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なぜウクライナはEUに加盟できないのか…ロシアとの関係だけではない「汚職まみれ」という厳しい実態

プレジデントオンライン / 2023年9月11日 9時15分

高価なSUVを複数台所有していると非難されていた(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/tomeng

ウクライナはなぜEUに加盟できないのか。国際政治学者の舛添要一さんは「ウクライナはロシアと同様に賄賂なしでは事が進まない。汚職を追放しなければEUに加盟できないため、ゼレンスキー大統領は汚職撲滅に躍起になっている」という――。

※本稿は、舛添要一『プーチンの復讐と第三次世界大戦序曲』(集英社インターナショナル)の一部を再編集したものです。

■戦争の最中にも汚職がはびこる

1月21日、ウクライナのインフラ省のヴァシル・ロジンスキー副大臣が罷免(ひめん)された。

発電や暖房関連の設備調達に関して、契約額をつり上げ、業者を潤した見返りに、35万ドル(約4600万円)超の賄賂(わいろ)を受け取ったという。

また、1月24日、ウクライナでは多数の政府高官が解任された。贈収賄などの汚職が原因である。

ロシアとの戦争の最中に汚職がはびこるということは、常識では考えられないことである。ウクライナ国民が苦難に耐えて一致団結して抗戦しているという「美しい神話」が世界中に流されていただけに、驚きを以てこのニュースを受け止めた人が殆どだろう。

■ウクライナでは汚職は日常茶飯事

しかし、実はウクライナでは汚職は日常茶飯事なのである。

解任された高官をリストアップする。

まずは、大統領府のキリロ・ティモシェンコ副長官である。彼は高価なスポーツ用多目的車(SUV)を複数台所有していると非難されていた。これらの車はアメリカの自動車メーカーが住民避難用に提供したものである。

次に、ヴャチェスラフ・シャポヴァロフ国防副大臣は、軍用食料品を小売価格よりも高値で調達していたという。無名の食品会社だっただけに、贈賄が疑われている。

なお、オレクシイ・レズニコフ国防相も同じことを疑われている。

オレクシイ・シモネンコ副検事総長も解任された。正月にスペインで10日間の休暇を家族とともに過ごしていたという。成人男性の出国が厳しく制限される中での出来事である。

■休暇をドバイで過ごしたティモシェンコ元首相

1月27日に、『ウクラインスカ・プラウダ』紙は、ティモシェンコ元首相が、新年休暇をドバイで過ごしたと報じた。五つ星の最高級ホテルに滞在中の写真も掲載された。

※写真はイメージです
写真=iStock.com/dblight
ティモシェンコ元首相が新年休暇をドバイで過ごしたと報じた(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/dblight

彼女は、野党「祖国」の党首であり、最高会議(国会)の議員であるが、2022年の新年休暇もドバイで過ごしている。

ゼレンスキーの与党「国民の僕(しもべ)」も同じ穴の狢(むじな)で、所属議員がタイに外遊する計画を立てていたことが発覚している。

その他にも、地域開発・領土副大臣のイワン・ルケリヤとヴャチェスラフ・ネゴダ、ヴィタリー・ムジチェンコ社会政策担当副大臣、さらにはドニプロペトロウシク、ザポリージャ、キーウ、スーミ、ヘルソンの5州の知事が解任されている。

■ウクライナ、ロシアともに汚職が当たり前の政治風土

Transparency Internationalの調査による腐敗認識指数世界ランキング(2021年)を見ると、全対象国180カ国中、最もクリーンな1位はニュージーランド、2位がフィンランド、3位がデンマークとなっている。

