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「あれだけは取っておけばよかった」母親の遺品整理を終えた60代娘が手放して心底後悔したもの

プレジデントオンライン / 2023年9月14日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/banabana-san

親が死んだとき、葬儀の後にやってくるのが遺品整理だ。作家の横森理香さんは「母親の遺品整理をしていて気づいたことがある。着物は売っても二束三文だが、ジュエリーは玉石混交ということだ。フェイクジュエリーだと思っていたものが、実は天然石だったときには驚いた」という――。

※本稿は、横森理香『親を見送る喪のしごと』(CCCメディアハウス)の一部を再編集したものです。

■紬こそ取っておけばよかった

和ダンス三竿のうち一つは私の嫁入り道具だが、ダサいので若い頃の着物入りで、母が移住するとき秋田に送ってしまっていた。私の手元にあるのは母が作ってくれた喪服と、お茶のお稽古に着るものだけだった。

しかし、管理してくれる母が亡くなった。

「着物の管理は私が任されてるから」

と従姉の千津子姉さんが言っているようだから、二竿は着物入りで山梨に送ってもらった。

その前に、お世話になった現地のおばさま方に、年配の女性にこそ映える紬の着物を見繕って、帯と合わせて差し上げた。が、私は今年還暦を迎えた。

「しまった、とっときゃ良かった」

地団太を踏んだ。紬は高価で、なかなか自分では買える品物ではない。が、当時42歳の私はまだ若かったから、母の地味な紬なんていらないと思っていた。

娘が大きくなったら着るかもしれないと、自分の若い頃の着物ばかり選んで東京に送り、あれから18年保管しているが、娘は興味を示さない。

さらに、母の死後私のところにローンの残金催促が来た最後のお買い物、作家ものの着物と帯、長羽織は、口惜しいのでいただいておいた。しかし、これらも仰々しいのであまり登場するシーンがない。

母が私の結婚式の際誂えた、プラチナ糸刺繍入りの留袖は、仕立て直して義弟の結婚式、娘の七五三、そして「日本大人女子協会」の公式大人女子会でも着た。

■仕立て直し代に10万円かかった

しかし、いいものだけに仕立て直し代が10万円もかかった。

そして、いまとなってはサイズを小さくしなくても良かったかもしれないと思う。年とともに貫禄がつき、いまや母の着物も大きくないのだ。母は大柄だったが、私だって身長が低いぶんは、厚みでカバーできる(自慢してどうする?)。

なので、これからの人はぜひ、いまは似合わないかもしれない渋い着物こそ取っておいてほしい。特に紬は、なかなか買えるものではないから。

家紋の入った着物は他人様に譲れないので、私が引き取った。母が自分の四十九日に着てほしいと友達に言っていた家紋入りの色喪服は、私が母の納骨式に着た。草木染の裾に墨が流してある粋な着物で、帯には「偲ぶ」と書いてある。ドラマティックだ。しかし、あれ以来着る機会はない。

■傷んだ着物や帯は小物を作る友人に

母も年を取っていたため、実は着物の管理などできていなかった。きれいに取ってあったのは高価な新しい着物だけで、多くはシミが付いたまましまわれていて、黴臭かった。

和ダンスだけでなく母の衣装ケースには、まだまだ山のように着物や帯、和装小物があった。

母の死後、佐藤先生から次々に段ボールで送られてきたそれらを、私は半年かけて、事務所にて仕分けして風を通し(家には猫と小さい子どもがいるからムリ)、クリーニングが必要なものはして、いらないものは静岡の夫の実家に送った。

義母の友達が古い和服や帯でインテリア小物を作っているというから、使ってもらったのだ。リサイクル着物屋さんにも見に来てもらったが、全部でたった3000円と言われたので、売るのをやめた。まだ知り合いに楽しんでもらったほうがいい。母も浮かばれるというものだ。

■着物は高価だが、売るときは二束三文

着物は、買ったときは高額だが、売るときは二束三文。少しでもお金にしようと思ったら、フリマアプリなどで売る手もあるが、発送も取引も面倒なので、近くにいる人に差し上げるのが一番だ。

毎月、お茶のお稽古で着物を着る私ですら、必要な着物は限られている。

着物を着た日本人女性がひざまずいて茶道の物を用意している
写真=iStock.com/ShaneQuentin
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ShaneQuentin

「いやぁ、これはとっておいても着ないだろうな」という着物は、着る人に差し上げることにしている。最近着付けを習い始めて、これから着物生活を始める、というような友人に。

私もお茶の師匠の若い頃の着物などいただくが、アラカンなので、いまは娘にお仕着せている。こうやって着物は循環するので、減ることはない。ただ管理は大変だ。どこに何がしまわれているのかも、ときどき出し入れしないと最早忘れてしまうし、帯や着物自体重いので、これからはもっと大変な作業になるだろう。

気力、体力あるうちに、着物の整理、しておいたほうがいい。

遺品整理の手順
残す物の数や量を決めてから、3つのステップで進めましょう。
①スケジュールを立てる
②仕分ける:思い出の品、貴重品等残すもの、手放すものの3つに分ける
③手放すものを業者に引き渡す、処分する、譲渡する、のいずれかに分ける

