本物のクロカン4駆はこれしかない…トヨタの新型ランクルが「過剰なほど丈夫なクルマ」になった必然的理由
プレジデントオンライン / 2023年8月25日 16時15分
■公開直後からバズった新型「ランクル」の正体
圧巻、そして別格! まさにそういうフルモデルチェンジに遭遇した気分であります。それは先日公開されたトヨタの新型ランドクルーザー250。発売は1年先の2024年前半とかなり先の話ですがいきなりの注目の高さにビックリ。
新車系Webサイトには速報からディテール分析から価格予想まで多くの記事が並び、小沢の動画チャンネルでもエンジニア直撃だけで約7万回再生されています。(もっとも人気YouTuberにはまったくかないませんが)
キモはまずランドクルーザーシリーズとして異例なほどストロングスタイルな変貌っぷりがあります。今回の新型250、発表タイミング的にはシリーズ中最も都会的でライトデューティとも言われた「ランドクルーザー プラド」の後継にも思えましたが、小沢が会場で直撃したトヨタの中嶋裕樹副社長は「(ランドクルーザーとしての)原点回帰」「プラドの後継ではありません!」と明言。実車も見れば見るほどプラドとは別物でした。
それはまずデザインからで、プラドでは乗用SUV風だった釣り目ヘッドライトは武骨な角形の3連LEDになり、フロントグリルも真四角のキュービック柄が並ぶデザインに変貌。同時に今後どうグレード展開されるかは分かりませんが、プリミティブな丸目LEDも選べます。
■副社長「新型250こそ、ザ・ランドクルーザー」
なにより目を引くのはエクステリアです。マッチョに膨らんだフェンダー回りこそイマドキですが全体は直線的でフラット。マジメな話、2年前に出たフラッグシップのランドクルーザー300よりランクルらしいとすら言えます。
ボディ骨格も300で初投入された最新テーラードブランク技術などを使ったGA-Fプラットフォーム。歴代プラドはその時代のフラッグシップランクルとは違うラダーフレームを使うのが常でしたが、明らかにグレードアップされています。
ボディサイズも拡大。全長全幅が大きくなり、全幅はアニキ分の300と全く同じ1980mmに拡大され、悪路走破性を決定付けるホイールベースも歴代ランクルが見つけた黄金比とも言える2850mmに。見栄え以上に、走行性能を重視したサイズ感を手に入れたのです。
再び中嶋副社長に「新型250と2年前に出た300、どちらが本流ですか?」と尋ねたところ、「250こそがザ・ランドクルーザー」と明言。まさしく数10年ぶりに原点回帰したランドクルーザーこそが新型250なのです。
■あえてプレミア化しないワケ
ただしそれはこの世界では異例の硬派戦略とも言えます。そもそも1940年代の軍用ジープから始まったクロスカントリー4WDの世界は、今ではステランティスグループ傘下の北米ジープのラングラーを除き、ほぼプレミアム化。40年代に生まれた英国ランドローバーは、正統派のディフェンダーはもちろん、高級版レンジローバーまでアルミモノコック化し、後者は1000万円以上出さないと買えません。
元はNATO軍の軍用車だったメルセデス・ベンツGクラスも硬派さを残しつつプレミアム化し、プライスアップ。ぶっちゃけその方向でないと少量生産の4WDは生き残れません。
しかしランドクルーザーはアニキ分の300こそ徐々にラグジュアリー化しましたが(価格は510万円~760万円)、ここに来て250で原点回帰(価格未定)。この競合とは真逆の方向性こそが新型ランドクルーザーのすごさであり、ビジョンの違いでもあるのです。
さらに言ってしまうと、元々ランドクルーザーそのものがトヨタの中で別格であり、別ビジネスとも言える存在です。
まずその歴史がべらぼうに長い。トヨタの世界的ビッグネームであり、世界的ロングセラーと言えば1966年生まれのカローラ、1955年生まれのクラウンが有名ですが、ランドクルーザーの前身たるジープBJ型は1951年にデビュー。ランドクルーザーと改名したのは1954年の事で現存するトヨタ車では最古&最長の歴史を誇ります。
![フラグシップモデルの「ランドクルーザー300」。高級感や居住性も兼ね備えたステーションワゴン。](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/4/1200wm/img_24833b91cd7905dd17045ed89c322cd1450090.jpg)
■地球上で最後まで残るクルマ
さらに今では170の国と地域で使われるランドクルーザーシリーズですが、頂点たる300は全体の9割以上を海外で販売。約5割を中東、残り4割をオーストラリアとかつてはロシアでさばき、日本で売られるのはたった1割弱。
従来あったプラドは比較的国内シェアが多く日本で3割、欧州で3割、残りを世界で消費していましたが、とにかく日本以上に世界で有名なトヨタ車、それがランクルなのです。
しかもそのヘビーデューティさであり、恐ろしいレベルの耐久性はぶっちゃけ極度に現代化された日本ではわかり得ません。過酷な厳しい道がないからです。
