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日本の学童保育とは全然違う…フランスの学童は"朝も夕方も休日も"利用できるワケ

プレジデントオンライン / 2023年9月4日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/olrat

海外の学童保育はどんな仕組みで運営されているのか。フランス在住のライター髙崎順子さんは「2人の子どもを育てる時に学童保育を利用した。子どもたちの生活と私の子育てを支えてくれた存在で、学童保育がなければ共働きを続けられなかった」という――。

■「給食と昼休み」も学童保育として扱っている

学童保育とは、放課後や休日、家庭以外の場所で、小学生に居場所や活動、見守りを提供するものだ。日本では民間主導で制度化された経緯から、多様な運営主体による様々な形態がある。その制度や課題については、「親の経済力で『放課後の過ごし方』がまるで違う…子どもの“格差”を拡大する日本の学童保育が抱える問題」で詳しく解説している。

学童保育は他の先進諸国にも存在し、その仕組みや運営方法は各国で異なる。筆者の住むフランスも、日本と違うやり方で学童保育を行う国の一つだ。たとえばフランスでは、放課後だけではなく「給食と昼休み」をも学童保育の一環として扱い、担当の職員を配置している。

「小学生の放課後・休日」に表れる社会の考え方や制度の違いを見ていこう。

■ほぼ全国の児童が利用できる公共サービス

フランスの学童保育は、市町村にあたる基礎自治体の公共事業だ。義務教育の始まりの機関である保育学校(幼稚園)の3~5歳児と、小学校に通う6~11歳を主な対象とし、「家」と「学校」以外の子どもたちの生活時間を支援する。設置は自治体の義務ではないが、だからこそ学童保育の姿に、自治体ごとの児童政策への力の入れようが表れる。

2021年の統計によると、フランス国内の学童保育は約3万1000カ所、受け入れ枠は275万人分。対象年齢児童の9割は、学童保育のある自治体で就学している〔出典:全国家族手当金庫(CNAF)〕。山間部や農村部など一部を除き、ほぼ全国の児童がアクセスできる公共サービスだ。

学童保育は公教育上も重視されており、設備や人員の最低基準を国が定めている。また学童保育で働くスタッフの資格は専門資格が9種類、その他保育士など、学童保育で勤務可能な別資格があり、どれも国が養成課程と職能を規定するものだ。

筆者は2人の子どもが学童保育の対象年齢の頃、パリ郊外で3つの自治体に住んだ。そのすべてで学童保育が完備され、希望を出せば待機なく利用できた。環境が良く活動メニューが充実していたことが幸いし(内容は後述する)、子どもたちはそれぞれ合計8年間、不満なく通い続けることができた。子どもたちの生活と筆者の子育てを支えてくれた存在で、「学童保育がなければ、共働きを続けられなかった」と感じている。

■朝、昼、放課後の必要な時間帯に通うことができる

筆者が「学童保育に、子育てを支えられた」と感じる最大の理由は、サービス時間の長さと継続性にある。

フランスの自治体による学童保育は、平日に学校構内で行われる「学校周辺時間サービス(Service périscolaire)」と、土日を除く休日に学校もしくは専用施設で行われる「学校外サービス(Service extrascolaire)」の2種類。平日と休日で時間割が異なるが、平日でも1日4時間以上、休日は朝から夕方まで、児童を受け入れている。

前者は一般に「預かり所(Garderie)」と呼ばれる。稼働時間は自治体によって異なるが、筆者の居住地では、7時半から8時半の授業前・11時半から13時半の給食と昼休み・16時半から18時半の放課後のうち、必要な時間帯にだけ通うことができた。たとえば親の仕事が早朝シフトのため朝の学童に来る子が、放課後は学童を利用せず親の帰宅した家に帰る、というパターンもある。朝・昼・放課後とフルパッケージで利用する場合、学校のクラスでよりも長い時間を、学童保育で過ごす子もいる。

後者の休日学童は「余暇センター(Centre de loisir)」の呼称で知られ、朝7時半~9時から夕方17時~19時まで、昼食とおやつ込みで終日、子どもたちに居場所と活動、見守りを与えてくれる(こちらも稼働時間は自治体によって異なる)。

近くに学校があることを示すフランスの道路標識
写真=iStock.com/Richard Villalonundefined undefined
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Richard Villalonundefined undefined

■親、先生と並んで日常的に見守ってくれるスタッフ

そして平日・休日どちらのサービスも、自治体雇用のスタッフたちが、通年ほぼ固定のメンバーで担っている。平日は学校構内で活動し、授業の合間の昼休み・給食を教員チームから引き継いで指導するので、学童保育チームは、クラス担任の教師たちとも連携し合う。子の学校生活に何か不安や困り事があると、ケースによっては教員ではなく学童保育チームが、親を迎えて面談を行うこともある。

子どもにとっては、親・先生と並んで、日常的に見守る大人たち。教師にとっては、生徒たちの学校生活指導を分担できる職員。親にとっては、勉強以外の子の成長を、継続的に見てくれる人々。それが学童保育のスタッフなのだ。