■親のジュエリーは玉石混交

母の死後、従姉の千津子姉さんにはご希望のものをすべてあげたが、黒真珠のネックレスは取っておけばよかったかなと、アラカンのいま、思う。

というのも、葬儀参列がますます増える年代に突入し、先日は友人が知人の通夜に参列。ロータスにて「ベリーダンス健康法」のあと、喪服に着替えた。

「駆け付け通夜っていって、お通夜は黒ならどんな服装でもいいっていうけど、一応ね……」

と言って、本真珠のネックレスも着けていた。

「これは私が嫁ぐとき父が持たせてくれたものだけど、本式は黒真珠なんだって」
「え、そうなんだ。黒真珠のネックレスなんていらないからあげちゃったよ」
「それはもったいないことをした」

黒真珠、私もハワイでタヒチアンパールを買ったが、一粒でもお高いのだ。あー、とっときゃ良かった(笑)。

黒真珠
写真=iStock.com/gyro
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gyro

親の宝飾品は玉石混交。特に高齢者は、軽くて疲れないようデザインされた、本物のジュエリーを持っていたりするから要注意だ。私もうっかり、エメラルド三連ネックレスを親友にあげてしまった。

メレダイアぐらいの小粒で軽く、留め金がメッキでいかにもフェイクジュエリーな感じだった。が、あとから鑑定書が出てきて天然石であることが発覚。腰が抜けた。

でも、こういうものは似合う人がしたほうがいい。母も親友も色白で大柄だから、エメラルドグリーンが良く似合うのだ。

■36回払いのローン残金請求書が送られてきた

年金生活者でありながら、最後までお買い物を楽しんだ母。36回払いのローン残金請求書は、死後、すぐ私のところに送られてきた。着物もジュエリーも、懇意の呉服屋さんで買ったものらしかった。

こういう親の借金は、未使用のものは返品すれば返さなくてもいいらしいが、それでは母が浮かばれないだろうと、合計158万円のローンは完済した。買ったばかりでまだしつけのとっていない着物、帯、羽織、新品のジュエリーは、口惜しいので私がもらった。

大粒の真珠のネックレスは、しばらく遺影にかけておいてあげた。一度も着けられなくて残念だったろうから。イタリアの職人に作らせたというカメオのブレスレットは、どこか素敵なところにお出かけするたんび、着けて行った。裏には「ラブ エテルノ サチコ」と彫らせてある。永遠に、愛す。サチコ。

「は~」

私はうなだれた。

「このブレスレットはお母さまが、2人のお嬢さんとお孫さんにひとつひとつお分けになるつもりで作らせたものです」

と呉服屋さんの手紙にあった。でも、支払いをしたのは私なので、私がもらっておいた。3つのカメオがつながってブレスレットになっているものを、ばらしてペンダントなりに作り変えるのも、またお金がかかるから、それはなしだ。

■ダイヤモンドリングは自分用にリメイク

新しいものはともかく、古い宝飾品はもらっても現代のライフスタイルに合わない。私は母の縦爪のダイヤモンドリング(婚約指輪)大粒ひとつを中心に、自分のプチダイヤ2個を両脇に置き、カジュアルリングにリメイクした。縦爪はニットにもひっかかるから、プラチナリングに埋め込む形にしたのだ。

横森理香『親を見送る喪のしごと』(CCCメディアハウス)
横森理香『親を見送る喪のしごと』(CCCメディアハウス)

こういうリメイク屋さんは街のいたるところにある。私は自由が丘デパートのリメイク屋さんでやってもらった。お直し代はたいしたことなかった。地金も買い取ってくれるから、それで支払えたぐらいの金額だ。

遺品といっても、ただ取っておいてもしょうがないから、リメイクして普段使いで楽しんだほうがいい。そのほうが故人も喜ぶだろう。

思い出としてとってあるのは、父との結婚指輪と、琥珀のカフスボタン、琥珀の帯留めと、珊瑚の羽織留め、そして特大水晶の指輪である。山梨は水晶の産地だから、おばさま方は持っているのである。

母は着物を着るときに着けていたような気がするが、さすがにオバ趣味なのでリメイクしようとしたら、リメイク屋さんのおじさんに、

「これはとっといてあげなよ」

と窘められた。結局、ジュエリーボックスの肥やしと化している。

故人のローン
故人のローンが残っていた場合は、相続人に支払い義務が発生します。相続したくない場合は放棄することが可能ですが、相続の開始があったことを知ったときから3カ月以内と期限が決まっています。難しい場合は、裁判所に期限延長の申し立てが可能です。

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横森 理香(よこもり・りか)
作家
エッセイスト。「一般社団法人 日本大人女子協会」代表。1963年生まれ。多摩美術大学卒業。現代女性をリアルに描いた小説と、女性を応援するエッセイに定評があり、『40代 大人女子のための“お年頃”読本』がベストセラーとなる。代表作『ぼぎちん バブル純愛物語』はバブル時代を描いた唯一の小説と評され、アメリカ、イギリス、ドイツ、アラブで翻訳出版されている。また、「ベリーダンス健康法」を発案、主催するコミュニティサロン「シークレットロータス」でレッスンを行う。2017年11月、「一般社団法人 日本大人女子協会」を設立、大人女子の「健康」「美」「幸せ感」を高める活動をしている。

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(作家 横森 理香)

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