今回の250でもキャッチフレーズで使われた「どこへでも行き、生きて帰ってこられるクルマ」は文字通りのランドクルーザーの代名詞。別名「地球上で最後に残るクルマ」とも言われています。
例えば今回新型250と同時に再発売が発表された1980年代から作られている70系は、本格ヘビーデューティ系と言えるジャンルで一時世界シェア9割以上。ランドローバーなど人気車が居並ぶ中、実は圧勝です。
■誰がランクルを買っているのか
具体的には例えば中近東。もちろん世界に冠たるオイルマネーの国で、舗装された道は素晴らしく、最高時速200kmで走れる場所もあるのですが、少しでも外れたら砂漠。
そこではランドクルーザーでないと入ってから戻ってくることができません。文字通り「生きて帰ってこられない」と言います。
そのほかオーストラリアですが、湾岸部にはちゃんと都市や道路がありますが、ちょっとでも内陸側に入るとアウトバックと呼ばれる未舗装路が出てきます。民宿を経営し、片道800kmのアウトバックを毎日買い物で往復される人もいて、そこに大雨が降るとたちまち川ができます。そのような悪路は、乗用車ベースのクロスカントリーSUVでは渡りきることができない。クルマ選びは死活問題なのです。
またシベリアは真冬にはマイナス40度にもなる極寒地で、万が一でもそこでエンジンが止まったら人は死んでしまう。そういう場所で何十年も信頼を得て、売られ続けてきたクルマ、それこそがランドクルーザーシリーズなのです。
![運転席に座った時に「自然に手が届く位置」に各アイテムを配置したという](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/6/1200wm/img_f67afbe50f081db66cef0a7361fc5557300550.jpg)
■オイル交換なしで100万キロ走る
事実小沢は2015年に、今回の250にも搭載予定の2.8LディーゼルターボのGD型エンジンの発表会に行きましたが、驚いたことがありました。
たとえオイル交換をせずに使ったとしてターボタービンは何万キロ持ちますか? と聞いたところ「確実に50万キロ以上」「ヘタすると100万キロ」と返ってきたのです。もちろんオフィシャルに保証する数値ではなく、目安なのだと思いますがそれくらい空恐ろしい耐久基準で作られていることに驚きました。
また、エンジニア曰く「ランクルは壊れ方の研究までしていて、止まったら本当にそれでおしまいなのか、それとも多少の修理で最低限動かせるのかといった面まで配慮している」そうです。クルマと言うより、サバイバルナイフのような世界なのです。
さらにおととし300のデビュー時に聞いて驚いたのですが、ランドクルーザーは300と当時のプラド、一部海外で売られ続けた70の3つのラインナップで、年間グローバルで30万台以上も売っているそうです。しかも現在累計1130万台なのでざっくり毎年30万台売ったとしても37年間売り続けていることになります。
もちろん当初は年間10万台程度でしょうし、いかに長くコンスタントに、それも他にない「ランクル」というクルマを売り続け、信頼性というブランドを作ってきたかわかります。
■なぜ今原点回帰したのか
多少ジャンルや特性は違いますが、いまだに世界的人気が高く、耐久性が高く、替えの効かないロレックスの腕時計のような存在感なのかもしれません。
世界的には正確で狂わないクオーツ時計が普及し、高級機械式時計もパテックフィリップやオーデマピゲなど色んなブランドが稼いでいますが、ロレックス人気は健在です。
同様に、真の意味でタフで、厳しい環境で壊れないクルマはこれしかない。新型250はココで原点回帰して信頼性や悪路走破性を高め、改めて他のプレミアム4駆とは違う硬派ブランドであることを打ちだしてきたような気がします。
これぞマネができない日本生まれの究極のタフブランド。だからこそこれだけ注目が高く、世界中の人が憧れる存在になったのかもしれません。
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バラエティ自動車評論家
1966(昭和41)年神奈川県生まれ。青山学院大学卒業後、本田技研工業に就職。退社後「NAVI」編集部を経て、フリーに。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。主な著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)、『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)など。愛車はホンダN-BOX、キャンピングカーナッツRVなど。現在YouTube「KozziTV」も週3~4本配信中。
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(バラエティ自動車評論家 小沢 コージ)
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