑い時期、ゴミ箱にはびっくりするほどの速さでペットボトルが溜まり、すぐに満タンとなる。狭い店内にペットボトルのキャップ外しのスペースなどない。

外へ出て、駐車場の片隅に陣取り、炎天下での作業となる。大量のペットボトルのうち、7割ほどのキャップがきっちり閉まっている。飲み残しが入ったものもある。キャップを外し、中身を捨てねばならないので、キャップがついていないボトルの3〜5倍の時間がかかる。なかにはギッチリとタバコの吸い殻が詰めてあるものもあり、これだと中身のタバコを振って取り出したうえで、中を洗わねばならない。

ここからがぜひ知っておいてほしいことなのだが、炭酸飲料が入っていたペットボトルのキャップを外すことほど危険な作業はない。猛暑の中、外のゴミ箱に入れられたペットボトルの中では残った炭酸飲料が発酵し、破裂寸前になっている。

ちょっと外しかけた段階で、ブシュッ! と嫌な手応えがあった途端、バンッツ‼ とキャップはあらぬ方向へと飛び出していく。眼球に直撃すれば失明しそうなほどの威力だ。

(*1)ペットボトルを回収 ペットボトルも含め、ゴミは専門の業者に回収してもらう。うちの店ではその回収費だけで月3万円ほどかかっている(2023年現在)。ゴミの仕分けなどの手間も考えると、ゴミ箱を設置する店舗側の負担は大きい。そのせいか最近では、店頭にゴミ箱を置かない店が増えてきている。つい先日、お客に「こんな大きなゴミ箱出しているコンビニ、このあたりじゃここしかないよ」と言われた。

■注意書きのポップも効果がなかった

だから、私たちは炎天下、炭酸飲料用ペットボトルかそうでないかを識別し、炭酸飲料のペットボトルならおっかなびっくり飲み口を誰もいない方向へ向け、顔を背(そむ)けてそろそろと空気を抜きながら外す。こうなると1本につき5〜10倍の時間と手間がかかる。

それだけ気をつかっても、かすかに空気が漏れるか漏れないかの段階でバシュッ‼ とキャップは飛び出していく。手間なだけではなく、危険なのだ。対策として、ペットボトル用のゴミ箱の真横に専用のキャップ回収ボックスを設置した。

専用仕様にはないため、ホームセンターを探し回って購入してきたものだ。さらにゴミ箱の投入口に、私の手描きの絵とともに「キャップは外して捨てましょう」という注意書きポップを貼った。だが、効果はなかった。今もほとんどのペットボトルがキャップを外さぬまま放り込まれている。

ペットボトルを飲み切って、ゴミをまとめる気持ちでフタをする心理はわからなくもない。でもそのひと手間によって、こちらは手間ばかりではなく、身が危険にさらされている。ペットボトルを飲み終えたあとのひと手間は不要です。どうぞ、フタをせず、そのまま捨ててください。

ペットボトルをごみ箱に入れる人
写真=iStock.com/nopponpat
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/nopponpat

■店に押し寄せる虫の大群

夏の苦労といえば、梅雨入り前後から始まる小虫たちの侵攻がある。郊外のロードサイド店であるわが店には、まずはユスリカの大群(*2)が押し寄せてくる。夜、扉が開くと、お客の頭上に数百匹のユスリカが蚊柱を作って攻め込んでくる。

これがまたハタ迷惑なところで死んでくれるのだ。デザートケースの可愛いスイーツの上、総菜ケースの細かい溝の中、ドリンク剤の棚の奥、弁当の棚、アイスクリームケース……。毎日毎日、通常業務の合間に隙をみてはハタキをかけ、掃除機で吸い、ホウキで掃く。これだけで仕事量は倍増する。さまざまな対策は試した。電撃殺虫器(*3)、大型扇風機(*4)、蚊取り線香、虫寄らずの薬剤(*5)……。でも、どれもほとんど効果はない。

(*2)ユスリカの大群 蚊柱を作るのはオスだけで、メスとカップルになれなかったものたちが「玉砕地」として店内へ入り込むらしい。そう考えると憎いはずの彼らが哀れにも思えてくる。
(*3)電撃殺虫器 虫を呼び寄せ、バチバチ焼き殺す。黒焦げの死骸がその下にいっぱい落ちている。
(*4)大型扇風機 店の入り口に設置し、入って来ようとする虫を吹き飛ばす。ただ、来店のお客の髪までも小虫を絡めて吹き上げてしまう欠陥がある。
(*5)虫寄らずの薬剤 入り口にぶら下げてみたが、まったく効果は感じられなかった。一応しばらくのあいだそのままにしていたが、「魔除けのお札」程度の認識だった。出入り口が大きくて広く、煌々と明かりが灯っている店舗の場合であって、一般家庭での効果はわからない。

■返品されたガム菓子の箱の中には…

その日、私はちょうど菓子の棚に入り込んだ小虫をハタキがけしているところだった。バイトの子がおびえた顔で「マネージャー、お客さまが……」と言ってきた。彼女の後方には、30代半ばの女性客が顔を歪(ゆが)ませて立っていた。

