定年目前の56歳父とフリーランス45歳母が長男誕生で直面した「学資保険にも入れない」お金の大問題【2023上半期BEST5】
プレジデントオンライン / 2023年8月26日 7時15分
※本稿は、中本裕己『56歳で初めて父に、45歳で初めて母になりました 生死をさまよった出産とシニア子育て奮闘記』(ワニ・プラス)の一部を再編集したものです。
■立ちふさがった「保育園問題」
息子が退院して子育てが始まると、これからの生活設計を立て直さなくては、とようやく考えるようになった。
![息子にミルクを飲ませる中本裕己さん。](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/c/1200wm/img_cca89adaf5cb84f3c481290e106dd33e451231.jpg)
私は会社員なので、60歳の定年がある。65歳まで雇用延長の制度があり、今の社会情勢だと70歳まで首がつながる可能性はあるが、給料が激減するのは目に見えている。その先に年金支給もあるが、働けるうちは少しでも貯めるために、どげんかせんといかんのである。
一方、妻は、出産前まで都内の2つの専門学校で週4回程度、映像の授業を持ってきた。9月に出産予定だったので、半年から1年程度は仕事を離れて育児に専念するつもりだったが、7月からの緊急入院で産休が前倒しされる形となった。
退院してからも、子育てに加えて、筋力の低下がなかなか戻らないこともあり、家事に復帰するまで半年ほどかかっている。それでも元の勤め先から声をかけていただき、出産後丸1年経った2021年10月から職場復帰しようという計画だった。ところが、ここに大きく立ちふさがった壁があった。世の中の多くのパパママを悩ませ続けている保育園問題だ。
保育園制度の矛盾について、妻が怒りをぶつける。
「産休・育休が明けていざ仕事をしようとなると、いろいろ方法はあるけど、子どもを保育園に預けて働きに出るのが一番現実的で安心できるでしょう。そのとき、保育園の入園が先に決まっていないと、仕事の契約書に安心してサインができないわけよ。ところが、保育園に入園できる条件の1つとして、『働き口が決まっている』ことが求められるの。仕事の採用と保育園の入園が、同時に決まることはまずないので、どちらかを先に決めなくてはいけないんだけど、なんなのこの矛盾は! って思うの。
特に私のようなフリーランスは、採用が決まっていながら、『保育園が見つからなかったので、次の機会にお願いします』と仕事をお断りしたら、『次の機会』がないかもしれないでしょ。その不安があなたわかる? もちろん会社員の友だちだって、会社の理解が得られなくて、育休が延長できずに辞めてしまう子もいるのよ」
■「保育園落ちた日本死ね!」から改善は
妻の怒りはもっともだ。結果的に全国の多くの母親は、少なからず「ウソ」をついて、「保育園が(たぶん)決まりました」とフライング気味に報告をして職場を確保したうえで、保育園がどうしても見つからない場合は、ベビーシッターなど次善の策を考えることになる。ベビーシッターを常時お願いするとなると金銭的負担は大きく、働いて稼いだ分をそのまま全額回すようなことにもなりかねない。
こうした事情はとっくに問題になっている。2016年、はてなブログの匿名ダイアリーに投稿された〈保育園落ちた日本死ね!!!〉と題する次の内容が物議をかもしたことを覚えている方も多いだろう。
当時の衝撃的な投稿を引用する。
このニュースに接した当時はまず第一に、「言葉遣いが悪いなあ」という印象が先行したが、今となっては言葉が荒れる気持ちがわからなくもない。その後、どこまで状況が改善したかと言えば、根本はあまり変わっていない。「待機児童ゼロ」を目指して、それを実現している自治体も増えてきてはいるが、実際に保育園を探した経験から言えば、「仕事と保育園を同時に決めなければならない」というシステム自体が矛盾している以上、特に都心で働く育児家庭にとって、かなり厳しい状況であることに変わりはない。
■文京区から足立区へ
というような不満はいったん保留して、とにかく我が家としてできる限りの行動に出た。まず引っ越しを敢行した。子育てするには手狭で家賃も高かった文京区を離れ、2021年6月から、保育園の数が多く、公園など子育て環境が充実した足立区に転居した。えっ、足立区が! と意外に思う方もいると思うが、これがなかなかに住みやすいのだ。
足立区は子育てにかなり力を入れていて、保育園に入れる前になにをどうしていいかわからない子育て家庭の相談に乗ってくれる「保育コンシェルジュ」という相談員が区役所に常駐している。引っ越しを決める前に、まずは足立区がどこまで真剣に子育てに取り組んでいるかを知るため、そこへ相談に行った。
■頼りになった「保育コンシェルジュ」
私は認可保育園と認証保育園の違いも知らなかった。「認可」は国が定めた設置基準で、保育園の広さや保育士の職員数、給食設備などをすべてクリアしている園。これは公立と私立がある。「認証」は東京都独自の制度で、保育園不足を補うために「認可」に準じた設置基準。こちらはさまざまなニーズに対応した保育園がある。千葉市、さいたま市、横浜市、川崎市、大阪市などにも、東京都と同様の認証制度がある。
