バブル崩壊を超える強烈インパクトになる…団塊世代の介護大発生で量産"ビジネスケアラー"318万人の衝撃
プレジデントオンライン / 2023年8月25日 11時15分
※本稿は、酒井穣『ビジネスケアラー 働きながら親の介護をする人たち』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。
■団塊世代が介護突入、大介護時代の到来
人口ボリュームの大きい団塊の世代が、2025年には75歳以上の後期高齢者となります。そして75歳以上になると、急速に介護を必要とする人(要介護者)の割合が増えます。
日本においては2025年が、介護問題の爆発の年となるのです(2025年問題)。
大介護時代の到来です。
団塊の世代とは、第一次ベビーブーム(1947〜1949年)に生まれた800万人を超える「人口のかたまり」です。日本の歴史に対して、非常に大きなインパクトを持ってきました。この世代の給与がピークにあったとき、日本で大きな「バブル経済」が起こりました。
そしてこの世代が現役を退いていく中で、日本は「失われた30年」に苦しんだのです。かつての「バブル経済」や「失われた30年」と同等か、それ以上のインパクトが2025年以降の日本で「団塊の世代の介護」として発生することになります。
■ビジネスケアラー=働きながら介護する人
この2025年以降で注目されるのが、「ビジネスケアラー」の存在です。「ビジネスケアラー」とは、「働きながら介護をする人」「仕事と介護を両立している人」という意味です。
図表1を見てください。これは、弊社の独自調査(サンプルサイズ3万878人)をベースとした、「現在、仕事と介護の両立をしているビジネスケアラー」と、「いつ介護が始まってもおかしくないと想定されるビジネスケアラーの予備軍」に関する最新データです。
現在進行形のビジネスケアラーだけに注目すれば、すでに45〜49歳で20人に1人、50〜54歳では8人に1人が当事者です。そのうえ予備軍まで含めると、この問題が社会レベルで重要なものであることがはっきりと認識できると思います。
これこそが、人類史上かつてない高齢化の現実なのです。数年以内に、とんでもない数のビジネスケアラーが、日本全体の生産性問題の真因として、大注目されるようにもなるでしょう。
ビジネスケアラーが、日本企業で急速に増加すると予測されます。経済産業省は、2023年3月、2030年には家族介護者が833万人にのぼり、さらには、ビジネスケアラーが318万人になるとの予測を発表しています。そもそも、少子高齢社会で人材が不足している状況で、管理職として活躍している人材も多い40〜50代の人間が介護でパフォーマンスを大幅に低下、あるいは離職してしまっては、日本経済の生産性の面でも困るのは自明です。
ビジネスケアラーがどうやってうまく仕事と介護を両立させていくかは、個人の問題でもありますが、日本社会全体の問題でもあるのです。
■介護担い手減少──兄弟姉妹が少ない、未婚化、共働き化
ここで、ビジネスケアラーの中心となる現代の40〜50代は、過去の40〜50代とは異なり、未婚率も高く、兄弟姉妹が少ないという点も無視できません。ですから、介護が始まったとき、昔よりも介護の負担を親族で分散しにくいという特徴があります。さらに専業主婦が減っていることも、この問題に拍車をかけています。
また、20〜30代の若手にもビジネスケアラーが発生している背景は、晩婚化によって親子の年齢が昔よりも離れていることと、孫として祖父母の介護に直接・間接に関わるようになっていることがあります(10代以下でも介護に関わるヤングケアラー問題も同じ)。
兄弟姉妹が少ない時代には、子どもだけで親の介護をこなすことが難しく、孫もまた、介護のリソースとして駆り出されることになるのです。これからは、仕事をしながらの介護を、とにかく昔よりもずっと少ない人数で担当する時代なのです。
そうした人が増えている今、介護離職をしたり、介護離職までには至らなくても、多くのビジネスケアラーがパフォーマンスを低下させてしまう未来は、避けられそうもありません。
■企業も危機感を持ちはじめた
東京商工リサーチが民間企業7391社に対して実施した調査では、これから介護離職が増えると回答した企業は5272社(71.3%)にもなりました。企業はそれだけ危機感を持っており、介護離職を防止するための施策を考えて実装しはじめています。ただ、日本の経済状況は決して良くないため、こうした対策に対して予算を振り向けられる企業は限られています。
また、企業としても、仕事と介護の両立問題に直面するのはこれが(ほとんど)はじめてのことです。知識も足りませんし、法改正も多く、ついていくのがやっとという状況なのです。さらに事例も(まだ)少ないことから、どうしてもすべての対応が手探りになります。
結果として、企業が従業員のために準備してくれる仕事と介護の両立支援制度は、まだまだ未完成な状態です。残念ですが、法律で定められている介護休業制度をなんとか整えて簡単な介護研修の提供にとどまっている企業がほとんどというのが現状です。
ただし、経産省は本気でビジネスケアラー支援の強化を進めようとしており、今後は、この状況は改善する可能性も高まってきています。
本書を手にとられた人の中には、「そろそろ親の介護が必要になるかも」と思っているビジネスケアラー予備軍の人もいるでしょう。希望もあります。
とにかくまずは、あなたが勤務している企業もまた、介護離職や介護によるパフォーマンスの低下を恐れているということは知っておくべきでしょう。そして、今まさに企業は、介護離職や介護によるパフォーマンス低下防止のための、より優れた施策を検討し、設計し、実装しているところでもあります。
今はまだ、あなたが勤務する企業では、そうした制度が充実していないかもしれません。しかし場合によっては、現在ビジネスケアラーとして仕事と介護の両立をしている人をテストケースとし、その人に合わせた支援制度を構築してくれる可能性もあります(実際に私は、複数の企業において、両立支援制度のパイロットテストにコンサルタントとして参加しています)。
■育児と介護は違う
一方、ビジネスケアラー予備軍の人にも課題があります。
まだ介護について理解が進んでいない人と話をしていて、驚かされることがあります。それは仕事との両立において「育児も、介護も、同じようなもの」という誤解がとても多いということです。
実際に介護を経験すれば明らかなのですが、これは、完全に間違いです。育児と介護は、似ているどころか、むしろ正反対とも言えるほど、異なっています。図表2を見れば、育児と介護の違いがはっきりとわかると思います。そもそも介護の場合は一般的に、大きく次の3つの特徴があります。
2 考える時間が足りない
3 職場に相談できるネットワークがない
それに加えて、育児は、図表2の下表に示したように経験されます。また育児は、辛いながらも、子どもの成長から仕事のモチベーションを得ていくことが可能でしょう。対して介護は、そこから仕事のモチベーションを得ることは難しいということも考えておく必要があります。
誤解を避けるために付け加えておきますが、育児が簡単だとか、そういうことが言いたいのではありません。そうではなくて、育児と介護はまったく違うということを認識し、それぞれに異なる対応の戦略が必要だということです。
(酒井 穣)
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