1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

高級旅館より駅前ビジネスホテルのほうが落ち着く…外国人観光客が、いま本当に求めている「サービス」3つ

プレジデントオンライン / 2023年9月6日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/izusek

日本を訪れる外国人旅行者は何を求めているのか。金融アナリストの高橋克英さんは「日本流のおもてなしを求めて来日するわけではない。おもてなしに力を入れるよりも、英語対応、キャッシュレス化、ネット環境の整備をしたほうがいい」という――。

■魅力として挙げられる「おもてなし」

インバウンド(訪日外国人観光客)が戻ってきた。日本政府観光局(JNTO)によると、2023年7月は232万600人と、コロナ禍前(2019年7月299万人)と比べ、77.6%の水準にまで回復している。8月には、いよいよ中国人団体旅行客の訪日が解禁された。中国による日本産水産物禁輸の影響には注視する必要があるものの、早ければ今年中にもコロナ前のインバウンド水準を超すような勢いだ。

インバウンドの増加により、宿泊施設に商業施設や飲食店などは好調だ。こうした宿泊費や飲食費の消費に加え、東京やニセコなどへの不動産投資により、地域の雇用や税収といった形でプラスの恩恵をもたらしている。

一方で、旅館やホテルでの人出不足の問題や、鎌倉や京都、富士山などへの観光客の殺到は、連日テレビや新聞で取り上げられ、オーバーツーリズムへの対応策は喫緊の課題となっているのも事実だ。

世界的に海外旅行需要が急速に回復しているなかで、相変わらず、日本の人気は高い。京都など定番の観光地や自然に加え、日本食、アニメのキャラクター、円安で割安になっている買い物需要などが挙げられるなか、日本流の「おもてなし」もインバウンドを惹きつける魅力として挙げられることが多い。高級旅館や百貨店からコンビニエンスストアに至るまで、笑顔にあふれ懇切丁寧な接客や、街ゆく人々のやさしさや親切さが評価されているという。

東京・浅草や京都でテレビ番組のインタビューやアンケートで聞かれれば、外国人観光客は、判で押したように「おもてなしに溢れている」「皆やさしくていい、すごい」と答える。

■日本流「おもてなし」がなくても支障はない

東京オリンピック誘致の際には、流行語となった「おもてなし」という言葉、我々日本人の多くは、日本がおもてなしの国だと考えているが、本当にそうなのだろうか。

世界60カ国以上を訪問し、国内外の観光地・リゾートに滞在した経験があり、また、海外旅行経験が豊富な国内外の富裕層と接してきた筆者としては、日本流のおもてなしは、日本人の自己評価が高く、特にインバウンドの増加にはあまり影響がないのではと考えている。

そもそも他国には、日本流「おもてなし」文化がないので、それがなくても支障もなく平気なのだ。例えば、笑顔がないぶっきらぼうな対応には慣れっこであり、それが日常でもある。むしろ、ニコニコしていると好意があると勘違いされたり、「油断あり」と見られて盗難など犯罪に巻き込まれたりする場合もあるため、常に周囲を警戒した険しい表情と態度だったりするのだ。欧米に限らず、アジアでも同じだ。微笑みの国タイは、あくまでもイメージ。皆が常にニコニコしているわけでは全くなかったりする。

■フランスのディズニーキャストは「全員笑顔」ではない

さすがに夢の国の本場、アメリカ・カリフォルニアのディズニーランドではそんなことはないが、フランス・パリ郊外のディズニーランド・パリでは、チケット売り場のやり取りはぶっきらぼうで、園内の一部キャストにはスマイルがなかったりする。

高級旅館や百貨店などとともに日本流おもてなしの最高峰とされるANAやJALといった日本の航空会社には目もくれず、日米路線でも、好んで米系航空会社などを選ぶ外国人ビジネスマンだけでなく、インバウンドも多い。英語がより通じる、母国のフラッグシップキャリアだからといった理由はありそうだが、日本人にとっては、どうみても日系エアラインの方が、おもてなしがあり、丁寧で快適で清潔なのにである。

■「おもてなし」を求めて来日しているのではない

インバウンドの多くにとっては、我々がそうであるように、世界遺産など有名観光地や自然、現地の食事、買い物などが旅行の目的となる。無論、治安など安全性が担保されていることが大前提であり、その上で、一部の富裕層を除けば、航空券や滞在費など、かかる費用も当然、決定要因になる。

いずれにせよ、後押しになることはあれど、「おもてなし」を求めてインバウンドが来日しているわけではない。そもそも日本流「おもてなし」は日常になく、むしろ、自国と同じような接客サービスや応対、または、いわゆるグローバル・スタンダードなサービスを求めている場合もある。

