炎天下で2時間も怒鳴りつづける…コンビニ店員をいじめる40代女性客にオーナーがとった「神対応」
プレジデントオンライン / 2023年8月27日 18時15分
※本稿は、仁科充乃『コンビニオーナーぎりぎり日記』(三五館シンシャ)の一部を再編集したものです。
■「ねえ、あのババア、なんなの?」
私のレジに向かって女性客が歩いてくる。40代半ば、小太りで上下灰色のスエット姿、顎を上げ、肩を揺すり、爪先を蹴上げるような歩き方だ。「感じの悪いお客が来たなあ」と思っていると、隣の通路から割り込むかたちで男性客が走り込んできて私のレジに荷物を置いた。
チンピラ歩きの女性客がムッとするのをフォローするように、パートの松村さんが「お客さま、こちらのレジへどうぞ!」と隣のレジへ誘導し、レジ対応をしてくれた。ベテランパートの松村さんは機転がきき、頼りになる。男性客のレジ対応を終え、別の仕事に取りかかろうとした私のところにさきほどの女性客がやってきた。
「ねえ、あのババア、なんなの?」
しゃくった顎で松村さんを指し、憎々しげにそう言う。
「なんでレジ袋(*1)に入れんの嫌がるわけ?」
女性客が言うには「レジ袋に入れてと言ったが、嫌々対応されて不愉快だった」ようだ。松村さんに限ってそんな対応をするはずがないと思ったが、その場を収めるため、松村さんを呼び、「たいへん失礼しました」と2人で謝罪した。ところが、気が収まらないようで「私は客でしょ? そんな失礼な態度ある? 許せないんだけど!」と店内で怒鳴りまくる。
「一番偉い者を出して!(*2)」と言うので「私が責任者です」と答えると、「本当に一番偉い者を出して!」と話にならない。仕方なく家に戻っていた夫を呼び出し、謝ってもらった。わけもわからぬままの夫と私と松村さんが3人で頭を下げて謝ると、女性は店を出ていった。だが、これはそのさき、長く長く私たちを悩ませるカスハラの始まりにすぎなかった。
(*1)レジ袋 2020年7月1日からコンビニのレジ袋は有料になった。小さい袋(8号と12号)は3円、中間(20号)と弁当用が5円、一番大きい袋(45号)は7円になった。たまに温めた弁当とアイスクリームを「同じ袋でいいから」と言われる。アイスが溶けないか心配で仕方ない。
(*2)一番偉い者を出して! あとで夫は「僕は全然偉くないでしょ」と嘆いた。「私だってパートさんたちに頭が上がらないよ」と私が言うと、「結局、店で一番発言力が強いのは松村さんじゃない」と2人で大笑いした。
■炎天下で2時間にわたって怒られ続けた
「お客さまより苦情が入った」と本部から電話が来たのは、それから1時間も経たぬうちだった。それまでに何があったのか、松村さんより事情を聞き、防犯カメラの映像チェックも終えていたため、本部にはスムーズに事情説明はできたものの、女性客は「とにかく家まで謝りに来い!」の一点張りとのことで、日をあらためて本部の営業担当者と夫と松村さんの3人で出向くことになった。
「箱菓子を持っていったら」と私が夫に伝えると、本部から「何も持たない」という判断が出されたという。以前はクレーム対応に菓子折を抱えて行くのが当たり前だったのだが、今はむやみに物を持っていくことは控えるようになっているらしい。今回の女性客への対応に、わが店側の落ち度があると本部もとらえていなかったのだろう。
1週間後、指定された場所に行き、謝ってきたのだが、男性2人はうなだれ、松村さんは怒りまくっていた。最高気温30℃超えの炎天下、アスファルトの照り返しのあるアパートの駐車場で、女性だけが木陰に立ち、3人は延々2時間にわたり一方的な怒りを聞かされたという。しかも、やはり「許さない!」と宣(のたま)う。そればかりか「松村に責任をとらせて辞めさせろ」と言うのだという。
![明るい太陽](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/f/1200wm/img_ef19f9128b26bb379f59301dee73f980383995.jpg)
■クレームは終わったと思っていたが…
夫が「松村はほかのお客さまには人気のスタッフで辞めさせることはできません」と突っぱねた。すると女性客は「松村をちゃんと教育し直し、シフトを減らせ(*3)」と要求してきたのだ。さらに本部へのクレーム電話はその日以降も連日のように続いた。
その1週間後、今度は私の書いた詫び状と、1000円程度の菓子折を持たせ、夫と営業担当の2人に再度頭を下げに行ってもらった。松村さんは「私が辞めれば収まる話でしょ。社長(*4)が私をかばってくれたあの言葉だけで私は気が済んだから、もういつ辞めてもいい」と言っていたが、少しシフトを減らしているうちに気分も変わり、続ける意思を示してくれた。
お客から本部へのクレーム電話は止まり、これでなんとか解決した、とみんな思っていた。
「ねえ、あれから、松村、どうなった?」
