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スマホ世代には絶対に思いつかない…1990年の雑誌『ポパイ』に大量に載っていた「ある家電製品」

プレジデントオンライン / 2023年9月4日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ShotShare

「電話」のイメージは、世代によって大きく異なる。ライターの速水健朗さんは「いまの若者にとってはスマートフォンになるだろうが、私のような団塊ジュニア世代が若者だったころには『コードレスホン』が欲しい電話の象徴だった」という――。

※本稿は、速水健朗『1973年に生まれて 団塊ジュニア世代の半世紀』(東京書籍)の一部を改稿・再編集したものです。

■黒電話が不便だなんて想像したこともなかった

電話は、世代を明確に分ける指標となるメディアである。73年生まれ世代は、黒電話を知る世代。そして、プッシュ式、テレフォンカード、留守電機能、キャッチホンが子どもの頃に登場した。これらの機能があったとしてもかつての電話は今のそれとは別のものである。ただ、のちに電話が進化するまで黒電話が不便だなんて想像すらしたことはなかった。

当時は、電話をかける際に、6~8桁の番号(市外局番を省いて)をダイヤルでぐるっと回していた。プッシュ式に変わっても番号を手動で入力する手間は変わらないが、番号を記憶する際の覚え方が変わったかもしれない。当時は、よく使う自宅や友人の番号は、誰しも記憶していたものだ。3、4度かける機会があれば覚えてしまったのか、または覚えた方が早いという意識があった。人類史を振り返っても、7、8桁のランダムな数字を複数、記憶に残している人々が生きていた時代は他にないだろう。

もちろん、覚え切れない番号が大半で、部屋の電話の周りには、さまざまな連絡先のメモがベタベタと貼られていたし、電話機にもその電話の番号を書いたメモが貼られていたし、自宅、公衆電話ボックスから飲食店まで周辺、あちこちに分厚い電話帳が置かれていて、電話をかけるたびに、それらを参照していた。

番号を内蔵のメモリー装置に保存したりリダイヤルや着信履歴ができたときに黒電話世代は感動を覚えたはずなのだが、それらの機能を体感した瞬間のことをすっかり忘れてしまっている。

■コードレスホンの登場による「大きな変化」

1990年の『POPEYE』4/18号を眺めていて、やたらコードレスホンの広告のページが多いことに気がついた。クルマ、タバコ、コードレスホン、オーディオ、ジーンズ、コードレスホンといった順である。グッズ紹介のページには、留守電機能付きのコード付き電話機が紹介されているので、まだ電話自体が注目のグッズで、コードレスではないタイプも残っていた時代でもあった。


  もしも、誰にも邪魔されず一人で電話をしたいと思ったら。
  もしも、庭先で星を見ながら長電話したいと思ったら。
  もしも、デート3回ガマンして自分専用の電話をほしいと思ったら。
 

この3つは、京セラのコードレスホンの広告のキャッチコピーである。電話が1人1台ではなく、家族と共有して使うものだった時代に自分専用の子機を部屋に置いておくことは、ぜいたくなことだったのだ。電話は、親や兄弟らに内容を聞かれないよう、ひそひそ声でするものだった。

電話機が置かれていた場所も、玄関や廊下である。冬は寒い。長電話をするためには、防寒の準備をする必要もあった。子機やコードレスホンが登場し始め、自分の部屋にそれを持ち込めるようになるという変化は、10代の少年少女にとって大きな意味を持っていた。

■トレンディードラマにはよく留守番電話が登場した

ところで、広告コピーにあった「デート3回」の予算で買える値段とは、いくらか。定価4万4800円。1回のデート予算が1万5000円ほど。高い気もするが、特集ページを読むとその理由がわかる。デートは、まだ男性が支払うものというのが大前提とされているのだ。

ちなみに、この時代のトレンディードラマにはよく留守番電話が登場した。主人公が「現在、旅に出ています。探さないでください」など、“個性的”なメッセージを残している。主人公のキャラクターを示すツールとして、誰もがおなじみの機能を利用した。

「お元気ですか。人生楽しみましょ。その気持ちでメッセージをど~ぞ」

というのは、女優の萬田久子の留守録メッセージ。30年変えていないメッセージだという。あの時代の精神がこの留守電のメッセージにすべて詰まっている。

■SMAPのブレイク前のCM「おたっくす」

1990年に家庭用ファクシミリが登場した。オフィス機器としてはすでに定着していた“ファックス”が家庭用にも展開されるようになるのが90年代のこと。最初にそれを商品化したのはシャープだった。

