アップル社長をクビになる寸前だった…ジョブズは無言、クックは「?」の一文字で転送してきたメールの中身
プレジデントオンライン / 2023年9月6日 7時15分
※本稿は、山元賢治『世界の先人たちに学ぶ 次世代リーダー脳』(日刊現代)の一部を再編集したものです。
■プレゼンテーションで一番大切なこと
日本の多くのビジネスパーソンのプレゼンテーションを見ていて感じるのは、「対話になっていない」ということです。ご自身で作ったか、それとも部下に作らせたのか、どれくらいの時間をかけたのかはわかりませんが、たいていのプレゼンテーション資料には文字がびっしりと書いてあります。その内容を一言一句たがわず読み上げているが、聴衆は居眠りをしているか、上の空になっている……そんな光景をよく目にします。
プレゼンテーションでは1対Nで情報発信することが多いもの。会議と同じく、N人分の時間をいただいているわけですから、発言者が悦に入って長々と話している間にも人件費は発生しているのです。そのことを理解してプレゼンテーションに臨んでいる人がどのくらいいるでしょうか?
プレゼンテーションで一番大切なことを聞かれたら、私は次のように言います。
どうしても伝えたいことがあるときにだけ、人の前に立ちなさい。強い想いがないのに聴衆の貴重な時間を奪うのは迷惑です――と。発言者のメッセージが聴衆の期待とズレているケースも然りです。
■メモや台本は作らず、聞き手の反応を見て話す
的確な話題を選び、十分に準備をして論理的に話を進めていても、プレゼンテーションを始めてみると、聴衆の反応が芳しくないと感じることもあるかもしれませんね。
そんなときは「相手は何を求めているのか」にアンテナを立てましょう。自分の話したいトピックは短めにして、聴衆の求めている内容へとシフトします。
逆に、自分の想定以上に聴衆の反応がいいようであれば、その話題を厚く話すという機転も必要でしょう。
要するに、プレゼンテーションは一方通行の朗読ではなく、聴衆との真剣な対話であるということ。自分が伝えたいことがあるときにだけ、聴衆の時間をいただく。聴衆の受信の度合いによって、自分からの送信量を調整する。プレゼンテーションは対話であり、キャッチボールなのです。
聴衆の反応を見ながら柔軟にプレゼンテーション内容を変えるのは、最初のうちは難しいかもしれません。ですが、何度も経験を重ねるうちに、相手の表情を見る余裕が生まれ、当意即妙なアレンジができるようになります。その場、その場での対応ができるよう引き出しの数を増やすとともに、一つひとつの引き出しをより大きく、深いものにしていきましょう。
ポイントは、各ページ(スライド)で確実に伝えたいポイントを最大3つに絞り、スライドに入りきらない行間を口頭で話すこと。あくまでメモや台本は作らず、聞き手の反応を見ながら話すことを大切にしてください。
■返信が24時間以内に来なかったら黄色信号
手紙から電話へ、電話からメールへ、メールからチャットへ。コミュニケーションツールはどんどん進化しています。それと同時に、コミュニケーションのスピードもどんどん速くなっています。
私が外資系企業のトップだったときには、常に部下にこのように話していました。
「社内外問わず、欧米人からのメールの返信が24時間以内に来なかったら黄色信号だ。あなたが送ったメールの内容がおかしいのか、もしくは都合の悪いことがあって返信を引き延ばそうとしているかのどちらかである」
これは今や、日本でも通用することではないでしょうか。
24時間以内に相手からリアクションがなければ黄色信号として、すぐに電話をかけるべきでしょう。電話で話して「何かがおかしいぞ」と感じたのであれば、すぐにFace to Faceのコミュニケーションに移行し、相手の真意を確認する。それくらいのスピード感で動いてほしいのです。
受け手の立場でも同じです。メールであれチャットであれ、最初の返信はどんなに遅くても24時間以内に行いましょう。もう少し時間が必要なのであれば、「明日の朝10時までに確認して返信いたします」などと返すこと。そうでないと、相手のことをヤキモキさせてしまいます。
![パソコンの上に置かれたメールのアイコンが描かれたブロック](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/f/1200wm/img_8f99f65d8c72a6cc8ef34063a57fa914101947.jpg)
■メールでわかりやすい文章を書く5つのコツ
スピード感のあるやり取りを行ううえで必要なのは、簡潔に文章を書くこと。メッセージの意味を把握するまでに時間がかかる文章を書いているようでは、一人前の社会人とはいえません。