そして子を学童保育に通わせている時、筆者が驚いたのが、滞在中の活動内容の多彩さだった。

平日は時間が短いこともあり、活動の幅は限られるが、それでも通い飽きない工夫がされている。小学校入学前は休息と遊びをメインとし、小学校からは宿題支援に加え、チェスやカードゲームなど集団でのゲームや芸術(お絵かき、ビーズ細工など)、スポーツ(サッカーなど)を、時間の許す範囲で行う。

■「地域社会の継承と活性化」を狙うプログラム

休日の学童は滞在時間が長いため、午前と午後でグループを分け、幾つものメニューを提案する。前述のゲームや芸術活動、スポーツの選択肢が増え、自転車レッスンや演劇、詩や物語の作成など、より時間のかかる活動も入ってくる。運営主体が自治体のため、公営図書館やミュージアム、プールや運動場を活用することも盛んだ。筆者の子どもは、地元の花屋が協力してのフラワーアレンジメント教室に参加したこともあった。

このような活動には、地域社会の継承と活性化の意義が認められている。「レジャーや遊びを通して、地元の歴史や施設を子どもたちが知り、地域社会に繋がる」との認識のもと、意識的に組み込まれているのだ。

活動メニューは、自治体が国と結ぶ協定書「地域教育計画」の一環で、現場スタッフが携わって検討・考案される。団体行動を通して「他者を尊重し、共に生きる」市民生活の基礎を学ぶことが、教育計画の柱だ。

活動中の安全対策は自治体の責任で、プールの場合は専門の指導員資格を持つスタッフが同行し、参加には親の承諾を必須とする。

このように運営側がメニューを取り揃えても、その中の何を選ぶかは子ども次第。「今日は休みたい」という子の選択は尊重され、その場合は、事務仕事をする指導員の横で何もしないで過ごすこともできる。

プールに浮かぶビーチボール
写真=iStock.com/Dumont
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Dumont

■運営費の約7割は公的資金

前述した活動内容は自治体によって変わり、保護者負担も全国一律ではない。

平日の学童保育は利用料の保護者負担なし・事前登録なしで、生徒の誰もが利用可能とする自治体もある。休日は、事前登録と保護者の所得額によって変わる利用料を課すのが一般的だ。

2016年の調査では、子1人当たり・1時間の運営費は、中央値がおよそ3.5ユーロ(約540円※当時、以下同)。この運営費は市町村の規模と利用児童の人数によって変動し、上は6.9ユーロ(約1070円)、下は1.9ユーロ(約295円)と大きく違いが出ている(出典:フランス地方公共団体財政監査局)

自治体は保護者利用料に加えて、家族政策の全国組織「全国家族手当金庫」や国からの助成を受けながら、自治体の年度予算で運営費を支出している。財源の割合は自治体負担が約5割、家族手当金庫が約2割、保護者負担が2割強と、公的資金で約7割をカバーする。支出の8割は人件費に割かれるという。2021年、全国家族手当金庫が学童保育関連に支出した金額は14億ユーロ(約2200億円)だった。

■授業のない時間の教育効果を国が考える

フランスの学童保育に公的資金が多く支出される背景には、子どもたちの生活時間全体に対する、国としての考え方がある。

フランスの国家法典の一つ「社会福祉・家族法典」では、「すべての未成年が親・法定後見人の住居以外に受け入れられる際は、公的機関の保護下に置かれる」と定められている。(L227条)

学童保育が公共サービスになっている根拠の法律だ。加えて教育法典でも、「学校周辺時間は公教育サービスの延長線上において、自治体の地域教育計画で運営されうる」「地域教育計画は児童の自由時間において、文化・スポーツ・テクロノジーに触れる機会の平等を促進する」と記されている。(L551-1条)

■子どもたちの「水曜日の過ごし方」を議論

近年では、教育法改正による授業時間の再編と短縮に伴って、子どもたちの「授業のない時間」をどう扱うかが再検討された。

フランスでは保育学校・小学校の時間割が市町村の決定に委ねられており、週24時間の授業を、水・土・日を除く平日4日間か、平日4日間+水曜日午前中の4.5日間かで配分する。2018年の実態調査では、公立学校のある自治体の87%が平日4日間の時間割を採用していることが明らかになった(出典:フランス公共サービス情報サイト)。つまり水曜日に「学校に通わない児童」が多数派になったということだ。

教室
写真=iStock.com/DURU Anthony
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DURU Anthony

これを受けて国民教育省は2018年、子どもたちの「水曜日の過ごし方」の重要性を、各自治体に改めて訴えた。具体的には「水曜日計画 Plan mercredi」を掲げ、水曜日の学童保育で教育面の質を向上する協定を自治体に提案。国の基準でそれを採用する市町村には、追加の運営助成金を給付する政策を施行している。

この「水曜日計画」施行後に新型コロナ禍が起こり、普及に足止めがかかったため、政府は2021年に改めて、政策をより強化する方針を打ち出した。学童保育の充実が国策として推進され続けていることを示す一例だろう。

