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食品添加物と残留農薬はそれほど気にしなくていい…がんのリスクを増大させる喫煙、飲酒以外の要素

プレジデントオンライン / 2023年9月11日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/wutwhanfoto

日本人の2人に1人は、がんになるという。どうしたら、そのリスクを下げられるのだろうか。内科医の名取宏さんは「喫煙や飲酒も危険因子となるが、じつはウイルス・細菌感染が引き金になることがある。十分に気をつけることが重要だ」という――。

■予防可能ながん要因の経済的負担1位は「感染」

がんは、日本人の死因トップです。また、治療を受けることによってがんで命を失うことを避けられたとしても、生活の質の低下や治療費などの負担が発生します。誰しも、できることなら、がんになりたくはないですよね。がんの発生には遺伝や生活習慣、環境などのさまざまな要因が関わっていて、必ずしも予防できるわけではありません。でも、じつは予防できる可能性もあることをご存じでしょうか。

2023年8月、国立がん研究センターが「日本人における予防可能ながんによる経済的負担は1兆円超え(推計) 適切ながん対策により、経済的負担の軽減が期待される」というプレスリリースを発表しました(※1)。これによると、がんによる総経済的負担額は約2兆8597億円で、そのうち予防可能ながんの経済的負担は約1兆240億円とのこと。リスク要因別に見ると、もっとも経済的負担が高いのが「感染」で約4788億円、次いで能動喫煙が約4340億円、飲酒が約1721億円でした。

喫煙や飲酒ががんのリスクを高めることは多くの方がご存じでしょうが、感染もまた大きなリスクになることをご存じない人も多いでしょう。そこで、今回は「感染によるがん」について詳しく説明したいと思います。

※1 国立研究開発法人 国立がん研究センター「日本人における予防可能ながんによる経済的負担は1兆円超え(推計) 適切ながん対策により、経済的負担の軽減が期待される」

■胃がんや胃潰瘍の原因となるピロリ菌

専門家の間では、ウイルス感染や細菌感染ががんを引き起こすことはよく知られています。ウイルスそのものがヒトの遺伝子を変異させたり、細菌やウイルスをやっつけようとした免疫系が正常な細胞にもダメージを与えたりして、発がんにつながるのです。日本人のがんの15〜20%は、感染が原因だとされています。

以前、日本人に特に多かったのが、ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)感染による胃がんです。長年、胃がんは日本人の部位別のがん死で1位でした。現在も肺がん、大腸がんに続いて3位と上位に入っています。ピロリ菌が発見されたのは1982年と、わりと最近です。胃酸によって酸性環境になっている胃粘膜に細菌は生息できないと思われていたのですが、ピロリ菌は胃酸を中和する物質を分泌することで胃にも住めるのです。当初、ピロリ菌は胃潰瘍の原因として注目されましたが、その後、胃潰瘍だけではなく胃がんの原因にもなることが明らかになりました。

ピロリ菌の感染経路は、幼少期に不衛生な水を飲むなどによる経口感染が主だと考えられています。上水道が普及することで日本人のピロリ菌の感染割合は減少し、それにともなって胃がんも減ってきています。また、ピロリ菌に感染していても、複数の抗菌薬を内服する除菌療法で9割以上の患者さんが除菌でき、将来の胃がんのリスクを下げることができるようになりました(※2)

※2 Helicobacter pylori eradication for the prevention of gastric neoplasia

■肝がんの引き金になる肝炎ウイルス

一方、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスに感染すると「慢性ウイルス性肝炎」になることがあり、肝がんの原因になります。これらの肝炎ウイルスは、血液を介して感染します。B型肝炎ウイルスは、出産の際の母子感染、性行為による水平感染が起こることも。感染経路がよくわかっていなかった時代には、輸血や注射針を介した医原性の感染もありましたが、現在ではまずありません。

また、C型肝炎ウイルスに対しての有効なワクチンはないものの、B型肝炎ウイルスに対してはワクチンがあって、日本では2016年から定期接種が始まり、予防が可能になりました。慢性ウイルス性肝炎は、血液検査で診断できます。現在の日本では新たに感染する可能性は低いので、一生に一度だけ検査を受ければほぼ大丈夫です(※3)

日本においては、胃がんと同様に肝がんも減りつつありますが、すでに肝炎ウイルスに感染している人は適切な治療を受けたほうがいいでしょう。慢性B型肝炎に対しては「インターフェロン」といった免疫系を活性化させる治療法、ウイルスの複製を阻害する抗ウイルス薬があります。C型肝炎ウイルスに対しては、数カ月間の内服によって高い確率でウイルスを完全に排除することができる抗ウイルス薬があります。

※3 厚生労働省「肝炎ウイルス検査について」

■さまざまながんの要因となるHPV

感染ががんの原因となる事例は、まだあります。主に性交渉で感染するHPV(ヒトパピローマウイルス)は、子宮頸がんの原因として広く知られていますが、中咽頭がん、肛門がん、膣がん、陰茎がんといったがん、おまけに「尖圭(せんけい)コンジローマ」という性器にイボのようなブツブツができる疾患の原因にもなります。

子宮頸がんは、がん検診によってある程度予防できますが、それ以外のHPV関連がんには有効な検診はありません。またピロリ菌や慢性ウイルス性肝炎と違って、現在ウイルスに感染している患者さんを治す治療法もありません。