日本は18位である。ドイツが10位、イギリスが11位、カナダが13位、フランスは22位、アメリカは27位、イタリアが42位である。

最下位の180位は南スーダンで、ウクライナは122位、ロシアは136位。いずれも汚職が当たり前の政治風土となっている。

共産主義体制の下では、「万民が平等」という謳(うた)い文句とは正反対に、権力者に富が集中し、生き残るためには、上から下まで賄賂を使うのが日常茶飯事となっていた。

ロシア人もウクライナ人もそのような社会の中で生きてきたのであり、それはソ連邦が解体した後も全く変わっていない。

■富が一部のオリガルヒに集中

ソ連邦崩壊の過程で、ロシアと同様に、ウクライナでも国営企業が民営化され、富が一部のオリガルヒに集中する状況になった。

たとえば、ドネツクの大富豪リナト・アフメトフはウクライナで一番の富豪で、マリウポリのアゾフスタリ製鉄所などを所有し、2022年1月時点で137億ドル(約1兆8700億円)の資産を保有していた。

親米派のオリガルヒのイーホル・コロモイスキー、「チョコレート王」のペトロ・ポロシェンコ前大統領も有名である。

また、「ガスの女王」と呼ばれ、政界に進出してオレンジ革命(2004年)のジャンヌ・ダルクと讃えられ、首相にもなったユーリヤ・ティモシェンコは、天然ガス部門のオリガルヒである。

先述した彼女のドバイでの新年休暇も、戦争で国民が塗炭(とたん)の苦しみの中にある状況で、オリガルヒがいかに裕福であるかを示すエピソードでもある。

また、2014年のマイダン革命でロシアに亡命したヴィクトル・ヤヌコーヴィチ元大統領は、自ら財閥を形成し、巨額の富を着服していたことが判明している。

■賄賂なしには事が進まない

オリガルヒのみならず、官僚機構を含むあらゆる社会システムに汚職がつきまとっており、賄賂なしには事が進まないソ連時代の悪弊(あくへい)がまだ続いている。

賄賂なしには事が進まない(※写真はイメージです)
写真=iStock.com/Rawpixel
賄賂なしには事が進まない(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Rawpixel

それが経済を低迷させ、ウクライナをヨーロッパで最も貧しい国の一つにしたのである。

そして、ウクライナ戦争はオリガルヒの所有する資産を激減させており、たとえばアフメトフは、資産を開戦前の3分の1にまで減らしているという。

しかし、この戦争中でも汚職が止まないのである。

■ウクライナがEUに加盟できない理由

ウクライナのような汚職まみれの国は、EUに加盟することはできない。汚職の撲滅(ぼくめつ)が加盟の条件だからである。

ウクライナ戦争が、オリガルヒの弱体化のみならず、汚職構造の破壊までももたらすかどうかは、まだ分からない。

コメディアンだったゼレンスキーは、汚職と戦うために高校教師が大統領に昇りつめる成功物語のドラマ「国民の僕」の主人公を演じたが、2019年の大統領選で国民は実際に彼を大統領に選んだ。それほど政治の腐敗が酷(ひど)かったということである。

■ゼレンスキー政権下でも汚職が続いている

そのゼレンスキー政権下で、まだ汚職が続いていることが問題であるが、2月1日、当局はオリガルヒなど疑惑が囁(ささや)かれている人物の家宅捜査を行った。

まずは、合金鉄、石油製品、金融、マスメディアなどの分野で広範な事業を手がけるプリヴァト・グループの創立者、オリガルヒのイーホル・コロモイスキーである。

彼は、親米派であるだけに、ゼレンスキーの盟友であった。彼の所有するテレビ局が、ゼレンスキー主演のドラマ「国民の僕」を放映し、大統領への道を準備したのである。

2014年3月には、反露派のコロモイスキーはドニプロペトロウシク州の知事に任命されたが、プーチンは「稀代(きだい)の詐欺師」と呼んで彼を軽蔑(けいべつ)している。

家宅捜査の容疑について、ウクライナ保安局(SBU)は、彼が所有していた石油会社と石油精製会社で10億ドルを超える資金を横領する計画が発覚したことを明らかにしている。

次の人物は、アルセン・アワコフ元内相である。家宅捜査が入ったが、容疑の詳細な内容は不明である。6年前にエアバス社のヘリコプターをウクライナが購入したこととの絡(から)みだとされている。

ヘリコプターの購入に絡んだ汚職も(※写真はイメージです)
写真=iStock.com/Sproetniek
ヘリコプターの購入に絡んだ汚職も(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Sproetniek