この「認可」と「認証」以外にも、足立区には、「認定こども園」や小規模の保育施設、区が認定した家庭的保育者による「保育ママ」などの制度もあった。いろいろと策を講じていることはよくわかった。妻もこの保育コンシェルジュに4回、相談に乗っていただいた。うち2回はリモートである。
■区内の保育園には全部落ちてしまった
しかし、引っ越しはしたものの、結果的に妻が仕事を再開する10月までに、足立区内の保育園(認可も認証も)にはすべて落ちてしまった。お隣の葛飾区まで“越境”して、認可外だがとても熱心に面倒を見てくれる保育施設をようやく確保し、働きに出られることになったのだ。
![リモート勤務中は息子を抱っこしながら働いた。](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/7/1200wm/img_d761e5a1d0512dd4977d352bb40285ab341099.jpg)
「もう、ぎりぎりの綱渡りよ。本当に大変だった。ウチのように区外でもとにかくどこかに入れた人は『待機ゼロ』とカウントされるんだけど、実態はどうかしら。葛飾区の園に預けているあいだにも、月に1人でも欠員が出ると足立区の認可保育園に応募するんだけど、1人の枠に20人ぐらい応募があったから、実態は待機ゼロとは言い難いわね」と妻はまだまだご立腹だ。
それから半年後の2022年4月、ようやく足立区の認可保育園に入園することができた。半年間、区外の保育施設に預けながら働いていたことが「実績」として認められ、「保育の必要がある子ども」としての合否を左右する「持ち点」が上がったからだ。
私は夫としてほとんど力になれなかった。妻が朝の出勤途中に、息子をベビーカーでお隣の葛飾区の保育園まで約15分かけて送ってくれた。その間、リモートで仕事をしながら、掃除・洗濯をしたぐらいである。
いっそ、私が育休をとって預かろうかとも思ったが、前にも述べたように、この先の収入減を考えると、少しでも稼げるうちは稼いでおきたい。将来的には、年金をもらいながら主夫業に専念して、家でできる仕事を考えないといけないなあ、とぼんやり考えてみる、定年間近の男なのであった。
■医療保険と生命保険の見直し
夫婦がそれぞれ加入していた医療保険と生命保険の掛け金も大きく見直すことにした。まず医療保険と生命保険をこれまでの掛け金が損にならない形で、貯蓄型のものは残して、ほかを大幅に減額した。
妻がこれほどの大病をしても、高額療養費制度に守られて、年齢や所得に応じて決められた自己負担限度額を超えた分は、まるっと払い戻していただけた。日本にはこの制度がある限り、「社会保険に加入している人は無理して医療保険などに入る必要はない」と断言するファイナンシャルプランナーもいる。
もしこの制度がなければ、妻と息子の入院費だけで国産車2台分ぐらいの出費となり、明日の生活もままならない状況になっていただろう。だから、「日本死ね」とはまったく思わない。「日本もっとがんばれ」とは思うが。
■学資保険に入れない
![中本裕己『56歳で初めて父に、45歳で初めて母になりました 生死をさまよった出産とシニア子育て奮闘記』(ワニ・プラス)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/0/1200wm/img_1030b5cf5e00a16f2d95314a95adb75c181824.jpg)
そんなわけで、医療保険を減らした分は、息子の学資保険に回したかった。ところが、56歳と45歳の夫婦が、これから息子が成長して大学に入学し卒業する22歳までに、ある程度の学資を貯めるというシミュレーションが保険会社にはない。だいたい、保険加入者は20代、30代の夫婦を想定していて、「はじめは苦労するかもしれないが、だんだん収入も増えるはずで、取りっぱぐれはない」という青写真を保険会社が描いて当然だろう。
相談に乗ってもらったファイナンシャルプランナーは、そうした事情をかいくぐって、できるだけ加入条件がゆるくてリスクの少ない、外貨型の投資で学資保険に相当する分を積み立てるプランを出してきた。もう、それに乗るしかない。加えて、この先10年は、我が身に異変があると生活に支障が出るので、短期の掛け捨て生命保険にも入っている。
とうちゃん、働けるところまで働くよ。でも、どこかで、とうちゃんが稼げなくなったら、息子よ、あとは自分で働いてなんとかしてくれ、スマン! そんな心境なのであった。
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産経新聞社 夕刊フジ編集長
1963年、東京生まれ。関西大学社会学部卒。日本レコード大賞審査委員。浅草芸能大賞専門審査委員。産経新聞社に入社以来、「夕刊フジ」一筋で、関西総局、芸能デスク、編集局次長などを経て現職。広く薄く、さまざまな分野の取材・編集を担当。芸能担当が長く、連載担当を通じて、芸能リポーターの梨元勝さん、武藤まき子さん、音楽プロデューサー・酒井政利さんらの薫陶を受ける。健康・医療を特集した新聞、健康新聞「健活手帖」の編集長も兼ねる。48歳で再婚し、56歳で初めて父親になる。
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(産経新聞社 夕刊フジ編集長 中本 裕己)
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