■スタッフの給料は安く、高資格者が集まりにくい

国として制度を整え財政支出し、自治体主導で公共サービスとして提供されている、フランスの学童保育。親としてはありがたい制度でとても助けられている実感があるが、現場では常に、問題と改善が訴えられている。そのうち大きな点の一つが、スタッフの質と数の確保だ。

フランスの学童保育は「社会文化活動 Animation socioculturelle」の一環として、「アニマトゥール Animateur」と呼ばれる職員たちに担われている。アニマトゥールの活動領域は学童保育に限らず、他の福祉施設、スポーツクラブやサマーキャンプ、レジャー施設、期間限定のイベントなど幅広い。

多くの人材が求められることもあり、従事するための初等資格は16歳から取得可能で、取得条件の研修は「最短30日間ほどの研修」と比較的短期間で設定されている。学業を中退した若者や転職者に職業訓練の道を開く効能があるが、反面、職業人としてのモラルや信念、経験が十分でないまま、子どもたちの生活の場で働くスタッフも出てしまう。

また自治体、もしくは自治体が委託する非営利団体の雇用ではあるが、給与は最低賃金での契約が多く、他の職業と比較して高資格者が集まりにくい現実がある。

積み上げたコインにのった人形
写真=iStock.com/kentoh
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kentoh

■小児性加害のリスクも排除しきれない

そして児童を対象とする職であるがゆえに、小児性加害のリスクを排除しきれないジレンマがある。求人応募に際しては無犯罪証明の提出が必須で、採用側が志望者の職歴や過去の問題行動の有無を確認できる全国ネットワークシステムがあるものの、初犯を予防する有効な仕組みは構築できていない。

2022年春には、アニマトゥール経験者が現場での性加害・ハラスメントを告発する#MetooAnimationの運動が起こり、短期間で400件を超える声が寄せられたことから、この問題が改めて一般社会に可視化された。国民教育省もこの運動に応答し、同年10月に性加害予防研修の強化や、性加害対策の再周知などの対策を発表している。しかし現場レベルでの対応と実効性は、地域や責任者による格差が懸念されている。

■「学校にも家にもいられない」子どもたちの居場所

筆者が個人で知る範囲ではあるが、学童保育のスタッフは子どもたちの楽しい生活時間を守り社会性を養おうとの意欲が高く、「フランス社会に、この人たちがいてくれてよかった」と感じる面が多々ある。特に心強いのは、学童保育が学校でも家庭でも心安らかに過ごせない子どもたちの、重要な居場所になっていることだ。

実際、フランスの学童保育のスタッフたちには、自分自身が学業に失敗したり、家庭環境に恵まれなかった人々も多い。かつて子どもだった自分に安心と遊び、大人の見守りを与えてくれた場所を自分も作りたい、その善意の巡りが支えている場所なのだ。

そしてその場が国と自治体による公共サービスとして運営されている事実には、「子どもは社会で育てる」というフランス社会の理念と姿勢が、強く表れている。

以上、学童保育を日本と異なる考え方で運営し、社会インフラとして機能させているフランスの実例を概観した。

今回の記事では歴史的経緯には触れられなかったが、利用者側の視点から、「日本と違う制度」の大枠をお伝えした。

やり方は異なっても、社会において子どもの生活時間を守る重要性は、どこの国にも共通する。また従事者確保・養成の課題や、小児性加害が起こりやすい温床も、国境を問わず懸念される点だ。

日本の学童保育の今を理解し、これからを考えていくにあたり、拙記事が材料になれば幸甚である。

[参考文献]
Ahmed El Bahri “La Politique éducative locale, Analyse et illustrations” Berger-Levrault, 2022
Caisse Allocation Familiale “Baromètre des temps et activités péri et extrascolaires 2021” L’essentiel No 207, 2022
Ifac, “BAFA”,
Injep “Fréquentation des accueils collectifs de mineurs(accueils de loisirs, colonies de vacances, scoutisme…)en 2020-2021” Fiches repères No 56, 2022
Injep “L’Education populaire en France” Fiches repères No 44, 2019
Mairieinfo “Combien coutent l’enseignement et le périscolaire aux communes et EPCI?” 2019
Ministère de l’éducation nationale, de la jeunesse et des sports “Le Plan mercredi”
Observatoire des finances et de la gestions publique locales, “Les coûts locaux de l’éducation, enseignement et périscolaire” Cap sur… No 10, 2019
Onisep “Les diplômes de l’animation” 2019
岩橋恵子「フランスにおける学校支援と青少年の地域公共空間―余暇センター(Centre de loisir)を中心に」2010
大津尚志、橋本一雄、降旗直子「フランスの余暇センターにおける市民性教育」2012

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髙崎 順子(たかさき・じゅんこ)
ライター
1974年東京生まれ。東京大学文学部卒業後、都内の出版社勤務を経て渡仏。書籍や新聞雑誌、ウェブなど幅広い日本語メディアで、フランスの文化・社会を題材に寄稿している。著書に『フランスはどう少子化を克服したか』(新潮新書)、『パリのごちそう』(主婦と生活社)などがある。

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(ライター 髙崎 順子)

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