仕事帰りに買い物までして夕飯づくり…夫へのイライラが限界に達した脳科学者がつくった家族ルール
プレジデントオンライン / 2023年9月6日 11時15分
※本稿は、黒川伊保子『夫婦の壁』(小学館新書)の一部を再編集したものです。
■子どもが巣立った後、夫との言い争いが絶えない
回答:同じ価値観を共有できるだなんて、夢にも思わないこと
夫の言動に腹が立つことって本当に多いですよね。向こうも実は、同じだけ妻の言動に戸惑っています。なんと、それこそが「夫婦の本質」なんです。
生物はすべからく、自分にない特性の持ち主と子孫を残そうとします。子孫の「免疫」」にバリエーションができるからです。このため、感性が正反対の相手に惚れてしまうわけ。
おしゃべりな人が寡黙な人に惹かれたり、せっかちがおっとりに惹かれたり、大雑把な人が繊細な人に惹かれたり。清廉潔白な人ほど、悪意も棘もある人に惹かれたりね。そんな真逆の相手に、ほんのわずかな共通点があったとき、人は心震えるわけ。
■恋人時代は99%合わなくても1つ合うところを見つけられるが…
恋人時代は、100%のうちほとんどが合わない相手に1つ合うところを見つけるから、それをダイヤモンドのように感じます。この人ってよくわからなくてミステリアスだけど、「チャウチャウ犬が好きなのね! 私と一緒だわ!」なんてことがあると、「運命の人」だと思ってしまうものなんです。
行動も好みも一緒な相手だと、そこまでの感動はなし! 人間は価値観や考え方が違うのに、ほんの少し同じところがあるとわかって感動するから恋をするわけなんですね。ところが、夫婦になると合わない99%のほうが気になり出します。
夫婦は「とっさの脳神経回路の使い方」がまったく違うので、行動がすれ違います。正解や正義が違います。このため、お互いに「自分が正しくて、相手が間違ってる」と思うことがほとんどです。
■相手も「絶対、私が正しい」と思っている
あなたが「絶対、私が正しい」と思っているように、相手もそう思っている。たとえば不安を感じたときに、「周囲が見渡せる、広い場所にいるほうが安心」と感じる脳と、「狭い場所に身を潜めたほうが安心」と感じる脳の持ち主は、いくら話し合ったって結輪は出ません。どちらにも一理あり、どちらも、相手が安心な場所が不安でしょうがないんだから。
たとえば、机に座って、ノートに文字を書くとき、ノートを斜めにしたほうが書きやすい人と、まっすぐにしたほうが書きやすい人がいます。実はこれは、生まれつきの骨の動かし方の違いからくる癖で、人類はほぼ半々なのです。私は、大きく斜めにして書くタイプで、まっすぐ派の夫にしてみたらだらしなく見えるらしいのですが、ノートをまっすぐにすると、文字がまっすぐに書けません。こういう、本能的な感覚は、どっちが正しいとはけっして言えない、個人的な問題なのです。
しかも、夫婦は、こういう本能的な感覚が真逆の相手に惚れているので、ありとあらゆることに折り合いがつかないのです。食べやすいスプーンのかたちが違い、使いやすいトイレブラシのかたちも違う。「正解がどっち」とは言えない問題が、生活の中に山ほどあります。なのに、なぜか、多くの夫婦が、互いに自分の正義を言い募ります。「スプーンはこういうかたちがいいに決まってる」みたいにね。
我が家は、互いに骨のタイプが違うことを知っているので、こういう争いは一切ありません。「僕は、これが使いやすいんだけど、きみはどう?」という口の利き方になるから。
まずは、夫婦は、まったく逆の答と正義を持っている者同士だと、腹を決めてしまうこと。
そこからでないと、安寧なコミュニケーションは生まれません。
![ノートに書く接写](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/c/1200wm/img_5c903337fcf68dd1f08b74f44fd04585576452.jpg)
■夫婦で「なんとなく」「一緒に」は不可能
担当リーダーを決めて、その判断に任せる。これは、我が家でも実践しています。夫が定年退職してから、夫が洗濯リーダーです。洗剤や漂白剤も、ピンチングハンガーも、すべて夫のチョイスに変わりました。
「係」ではなく「リーダー」と呼ぶ理由は、「係」だと「やるべきことを遂行する人」で「リーダーはやるべきことを決めて、中心となって遂行する人」だからです。洗濯リーダーは、洗濯のやり方もタイミングも、自分で決められます。「シーツ、洗っといて」に、「今日はしないよ。大物は休みの日だから」も可。私は自分のワンピースを自分で洗いたいときにも、「洗濯機使ってもいい?」とお伺いを立てます。今朝は、出かける夫に、「洗濯しといて」と言われて、「は~い」と気持ちよく返事してあげました。リーダーは、命令してもいいのです。責任者を決めて、責任者の指示に従う。
「なんとなく」で押しつけ合わないで、責任者(リーダー)と係を決める。それが、家族円満の最大のコツです。
■家の動線を考えてイライラを減らす
夫の言動に腹が立つ理由が、生活動線で解消されることもあります。
私は、住宅メーカーで、妻がイライラしない家を開発しています。その家は、玄関に、リビングに向かう動線の他に、大容量のウォークスルー(通り抜け)クローゼットを配置しました。クローゼットを通り抜けた先には、洗面所があり、そこからリビングに出られます。
