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老後2000万円問題が「666万円問題」になる人「7560万円問題」になる人…定年準備と生活レベルで天国と地獄

プレジデントオンライン / 2023年9月5日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/eclipse_images

老後の資金準備の最大の注意点は「準備のリミット」がリタイア時ということだ。リタイアしてから慌てても時すでに遅しだ。ファイナンシャルプランナーの山崎俊輔さんは「自分が何歳まで働くか、退職金はいくらかを事前に認識し、リタイアまでに新NISAやiDeCoを有効活用して老後資金を準備するといい」という――。

※本稿は、山崎俊輔『新NISAとiDeCoでお金を増やす方法』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。

■「老後に2000万円」を現役時代に完遂させる

誰もが逃れられない人生の最後に、もっとも大きな資金準備が待ち構えています。いわゆる「老後に2000万円」問題です。

2000万円という数字の根拠は、実はあいまいなものです。当時は月5万〜6万円の不足が2000万円になると言われていましたが、2021年の家計調査年報を見ると、年金生活夫婦の不足額は月1.85万円となっており、30年で積算すると「老後に666万円」に縮小してしまっています。もちろんコロナ禍での外出自粛の影響がありますが、生活次第でずいぶん変わるのです。

また、公的年金の破たん問題と関連付けて批判する人が多かったのも残念でした。公的年金は水準の低下はあっても「終身年金」で生きている限り、何十年でも支給する仕組みは維持されます。また、日常生活費をやりくりするギリギリのところに水準設定がされており、むしろ一生もらえる安定収入と位置づけられます。

誤解の多かった「老後に2000万円」問題でしたが、「老後に向けて公的年金以外にも計画的な資産形成を行う必要がある」という理解を国民に深めたことだけは有意義でした。

老後の資金準備の最大の注意点は「リタイアまでが準備のリミット」であるということです。65歳で気がついて、退職金で慌てて高リスク運用することはおすすめできませんし、65歳時点の公的年金収入を投資に回し、75歳時点に回すようなこともできません。働いていないので、65歳でもらう公的年金は65歳の生活費に回すほかないからです。

となると、老後の資産形成は「リタイアまでに完成させる」ことが求められる難易度の高いマネープランとなります。住宅購入や子どもの学費のやりくりと同時並行的に進めていかなければならないからです。

■NISAやiDeCoは老後のためにフル活用したい

NISAやiDeCoの活用において、老後資産形成をにらんでほしい最大の理由が「リタイアまでに資金準備を完成させる」必要があることです。住宅ローンは先に借りて後から返します。教育費も足りないなら借りることができます。しかし、老後資金だけは後で「返す」ことができないのです。

仮につみたてNISAの水準である年40万円を40歳〜65歳まで継続したとすれば、25年で、元本で1000万円、運用益年4%の上乗せで1714万円の資金準備に相当します。同様にiDeCoに月2.3万円を25年継続したとすれば元本で690万円、運用益年4%の上乗せで1182万円の資金準備に相当します。

もし40歳くらいのスタートを考えたとしても、こうした制度をしっかり活用すれば「老後に2000万円」は怖くないというイメージがつかめるはずです。

一方で、iDeCoの枠が小さい人たちはiDeCoでの準備額が小さくなってしまうことに注意が必要です。この場合、NISAの積極的な活用と取り崩しの抑制が求められます。あるいは夫婦でiDeCoを2口座開設しておき、枠を2倍にすることも有効でしょう。

iDeCoの評価損益運用リポート
写真=iStock.com/Yusuke Ide
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yusuke Ide

■すでに準備が行われている「老後準備資金」も知っておく

一方で、「老後に2000万円」は2000万円を全額準備するわけではありません。「夫婦の合計年金額」「夫婦の合計退職金額」などもここにカウントすることができるからです。

そもそも共働き夫婦であったことで、専業主婦世帯より月5〜6万円年金額が多かったとすれば、それだけで老後に2000万円は解消されてしまうインパクトを秘めています。妻の厚生年金がどれくらいになるかはねんきん定期便およびウェブのねんきんネットで知ることができます(将来の見込額の試算も可能)。

あるいは、夫婦それぞれ1000万円の退職金をもらえたとすれば、これでも老後に2000万円のメドが立っています。こちらも制度の有無や水準額の認識が低いので、自分の会社制度をよく確認しておきましょう。

■そもそもの生活コストで老後の必要額は大きく増減する

老後のマネープランは生活水準の問題でもあります。「公的年金収入で老後の生活費はやりくりする」「旅行や贅沢(ぜいたく)はほとんどしない」と決めてバランスを取ってしまえば、老後の経済的不安は、病気や介護の負担だけに抑えられます。