1月18日にキーウでヘリコプターが墜落し、内相ら14人が死亡した事故調査の一環とされている。

■「使いものにならない防弾ベスト」で着服

さらに、政権幹部によると、税関の全管理職が解任され、国防省高官も疑惑の対象となっているという。

この国防省の調達担当責任者は、使いものにならない防弾ベストを購入して、調達費を着服したという。

また、税務当局のナンバー2も捜査対象であり、450億フリブナ(約1500億円)の脱税を見逃す見返りに、多額の現金、高級時計、車などの賄賂を受けたという。

ゼレンスキー政権が汚職の捜査に躍起(やっき)になったのは、2日後の2月3日にEUとの首脳会議が行われる予定だったからである。

ウクライナは、2022年6月にEU加盟候補の資格を得たが、EUからは汚職対策の強化を求められていた。

EU加盟の可能性について協議されても、汚職が蔓延(まんえん)している国はEUに加盟できないことになっており、今のウクライナは失格である。

そこで、ゼレンスキー政権としては、汚職追放に努力しているところを見せたかったのである。

■ウクライナ利権に絡むバイデン大統領の息子

オバマ政権のときにバイデンは副大統領であったが、息子のハンターとともにウクライナ利権に深く関わっていたのではないかと疑われている。

ハンターは、2014年にウクライナのガス企業ブリスマの幹部に就任したが、この企業は検察の捜査を回避するために裏金を使ったという不正疑惑が明らかになっている。

2020年9月、米議会上院は、この件について「利益相反の疑いがある」という報告書をまとめており、中間選挙後の下院は共和党が多数派となったので、この件が蒸し返される可能性がある。

■支援が賄賂に使われている

多数のウクライナ政府高官が汚職で更迭されたことは、西側からの支援にブレーキをかける可能性がある。

対ウクライナ支援の財源は、西側諸国の国民の血税である。ウクライナ戦争で光熱費や食料品価格など、諸物価が高騰し、国民は苦しい生活を強いられている。

それにも拘わらず、支援の裏側で、それが一部の者の私腹を肥やすために使われたとすれば、怒り心頭に発するのは当然である。「ウクライナ疲れ」どころの話ではない。

湯水の如く国民の税金をウクライナに注ぎ込んでも、その25%程度が賄賂に使われているとすれば、支援額を25%削減せよという要求が出てきても不思議ではない。

■所詮は「狐と狸の化かし合い」

侵略者ロシアが弾劾(だんがい)されるのは当然だが、「ウクライナが無謬(むびゅう)で100%善を体現している」などという幻想は捨てたほうがよい。

この国は、ロシアと並ぶ汚職、腐敗大国であることを再認識すべきである。

舛添要一『プーチンの復讐と第三次世界大戦序曲』(集英社インターナショナル)
舛添要一『プーチンの復讐と第三次世界大戦序曲』(集英社インターナショナル)

武器支援にしても、背後で贈収賄が行われている可能性がある。しかし、ウクライナの戦場を新兵器の実験場とし、巨万の富を得ているアメリカの軍需産業にとっては、ウクライナの汚職などはどうでもよい。

アメリカ兵は戦争に参加しておらず、一滴の血も流れない以上、バイデンも、ウクライナの腐敗など我関せずである。

ウクライナとロシア、それは「狐と狸の化かし合い」である。

ナイーブに狐(ウクライナ)の言うことのみを100%信じる愚は避けなければならない。

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舛添 要一(ますぞえ・よういち)
国際政治学者、前東京都知事
1948年、福岡県生まれ。71年、東京大学法学部政治学科卒業。パリ、ジュネーブ、ミュンヘンでヨーロッパ外交史を研究。東京大学教養学部政治学助教授を経て政界へ。2001年参議院議員(自民党)に初当選後、厚生労働大臣(安倍内閣、福田内閣、麻生内閣)、都知事を歴任。『ヒトラーの正体』『ムッソリーニの正体』『スターリンの正体』(すべて小学館新書)、『都知事失格』(小学館)など著書多数。

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(国際政治学者、前東京都知事 舛添 要一)

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