すでに触れたように、80年代末から家庭用の電話にも子機やコードレスタイプなど電話関連の商品がヒットしていく中で、“新しい電話”のあり方に、各社が注目していたのだ。郵便とは違い、瞬時に個人が文字や図像を送り合うことができる。そうしたコミュニケーションを想定してのものだ。

パナソニックは、家庭用ファクシミリを展開したが、そのCMにはまだブレイクしているとは言いがたい時代(1991年)のSMAPが起用されていた。

SMAP 2008 Super Modern Artistic Performance Tour(写真=CC-BY-2.0/Wikimedia Commons)
SMAP 2008 Super Modern Artistic Performance Tour(写真=CC-BY-2.0/Wikimedia Commons)

ファクシミリだけでなくパナソニックの電話関連の商品全般をSMAPが担当し、「ででんのでん」のキャッチコピーが使われていた。ファクシミリのCMでは、彼らが高校生という設定なのだろう。教室の黒板の前で、中居正広が意中の女生徒に告白をする。黒板の「OK」の文字を見て舞い上がった中居は、ファックスでデートに誘う。

彼が送るのは、「今度の日よう日、動物園へ行こう」の文字とシマウマの写真。写真はハーフトーンで美しく印刷されている。さらに動物園のマップや当日の気象図などをファックスで相手に送ったのだ。すぐに返事が返ってくるが、英語なので読めない。

OKの返事は、単なる黒板の文字の一部を消し損ねたもので、それを中居が早とちりしただけだった。返事の中身は、恐らくデートの誘いへのお断りだろう。だが、英文なので中居は気がついていない。取り囲むメンバーたちも、和気あいあいとその様子を見守っている。

■すぐにはブレイクしなかったSMAP

このパナソニック製品の愛称は、“おたっくす”だった。“お宅”+“ファックス”のネーミングだったのだろう。その呼び方は普及しなかった。だが、家庭用のファクシミリの普及にはこのCMも貢献していただろう。90年に43万5000台だったファクシミリ通信網契約数は、4年後の94年には、67万8000件にまで伸びた(総務省『平成27年版 情報通信白書』の概要)。

SMAPもアイドルとしてすぐにブレイクしなかった。同時代に光GENJIがいたからだろう。88年のオリコンのシングルレコードの年間売上ランキングチャート1、2、3位を『パラダイス銀河』、『ガラスの十代』、『Diamondハリケーン』が独占した。SMAPは、88年に光GENJIのバックダンサーだったスケートボーイズから選抜されたメンバー6人で結成された。シングルデビューは、91年。つまりパナソニックのCMの当時は、まだデビューして間もない時期である。

■光GENJIとSMAPは、年齢的には同世代

速水健朗『1973年に生まれて 団塊ジュニア世代の半世紀』(東京書籍)
速水健朗『1973年に生まれて 団塊ジュニア世代の半世紀』(東京書籍)

光GENJIとSMAPは、レコードデビュー時期が4年違い、活躍した時代にもややずれがあるが、年齢的には同世代である。光GENJIでは、最年少となる赤坂晃と佐藤敦啓の2人が1973年生まれ。SMAPでは、年齢的に中心にいる稲垣吾郎が73年生まれだ。中居正広、木村拓哉がその1歳上で72年生まれ。草彅剛が1歳下の74年生まれ。香取慎吾は77年生まれである。年齢の分布的に、SMAPは団塊ジュニア世代を完全にカバーしている。

SMAPは歌番組が減った時代に、バラエティー番組に活路を見いだした。『愛ラブSMAP!』(テレビ東京、91~96年)、『夢がMORI MORI』(フジテレビ、92~95年)などのレギュラー出演をきっかけに、活躍の場を増やしていく。ドラマ『あすなろ白書』(93年)に木村拓哉が出演、94年3月発売の楽曲『Hey Heyおおきに毎度あり』でオリコンチャート1位を獲得。ちなみに2016年年末の解散を明らかにする書面もファックスでマスコミ各社に伝えられた。

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速水 健朗(はやみず・けんろう)
ライター・編集者、ラジオ司会
1973年石川県生まれ。コンピューター誌編集者を経て、2001年よりフリーランスの編集者、ライターとして活動を始める。音楽、文学、メディア論、都市論、ショッピングモール研究、団地研究など幅広い分野で執筆。主な著書に『1995年』(ちくま新書)、『東京β』(筑摩書房)、『ラーメンと愛国』(講談社現代新書)、『自分探しが止まらない』(ソフトバンク新書)、『ケータイ小説的。』(原書房)、『東京どこに住む』(朝日新書)などがある。

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(ライター・編集者、ラジオ司会 速水 健朗)

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