私を認めると、バイトの子を肩で押しのけて、「これっ!」と私の目の前にガム菓子の小箱を突き出す。通常、子どもが10円玉を握りしめて来店し1個ずつ買っていく商品だが、なかにはこうした「大人買い」もある。中身を少し取り除けて底が見える状態で突き出された小箱には、びっしりとユスリカの死骸があった。

私は動揺のあまりしどろもどろになる。なぜなら、その箱は、昨日の昼間、私が引っくり返し、小虫を残らずはたき出した箱だったからだ。昨日の昼からわずか1日のあいだに、こんなに大量に入り込んでいたとは……。

「返品(*6)するからお金返して! こんな汚い店で二度と買わないから!」密閉性の高い、今の住宅に住む人に、年中ドアが開いているコンビニの事情をご理解いただくのは無理だろう。頭を下げて詫びながら、私は泣きたくなってくる。

梅雨入りし、じめじめと暑い夜はクロバネキノコバエが大量発生する。ユスリカと同じく人害があるわけではないが、ユスリカよりひと回り大きく、黒く、かつ人なつこい。ユスリカよりも厄介なのは、叩くとプツリと白い体液を出して死ぬことだ。これが通路にびっしりと居座る。真っ白な床が真っ黒になる。比喩ではない。本当に真っ黒になるのだ。

(*6)返品 このときはお客から店への返品。店から業者への返品もある。おにぎりにラベルが付いていなかった。デザートの容器が破損していた。タバコの箱の角が潰れていたなどなど。昔は「返品伝票」という用紙があり、何が、いくつ、どうなっていたのか記入し、伝票の添付が必要で手間がかかった。今は検品時に使う器械でバーコード入力し、返品理由「破損」を選択し、送信すればOK、とかなり簡略化した。

■深夜営業に対するオーナーの本音

ホウキで掃いても、モップで拭いても、掃除機で吸っても、キリがない。ぬぐった先から、空中を漂っていたクロバネキノコバエが、まるで椅子取りゲームで空いた席に座り込むかのように床に舞い降りる。5分もすると元の木阿弥になる。叩き潰せば、床にべっとりと白い粘液が残る。ため息しか出てこない。はぁ……。

「あんたたち、暗くてじめじめしたところで生まれたんでしょ。それなら、一生、そういうところにいなさい。なんでわざわざ明るくて涼しいところへ来たがるの⁉」そんな愚痴を言ってももちろん彼らに聞く耳はなし。汗まみれになって彼らの残留物をモップで掃除(*7)するしかない。まあ、生まれが暗いじめじめしたところなら、死ぬときくらい、日の目を見たいのは人情か。

24時間営業という明るい看板
写真=iStock.com/youngvet
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/youngvet

コンビニの深夜営業規制の声が上がっている。温暖化対策や青少年の非行防止につながるというのが理由である。温暖化対策はいざ知らず、後者についてはわが店は、この地域の防犯を担ってきたという自負がある。「非行の発生元」とそしられた時代から「あるから安心」と頼りにされる時代に変わってきたのは各コンビニオーナーたちの努力の成果だと思っている。それでも、声を大にして言いたい。「コンビニの深夜営業を規制して」と。

(*7)モップで掃除 モップやホウキはさすがにないが、店のバケツはオープン時から使っている30年モノだ。「このバケツ、オープンしたときから使ってるんだよ」と、入ったばかりの学生バイト君に話すと、彼は「僕の生まれる前から働いてる、大先輩っすね!」と真面目な顔でバケツに頭を下げた。

■結婚式だろうが、葬式だろうが営業し続ける

夜の1時に閉めて、朝の5時に再開するのでもいい。せめて深夜の数時間、安眠できる時間がほしい。それが本音だ。この年になって、あらためて自分のやっているこのコンビニという商売の気違い沙汰を思う。ちなみに私は本書の執筆時点で約3年間、1057連勤している。1年365日、1日24時間、結婚式があろうが、葬式があろうが、とにかく営業し続けねばならない。しかもそれが一個人の小さな小売店にすぎないのだ。

結婚式
写真=iStock.com/kyonntra
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kyonntra

息子が子ども時分、年に一度は国内1泊旅行ができた。パートさんに1日だけ精算業務をまかせて、ディズニーランドやUSJ、志摩スペイン村などへ連れて行った。ただ、1泊2日で遊びに出ようと思うと、その前後には通常の倍の仕事をこなさねばならない。おにぎりの発注(*8)ひとつとっても、ふだんなら20種類の商品を、数時間ごとに見直して調整しながら発注している。だが、店を空ければそうした調整はできない。

翌日、翌々日の2日分を予測して発注していく。弁当もサンドイッチもいまだ売れてもいない、届いてすらいない段階で、見切り発車(*9)で数十個発注するのは勇気がいる。遊びに出かけたときにも、行く先々で何度も店から電話(*10)が入る。