家族は帰宅したら、まずはそのクローゼットに入り、カバンを置いて、コートやスーツを脱ぎ、洗ってほしいものを持って洗面所に行き、脱衣カゴに服を入れ、手を洗ってリビングに入るという動線を作ったんです。
そのおかげで、リビングにコートや靴下を脱ぎっぱなしにしたり、カバンを置きっぱなしにするということが起こらなくなります。ショールームでご覧になったお客様の評判もとても高く、業界でも噂になりました。
建て替えるまでのことをしなくても、家の動線を考えてみるのも1つの方法ですよ。イライラすることは、まずはシステムを作って減らしましょう。
![白い空の楽屋棚付き](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/9/1200wm/img_89a358b191d415adc9d45862fa44d4a11312859.jpg)
■仕事帰りに買い物して夕飯づくりの日々がストレスに
夫の腹立たしい言動を、あらかじめルールにして防ぐ、という手もあります。私の場合、イライラするポイントは、私が買い物から帰ったときに夫が迎えに出てこないことでした。共働きだと、バッグにパソコンが入ったアタッシュケースと買い物袋2つを持ち、さらにはトイレットペーパーを指に引っ掛けて帰ってくるなんてこともざら。仕事帰りに買い物までしてクタクタなのに、そこから座りもせずに夕飯の準備をしないといけません。それなのに、先に帰っていた夫が「おかえり~」と言いながらテレビなんか見ていたら私はすごく腹が立つ。
たくさんの荷物を持っていても帰ってくる途中には、「こんなことなら家族なんて持たなければよかった」なんてまったく思わないのに、誰も迎えに出てこずに部屋でのうのうとしている家族を見ると、「この人たちのためにどうして私はこんなに大変な思いをしているの!」と思うことがあって、これは危険だなと感じました。こんなことが続いたら、そのうち離婚したいと思うだろうなと。
■離婚回避のために夫にお願いしたこと
そこで、「私が帰ったらとにかく荷物を受け取りに来ること」を、夫にお願いしてルールにしました。私が帰ってきて「ただいま」というと、夫はすぐに玄関まで飛んできてくれます。その姿を見ると、「この家族のために買い物して帰ってきてよかった」と思う。
そうしてみて、改めてこれが私の家族愛ポイントだとわかりました。初めはルールにしても、そのうち自然にやってくれるようになって、そうすると愛おしく感じるものですよ。
ぜひ、自分がイラッとするポイントを探してみてください。そのポイントは、自分が思っている1つ前にあることも多いんです。
![黒川伊保子『夫婦の壁』(小学館新書)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/9/1200wm/img_798778255607283315d3907928ab1a9a264694.jpg)
家に帰って部屋に入ったら脱ぎ捨てたものや飲みかけのコップが置いてあって、のうのうとしている夫の姿を見れば「この人がだらしないから腹が立つ!」と思ったりするけれど、実はイラッとしているポイントは、1つ前の玄関に出迎えてくれず、自分を思いやってくれないことに傷ついているからだったりします。自分が何にイラッとしているのかを分析して、そのポイントを見つけて、夫がやってくれないと困るもの、または夫がやってくれると夫のポイントが上がることはルールにしてみて。
ルールにするときは、「それが正しいから」「そうするべきだから」「そうしないと腹が立つから」なんて言い方をせずに、「そうしてくれると嬉しいわ」とポジティブな言い方でお願いしてくださいね。そのほうが相手も気持ちいいはず。
イライラすることは、システム化やルール化することで解消し、幸せのポイントを貯めていくこと。感性の真逆な男女=夫婦は、そうでもしないとつらいばかりになってしまいます。
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脳科学・AI研究者
1959年、長野県生まれ。人工知能研究者、脳科学コメンテイター、感性アナリスト、随筆家。奈良女子大学理学部物理学科卒業。コンピュータメーカーでAI(人工知能)開発に携わり、脳とことばの研究を始める。1991年に全国の原子力発電所で稼働した、“世界初”と言われた日本語対話型コンピュータを開発。また、AI分析の手法を用いて、世界初の語感分析法である「サブリミナル・インプレッション導出法」を開発し、マーケティングの世界に新境地を開拓した感性分析の第一人者。近著に『共感障害』(新潮社)、『人間のトリセツ~人工知能への手紙』(ちくま新書)、『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』(講談社)など多数。
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(脳科学・AI研究者 黒川 伊保子)
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