旅館の中居さんがあいさつしている
写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

■外資系ブランドホテルの安心感

国内でもインバウンドに人気なのは、ヒルトンやシェラトン、マリオットといった外資系ホテルだ。実際、インバウンド需要と呼応する形で、日本全国、外資系ブランドのホテルは進出ラッシュが続いている。インバウンドが日本のサービスではなく、グローバル・スタンダードなサービスを求めているからではないだろうか。

日本には、帝国ホテル、ホテルオークラ、ホテルニューオータニを筆頭に、プリンスホテルや星野リゾートのホテルなどがある。箱根町の富士屋ホテル、長野県の上高地帝国ホテル、三重県の志摩観光ホテルといった日本を代表するクラッシック・ホテルも評価され、旅館や古民家を好むインバウンドが増えているのも確かであるが、普段使いなれた外資系ブランドホテルの安心感が勝るケースも多いのだ。

リッツカールトンやパークハイアットの安定感、安心感、ヒルトンやシェラトンの世界中どこにいっても変わらないサービスへのロイヤリティは高いものがある。そもそも観光や食事がメインで、休息する場でもある宿泊施設にまで、日本流「おもてなし」を求めていなかったりするのだ。

ホテルのモダンな客室に置かれたスーツケース
写真=iStock.com/Ziga Plahutar
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ziga Plahutar

■高級旅館より駅前ビジネスホテル

筆者にも苦い経験がある。海外から大切なお客様をお迎えし、東京と松山での商談後、良かれと思い、道後温泉のある露天風呂が有名な高級旅館を案内したことがある。ところが、くだんのお客様は、備え付けの浴衣に慣れず、豪華な日本食料理にはほとんど手を付けず、なんと露天風呂にも入ることなく、部屋のシャワーを浴び、ルームサービスを部屋で食べ直して、寝たという。彼らにとって、着慣れない浴衣、普段とは違う食事、シャワーではなく露天風呂という道後温泉の高級旅館での滞在よりも、普段使い慣れているであろう松山市内のグランドホテルやビジネスホテルのほうが、よかったのだ。

本件は、筆者の事前ヒアリング不足もあり、たまたまだったかもしれないが、我々日本人が良かれと思ったサービスや言動が、インバウンドにとっては押し売りになっているケースがあるのかもしれない。

■プラスアルファとしての日本流「おもてなし」

インバウンドは、日本流「おもてなし」を求めて来日しているわけではない。日本にわざわざ来ているのだから「日本のおもてなし」を求めているはず……というのは思い込みなのかもしれない。

一方で、海外富裕層向けの「おもてなし」は、海外ホテルのコンシェルジュなどと比べると、もっと改善の余地がありそうだ。

当たり前だが、高いホテルに高い料理に高いサービスに、特別なオプショナルツアーを用意すればいいという単純なものではない。海外の富裕層は、値段ではなく、人と違う場所やサービスを求めたり、多忙な日常から離れ、ただゆったり家族やパートナーと滞在することを求めたりする場合も多い。日本人のような弾丸旅行や詰め込み過ぎのスケジュールを好まないこともある。必ずしも日本流のおもてなしを求めている訳ではなく、受け入れる我々日本人側の自己満足だったりする場合もあるので、注意が必要だ。

無論、笑顔での対応や丁寧な言葉は、万国共通で温かく心地よいものだ。インバウンドへの対応は、彼らが慣れているグローバル・スタンダードなサービスが基本であり、プラスアルファとしての日本流「おもてなし」サービスを加えていくという形が理想なのかもしれない。

仲見世から見える浅草寺
写真=iStock.com/AsianDream
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AsianDream

■日本が評価されている「3つのポイント」

①治安のよさ

インバウンドが日本に滞在して評価するポイントは、①治安のよさ、②清潔さ、③公共交通の3点が多いという。

特に、最も高い評価ポイントは、やはり日本の治安のよさではないだろうか、ロシアによるウクライナ侵略や、日本人ビジネスマンの中国での拘束など昨今の地政学リスクの高まりのなか、「夜遅くても1人で歩ける」し、「財布を無くしても交番に届けられ戻ってきた」など日本の治安の良さは、海外でも変わらず高く評価されている。いつの時代も安全か否かは、旅行先を決める際の最も重要な決定項目でもある。

もっとも、日本においても特殊詐欺グループによる強盗など、治安悪化を懸念する声に加え、京都・清水寺での盗撮犯罪、関西国際空港行き電車内でのスーツケースの盗難事件など、インバウンドを狙った犯罪行為が増えてきており、官民が連携した対策が必要になってきてはいる。

②清潔さ・③公共交通の利便性

また、②清潔さを挙げる声も多い。多くの道路や街並みはきれいであり、ゴミのポイ捨ても少ないという。意外なところでは、公共施設などでのトイレのきれいさだ。海外では、先進国においても、どう使ったらこうなるのか、しばらくトラウマになるほど、酷いトイレに遭遇したりする。

それから電車やバスなど③公共交通の発達と便利さを挙げる声も多い。最近は、事故や自然災害により、新幹線を含め遅延が多くなる傾向にあるが、電車やバスが時刻表通りに到着するなど、その正確性と利便性への評価も多く聞かれる。

