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AIの進化で一番得をするのは高齢者である…和田秀樹が考える「これからの時代に活躍する人」の条件

プレジデントオンライン / 2023年9月4日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/somboon kaeoboonsong

これからの社会で求められる能力とは何か。医師の和田秀樹さんは「時代ごとのテクノロジーによって、評価される能力は変わる。以前は優秀な技術者が評価されてきたが、これからは技術者に適切な指示を出す能力が求められる」という。作家・橘玲さんとの対談をお届けしよう――。

※本稿は、和田秀樹『前頭葉バカ社会』(アチーブメント出版)の一部を再編集したものです。

■「バカでも幸せ」がだんだん難しくなっている

(前回からつづく)

【橘】わたしたちが生きている知識社会はものすごく残酷で、賢い人間が賢くない人間を搾取するから、「バカでも幸せ」がだんだん難しくなっている。アメリカでは、うまくやっているのはウォール街やシリコンバレーにいるような、極端に知能が高い人間だけという現実が、トランプが大統領になったあたりから顕在化しました。

【和田】日本とは逆ですよね。

【橘】白人の高卒ブルーワーカーが、アルコール、ドラッグ、自殺で「絶望死」している国ですからね。知識社会はこれからますます高度化していくでしょうし、いずれ日本もそうなっていくと思います。

【和田】そう思います。賢いやつから見たら、だますのは朝飯前でしょ。ちょっと勉強すれば相手の認知バイアスなんてすぐにわかるわけだから。ただ、格差社会という言葉で簡単に片付けられがちだけど、昔の格差社会と違うのは、今は無一文の人が大化けして勝ち組になる可能性もあるんですよね。

【橘】格差社会を批判する人たちが困っているのは、イーロン・マスクにしてもジェフ・ベゾスにしても、貴族や大富豪の子どもではないことですよね。自分の力で起業して成功したのだから、どこが正義に反するのか、説明がつかなくなっている。

■これからは「のび太」が評価されるかもしれない

【和田】つねに新しいことにチャレンジできる人が賢いということですよ。もとはといえば、アマゾンは本の通販会社だし、イーロン・マスクの宇宙ビジネスやツイッターの買収が正しいかはわからないけれど、電気自動車で終わらずに、さまざまな道を模索している。GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)の4社はどこも創業時から異なる形に進化しています。

いろいろなことが、これから変わっていきますよね。医者の世界だったら、これまでは画像診断で病巣を見落とさない人が名医だったけれど、これからの画像診断はAIに勝てるわけがない。AIロボットが手術をしたほうがうまい、ということにもなるでしょう。

【橘】バカの基準も変わるでしょうね。

【和田】『ドラえもん』で考えると、劣等生ののび太がドラえもんというAIロボットにすぐに泣きつき、ドラえもんが未来から機械を持ってきて問題が解決する話なわけでしょ。これをスティーブ・ジョブズとアップル社の優秀な技術者に置き換えると、ジョブズは無理難題を次々に出す役で、優秀な技術者たちがなんとかそれを叶えちゃう。

以前は、こうした技術者のほうが評価されていたのに、今はジョブズのほうがすごいってことになっていますよね。そう考えると、のび太のような落ちこぼれが、これからはすごい人になる可能性がある。ドン・キホーテみたいな正気とは思われない人でも、優秀な技術者さえ見つければ、大金持ちになれるかもしれない。

■「ドラえもん」を上手に使えるかに価値が出てくる

【橘】昔は重宝された記憶力も、今ではあまり価値がなくなりました。映画評論家の蓮實重彦さんはものすごい記憶力を持っていて、「この場面ではカメラはローアングルで、照明は左手から当たっていて……」と、すべての場面を記憶していた。映画館で観るしかなかった時代には、これは圧倒的な才能で、誰も太刀打ちできなかった。でも今は、どんなシーンもYouTubeで確認できるから、「この記述は間違っている」なんていわれてしまう。その時々のテクノロジーによって、評価される能力が変わることがよくわかります。

同じように歴史の年号や将軍の名前も、ネット検索すればすぐにわかるのだから、一生懸命覚えていても何の意味もない。計算はエクセルが全部やってくれるし、プログラムはChatGPTが書いてくれるようだから、プログラミング教育も必要なくなるかもしれない。AIがどんどんドラえもん化していけば、いかにドラえもんを上手に使えるかに価値が出てくるでしょう。

ずらりと並んだドラえもんのフィギュアを見る女性。これは中国・青島で開催されている「ドラえもん展」の光景。さまざまな表情をした人形100体が展示されている=2014年05月28日、中国・青島
写真=EPA/時事通信フォト
ずらりと並んだドラえもんのフィギュアを見る女性。これは中国・青島で開催されている「ドラえもん展」の光景。さまざまな表情をした人形100体が展示されている=2014年5月28日、中国・青島 - 写真=EPA/時事通信フォト

■AIの進化でもっとも得をするのは高齢者

【和田】高齢者の医療現場にいると、「これからの時代、高齢者はつらくなりますよね」とよくいわれますが、それはITとAIの違いをわかっていない人がいうことです。AIの進化でもっとも得をするのは高齢者ですよ。ITというのは基本的に道具だから、われわれが使い方を覚えないといけませんが、AIは使い方を覚える必要はない。指示すればAIが考えて、いろいろやってくれる。だから遠慮なく命令できる人こそうまく使いこなせる。

【橘】突飛な命令ができるとか。

【和田】おっしゃるとおりで、「こんなことは無理」と思ってはいけないんですよ。おそらく解決できない問題のほうが少なくなっていくので、これは無理という思い込みが足かせになっていく。

【橘】AIはすごくおもしろいですね。その機能を上手に使いこなすにはどうすればいいか、何を求めて、どんな質問すればいいのかというところで差がつくことになるでしょう。

■英語で考えるときは3分の1に思考能力が落ちる

【和田】未来の話をしたいのですが、これから2050年頃までにさまざまな分野で大きなパラダイムシフトが起きてくるでしょう。この対談でも今後、価値がなくなるものとして記憶力、計算力、プログラミング能力が挙がりましたが、語学力も必要なくなりそうですね。

「ミスター円」といわれた元財務官の榊原英資さんは、歴代の財務官の中でもっとも英語ができた人で、退官後は英語での意思疎通の大切さを大学の講義や著書でも強調されていましたが、それでも「英語で考えるときは日本語で考えるときの3分の1に思考能力が落ちる」とおっしゃっていました。

ポケトークのような自動通訳機があたりまえになると、日本語で思考したことを英語で相手に伝えられるわけで、語学力はただの道具にすぎなくなる。英語がしゃべれることに価値はなくなって、話の内容がおもしろい人のほうが価値が高まるでしょう。

オフィスの近くにはビジネスマン2人と女性1人。お互いに話す
写真=iStock.com/Liubomyr Vorona
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Liubomyr Vorona

【橘】外国人と交流するなら、その国の言葉でしゃべったほうが仲良くなれますから、そういう意味では語学力にも価値はあると思いますが、ビジネスやディスカッションの場では、テクノロジーに頼ってしまったほうが間違いがなくていいですよね。

【和田】そう思います。

■論文が読めることより編集者的な発想が重要

【橘】以前は英語の論文が読めるのは特別な人だけだったし、そもそも論文自体が手に入らなかった。でも今は、論文のオープンアクセスが進んでいて、さまざまな論文を誰でも無料で読めるようになってきた。しかも自動翻訳の精度が上がっているので、わたしのように専門的教育を受けていない者でも、だいたいの意味はわかる。面白そうな論文を見つけたらどんどん翻訳させて、引用するところだけ原文と照らし合わせればいい。昔は専門家にしかできなかったことが、誰でも簡単にできるようになりました。

そうなると、これからは編集センスのほうが価値が高くなるのでは。論文が読めることよりも、どの論文をどう取り上げると面白い記事になるのか、といった編集者的な発想のほうが重要になってくると思います。

【和田】医学論文をシロウトの人が読んでどれくらい理解ができるかと考えると、専門家に多少の優位があるとしたら、テクニカルターム(専門用語)の意味がある程度身にしみていることですかね。

【橘】実際に患者さんを診てきた経験は重要ですね。

■時代の変わり目に「前頭葉バカ」は生き残れない

【和田】経験ということを除けば、英語ができるほうが優位だとはいえなくなると思いますよ。たとえば日本人が英語でディスカッションをする場合、自動翻訳機を使ったほうが有利なはずだけど、英語が話せないと思われたくないという見栄が日本人にはあるからね。その点、アメリカ人が優位なのは他の国の言葉ができなくても誰も恥ずかしいと思わないところでしょうね。

和田秀樹『前頭葉バカ社会』(アチーブメント出版)
和田秀樹『前頭葉バカ社会』(アチーブメント出版)

【橘】英語のネイティブと話すと、賢いかどうかすぐにわかりますよね。こちらの下手な英語を補っていいたいことを理解したうえで、中学の英語の先生のような正しい文法で答えてくれる人もいる。それに対して、スラング交じりの英語で話しかけられて、こちらが戸惑うと、「なんだおまえ、英語もしゃべれないのか」という対応をされることもある。

【和田】わたしもアメリカに留学していたときに、留学先の病院内では英語が通じるけれど患者さんには通じないとか、特にお店で買い物するときは通じないということを経験しました。それこそ橘さんがおっしゃるように、バカな人ほど自分がバカであることを理解できないから、英語が話せないだけで相手をバカにしてくる。心理学的にいえば、自己愛が満たされていない人は自分より下だと思う人をバカにするという心理が生まれてくるわけですね。

【橘】AIとの対話でも、おもしろい答えを引き出すことができる人が賢い、ということになるでしょうね。

【和田】人間の前頭葉は何のために発達したかというと、時代が変わったときの環境の変化に適応するためという説があるんです。だから、産業革命以来の衝撃といわれるAI革命に対してウェルカムになれるかどうかは前頭葉の賢さで決まる。これからの劇的なパラダイムシフトに、前頭葉がバカでは生き残れませんよ。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」

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橘 玲(たちばな・あきら)
作家
2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎文庫)、『言ってはいけない』(新潮新書)、『バカと無知』(新潮新書)、『シンプルで合理的な人生設計』(ダイヤモンド社)など著書多数。

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(精神科医 和田 秀樹、作家 橘 玲)

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