HPVワクチン
写真=iStock.com/Manjurul
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Manjurul

でも、HPV感染を防ぐための「HPVワクチン」があります。HPVには多くのタイプがありますが、HPVワクチンは高病原性HPVに有効です。従来のワクチンでも子宮頸がんの50~70%、2020年に承認された9価ワクチンでは90%が予防できると考えられます。ただし、100%ではないので、子宮頸がん検診の併用も必要とされています。

日本ではHPVワクチンの定期接種の対象は女性だけですが、海外では男性も接種対象とする国が増えています。「女性を子宮頸がんから守るため」と説明されることもありますが、それは副次的な目的にすぎず、主な目的は子宮頸がん以外のHPVが引き起こす病気の予防という男性自身の利益のためです。ワクチンはいったん感染してしまったHPVを排除することはできませんので、性的活動が始まる前に接種するのが最も効果的です。

■HTLV-1とEBウイルスとがん

さらに感染は、ある種の白血病の原因にもなります。HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)は、その名の通り、成人T細胞白血病の原因です。HTLV-1の主な感染経路は、母乳を介した母子感染。血液や性行為を介してうつることもありますが、感染力は強くなく発病までに時間がかかるため、成人してからの感染はあまり問題にされていません。

いったんHTLV-1に感染すると治療法はありませんが、母子感染を防ぐ方法ならあります。母親がHTLV-1に感染している場合、母乳を与えず人工乳のみで赤ちゃんを育てるか、母乳をいったん凍らせてウイルスに感染したリンパ球を破壊することで母子感染をかなり減らすことができるのです。日本では、妊婦健診でHTLV-1の抗体検査を無料(公費負担)で受けることができます。

そのほか、唾液を介して感染するため「キス病(kissing disease)」とも呼ばれる伝染性単核症の原因となるEBウイルスは、まれに上咽頭がんや悪性リンパ腫、胃がんをも引き起こします。また、関節リウマチといった自己免疫疾患や慢性活動性EBウイルス感染症とも関連していることがわかっています。ありふれたウイルスなので多くの成人がEBウイルスの潜伏感染を抱えていますが、その大部分は無症状のままで、ごく一部のみが病気へと発展してしまうのです。EBウイルスに対する利用可能なワクチンは今のところなく、潜伏感染に対する有効な治療法もありません。

■国際がん研究機関による発がん性の評価

ここまでに出てきた「ピロリ菌」「B型肝炎ウイルス」「C型肝炎ウイルス」「高病原性HPV」「HTLV-1」「EBウイルス」は、さまざまなリスク要因の発がん性を評価している国際がん研究機関(IARC)により、いずれも「グループ1:ヒトに対して発がん性がある」に分類されています。

一般的に食品添加物や残留農薬の発がん性を気にする方が多いのですが、専門家はそれらを発がんの主要なリスク因子であるとは考えていません。先日、甘味料アスパルテームに発がん性がある可能性があると報道されました。国際がん研究機関はアスパルテームを「グループ2B:ヒトに対して発がん性がある可能性がある」に分類していますが、日常的な摂取量は害を起こす量よりも大幅に低いといえます(※4)

人工甘味料
写真=iStock.com/Juanmonino
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Juanmonino

ですから、ほかの明確で大きなリスク要因を無視して添加物ばかりを気にしても仕方がないと思います。もちろん、発がんリスクは小さいといっても添加物のたっぷり入った食品ばかり食べるのはあまり健康的とはいえませんので、ほどほどに気をつけましょう。

※4 食品安全委員会 食の安全、を科学する「アスパルテームに関するQ&A」

■感染・喫煙・飲酒以外のリスク要因

さて、最初に述べたように、感染以外の日本人の主要ながんリスク因子は、能動喫煙および飲酒でしたね。喫煙と飲酒は、がん以外にもさまざまな病気の原因になりますので、たしなむとしたらリスクを承知しておくことが大切です。そして、できることなら摂取量を減らすようにしましょう。

そのほか、日本人のがんリスク要因としては、高塩分食品の摂取・野菜の摂取不足、運動不足、過体重などが知られています。科学的根拠に根ざしたがん予防ガイドライン「日本人のためのがん予防法(5+1)」では、これらの生活習慣に「感染」を加えた6つの要因を挙げ、「禁煙」「節酒」「食生活」「身体活動」「適正体重の維持」に加えて「感染対策」をすすめています(※5)

これらの要因についてすべて完璧に気をつけていても、がんになるときはなります。でも、がんになるリスクを下げることはできるでしょう。一つひとつの要因の影響は小さくても、積み重ねることで大きな違いが出ますから、可能な範囲内で気をつけることをおすすめします。読者のみなさんの、今後の健康維持の一助になれば幸いです。

※5 国立研究開発法人 国立がん研究センター「科学的根拠に基づくがん予防」

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名取 宏(なとり・ひろむ)
内科医
医学部を卒業後、大学病院勤務、大学院などを経て、現在は福岡県の市中病院に勤務。診療のかたわら、インターネット上で医療・健康情報の見極め方を発信している。ハンドルネームは、NATROM(なとろむ)。著書に『新装版「ニセ医学」に騙されないために』『最善の健康法』(ともに内外出版社)、共著書に『今日から使える薬局栄養指導Q&A』(金芳堂)がある。

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(内科医 名取 宏)

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