メールやチャットにおいて、わかりやすい文章を書くコツは5つです。
(2)最も伝えたいポイントを冒頭に置くこと
(3)主語、結論、理由の3点を明記すること
(4)改行や空行を追加し、パッと見てわかりやすいレイアウトにすること
(5)送信する前に誤字や脱字がないか確認すること
要するに、相手の立場に立って文章を組み立てることが大切なのです。文章を書くときに限らず、相手を思いやり、相手の負担を減らそうとする努力ができる人が、ビジネスの世界では成功します。上司や顧客、取引先が相手のときのみならず、部下に対するメッセージでも同様に、相手への思いやりを忘れないようにしてください。
■ティム・クックからの「ゾッとする」メール
リーダーに逃げ道はありません。自分が大きな失敗をしたら責任を取るのは当たり前ですし、部下のミスの責任を取るケースもあるでしょう。時には自分の何気ない発言や意思決定に足元をすくわれることもあります。だからリーダーには、常に緊張感が必要です。
私も外資系企業の社長だった時代は、いつも危険に身を晒していたような気がします。ひとつエピソードを紹介しましょう。
海外拠点から送られてくるメールで一番ヒヤッとするのは、他の人からのメールを無言で(送信者からのメッセージなしに)転送してくるケースです。転送メールに、ご丁寧にも「?」マークだけをつけて転送してくるものもあります。いずれも、送信者が怒っているか、少なくとも大きな疑問を持っています。
アップル・ジャパン時代のある日、私はこんな経験をしたことがあります。
あるアメリカ人の旅行客がスティーブ・ジョブズにメールをしました。
「スティーブ、日本ではiTunesカードをコンビニエンスストアで販売しているのか。アップルのファンとしてがっかりしたよ」
スティーブはこのメールを、アップルの最高経営責任者、ティム・クックに無言で転送。ティム・クックがそのメールに「?」をつけて私に送ってきたのです。想像しただけでゾッとしませんか。
■スティーブ・ジョブズを納得させたメール対応
ご存じの通り、日本のコンビニエンスストアはとても清潔で、スタイリッシュです。ブランドを大切にするアップルの製品とはいえ、日本のコンビニで販売されていることに違和感はないでしょう。実際、私はコンビニエンスストアに頭を下げて売り場を作っていただいていましたし、販売実績もすばらしいものでした。
![山元賢治『世界の先人たちに学ぶ 次世代リーダー脳』(日刊現代)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/f/1200wm/img_9ff8801ed3093e1396f72ba20cacf21271144.jpg)
ただ、アメリカと日本では文化や価値観が異なります。スティーブとクックが「コンビニ=アップル製品を販売するのに似つかわしくない場所」と思っているのも仕方のないこと。なんとか事情を理解してもらわなければなりません。
私は考えた末、「コンビニはディズニーランドの次に訪れたくなる、日本の美しいスポットだ」と書かれた記事を彼らに送ることで事なきを得ました。あのときの対応がまずければ、私はアップルを追われることになっていたかもしれません。
ビジネスは自分の努力だけで進められるものではありません。うまくいかないこともたくさんあるでしょう。でも、そんなときにオドオドしているようではリーダー失格です。いつでも崖っぷちにいるような覚悟で、全力で仕事をする勇気を持ってください。
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アップル・ジャパン元社長、コミュニカCTO兼Founder
1959年生まれ。神戸大学卒業後、日本IBMに入社。日本オラクル、ケイデンスを経て、EMCジャパン副社長。2002年、日本オラクルへ復帰。専務として営業・マーケティング・開発にわたる総勢1600人の責任者となる。2004年にスティーブ・ジョブズに指名され、アップル・ジャパンの代表取締役社長に就任。現在は株式会社コミュニカのCTO兼Founderとして自らの経験をもとに、これからの世界で活躍できるリーダーの育成、英語教育に力を注いでいる。著書に、『ハイタッチ』『外資で結果を出せる人 出せない人』(共に日本経済新聞出版社)、『「これからの世界」で働く君たちへ』(ダイヤモンド社)、『情熱を注いで、働く』(大和書房)などがある。
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(アップル・ジャパン元社長、コミュニカCTO兼Founder 山元 賢治)
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