(*8)発注 午前10時までに発注業務を終え、本部へ送信しないと、翌日おにぎりも弁当も何も届かないこととなる。1秒でもすぎればアウトなので、9時半から10時になるまでのあいだ、発注係の夫は神経を尖らせている。この時間はうかつに話しかけられない。
(*9)見切り発車 若いころ、パチンコ屋に通いつめていた夫は「コンビニ経営は毎日がギャンブルだ」と悟った。それ以来、「もうこれ以上の賭けごとはしたくない」と言い、一切のギャンブルをやめてしまった。
(*10)何度も店から電話 ほかにも「チキンが温まっていないとお客さまが激怒しています」なんて電話が入るのは日常茶飯事で、もう慣れてしまった。仕事から完全に解放されるのは、10年ごとの契約更新によるリニューアル工事で店が閉まっているあいだだけだったといえる。それだって新店舗開店準備にバタバタでゆったりできるわけではない。

■遊園地のアトラクションに乗っていても楽しめない

もうずいぶん前、家族でディズニーランドの「カリブの海賊」に並んでいたとき、ケータイが鳴った。

「マネージャー、すみません。贈答品を購入されたお客さまが、熨斗(のし)紙に名前を書いてほしいと言うのですが、筆ペンで書ける者がいなくて……」
「それじゃ、お客さまに筆ペンをお渡しして、今、書ける者がおりませんので、申し訳ないですが、ご自身でお書き願えませんかと伝えて」

いったん電話を切るが、さっきまでの楽しい気持ちは吹き飛び、バイトの子で対応は大丈夫かと心配がつのる。そして、1分後――。

「どうしても書けないとおっしゃっているのですが、どうしましょうか?」
「下手でもよろしければ、と断って、それでもいいとおっしゃるなら、あなたが丁寧に書いて差しあげて」

そうこうしているうちに順番が来たが、海賊船に乗っているあいだも店が気になってマナーモードに切り替えたケータイ(*11)を握りしめていた。親戚に結婚式があれば、半年も前から「この日は私たちはいないので、絶対休まないでね」とパートさんやバイト学生に頼み込み、万一の場合を考えて予備スタッフを確保しておかなければならない。

あらかじめ予定のわかっている結婚式はまだいい。先日、叔父が亡くなった。この店を出したときにも何度も足を運んでくれ、あれやこれやと買い物をしていってくれた恩義のある叔父だった。夫と一緒に葬儀に出席しようとしたが、人手が足りない。休みのバイト学生やパートさんたちに片っ端から電話をしたが、日が迫っていることもあり、みなNGだった。

(*11)ケータイ シフト管理をしている者にとっては“恐怖の必需品”だろう。肌身離さず持っていて、寝るときには枕元に置いてある。なんと言っても「○○君が来ないんですけど……」にはいつも身が縮む。遅刻常習者なら「またか」だし、遅刻などしたことのない人なら「事故でも起こしたのでは……」と心配になる。

■骨上げの最中にケータイが鳴り…

仕方なく、以前勤めてくれていた近所のバイト学生たちに連絡をすることになった。3人目でどうにか人が確保できた。そうまでして出かけた葬儀だったが、骨上げの最中にケータイが鳴った。

「日比野君が来ないんです」

日比野君はようやく探し当てた元バイト(*12)の学生だ。午後2時に日比野君がシフトに入り、それまで勤務していたパートの三宅さんが退勤することになっている。しかし、日比野君が来ないため、三宅さんが上がれず、困って電話してきたのだ。

「私、2時半までに子どものお迎えに行かないといけないんです……」

仁科充乃『コンビニオーナーぎりぎり日記』(三五館シンシャ)
仁科充乃『コンビニオーナーぎりぎり日記』(三五館シンシャ)

すがるような声にせっつかれて、葬儀の席を外し、夫と2人で手分けして、今すぐ入れる助っ人探しが始まった。15分ほどして、夫が「1人見つかった!」と大きな声を出した。

「日下さんが今すぐ店に向かってくれるって!」

ホッと一息ついた瞬間、ポケットのケータイが鳴る。店の番号だ。

「すみません。ちょうど今、日比野君が店に来ましたので、もう大丈夫です」
「……」

結局、日比野君は予定より25分遅れでやってきた。今、大急ぎで店に向かってくれている日下さんにも時給を払わないといけないだろう。静かな火葬場の片隅、私と夫は顔を見合わせるのだった。

(*12)元バイト 地元在住の子たちは常連客となって買い物に来てくれるし、地方の子なら大学の同窓会などでこちらへ来る機会に顔を出してくれたりする。今のバイト学生が「元バイトっていう人たち、よく来ますね」と言う。元バイトの子が、自分の子どもを連れて買い物に来てくれるのはとくに嬉しい。

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仁科 充乃(にしな・よしの)
コンビニオーナー
1960年代生まれ。1990年代に夫婦で大手コンビニのフランチャイズオーナーに。以来、約30年にわたり毎日店舗に立ち続け、もうまもなく3回目の契約更新を控える現役オーナー。2023年7月10日で、1057連勤。著書に『コンビニオーナーぎりぎり日記』(三五館シンシャ)がある。

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(コンビニオーナー 仁科 充乃)

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