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プーマは「厚底シューズ勢力図」を塗り替えられるか…世界3位のメーカーに履き替える日本人選手が続出のワケ

プレジデントオンライン / 2023年9月3日 11時15分

プーマジャパン・萩尾孝平社長 - 写真提供=プーマジャパン

マラソンシーズンの始まる秋から冬は各シューズブランドが特に販促に力を入れる時期だ。ナイキに追いつき追い越せと他社は高性能の厚底シューズを繰り出す。そうした中、ランニング部門を2021年に立ち上げ、履き替える選手が続出している世界3位のメーカー社長にスポーツライターの酒井政人さんがインタビューした――。

■厚底シューズ戦争に世界3位が本格参入

今年正月の箱根駅伝、突如として現れたブランドがプーマだ。55年ぶりに出場した立教大の選手たちが同社のユニフォームを着用。プーマのシューズを履く選手が2年前は0人(前年1人)だったが、一気に7人に急増したのだ。

プーマといえばサッカーのイメージだが、近年はとみに9人組のグループNiziUやSnow Manとのコラボも注目されており、タウンユースとしての人気も上がっている。2022年度のスポーツメーカーとしての売り上げは世界3位。ナイキとアディダスを追いかけている。

そんな中、2021年からは「ランニング」に本格参入。グローバル全体でサッカー、ゴルフ、と並ぶ重点投資カテゴリーに位置づけている。

「プーマジャパンとして2022年は設立以来、過去最高のビジネスを叩き出すことができました。2023年も順調に来ています。グローバルの方は上半期の業績が2ケタ成長を遂げており、それを上回るかたちでプーマジャパンも成長しています」

そう話すのはプーマジャパンの萩尾孝平社長だ。「ランニングのプーマ」は今後、どんなビジネス戦略で臨んでいくのか。

■「アディゼロ」を作った男の挑戦

萩尾氏は以前、アディダスに在籍していた。その頃「日本人ランナーを速くする」というコンセプトのもと生まれた「アディゼロ」の開発に携わった人物としてランニング業界では知られている。

2008年には同モデルを履いたハイレ・ゲブレセラシエ(エチオピア)が人類で初めてマラソン2時間4分の壁を突破。その後もアディダスを履いた選手が世界記録を塗り替えた。しかし、2017年にナイキがカーボンプレート搭載の厚底モデルを本格投入すると、状況が一変。現在、ランニングは“厚底シューズ”の時代を迎えている。主要メーカーも薄底から完全にシフトした。

萩尾氏は2012年にプーマへ“移籍”して、ラボのある米国ボストンを拠点にランニングシューズを統括する立場になった。当時、ナイキ厚底シューズをどう見ていたのかと聞くと、「他ブランドの商品に関しては、お答えする立場にありませんので、回答は差し控えさせていただきます」と厳しい表情に。

捲土(けんど)重来の思いを強くしたに違ない萩尾氏が率いるプーマはランニングシューズで勝負するために水面下で開発を進めた。そして独自のフォームテクノロジーである「NITRO FOAM」を完成させる。超軽量かつクッション性と反発性が優れたシューズだ。

その後も改善を重ねて性能を高め、短距離スパイク用のソールにも使われている高反発特殊素材を配合した最新のフォームは87%という業界最高水準のエネルギーリターンとなった、と胸を張る。競合2社のシューズと比較した結果、ランニング効率が上回ることがわかった。2024年にはさらに改良されたフォームを登場させるプランだ。

■ブダペスト世界陸上でプーマが躍進した

先日のブダペスト世界陸上でプーマのロゴを目にした方は少なくないだろう。同社はオーストラリア、ボツワナ、ブラジル、キューバ、ジャマイカ、ノルウェー、ポルトガル、ウクライナなど16カ国にユニフォームを提供した。

男子400mハードルで世界記録を持つカールステン・ワーホルム(ノルウェー)、同棒高跳の世界記録保持者であるアルマンド・デュプランティス(スウェーデン)ら全328選手とも個別に契約中だ。契約選手は前述の「NITROTM FOAM」を搭載した陸上競技用スパイク(4モデル)を履いた。

プーマのスパイクシューズ
写真提供=プーマジャパン
プーマのスパイクシューズ - 写真提供=プーマジャパン

TBSが流すライブ中継ではプーマのCMも目を引いた。いまをときめくサッカー選手の三苫薫、それからサニブラウン・アブデル・ハキームらが登場。サニブラウンが男子100mで6位入賞を果たしたこともあり、インパクトは抜群だった。

「ブダペスト世界陸上が終わった後、プーマのランニングメッセージは間違いなく高くなっていると思います」(萩尾社長)

■国内での勝負は箱根駅伝!