季節が晩秋に近づいたころ、例の女性が目の前にいた。1カ月半ぶりの来店だった。一連のクレームとそれにともなう心労が一気によみがえる。動悸(どうき)が速まり、鉛の球でも飲んだようにお腹が重くなった。クレームは終わっていなかったのだ。
「研修に行かせ、シフトを減らしています」とだけ伝え、逃げるように事務所へ駆け込んだ。このことは松村さんには知らせなかった。それから1週間後、今度は松村さんがレジで応対中、その女性客が目の前に立った。私は不在だった。
(*3)シフトを減らせ 「毎月1日は映画に行きたいからもう少しシフト減らしてくれない?」と日ごろから松村さんが希望しているのを知っているパートさんたちはこの話を聞いて「松村さんのシフト減らしたら、本人が喜ぶだけじゃん」と笑った。
(*4)社長 2FC(フランチャイズ)の契約者夫婦を「店長」「マネージャー」と呼ぶ。1FC(フランチャイズ)の契約では、夫婦を「オーナー」「マネージャー」と呼ぶ。夫は2期目に1FC契約にした際、店のみんなに「僕のことは『オーナー』じゃなくて、これまでどおり『社長』と呼んでほしい。オーナーはただの持ち主で働かないイメージがある。僕はしっかり働くから」と頼んだ。以来、SVは「オーナー」と呼ぶが、店内の仲間は「社長」と呼んでいる。
■従業員もクレーマーに怯えるようになっていった
「あれから反省した? ちゃんとやってんの?」と話しかけられ、「ありがとうございました。ちゃんとやっています」とだけ答え、あとは相手にせず仕事に戻ったという。
![仁科充乃『コンビニオーナーぎりぎり日記』(三五館シンシャ)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/7/1200wm/img_07996454f140215061cbb84685e8858b252658.jpg)
ところが、クレーマーはそのときの態度が気に食わないと、再び本部に電話した。本部から連絡を受けた夫は再度、彼女に謝罪電話をかけた。松村さんも「やっぱり私、辞めようか」と気に病んでいる。ただでさえぎりぎりで回っているシフト(*5)から、主力メンバーの松村さんが外れるわけにはいかない。そもそも松村さんに非はないのだから。
あのクレーマーがいつ現れるかと思うと、店に出るのが憂うつになっていた。パートさんやバイト学生たちにもクレーマーの存在が知れ渡り、みんながビクビクとするようになった。
たった一人のクレーマーが店をめちゃくちゃにすることもある。いつ終わるとも知れぬクレームに私は心身が蝕(むしば)まれていくのを実感していた。夫が何度目かの謝罪電話をして以降、クレーマーからの連絡が途絶えた。なぜか、本部への連絡もなく、来店もなくなった。
(*5)シフト シフトはいつもぎりぎりだ。先日、コロナ禍でどうにもならなくなった際、本部が推奨する「マッチングサービスアプリ」を使ってみた。これは店と日雇いスタッフをつなぐアプリで、「日中の4時間」で募集してみたところ、3名の応募者が現れた。アプリ内で「高評価」がついている1名に仕事を発注したが、当日の仕事時間に「ちょっと遅れます」と電話があり、30分待っても現れないので、夜勤明けの私が家から駆けつけた。結局1時間以上遅れて、何事もないように現れた。以来、このアプリは使っていない。
■クレーマーを撃退した夫の神対応
「どうしたんだろうね?」と夫に問うと、夫は眼をギロンと輝かして答えた。「最後の電話のとき、ああだこうだ言うもんだから、もう嫌になって、『ああそうですか、そりゃすいませんね。じゃ、失礼します』て言って、一方的に叩き切ってやったんだ」と言った。ずっと下手に出ていたのが、急に投げやりになったのが怖くでもなったのだろうか。理由はわからないものの、それ以来、カスタマーハラスメントはぴたりとやんだ。
夫の対応もイチかバチかの賭けだったかもしれない。このときは夫の対応であっけなくカスハラは終了した。だが、まかり間違えば、逆上をまねいたかもしれない。カスタマーハラスメントの対応に正解はない。だから、われわれはつねに考え、迷い、悩み苦しむのである。
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コンビニオーナー
1960年代生まれ。1990年代に夫婦で大手コンビニのフランチャイズオーナーに。以来、約30年にわたり毎日店舗に立ち続け、もうまもなく3回目の契約更新を控える現役オーナー。2023年7月10日で、1057連勤。著書に『コンビニオーナーぎりぎり日記』(三五館シンシャ)がある。
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(コンビニオーナー 仁科 充乃)
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