基本的な収支(年金収入=日常生活費)がイコールであれば、老後破産のようなことも絶対に起きません。

逆に老後の生活水準を高くしたい場合は公的年金が多くても、それこそ「老後に4000万円」あっても不足することがあります。「やっぱり月40万円くらいは使いたいよ」と思えば、(支出:40万円×35年)-(収入:月22万円の年金×35年)となってしまい、「老後に7560万円」になってしまうわけです。

自分にできる「老後に×万円」の準備と、実際に自分が使う「老後に×万円」を考え、リンクさせれば老後は怖いものではなくなるのです。

年金手帳
写真=iStock.com/tamaya
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tamaya

■公的年金はどれくらい老後の頼りになるのか?

老後のお金の問題を考えるとき、欠かせない理解として「公的年金」について少しだけ触れておきましょう。いわゆる「老後に2000万円」問題が話題になったとき、そもそもの公的年金の破たんの問題と結びつけて「どうせもらえないのだろう」と結論づける人が多くいましたが、これは明らかな間違いです。

本当に老後に必要なお金は「億」に近い水準です。実際の老後の生活を現在の実勢から月25.5万円とし、65歳〜100歳までの財源を確保しようとすれば総額は1億500万円となります。

しかしながら、誰もが1億円を貯めてリタイアするわけではありません。現実には月22万円くらいを公的年金が用意してくれ、これは老後の35年で累積すれば9240万円となり、自力で準備する分が「老後に2000万円」というわけです。

実は日本の年金制度には、それくらいの価値があります。

■「公的年金が破たんする」という大ウソ

公的年金の破たんについても、いまだに信じている人がいます。

しかし日本の年金制度が破たんすることはまずありえません。まず積立金を200兆円以上持つ国は日本とアメリカしかありません。もし積立金が足りないというなら、先進国のほとんどすべて、日本より人口の多い新興国のすべてが日本より破たんリスクが高いということになります。

でも、決してそんなことはありません。

「1人の現役世代が1人以上の老後を支える未来になるから破たんする」というロジックもミスリードです。今の高齢化比率と、「40年後に75歳がリタイアする社会になった未来」の高齢化比率は実はほとんど変わりません。

今でも70歳現役社会が実現しようとしていますし、70歳の男性のほぼ半数はすでに働いている世の中です。今維持されている年金制度ですから、40年後も維持できるのは当然です。

基本的に、公的年金破たん論はテレビの視聴率や書籍や雑誌の売上部数獲得の「見出し(キャッチコピー)」であるか、金融機関が商品販売に使う「セールストーク」なのです。

■年金水準を引き下げても年金が破たんしない理由

ただし、公的年金水準に引き下げ計画があることは事実です。

2023年春、物価上昇率が2.5%ですが、公的年金の改定は2.2%増でした。金額としてはアップしますが実質的な水準目減りを行ったものでした(マクロ経済スライドというものです)。これをしばらく繰り返して年金水準を調整し、結果として破たんをありえないものとしていくことになります。

これも年金破たんが絶対にありえない理由のひとつですが、ひとりひとりの生活には影響が出てきます。目減りすることは間違いないからです。

こちらについては「繰り下げ受給」という選択肢があります。例えば67歳まで働いてそこから年金をもらえば16.8%、68歳まで働いてそこから年金をもらえば25.2%も年金額が増え、それを一生もらい続けることができます。

山崎俊輔『新NISAとiDeCoでお金を増やす方法』(フォレスト出版)
山崎俊輔『新NISAとiDeCoでお金を増やす方法』(フォレスト出版)

公的年金水準の目減りは2~3年の繰り下げでカバーできると試算されており、最大で75歳まで繰り下げをすることができます(なんと84%増)。すでに60歳代後半の50%が働いている時代ですから、未来において繰り下げの年金を受けることはそう難しいことではないと思います。

普通に暮らす私たちは「日常生活費くらいはなんとかやりくりするお金は年金でもらえる」「でも老後のゆとりは国からもらえない」「でも何年長生きしても死ぬまで振り込んでもらえる」という年金の安心感を理解し、普通に加入して普通に公的年金をもらっていけばいいのです。

そのうえでお金を貯めれば貯めた分だけ、「老後にやりたいこと」が増やせると考えましょう。「老後に2000万円貯めた人」は「老後に2000万円使っていい人」なのです。そう考えるとがぜん、積み立て意欲は増してくるはずです。

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山崎 俊輔(やまさき・しゅんすけ)
ファイナンシャルプランナー
フィナンシャル・ウィズダム代表。連載12本を数える人気コラムニスト。『マネーハック大全』など著書多数。

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(ファイナンシャルプランナー 山崎 俊輔)

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