大手海外メーカーのナイキ、アディダス、ニューバランス、国内老舗メーカーのアシックスとミズノ。それから近年はオン、ホカ、アンダーアーマーなどの新興勢力も台頭しており、国内のランニング市場は群雄割拠ともいえる時代を迎えている。そのなかでプーマはどう戦っていくのか。

「2021年、ランニング業界に本格参戦しましたが、当時はプーマにランニングシューズがあったの? 誰が履いているの? という状況だったと思います。そこから5~6年先を最初のゴールとして、逆算で取り組んできました。

最初のフェーズはランニングブランドとして認知してもらうためのイメージづくり。今年の箱根駅伝は7人の選手がプーマを履いていたたことで、注目度が上がりました。

次のフェーズは、いかにプーマのシューズを体験してもらえるのか。インストアでの試し履きは毎週、日本全国のどこかでやっており、年間5万人の方に足を入れてもらうのを目標にしています。これまではプーマの商品をしっかり理解していただいたスタッフのいる店舗でしか販売していませんでしたが、しっかりとベースを作り、2024年に拡大しいくという戦略を考えています」

プーマの最新シューズ「メンズ ディヴィエイト ニトロ エリート 2 ランニングシューズ」
写真提供=プーマジャパン
プーマの最新シューズ「メンズ ディヴィエイト ニトロ エリート 2 ランニングシューズ」 - 写真提供=プーマジャパン

国内マーケットを見据えたうえで、最重要視しているのが4カ月後に迫った正月の箱根駅伝だ。

「駅伝は日本独自の文化ですし、正月の長時間番組であれだけの視聴率があり、日本人が熱狂する。プーマの信頼性、本物感を伝えていくためにも、2024年の第100回大会で着用人数の大幅増を目指すべく取り組んでいます」

■箱根駅伝に出る大学生の“上下”を攻める戦略を展開

プーマジャパンは今夏、新潟・妙高に「PUMA RUNNING HOUSE MYOKO」を期間限定でオープンさせた。それも箱根駅伝での“シェア拡大”を見越してのプロジェクトだ。

2階建てペンションを大胆にリノベーションし、オシャレなカフェラウンジのような空間をつくった。水素吸入ができるカウンターバー、サウナ&水風呂、高気圧酸素ルームなどを置き、プーマの最新ランニングシューズの試し履きも可能だ。

プーマランニングハウス妙高
写真提供=プーマジャパン
プーマランニングハウス妙高 - 写真提供=プーマジャパン

一般開放はしていないが、事前に案内をしているチームの選手や指導者は無料で使用できる。近隣には駒澤大、青山学院大など駅伝強豪校が例年、夏合宿を実施している。現時点でプーマと接点のある大学は少ないが、他メーカーからプーマに履き替える選手が出てくる可能性はある。

ただ、箱根駅伝に出場している大学にはすでにスポーツメーカーがサプライヤー契約しており、その牙城を崩すのは簡単ではない。そこで、プーマは“上下”から攻める戦略を展開している。

「箱根駅伝を目指す大学生だけでなくて、その下の世代の高校生へのアプローチを強めています。例えば、福岡の強豪である大牟田高校はプーマのウエアを着用して、シューズも何人かに履いてもらっています。箱根を目指す選手にまずはプーマを経験してもらって、彼らが大学生になったときにプーマを着用するようなプラットフォームをしっかり作っていきたい。そんなストーリーを考えています」

プーマランニングハウス妙高
写真提供=プーマジャパン

順調にいけば、12月の全国高校駅伝ではプーマのロゴがたくさん見られるだろう。高校だけでなく、実業団チームへのアプローチも積極的だ。長くナイキを履いてきた設楽悠太と村山謙太は現在、プーマを着用。国内トップ選手の“履き替え”も成功させている。

「設楽選手が加入した西鉄もプーマのウエアを着用してレースに参加していただくことが決まっています。他にもプーマのウエアを着てニューイヤー駅伝を目指すチームがありますし、女子駅伝の超強豪チームも今冬はプーマを着用する予定です。箱根駅伝を目指す高校生世代、それから箱根駅伝の選手たちが憧れる実業団世代。上下から箱根駅伝をしっかり囲い込んでいくような取り組みをやっております。次のフェーズはブランド力をさらに高めていくこと。知っているブランドから、好きなブランドへ。すべてのレベルのランナーの『速くなりたい!』という願いをかなえたいと思っています」

今年、創設75周年を迎えたプーマ。萩尾社長のもとジャパンから世界の厚底シューズの勢力図を塗り変えていくことができるか、注目したい。

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酒井 政人(さかい・まさと)
スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)

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(スポーツライター 酒井 政人)

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