■インバウンドが求める3つの改善点

逆に、インバウンドが求める改善点は何だろうか。こちらもここ数年不動であるが、

①英語、②キャッシュレス、③ネット環境が挙げられる。

①英語に関しては、英語対応の案内板やアナウンスの不足だ。地方などでは特に、英語が通じず困るケースが多いという。また、英語だけでなく、韓国語や中国語などを含む多言語への対応も求められている。

②キャッシュレスにおいては、現金のみの取り扱いも多く、例えば、小売店やバスや電車など公共交通を利用する際に、クレジットカードや電子決済のタッチ決済が使えないことが挙げられる。なお、スピード感はともかく、普及率は改善してきてはいる。

言葉やお金以上に、最も致命的なのが③ネット環境だろう。今や旅行の必須アイテムとなったスマホ。空港到着と同時に、追加料金や別プランなしにそのまま自国と同様に携帯電話やネットサービスが使えるスマホも増えているものの、旅先で、通話もできない、検索も予約も翻訳もできないなど、普段スマホやネットでの生活にどっぷり浸かっている人ほど、その落差と不満は大きい。

さすがに日本においても、多くの宿泊施設や公共施設での無料Wi-Fiが利用できるようになったものの、いちいちパスワードや登録が必要だったり、接続が悪かったりする。

また、コロナ禍下の需要低迷やコストの観点から、公共施設や提携場所での無料Wi-Fiを廃止したケースも散見されており、まだまだ問題は解決しそうにない。

公共の無料Wi-Fiステーション
写真=iStock.com/bluesky85
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bluesky85

■実は「困っていない旅行者」も多い

参考までに、コロナ禍前になるが、2019年に観光庁が行ったアンケート調査では、訪日旅行中全体を通して「困ったことはなかった」という回答の割合が過去最高の38.6%となり、継続調査している各項目の全てにおいても「困った」の割合が減少している。

個別項目では、従前から困った割合が高かった「施設等のスタッフとのコミュニケーション」は前年比3.6%減、「無料公衆無線LAN環境」は同7.7%減となったほか、新たに調査項目に追加され「ゴミ箱の少なさ」が、23.4%と旅行中困ったことの第1位となっている。

※観光庁「訪日外国人旅行者の「困った」が減少!一方、地方部の受入環境には課題も~受入環境整備の促進に向けて、訪日外国人旅行者を対象に、訪問地ごとの状況についてアンケート調査を実施~」2020年3月19日

■インフラ整備こそ「おもてなし」の第一歩

我々ホストである日本、日本人がなすべきことは、観光に関わるインフラの整備や景観や投資に関わるルールの制定など交通整理に徹することではないだろうか。

管理されたり指示されたりすることに慣れた日本人とは違い、大多数のインバウンドの母国は、自由の国であったり、個人主義の国であったりする。

彼らが何をするのか、手取り足取り世話をするのが「おもてなし」ではない。インフラ・環境整備だけ整え、あとは、ご自由にご覧ください、というのが、彼ら彼女らが求める姿ではないだろうか。

インフラ整備とは、英語表記を増やす、ネット環境の改善、キャッシュレス化の推進であり、グローバル・スタンダードなホテルやレストランを整えることなども含まれるのかもしれない。日本入国に際して99%以上のインバウンドが利用する空港でのスムーズな出入国や空港までのアクセス整備も非常に重要な要素のはずだ。これは、インバウンドのためではなく、我々日本人の快適な日々の生活のためにも、変えていくべき部分でもある。

いかにインバウンドへの対応を通じて観光立国としての日本を発展させるか、また地方の活性化に寄与させることで、日本国内の雇用や税収を増やし、我々日本人がより豊かになる、ということが本来の目的であるはずだ。

----------

高橋 克英(たかはし・かつひで)
株式会社マリブジャパン 代表取締役
金融アナリスト、事業構想大学院大学 客員教授。三菱銀行、シティグループ証券、シティバンク等にて銀行クレジットアナリスト、富裕層向け資産運用アドバイザー等で活躍。2013年に金融コンサルティング会社マリブジャパンを設立。世界60カ国以上を訪問。バハマ、モルディブ、パラオ、マリブ、ロスカボス、ドバイ、ハワイ、ニセコ、京都、沖縄など国内外リゾート地にも詳しい。映画「スター・ウォーズ」の著名コレクターでもある。1993年慶應義塾大学経済学部卒。2000年青山学院大学大学院 国際政治経済学研究科経済学修士。日本金融学会員。著書に『銀行ゼロ時代』(朝日新聞出版)、『いまさら始める?個人不動産投資』(きんざい)、『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』(講談社)、『地銀消滅』(平凡社)など多数。

----------

(株式会社マリブジャパン 代表取締役 高橋 克英)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください